北野伯幸メルマガの米中露の関係について

欧米の報道と中露の報道は違います。日本のメデイアは欧米のニュースを見てそれを垂れ流すというか、自分の都合の良い所だけ流します。先日の台湾・馬総統のインタビュー記事のように都合の悪い部分は報道しない自由を行使したりします。日本のメデイアが信用できないのは自らを常に安全地帯に置いて、偉そうに他人を批判することです。イスラム国には白人が首を切られ殺されていますが、彼らはそういう危険な所には行きません。一次情報ではなく、二次情報、三次情報で報道している訳です。イラン・イラク戦争時、イランに邦人が取り残されて置き去りにされようとしました。救ったのはトルコ航空ですが、こういう問題が起きればメデイアは問題解決の方法を提案すべきです。憲法上の制約があると言って思考停止してしまうのです。憲法なんて神ならぬ身の人間の作り出したものでいくらでも変えられる話です。日本を弱くしていた方が良いと思っている連中の手に乗っているだけです。

さて、下記のメルマガを読んでいる方もいるかもしれませんが、少し解説します。小生がいつも言っていますように、アメリカは真の敵が見えていない。特にオバマのアメリカ。民主党全体が中国のマネートラップにやられているせいかもしれませんが。共産主義国を敵と位置づけるのであれば、ルトワックの言うようにロシアを西側に取り込むようにしないと。人口が多い中国は間違いなく米国に対抗し、覇権を求めてきます。彼らに民主主義を求めても無理と言うもの。歴史的にそういう発想がないので。香港だってバリケードが撤去されるでしょう。兵糧攻めに弱いということです。台湾も同じように経済的に過度に中国を頼るのは危険です。アメリカは中間選挙で共和党が上・下院を制しました。大統領が拒否権行使で法案を通さなければ、弾劾裁判に共和党は打って出るかもしれません。上院の2/3の賛成が必要なので実現は難しいでしょうけど大統領には打撃になります。また、大統領令の濫発は民事訴訟の対象にもなると共和党は考えているようです。どちらにしろ、オバマは早く退場して新たな大統領になって世界の脅威を取り除いてほしいです。他力本願だけでなく、中国封じ込めに日本も応分の負担をしていくべきです。

ロシア政治経済ジャーナル No.1123    2014/11/18

【RPE】★オバマとプーチンが、【中国の愛】をうばいあう(涙)

日本では、「中国は経済がボロボロで、いまにも崩壊しそうだ!」という話で盛り上がっています。確かに中国経済は大きな問題を抱えています。賃金水準が上がり、日本企業を含む外国企業が、どんどん逃げ出している。まさに、「成熟期後期」の現象がではじめています。これから、ますます成長は鈍化していくでしょう。RPEの「国家ライフサイクル論」によると、2018~2020年ごろ、日本のバブル崩壊に匹敵するできごとが起こる。しかし、「外交」において、中国は一国だけすばらしいポジションにつくことに成功しています。

▼PSを見て、がっかり

私が非常に尊敬する人に、アレクセイ・プシコフさんがいます。1954年生まれのプシコフさんは、今年60歳。私と同じで、モスクワ国際関係大学(MGIMO)を卒業しました。大学を卒業後の経歴は、

・国連勤務

・ゴルバチョフ・ソ連大統領のスピーチライター

・週刊紙「モスコフスキエ・ノーヴォスチ」副編集長

・米「フォーリン・ポリシー」誌編集者

・ロシアの国営テレビ「ORT」(現在1カナル)副社長

など。

2011年、下院議員になり、その年になんと「下院国際問題委員会」議長 に就任しています。経歴を見ると、ロシアにもアメリカにも通じている、正真正銘のエリート。そんなプシコフさんは、1998年から現在にいたるまで、「テレビ・ツェントル」で、「ポスト・スクリプトン」(略してPS)という番組を放送しています。国際関係・政治経済分析番組というのでしょうか。

現役の下院議員、しかも国際問題委員会議長の番組ということで、とても参考になるのです。11月15日21時から放送された「PS」を、私は見ました。それで、非常にがっかりすることがあったのです。それは・・・・。

