『おばさん債権取立集団“見せしめ懲役”の顛末 「弱さ」を盾に、騒いで回収。根本には貧困問題が』(8/25日経ビジネスオンライン 北村豊)について

上念司著『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』より

<P.59

(P.60~61)

しかも、中国経済はニ〇〇八年のリーマンシヨック以降、変調を来しています。当初は四兆元の財政政策などによってごまかしてきましたが、二〇一五年の上海市場の大暴落からそれを隠し通すことができなくなっています。

中国経済がすでにピークを越えて下り坂に向かい始めていることは、他ならぬ中国共産党が認めています。公式のGDP統計の数字が毎年下がり続けているのがその証拠。どんなに水を含ませても、もはや覆い隠すことができなくなったのです。

つまり中国経済は、その規模で日本経済を追い抜きかけたが、実際には迫い抜けず、このあと大幅に伸びが純化するか、場合によっては縮小していく、ということです。

――私たちは騙されていました。日本人は、とんだお人好しだったということかもしれません。

中国はソ連の失敗に学び、崩壊を回避したといわれています。しかしそれすらも、たぶん幻だったのかもしれません。

近年の南シナ海や東シナ海における侵略行為、文化大革命以来タブーといわれてきた個人崇拝の復活、そして隠しきれなくなった経済の低迷などを見るにつけ、中国の「ソ連化」は紛れもない事実のように思えます。

ソ連と同じ運命をたどる中国

日本では、これほど強固な社会主義体制、独裁体制は簡単には滅びないと思いがちですが、果たしてそうでしょうか?実は、独裁体制には意外な脆さがあります。経済学者の福田亘氏は、ソ連崩壊に際して、次のような鋭い指摘をしていました

<それにしても、このような長期にわたる大々的な統計改ざんが可能であったということは、権カ批判を封じた独裁型全体主義国家の情報管理がいかに徹底していたかを物語るものであるが、そのことは同時にまた確立された独裁体制はよほどのことがない限り、簡単には崩れそうにない堅牢性によって特徴づけられるということをも意味している。この意味で、史上稀に見る程の絶対権力を掌握したソ連型経済が通常ならとっくに放棄されてしかるベき状態をも持ちこたえて存続することができたのは決して偶然ではなかったと言えよう。もっとも、強権体制のこのような硬構造体質は矛盾や対立が深刻さを増せば容易に体制の脆弱性に転化しうるわけで、ソ連型経済の一見唐突な終焉はこの脆弱性の現れでもあることを付け加えておくべきであろう〉 (「『計画の大失敗』の体制論的考察」/「同志社商学」第五七卷第六号、ニ〇〇六年三月)

(P.71~73)

リーマンシヨックで大きな勘違い

ジヨージ・ブッシュ大統領(父)のアドバイザーを務めた戦略家のエドワード・ルトワツク氏は、習近平のこうした行動は極めて愚かなことだと指摘しています。中国は国際秩序を守り、現状を武力で変更することなく、平和的台頭を続けるべきでした。そして、アメリカも無視できないぐらい大きな力を手に入れて、誰も反論や反撃ができなくなってから初めて、その野心を開示すべきだったのです。

ところが二〇〇八年のリーマンショックが、中国共産党にトンデモない勘違いをもたらしたと、ルトワック氏はいいます。

リーマンショックで日米欧各国の経済がおかしくなったのは周知の事実です。このとき中国は、4兆元(約六四兆円)にも及ぶ巨額な財政政策によってリーマンショックを克服したことになっています。おそらく統計をまとめる官僚たちが、そういう上層部の願望をくみ取って数字を作ったのでしょう。それを鵜呑みにしたのかどうかは分かりませんが、中国共産党上層部は、これだけ日米欧の景気が低迷し、中国がいち早く立ち直ったのであれば、もう 勝負あったと勘違いしてしまったのです。

しかし、第一章で指摘した通り、地方政府がまとめたGDP統計の「水分率」は、リーマンショックの翌年のニ〇〇九年から右肩上がりに上昇しています。自分の尻尾を追う犬のごとく、自ら作り上げた水増しGDPを信じて「世界経済は中国が牽引する!」と誤った自信を深めてしまったのです。

