『米との関係修復、ロシアが恐れる最悪のシナリオ 行方を左右する二つの国と米国との緊張』(2/10日経ビジネスオンライン 池田元博)について

2/12日経に米ロ中韓シンガポールの記者を集めて、座談会を開いた記事が掲載されていました。北方領土絡みの部分を抜粋します。

2/12日経朝刊〈外交〉北方領土問題、遠い解決/アジア太平洋、不安定に

――安倍首相の外交政策をどう評価するか。

ゲイル氏 安倍首相は外向的だ。トランプ氏やプーチン氏と並んでも、物おじせず落ち着いている。野田佳彦前首相など他の政治家には無理だろう。安全保障政策に関して日本は日米同盟の代替案を持ち合わせていない。慎重にやるべきだ。

トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱を決め、2国間交渉を求める。彼が国益として主張しやすい成果物を与え、うまく操ることが肝心だ。

ゴロブニン氏 安倍首相とプーチン氏は16回も会談したが、あくまで仕事上の関係だ。率直に言うと、この2人で北方領土問題の解決はできない。安倍首相が2島返還などの妥協策をのむ可能性はあるが、プーチン氏は1島も返さない。ロシア国民はプーチン氏に領土拡大や強い国を期待しており、返還とは全く逆の考えだからだ。

蘇氏 2国間における首脳の個人関係を否定はしないが、そもそもの根幹はやはり国家利益だ。国家を代表してどう相互利益を図り、信頼を構築するか。テーブルの上で握手しても、下で足を蹴り合っていては意味がない。

ローリー氏 日中関係はうまくいっていない。尖閣諸島をめぐり大きな溝を抱えている。トランプ政権の誕生がこれに拍車をかけ、アジア太平洋地域の安全保障環境はさらなる緊張状態に陥るだろう。悲観的にとらえている。

金氏 韓国と日本は歴史的にも特別な関係を築いてきた。朴槿恵(パク・クネ)政権が事実上機能していない今、重要なのは次の大統領だ。直近の世論調査では野党候補の文在寅(ムン・ジェイン)氏が勝つ可能性が非常に高い。韓国のリベラル政権と安倍政権がどう向き合うか。北朝鮮やトランプ氏も不安要素の一つだ。

慰安婦問題も簡単ではない。貧しい家庭の若い女性の悲劇として人々の関心を集めてしまう。普通は10年もたてば忘れるが、慰安婦問題はそうではない。

疑問なのは、なぜ安倍首相はロシアを非難しないのか。昨年の日ロ首脳会談でロシアのミサイル配備に全く触れなかったのは驚いた。

ゴロブニン氏 答えは簡単だ。安倍首相の対ロシア外交の目的は北方領土問題と、ロシアと中国の異常な接近を阻止することだ。だからロシアのミサイル配備には何も言わない。尖閣周辺に中国船が入ったときは大きく非難するけれども。>(以上)

さすがに、左翼リベラルの集まりの感じがあります。その中でロシア人記者のゴロブニンの発言はプーチンを牽制する意味があるのかも。KGBと繋がっている可能性もあります。北方領土の最大の問題は、4島に米軍基地を置かないように日本が約束できるかどうかです。知恵を出せば、可能になるかも。でもゴロブニンの発言は日本の足元を見ている嫌味な奴と思わせます。

本記事の結論は「米ロ関係が順調に改善すると断じるのは早計だろう」とのことですが、その通りと思います。イランと中国に関して米国の思惑通り、ロシアが動くとは思えませんし、米議会がロシアの経済制裁解除に協力するかどうかは分かりません。

宮崎正弘氏も2/13メルマガで行政府内の意見の不一致があり、ロシアに対して一直線に関係改善には行かないという事です。大局的に見れば、中国封じ込めにロシアの協力は必要ですが、日本の足元を見るようであれば、日本もロシアへの協力は控えた方が良いでしょう。

2/13宮崎正弘氏メルマガ< ラインス・プリーバス首席大統領補佐官を更迭?  はやくもトランプ政権の中枢で人事内紛が勃発

11日夜、フロリダ州の別荘で安倍首相と夕食をともにしたトランプ大統領は、安部夫妻を見送ったあと、親友のひとりと30分の密談を交わした。  ワシントンポストに拠れば、「ラインス・プリーバス首席補佐官は不的確で、連邦政府の行政の仕組みをよく知らないばかりか不適切な処置を目立つ」として更迭を促したという。  直前にも議会民主党からはマイケル・フリン安全保障担当補佐官が、その個人的コネクションとして、ロシアとの距離が親しすぎるとして適材適所にあらずと不信任の声があがっている。 フリンはトランプ就任前から在ワシントンのロシア大使館高官等と接触を繰り返したうえ、軍を退任後も二回、露西亜を訪問し、夕食会ではプーチン大統領のとなりに座っていた写真がばらまかれた。 そのこと自体に問題はないが、議会派ロシアを敵視しており、制裁の解除ではなく、強化を訴える反ロシア派勢力のほうが強い。 ティラーソン国務長官の指名でも民主党の多くが、ロシアに寄りすぎるとして反対票を投じた。  トランプ大統領はフリンを信頼しており、またラインス・プリーバス首席補佐官の更迭に関しては、ひとことも発言していない。  このごたごたの暗闘の最中、北朝鮮がミサイル実験を強行し、ふたたびトランプ大統領と安倍首相は記者団の前に現れて北用船を非難した。あのときのトランプ大統領の不機嫌な表情、大事な記者会見の最中にも、ほかのことを考えていたに違いない。>(以上)