▼さらに悪化する米ロ関係

皆さんご存知のように11月10、11日、北京でAPEC首脳会議が開かれました。これについて、PSではどう報じられていたか。全部訳したら、長すぎますので、要約します。元の映像はこちらでごらんになれます。

http://www.youtube.com/watch?v=F0Ho7iyotq0

ロシア語がわからなくても、雰囲気はわかると思いますので、文章とあわせて、ごらんなってみてください。(時間があれば)1分17秒から、「APECとG20」の解説がはじまります。内容は、

・今週はAPECとG20があったが、注目されたのは、ロシア、中国、アメリカだった

・アメリカとロシアの再起動(和解)はなかった

・ブリズベンで開かれたG20首脳会合の前にオバマは、オーストラリアの学生たちにスピーチした

・そこで、オバマは、「エボラ」と「ロシア」を「世界的問題」とよんだ

(@オバマ発言の引用2分34秒)

「私たちは、西アフリカのエボラ、ロシアのウクライナ侵略との戦いにおいて主要な役割を果たしている。この侵略は、世界的な脅威である。(以下略)」

・オバマがロシアとの対立を激化させようとしているのは明白。

・北京で、プーチンとオバマは立ち話したが、何も変わっていない。

(@北野から日本の皆さんは、「え~、ていうか、プーチンが挑発しているんじゃないの~~~???」と思っているでしょう?ところが、ロシアのメディアは、全然正反対なのです。)

・少し前までオバマは、「世界的脅威が三つある」としていた。

1、エボラ 2、イスラム国 3、ロシア

・ところが、イスラム国はすでに「世界的脅威」ではなくなり、「エボラ」と「ロシア」だけが残った。

・オバマは、「橋を焼いた」。この発言で、米ロの和解、「再起動」はなくなった

・オバマは、ロシアに対して、「イスラム国よりも厳しくいく」と宣言した。

これらから何がわかるか?

要するに米ロ関係が悪化していると。ロシアに住んでいるとわかりますが、メディアは「戦時体制」です。実際、「戦争」しているわけですから。

・アメリカは、「プーチンは悪魔だ!」「ヒトラーの再来だ!」と世界中で強力にプロパガンダしている

(=情報戦)

・アメリカは、日本と欧州を巻き込んで、「対ロシア制裁」を強め、大きな打撃を与えている

(=経済戦)

・アメリカの利益を代表するウクライナ政府と、ロシアの利益を代表するウクライナ東部親ロシア派は、実際に戦争している(現在は、一応休戦中だが。)

こうみると、米ロは「情報戦」「経済戦」「殺戮代理戦争」と、それこそ「フル戦争」していることがわかるのです。こんな時代ですから、日本政府は、とても慎重に行動する必要があり

ます。

▼APECで、アメリカ、ロシアが【中国の愛】をうばいあう(涙)

7分50秒ごろから、APECの話になります。プシコフさんの意見によると、

・ロシア、中国、アメリカの三国関係に動きが見られる

・ロシアと中国の距離は縮まり、中国とアメリカの距離は遠くなっている(つまり、ロシアと中国は仲良くなり、中国とアメリカの仲は悪くなっている。)そして、プシコフさんは、「ワシントン・タイムズ」の記事を引用し、いいます。

・「ロシアとアメリカは、中国の「主要経済パートナーの座」を争って

いる。

「APECの結果を見るに、ロシアはアメリカに勝っている」(@北野から「おいおい!そんなことで争うなよ!」と日本人なら思っちゃいますね。)

・APECで習近平は、プーチンと並んで歩くことを好み、オバマは、「わき役」しか与えられなかった

(@北野からこれも、日本の報道とずいぶん違いますね。)

・なぜ北京にオバマは「ナーバスに」やってきて、「ナーバスに」かえっていったのか?