ちなみに、この勘違いは未だ続いているようで、習近平は二〇一七年のダボス会議で自由主義経済の守護者の如く振る舞いました。その様子をロイターが次のように伝えています。

〈【ダボス(スイス)一七日ロイ夕—】中国の習近平国家主席は一七日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で講演を行い、グローバル化や自由貿易の重要性を強調した。

保護主義は自ら暗い部屋に閉じこもるとともに、部屋から光や空気を奪うようなものだと指摘。他国を犠牲にして自国の利益を追求すぺきではないと述べ、トランプ次期米大統領を名指しこそしなかったものの、同氏の言動を暗にけん制した。

習主席は「通商戦争を仕掛けても誰も勝者とはならない」とした上で、経済のグローバル化は多くの国々にとって「パンドラの箱」ではあるものの、世界的な諸問題の根源になっているわけではないと述べた。世界的な金融危機もグローパル化に原因があるのではなく、過剰な利益迫求が引き起こしたものと分析した〉(「ロイ夕一」二〇一七年一月一八日)

国家資本主義によって国内経済を統帥する独裁者が「自由貿易の重要性を強調」だそうです。現役の泥棒が防犯講座をやっているような滑稽さを感じるのは気のせいでしょうか?

二〇-七年三月、アメリカが韓国に終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を開始すると、中国は韓国製の食品を焼却処分したり、国営メディアが韓国製品の不買運動を煽動したり、THAADの配備される土地のオーナーであるロッテにサイバー攻撃をしたりと、露骨な報復行動に打って出ました。文字通り舌の根の乾かぬうちに、自由貿易は、どこかに行ってしまいました。>(以上)

上記グラフにより、見て戴けば分かる通り、中国の真のGDPはどんなに甘く見積もって見ても、日本のGDP以下で、MAX437兆円だろうと推定しています。根拠は社会主義のお手本格のソ連の統計の誤魔化し方からの推論で、改革開放以後の1985年を起点として計算しています。

でも、ソ連時代は西側に閉ざされた世界で、貿易は活発ではありませんでした。然るに、中国は共産主義国でありながら、自由貿易の旨味を最大限享受してきました。その違いは大きいと思います。購買力平価の問題はありますが、日本のGDP以下というのは今の都市部の発展を見れば、債務の大きさは別として、単年度の付加価値は大きいものがあるのではと考えます。それでも1200兆円もGDPがあるとは思えません。2/3の800兆円くらいが妥当では。あくまでも小生のブタ勘です。でもその内、半分は賄賂と小金庫(裏金保存庫)に蒸発していると思います。何せ中国は上から下に至るまで賄賂を取る社会ですから。企業では3種類の財務諸表を作るのは当り前で、役人への接待や賄賂の為の小金庫と言うのはあらゆる企業が持っています。アングラマネーが幅を利かしている社会です。そう言う意味で、表(オモテ)のGDPが437兆円というのはいい線かも知れません。

北村氏の記事を読んで感じたことは

①“大媽討債団”のメンバーは刑事処分を受ける程度のものかと言う思いと、中国では営業の自由もなければ結社の自由もありません。金を稼ぐとしたら、個人でも正式には工商局への登記が必要です。行政処分の対象にはなると思います。公安に賄賂を払っていれば捕まらないでしょうが、それでは細々と稼いでいるのに生活できません。

②中国社会のセーフテイネットが如何に整備されていないかです。本記事によれば、6千万人にも上る人が生活保護を受けているとのこと。中共が棄民政策を採り、日本にこういう人が押し寄せることを考えるとぞっとします。限界集落に中国人や韓国人を殖民するため、1000万人も移民を受け入れする何てキチガイ沙汰です。何時も言ってます通り、中国は人口侵略が得意な国です。みすみす敵に領地を渡すようなものです。また将来はAI、ロボット化が進みますので、人口減少をそれ程深刻に考えなくても良いのではと思います。

