1/19日経ビジネスオンライン 御立尚資(ボストン コンサルティング グループ日本代表)『高まる2015年の地政学リスクの不安 日本企業は柔軟に戦略の見直しや変更を』について

 

ユーラシア・グループの本年のリスクについてですが、一読して欧米中心に見ている気がします。日本人にとっては中国問題を一番に挙げたいところです。アメリカが弱くなったと言われていますが、大統領がオバマだからです。中国の領土を巡る傲慢な振る舞い、イスラム国の恐怖統治の蔓延を許してきたからです。本来ロシアのウクライナ問題をうまく処理していれば、そちらにもっと力を入れることができたのではないかと考えます。日本が入っていませんが、中国の尖閣を巡って小競り合いがあるとは思ってないということでしょう。台湾回収の方が優先順位として高いと中国人は思っているハズです。台湾の総統選は来年なので今年は台湾側での動きがあるとは思えません。馬総統がひまわり学運を誘発したようなことをしなければ大丈夫でしょう。彼にそんな力はもう残っていないと思います。昨年11月の地方選挙の結果で国民党の党首を下りたくらいですから。

イスラム国の人質問題では「テロには屈しない」態度が重要です。彼らは宗教者でなく、単なるアウトロー、ギャングと一緒です。誘拐犯に屈して身代金を払うことはありません。でも日本人はどうして簡単に外国人を信じてしまうのか。貧しい国では簡単に裏切ります。政府の各国への働きかけ、特に部族の長への対応がポイントと思います。

記事

『「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか』(日本経済新聞出版社)で知られるイアン・ブレマー氏。彼が率いるユーラシア・グループから、毎年恒例の本年のトップリスクが発表された。ブレマー氏は「2015年は、地政学回帰の年」であるとした上で、冒頭で「1998年にユーラシア・グループを設立して以来初めて、はっきりとした地政学的『不安』を心の底に感じるようになっている」と述べている。

 トップ10のリスクリストを眺めると、従来同様、リスク要因は世界に広がっているが、その顕在化可能性の高さ、それにいざ顕在化した際のインパクトの大きさが、この不安の大きな要因なのだろう。

 発表された10のトップリスクのうち、私自身が最も気になるのは、1位と2位に挙げられたものだが、まず10のリスクすべてをご紹介しておこう。

1 欧州の政治状況
2 ロシア
3 中国の経済成長鈍化の影響(中国市場に依存する一次産品輸出国(ブラジル、オーストラリア、インドネシア、タイ)の政治・経済へのマイナスインパクト)
4 金融の武器化(米国が伝統的な軍事パワー活用を回避し、自国の資本市場・金融サービスへのアクセスを安全保障上の手段として活用する動き。そして、それへの対抗として、中国によるアジアインフラ銀行のような独自金融システムの拡充)
5 イスラム国のイラク・シリア以外への影響拡大(昨年のような驚異的な軍事的成功は見られなくなろうが、影響下にある組織のイエメン・ヨルダン・サウジアラビア・エジプト・リビアへの拡大)
6 脆弱な現職政権(ブラジル、南アフリカ、ナイジェリア、トルコ、コロンビアでの現政権の脆弱さが政治・経済の停滞や混乱を招く可能性)
7 戦略的経済領域の増大(ITCなど国が安全保障などの理由で影響を行使する領域が拡大。一方、中国でのグーグルの例にみられるように、対抗して相手国企業への制約を課すことも増大)
8 サウジ対イラン (スンニ派、シーア派それぞれの盟主が、自国に近い勢力にテコ入れをすることで、イスラム圏各地で代理戦争状態が激化。イエメン、イラク、シリア、レバノン、バーレーンが典型例)
9 台湾・中国問題 (2014年11月の台湾選挙での野党民進党の躍進を受け、対中強硬派が台頭。それを受けて、中国政府も強硬策を取る可能性)
10 トルコ (エルドアン大統領の政治的動きに起因する政治・経済の混乱リスク)