・習近平は、首脳たちとのグループ写真で、プーチンの隣に立ち、オバマを「脇」に立たせた

(@北野から9分40秒、その位置を確認することができます。プーチンは、習近平の右隣。確かにオバマさんは、「脇」にいます。どうでもいいような話しですが、「面子」を重んじる中国は、こういう部分で「君は大事」「君は嫌い」ということを見

せるのでしょうね。)

・アメリカはロシアを孤立させようとしているが、中ロは接近している

・ロシアと中国は、「天然ガス供給30年契約」を結んだ

・この契約で、ロシアが中国に供給する天然ガスの量は、欧州への輸出量をこえることになる

・中ロの接近を阻止したいアメリカは、中国に何をオファーしたのか?

・米中は、「CO2排出量削減で合意」「中国人のビザ発給要件緩和」「突発的軍事衝突を回避するシステム」などにつ

いて合意した

・一方でアメリカは、中国に対し「サイバースパイ」「人権侵害」「人民元の管理」などで、批判をつづけている。

・このような批判をつづけていては、中国から多くのものを得ることはできない

・米中最大の問題は、「経済ブロック」に関するものだ

・アメリカは、日本などとTPPを強化しようとしている(中国は抜き)

・それで中国は、独自の経済ブロックを構築しようとしており、ロシアは、それに参加する方針だ(これを、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想」という。)

・オバマは、「香港デモを支援していない」と誓ったが、習近平は、信じなかったようだ(@北野から中国とロシアでは、「香港デモ」は「アメリカの仕業」というのが一般的見方です。)

ここまでをまとめてみましょう。

プシコフさんによると、今回のAPECの意味はなんだったのか?

1、プーチンもオバマも、中国の愛を得るために北京にむかった

2、プーチンは、中国に天然ガスを30年供給することなどで、中国の愛を得た

3、アメリカの提案は小さく、しかも中国批判をたくさんする

4、さらに、習は「香港デモの黒幕はアメリカだ!」と見ており、

オバマに心を開かなかった

5、結局、「中国の愛」を勝ち得たのは、プーチンだった

と。

なんというか、「アメリカとロシアが、中国の愛をとりあっている」というテーマが、非常に興味深かったです。

なんか、「米ロは、中国より格下みたい」じゃないですか?なんでこんなことになっちゃったのでしょうか?

▼米中ロ、三角関係の構図

今年2月、欧米が支援するウクライナ・デモが、親ロシアのヤヌコビッチ政権を打倒しました。ヤヌコビッチは、ロシアに亡命。これに激怒したプーチンは、ウクライナのクリミア自治共和国とセヴァストポリ市を併合します。(今年3月)アメリカは、日本や欧州を誘って(脅して)、ロシア制裁を発動。そして、なんやかんやと理由をつけて、それ(制裁)をドンドン強

化していきました。「世界の孤児」になったかに見えたロシア。ところが、中国は、明らかにロシア側につきました。もちろん、制裁にも加わっていません。なぜ?結局、中国の目標は、「アメリカを蹴落として覇権国家になること」なわけです。その過程で米中対立が激化したとしましょう。アメリカは、中東産油国を脅して、「中東」→「中国」の石油の流れをカットするかもしれない。だから、中国は、陸続きのロシアや中央アジア(カザフスタンなど)から石油・天然ガスを入れる体制をととのえなければならない。今回、アメリカにつきあって、欧州とロシアがケンカした。欧州は、ロシアの天然ガス業界にとって、最大の「お得意」である。中国は、このケンカを利用して、「欧州とケンカしてお困りでしょう。その分私たち(中国)が買ってあげますよ!」とオファーした。ロシアも困っているので、中国に天然ガスを大量に輸出することで合意した。というわけで、中国とロシアは、「ガスを売りたい」「買いたい」という「実利」(金儲け)と、「安全保障」でしっかり結びついているので、強いのです。(本音で「愛し合っている」とか、「信頼しあっている」わけではない。むしろ本音は、不信感でいっぱいである。)それに、お互い独裁国家なので、「人権が!」とか「民主主義が!」とか、「言論の自由が!」などとうるさいことをいわない。だから、つきあいやすい。ここまでまとめると。ウクライナをめぐるアメリカとロシアの戦いが勃発した。中国は、ロシアの側についた。それで、米中関係も、急に冷え込んだ。ロシアでは、「香港デモはそれでおきた」(アメリカが起こした)と報じられています。対ロシアだけでなく、対中国でも強気になったアメリカ。しかし、オバマさんの民主党は、11月4日の中間選挙で惨敗した。上下院で共和党が過半数を占め、オバマさんははやくも「レームダック」状態。無力感に侵食されたオバマさんは、「ロシアとは和解できないから、中国と和解しよう」と北京にやってきた。そのために、「習近平と会談しろよ!」と安倍さんに命令した。