日本の問題は、現時点でメデイアと教育に左翼が跋扈していることです。情弱老人が余りに多すぎることです。次の記事は加戸前愛媛県知事が旅行に行ったときに、誰も加戸氏とは気づかず、内閣の悪口ばかりとか。小生が以前に行ったスーパー銭湯で聞いた話と同じです。こういう情弱老人が若者の未来を奪っているという事に気付いていません。もう少し自分の頭で考えて見たらと言いたいです。

8/26『言論TV』加戸守行&櫻井よしこ<加戸氏「パックツアーでバルト三国に行った時、高齢者の方々が雑談の中で『もう安倍総理は辞めた方がいい。加計問題であれだけ疑惑が出てるから』と何回も言っていた。その方々で私を知ってる人はいなかった。その時思ったのが印象操作によるテレビの影響はこんなに大きいのかと思った」>

https://twitter.com/blue_kbx/status/901084039469162498

記事

河南省の“瞧県(しょうけん)”は省東部に位置する“商丘市”の管轄下にある。7月5日、その瞧県にある“瞧県人民法院(下級裁判所)”で“大媽討債団(おばさん債権取立グループ)”の主要構成員14人に対する判決が下された。彼らは“黒社会(暴力団)”的組織を結成し、指揮、参加した罪と“尋釁滋事罪(故意に騒動を起こした罪)”で裁かれ、懲役2年から11年までの実刑を言い渡されたのだった。この一審判決後、14人の被告人のうち12人は判決を不服として“商丘市中級法院(地方裁判所)”へ上訴したというから、そう遠くない時期に当該事案は商丘市中級法院で二審の裁判が行われるものと思われる。

彼らが懲役刑に処せられたのはなぜなのか。8月7日付の北京紙「新京報」が事件の詳細を報じたが、その概要は以下の通り。

45歳で失明、生活に困る中…

【1】懲役5年の判決を受けた“高雲”(仮名)は商丘市の“梁園区平原辦事処”に属する“劉庄村”の住人で、45歳の時に糖尿病を発症して両目を失明し、不自由な生活を余儀なくされた。3~4年前、高雲は村内の知り合いのおばさんに誘われ、人助けで初めて債権取立に参加した。毎日何もすることがなくて退屈していた高雲は気分転換に参加したのだが、やってみたら債権取立は楽しかったし、食事にありつけたことがありがたかった。高雲の亭主は何年も前に死去し、娘は商丘市の市街区へ移り住み、当時彼女は1人で劉庄村に住んでいた。しかし、失明しているために自力では生活できず、食事まで友人に頼る始末だった。

【2】高雲を債権取立に誘ったおばさんは親友で、彼女は動員した年配の女性たちに債務者をはやし立てて脅威を煽らせた。劉庄村にある数百戸は大多数が親類や友人で、誰かが困っていれば助け合うのが当たり前だった。いとこの一家は頻繁に高雲の面倒を見てくれていたので、いとこの息子が協力を要請した時には、高雲は進んで債権回収に協力した。一般に彼女たちに債権回収の協力を要請するのは村内の零細な経営者たちで、彼らはいとこの息子と同世代の若手だった。

【3】劉庄村は典型的な郊外地で、梁園区政府から5km、商丘市政府から10kmの距離にあり、その沿道で建設が盛んに行われていたので、村民の多くが建築業に従事していた。劉庄村では、肉体労働者が雇用主に遅れた賃金の支払いを要求し、工事請負業者が施工主に遅滞した工事費の支払いを要求するのはごく普通の事だった。数年前、全国の不動産業に比較的大きな不況の波が襲い、商丘市内でも非常に多くの企業が資金不足に陥って資金回収が困難となり、債権回収を巡る紛争が頻発した。工事の請負契約は支払い期限や支払い遅延の場合の延滞金に関する規定が書かれただけの簡単なものであったが、期限内に工事費が支払われるのは半数にも満たなかった。債権回収が容易ではないことから、民間では各種の債権回収グループが出現することになった。