リスト上の順番にはいろいろ意見もあろうが、どれも「なるほど、今年はかなりこのリスクが高まるな」というものばかりだ。

 ちなみに、ざっとご紹介しただけでもお分かりいただけると思うが、地政学リスクと言っても、実際には、外交安全保障問題と各国の国内政治、そして経済が密接に絡み合う形で、リスクが顕在化し、その影響が拡大していく構図が明らかだ。

 まさに、「ジオエコノミクス(geoeconomics=地政学と経済学の融合領域)」的なモノの見方が必要な時代環境にあるということだし、企業経営の上でも、地政学的リスクへの感度アップが避けて通れないということでもあろう。

相互作用で増幅する欧州とロシアのリスク

 さて、第1のリスクである欧州の政治状況の不安定さと第2のロシアリスクとは、当然ながら密接に関わり合っている。

 先だってのギリシャの選挙結果に見られるように、左翼・右翼を問わず、厳しい経済状況に苦しむ国において、EU(欧州連合)に対する懐疑派の声が大きくなっている。

 ブレマー氏の見方に従えば、EUの中核たるべき独・仏・英もその状況を打ち破る状況にない。各国とも既存政党がEU懐疑派の影響を受けるし、ドイツは自国の財政健全化が最大のプライオリティー。フランスは発言権が大きく低下。英国はEUからの脱退を議論し続けている。

 このような不安定さの中、イスラム過激派によるテロの脅威は、欧州が最も大きい(このトップリスクの発表は、フランスでのテロ事件より前に行われた)。

 さらに、ここにロシアと欧州との衝突リスクが襲いかかる。まず、ウクライナ問題がエスカレートする可能性は極めて高いという見立てだ。NATO(北大西洋条約機構)の戦意と対応能力を試す意図で、ロシアのプーチン政権が示威行動を取る可能性は高く、さらにモルドバのEU接近が新たな危機を生むリスクもある。

 健全な欧州経済維持よりもロシアへの経済制裁を重要だと考える、米国のオバマ政権は、追加制裁を行うだろうし、ロシアはサイバー攻撃でこれに対応するかもしれない。

 ロシアと中国のさらなる接近も含めて、ブレマー氏はロシア(とEUおよび西側との関係悪化)が世界の大きなリスク要因となると見ているようだ。

日中関係悪化と反日リスクを考えて、多くの日本企業は、チャイナ+1戦略を取り、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に中国以外の新興国に目を向けてきたが、昨年来、新興国全般に不安定さが広がってきている。

 この中で、何社もの日本企業が、「やはり事業ポートフォリオの中での先進国比率を高めておくことが重要」という考えに立って、折からの経済危機で出物が増えた欧州企業の買収を検討・実行してきている。このタイミングでの、欧州・ロシアリスクの高まりは、なかなか厳しい。

資本や会社形態におけるイノベーションの必要も

 そもそも世界的な大規模金融緩和、そして米国の量的緩和(QE)巻き戻しによって、資本・金融市場のボラティリティー(変動性)は拡大する方向にある。市場リスクが高まっている、ということだ。ここに、注力地域での地政学リスク増大が重なるということになると、中期的な事業ポートフォリオ戦略を大幅に見直したり、状況を読みながら、柔軟に戦略を変更したりしていくことが不可欠となる。

 市場リスクも地政学リスクも、通常の競争リスクとは大きく異なる。こういった種類のリスクへの対応を、経営戦略の中核事項に据え、結果的に競合よりも高いリターンを獲得する。そのためには、従来とは違う意思決定技術や情報収集・解釈の能力が必要だろう。

 さらに言えば、元来「株式会社」という形態は、海洋貿易のリスクヘッジの観点からイタリア都市国家で生まれた。そのことを考えると、資本政策、あるいは会社形態のイノベーションも必要となるかもしれない。

 年初から、随分と大風呂敷を広げた話になってしまったが、エキスパートが地政学的な「不安」を強く感じる時代。経営の側も、従来とは違った発想で、経営に当たっていってこそ、企業の永続的発展が可能になる、というようなことを感じさせられたトップリスクのリストだった。

 さて、読者のみなさんの考える「競争以外」の今年のトップリスクはどのようなものだろうか?

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