<米国務長官「とても歓迎」…日中4項目合意に

読売新聞 11月8日(土)23時37分配信

【北京=蒔田一彦】ケリー米国務長官は8日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議の閉幕後に北京市内で記者会見し、日中両国が発表した首脳会談に向けた4項目合意について、「米国はとても歓迎している」と述べた。>

ところが、中ロの絆は思ったより強く、なんの結果も得れず帰国したと。

▼アメリカの戦略ミス

RPEの読者さんに是非読んでいただきたい本があります。

こちら。

●自滅する中国 ルトワック著 奥山真司訳

(詳細は→ http://tinyurl.com/l2f87d6 )

世界3大戦略家の一人エドワード・ルトワックさんの本。この本には、アメリカの進むべき道と日本の進むべき道が明確に記されています。要するに、「中国が台頭すると、それに反発する諸国が一体化して『中国包囲網』が形成される」というのです。この中国包囲網についてルトワックさんは、重要なことを語っています。<米国のリーダーシップによる同盟は、単に実現の可能性が低いだけでなく、非常に望ましくないものだ。なぜならこれによって、ロシアを中国の陣営に追いやる可能性が高いからだ。そしてそのようなロシアの行動が、決定的な結果をもたらすことにもなりかねない。>(自滅する中国 138p)

なんということ!アメリカ陣営が勝つか、中国陣営が勝つかは、「ロシアがどっちにつくか?」で決まるというのです。ロシアが中国包囲網に参加すれば、アメリカの勝ち。ロシアが中国と組めば、中国の勝ち?

次にロシアが登場するのは、「日本」のところです。ルトワックさんは、「日本はこう動くべき」という提言もしています。

<日本が引き続き独立を保っていられるかどうかは、反中同盟全体の強さに大きく左右されることになるからだ。>(同上187~188p)

↑これも結構衝撃ですね。反中同盟が形成されない、あるいは脆弱な場合、「日本は独立保てない」。つまり、「中国に実質併合される可能性もある」といっているのです。じゃあ、どうすれば、日本は勝てるのか?

<もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。>(同上188p)

日本が中国に勝てるかどうかを決める要因は、

1、日本の決意

2、アメリカの支持

3、ロシアとの関係

だそうです。しかも、ロシアとの関係は「決定的」要因である。これが、アメリカ「リアリスト」たちの考えです。アメリカ、日本、欧州、オーストラリア、インドなどに、ロシアをひきずりこんで「中国包囲網」をつくれば勝てる。ところが、実際アメリカがやってることは、「中国包囲網」ではなく、「ロシア包囲網」をつくっている。そして、ルトワックさんがいうように、「ロシアと和解」するのではなく、アメリカ最大の脅威である「中国と和解」しようとしている。それで、ルトワックさん以外のリアリスト、たとえば、ミアシャイマー、ウォルト、キッシンジャー、ロバート・ゲーツなどなども、「アメリカはロシアと和解すべきだ」と主張している。当然です。中国は、GDPでも軍事費でも世界2位。ロシアの人口は、中国の9分の1。ロシアGDPは、中国の4.5分の1にすぎない。中国とロシア、どっちがアメリカの脅威か、明白ですね。オバマさんには、あまり期待できそうもありません。次の選挙で、「リアリズム」を理解したアメリカ大統領が誕生するのを願うばかりです。というわけで、アメリカとロシアが、中国の愛をうばいあう。アメリカとロシアが戦って、中国だけは無傷でいる。