「暴力」ではなく「老婦人」で

【4】債権回収グループが民事や債務の紛争に介入すると、“公安部門(警察)”は双方にけんかせず、騒動を起こさぬよう要請してその場を収拾するだけだった。裁判所へ訴えても司法手続きに従えば時間がかかり、費用もかさみ、たとえ勝訴してもそれが執行される保証はない。手っ取り早いのは“討債公司(債権回収会社)”を起用することであった。不完全な統計によれば、全国に債務の支払いを催促する“討債公司”は2500~3000社あり、30万人近くが債権回収業務に従事しているという。債権回収会社は一般に回収金額の15~40%を手数料として取り、債務者の企業経営や家庭生活をかき乱す手段を採り、多少の暴力は免れないという脅しを暗示するのが常である。総じて、債権回収会社は手数料が高く、債務者との関係を気まずくさせ、彼らが暴力を振るえば法を犯すことになるから、零細な経営者にとっては商売を継続する上で触れてはならない存在だった。

【5】そこで登場するのが、老婦人だけで構成された債権取立グループであった。男が債権取立に行けば容易に暴力沙汰になるが、可哀想な“老弱病残(老人・虚弱者・病人・障害者)”が債権取立に行けば、債務者も手の出しようがなく、債務の支払いに応じる可能性は高まるのだ。高雲は盲人である自分にも価値があることを徐々に認識するようになった。高雲は最初のうちは債権取立に出ても、親類や友人を助けるためだと考えてカネも取らず、食事を支給してもらうだけで満足していた。しかし、人助けのつもりで債権取立に参加したのに、カネの回収が上手く行くと、債権主が彼女たちに1⼈当たり1⽇100〜200元(約1600~3200円)を協力費として支払ってくれるようになった。協力費の多寡は、債権主である経営者が“大方(気前が良い)”かどうかで決まった。高雲が受給している生活保護費は月額で200元(約3200円)にも満たない金額であり、糖尿病と冠状動脈心臓病を患って久しい高雲には他の収入は皆無だったから、協力費がもらえることはありがたい限りだった。

【6】2015年頃、古い住宅の雨漏りがひどくなり、高雲は劉庄村を離れて市街区に住む娘の家へ移り住んだ。娘がいない昼間はテレビを「聴いて」過ごし、夜は娘の帰宅を待って食事を作り、夕食後は団地の近くで行われる“広場舞(広場などで行われる集団ダンス)”に参加した。高雲は広場舞で61歳の“蘇木香”と知り合った。蘇木香は息子夫婦と一緒に近くの団地に住んでいたが、毎日家で家事を行い、孫の世話をしていた。蘇木香も高雲と同様に身体が悪く、かつて乳腺がんを患って左乳房を切除したが、術後に左腕の血管が正常に流れなくなり、左腕が右腕より太くなっていた。同病相憐れむで、高雲と蘇木香は仲良くなったが、蘇木香は広場舞で知り合った“大媽(おばさん)”たちと債権取立に行った経験を持っていた。

【7】高雲は広場舞で53歳の“陳美”(仮名)とその同級生の男性“胡林文”(仮名)とも知り合った。陳美は高血圧と冠状動脈心臓病を患い、4~5年前に離婚してからは長女の家に住んで孫の世話をしていた。胡林文は肺気腫で喘息の発作があり、3~4年前に転んで足の骨を折り、今でも足を引きずっていた。彼は外出が不便なために、通常は家で80歳を過ぎた母親の世話をしていた。陳美と胡林文は何十年も会っていなかったが、2015年に再会してから付き合うようになったのだった。

「数日騒げば、捻出してくる」

【8】高雲、蘇木香、陳美、胡林文の4人が集まって世間話する中で、話が債権取立に及び、高雲と蘇木香の2人が債権取立に参加した経験を持つと話したことから話が弾み、小遣い稼ぎができるということで陳美と胡林文も債権取立に興味を示した。その詳細な経緯は不明だが、彼ら4人に高雲の劉庄村の親戚である“劉〇”を加えた5人はいつの間にか男性の胡林文を代表とする“大媽討債団(おばさん債権取立グループ)”を結成することになった。彼らが債権取立グループを結成したことは、広場舞の仲間や友人・知人のネットワークを通じて知られるようになり、債権回収の必要な人が協力を要請するようになったのだった。但し、彼らは要請があっても、“欠条(借用書)”や“合同(契約書)”があることが前提で、筋が通った話しか受けなかった。5人で結成されたグループは次第に構成員の数を増やし、最後には30人以上にまでなったが、胡林文を除く全員が“大媽(おばさん)”であり、年齢は50歳前後が主体で、最高齢は70歳だった。