記事

「米国第一主義」を掲げるトランプ政権が始動した。世界が懸念を強めるなか、トランプ氏の就任を心待ちにしていたのがロシアだ。ロシアとの良好な関係づくりを公言する米新政権の下で、米ロ関係は本当に改善するのだろうか。

国務長官には、「ロシア通」として知られる米石油大手エクソンモービルの前CEO、レックス・ティラーソン氏が就任した(写真:The New York Times/アフロ)

米ロ関係の先行きを占う材料として注目されたのが、先月28日に実施されたトランプ大統領とプーチン大統領の電話協議だ。

トランプ大統領の就任後、初めてとなった電話協議は約45分に及んだ。

ロシア大統領府によると、両首脳は米ロ関係の発展に向け、建設的かつ対等、相互利益の原則に基づいて共同作業を活発に進めることで合意した。ビジネス交流を通じて両国の貿易・経済協力を復活させる重要性も確認したという。

国際情勢をめぐってはとくに、国際テロリズムが世界の主たる脅威となっているとし、過激派組織「イスラム国」(IS)やシリアの他のテロ組織の撲滅に向け、米ロが共同歩調をとるべく調整していく必要性で一致した。

電話協議では、両国関係改善への最大の障害となっているウクライナ情勢も話し合った。ペスコフ大統領報道官によると、米国による対ロ経済制裁の緩和問題は議題に上らなかったという。

それでもプーチン大統領は協議のなかで、「ロシアは200年以上にわたって米国を支持してきたし、過去の2度にわたる世界大戦でも米国の同盟国だった」と強調。現在も米国は国際テロとの戦いで最重要のパートナーだと持ち上げ、関係修復への期待を強くにじませた。

一方、米ホワイトハウスも声明で「前向きな電話協議は、修復が必要な米ロ関係進展への重要なスタートとなった」と表明。「トランプ、プーチン両大統領はともに本日の電話協議後、テロとの戦いや互いに関心を持つ他の重要課題に速やかに取り組めると期待している」と指摘している。

政権だけなく、ロシア社会全体に広がる「トランプ期待」

ちなみにトランプ大統領はこの日、日本の安倍晋三首相、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、オーストラリアのターンブル首相とも相次ぎ電話協議している。ロシア以外はすべて米国の同盟国で、トランプ氏がいかにロシアとの関係を重視しているかを示したともいえる。

しかも米メディアの報道によると、ターンブル豪首相との電話協議は難民問題で対立。トランプ大統領がわずか25分で一方的に電話を切ってしまい、「これまでの電話協議で最悪」と述べたという。

トランプ氏自身はツイッターで「フェイク(偽)ニュースのウソ」と断じているが、少なくとも同盟国首脳との電話協議より、プーチン大統領との会話のほうが雰囲気は良かった可能性は否定できない。

周知のように、トランプ氏は選挙期間中からプーチン大統領を「彼は非常に賢い」「強い指導者だ」と高く評価。オバマ前政権下で大きく冷え込んだ米ロ関係の改善に強い意欲を示してきた。

ロシアが米大統領選時、トランプ氏を支援すべく大規模なサイバー攻撃を仕掛けたのかどうかはともかく、プーチン政権が同氏の当選を切に望んでいたのは事実だろう。

ロシアの「トランプ期待」は政権だけなく、社会全体に広がっている。政府系の全ロシア世論調査センターが先月実施した調査によると、オバマ前大統領については回答者の81%が「否定的」評価を下した。一方でトランプ新大統領に対しては「良い」が40%と、「悪い」の4%を大きく上回った。

独立系の世論調査会社レバダ・センターが「米国との関係をどうみるか」と聞いた今年1月の調査でも、「良い」が37%、「悪い」が49%だった。米ロ関係を否定的にみる回答が依然として上回ってはいるが、2年前の2015年1月時点では「悪い」が実に81%に達していた。

ウクライナの戦闘激化は“瀬踏み”?