【9】彼らの活動が地元で知られるようになると、様々な人々から協力要請が舞い込むようになり、いつの間にか彼らの業務範囲は債権取立に止まらず、立退き補償や医療事故の賠償などの請求にまで及ぶことになった。協力活動が終わると、受け取った協力費は参加者で公平に分けたが、代表である胡林文の取り分は若干多かった。それでも参加者は毎回1人当たり200元(約3200円)前後の稼ぎになった。遠方へ出張した場合は、往復の交通費、食事および宿泊費が精算して支払われたし、万一誰かが警察の派出所に拘留された、あるいは負傷した場合は参加費が余分に支払われた。

【10】彼らに協力を要請したある経営者は、「債権回収は当然のことで、“大媽討債団”に出動を要請しても法を犯すことにはならない」と述べ、長年の経験から言って、「債務者は誰もが商売をしており、カネの有無にかかわらず、数日間騒げば、何とかカネを捻出してくるものだ」と語っている。これこそが“大媽討債団”の存在価値であり、債務者の会社や店舗あるいは住宅へ出向いて「カネ返せ」を連呼すれば、“面子(体面)”を失うことを恐れる債務者は渋々ながらもカネを支払わざるを得なくなるのだ。時には債権者と債務者の双方が彼ら“大媽討債団”に協力を要請し、現場で鉢合わせしたら何と同じ仲間だったということもあった。この時は双方の代表が話し合って調停に漕ぎつけ、債務が30万元なら、先行して5万元、残りは3~6か月以内に支払うことにして決着させた。

【11】2016年1月、商丘市内の工事現場で紛争が発生し、“大媽討債団”は協力要請を受けて出動した。地元警察が何度も仲裁を試みたが和解には至らなかった。当事者双方の対峙は数日間に及び、双方の助っ人が続々と現場入りして、最後には現場の労働者を含めた双方の合計200人が一発触発の状態となり、小競り合いが始まった。この時、相手側から突然数人のエイズ患者が飛び出し、その中の1人が鉄の棒で自分の頭を殴って出血させた上で、「俺はエイズだ。俺の血をお前たちに付けるぞ」と叫びながら“大媽討債団”がいる方向へ走り寄った。“大媽討債団”のメンバーは全員が必死の思いで逃げ出して事なきを得た。“商丘市公安局”はこの事件を極めて悪質であるとして、特別チームを発足させて捜査を行ったが、その捜査過程で“大媽討債団”の存在が浮かび上がった。

鶏を殺して猿を驚かす

【12】商丘市公安局は“大媽討債団”の動向を偵察した結果、彼らが平均50歳位の30人からなるグループで、正式な職業を持たず、電話で情報交換し、人助けと称して各種の債権取立や工事紛争、医療事故処理に介入していることを突き止めた。彼らは人に雇われて、口汚く罵(ののし)る、侮辱する、恐喝する、暴行する、財物を破壊するなどの手段を採って、相手側を耐え難い所まで追い込むことで、譲歩させて問題の解決を図っていた。2016年3月、商丘市公安局は“大媽討債団”の幹部5人を含む14人を、暴力団的組織を結成し、指揮、参加した罪と故意に騒動を起こした罪の容疑で逮捕したのだった。

【13】一審の判決書によれば、河南省では彼らのような“大媽討債団”による“尋釁滋事(故意に騒動を起こす)”事件が、2013年から2016年までの間に29回発生したという。2013年に1回、2014年に5回であったものが、2015年には20回に急増し、2016年の1月だけで3回も発生していた。また、その内容は、債権取立、医療事故賠償、立退き補償、宅地を巡る紛争、隣り近所の紛争などに及んでいた。上述したように、胡林文を代表とする“大媽討債団”が結成されたのは2015年であるから、29回の“尋釁滋事”事件が全て彼らの関与したものではないことは明らかである。商丘市には彼ら以外の“大媽討債団”も複数存在するし、他にもエイズ患者や盲人が率いるグループなどが存在するが、その多くは同じ村の村民で構成されている。

【14】要するに、一審で懲役2~11年の判決を受けた“大媽討債団”の14人は、商丘市に数多く存在する“討債団(債権取立グループ)”を取り締まるための見せしめとされたものと考えられる。これを中国語で“殺鶏嚇猴(鶏を殺して猿を驚かす=見せしみにする)”と言う。しかし、彼らは貧しい“老弱病残(老人・虚弱者・病人・障害者)”のグループであり、債権回収、医療事故賠償や立退き補償などを要求する人々に協力したのであって、一審判決が罪状とした“黒社会(暴力団)”的組織であろうはずがない。彼らが報酬として受け取った協力費も決して高いものではなかったし、代表の胡林文および幹部4人とその他のメンバーの関係もあくまで平等であって、親分子分の関係ではなかった。このため、乳がんが肝臓に転移して余命2年と判定された蘇木香ともう1人を除く12人は上告し、商丘市中級⼈⺠法院で行われる二審の審理開始を待っている。

必要なのは、貧困対策

筆者は2015年3月15日付の本リポート『エイズ患者や凶暴女性が脅す「立ち退かせ隊」』で、河南省各地に跋扈して、立ち退き拒否者を脅す「⽴ち退かせ隊」の実態について報じたので参照願いたいが、上述の“大媽討債団”はその発足が2015年の中頃と思われるので、「立ち退かせ隊」とは時期的に重複していない。上記【13】に記したように、河南省では“大媽討債団”が故意に騒動を起こした事件が2013年から2016年までに29回発生しているというが、これらは事件として記録されたものだけだろう。実際にはこの種の事件は数え切れない程発生しており、今なお各種の「立ち退かせ隊」や「債権取立グループ」が乱立して活動していることがうかがえる。恐らく中国全土で類似の隊やグループは存在すると思うが、河南省以外の報道は見当たらない。

筆者が敢えて本件をリポートしたのは、“大媽討債団”に庶民の苦しみが見て取れるからである。2015年の時点で盲目の高雲が受給している生活保護費は月額で200元(約3200円)だったという。これでは年間で2400元(約3万8500円)にしかならない。物価が年々上昇している中国で月額200元の収入で生活ができるはずがないことは明らかな事実であり、高雲と似たり寄ったりの境遇にある“老弱病残(老人・虚弱者・病人・障害者)”の人々が別の収入を得る方法は、“大媽討債団”の類しかないのである。

中国政府“国家統計局”発表の『2016年国民経済・社会発展統計公報』によれば、2016年末時点における生活保護受給者は、都市部:1480万人、農村部:4577万人の合計6057万人で総人口の4.3%を占めた。このうち極貧として特別支援を受けた人口は497万人であった。生活保護費の額は地域毎に異なるが、“民政部(日本の総務省に相当)”によれば、2016年の1人当たり月額の全国平均は、都市部:495元(約7920円)、農村部:312元(約4990円)であった。なお、高雲が受給していた商丘市の農村部生活保護費は2016年から年間標準額が2960元(月額247元)に改訂された。

上述の『2016年国民経済・社会発展統計公報』によれば、2016年末時点で年間収入2300元(約3万6800円)の農村貧困基準以下の収入しかない農村貧困人口は4335万人で、2015年より1240万人減少したという。但し、農村貧困基準の年間2300元を1日当たりで計算すると6.3元(約0.95米ドル)にしかならず、世界銀行の貧困基準である1日当たり1.5米ドルには達しない。中国政府の統計が正しいと仮定しても、世界銀行の貧困基準1.5米ドル/日に基づけば、実際の農村貧困⼈⼝は少なく見積もっても1億人以上はいるものと思われる。「貧すれば鈍する」の言葉通り、貧者のさらなる生活改善がなければ、“大媽討債団”の類がなくなることはないだろう。

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