そんなロシアがトランプ新政権に最も期待しているのは、オバマ前政権がウクライナ危機を受けて発動した厳しい対ロ経済制裁の緩和や撤回だろう。

オバマ氏はとくに、ウクライナ東部で政府軍と泥沼の戦闘を続ける親ロシア派武装勢力にプーチン政権が軍事支援していると激しく非難。ウクライナ東部紛争の政治解決をめざした和平合意(ミンスク合意)が完全に履行されない限り、対ロ制裁は緩和しないとしてロシアに強硬な対応をとってきた。

ところがトランプ氏は、就任前のインタビューでロシアが核兵器削減の「取引」に合意すれば対ロ制裁を解除する可能性に言及するなど、必ずしもウクライナ東部の和平合意履行と絡ませない考えを示唆している。

トランプ大統領は今月4日、ウクライナのポロシェンコ大統領とも電話協議し「和平への協力」を約束した。しかし、直後に放映された米テレビとのインタビューで改めて「プーチン大統領を尊敬する」と述べるなど、ウクライナを全面的に支援してきたオバマ前大統領の姿勢とは明らかに異なる。

ロシアにとってさらに追い風なのは、トランプ政権の最重要閣僚とされる国務長官に、「ロシア通」として知られる米石油大手エクソンモービルの前最高経営責任者(CEO)、レックス・ティラーソン氏が就任したことだろう。

同氏はエクソンモービルのCEO時代、ロシア国営石油最大手ロスネフチとの間で油田・ガス田開発事業を進めた。2013年にはプーチン大統領が「友好勲章」を授与したこともある。対ロ制裁にはもともと反対の立場を表明してきた経緯もあり、ロシアにとっては願ってもない布陣といえる。

当のウクライナ東部ではトランプ、プーチン両大統領が電話協議した先月28日以降、ウクライナ政府軍と親ロ派武装勢力による戦闘が再び激化している。ロシア、ウクライナはいずれも相手側が仕掛けたと非難合戦を繰り広げているが、プーチン政権がトランプ政権のウクライナ問題に対する「関心」の度合いを瀬踏みしている可能性は完全に否定できない。

ロシアでは実際、「トランプ氏は誰が敵かを良く覚えている。ウクライナのポロシェンコ政権が米大統領選でヒラリー・クリントン候補を熱心に支持してきたことを決して忘れていないはずだ」(外交専門家)との見方が根強い。

関係修復の障害になりかねない米のイラン敵視政策

いずれにせよ、プーチン政権がトランプ政権の発足を好機ととらえ、関係修復と対ロ制裁解除へのシナリオを模索しているのは間違いない。とくに外交専門家の間では、まずは国際テロリズムとの戦いを前面に押し出し、米ロ協調を演出していく道筋がとりざたされている。

ロシアは現在、シリア和平を実現すべく、アサド政権と組んで外交攻勢を活発化させている。先月にはカザフスタンの首都アスタナで開いた和平会議も仲介した。この会議には米側から結果的に駐カザフ大使がオブザーバー参加しただけだが、ロシアはトランプ政権にも積極的に参加を呼びかけていた。

シリアはトランプ氏が「掃討」をめざすISの拠点だ。ロシアが「ISとの戦い」と称して米国に共闘を求めつつ、米国の協力も得ながら、アサド政権を存続する形でシリア和平実現の構想を描いていることは十分予想される。

ただし、こうした構想の障害となる暗雲が早くも漂い始めている。トランプ大統領がイランに対する敵視政策を強め始めていることだ。

イランが先月末、弾道ミサイルの発射実験を実施したのに対し、トランプ政権はさっそく追加制裁を科すと発表した。オバマ前政権時代、イランと米欧などはイランが核開発を制限する見返りに経済制裁を解除する「歴史的合意」を達成したが、トランプ氏はこの核合意を「最悪」と非難している。米国とイランの関係は早晩、大きく冷え込みかねない状況だ。

一方、ロシアは地対空ミサイルシステム「S300」を供給するなどイランとは密接な関係にある。シリアの停戦や和平協議もトルコとともに、イランの協力を得て進めた。米国とイランの関係が悪化すれば、IS掃討とシリア和平への協力を通じて米ロの関係改善をめざす道筋自体が頓挫しかねない。

ロシアが最も恐れる、対中国の強硬姿勢の余波

イラン問題だけではない。ロシアが最も恐れているのは、トランプ氏の中国に対する強硬姿勢の波及だ。まだ表面化していないが、米政権が米ロ関係を改善する見返りとして、中国と距離を置くようロシアに要求するシナリオが想定されるからだ。

ロシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。ウクライナ危機で国際的な孤立を強めるなか、ロシアは対中依存をさらに強めた経緯もあり、中ロ関係を台無しにしてまで米国にすり寄るとは考えにくい。

自信過剰で起伏が激しいとされるトランプ大統領だけに、その外交路線も予見しにくい。ロシアの思惑通りに、米ロ関係が順調に改善すると断じるのは早計だろう。

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