12/17日経ビジネスオンライン 福島 香織氏『周永康は死刑になるのか?中国法治、権力闘争、その先は恐怖政治か』記事について

周永康が本当に死刑になるとすれば、権力闘争は激しくなるでしょう。彼以上に悪いのはいっぱいいる訳で、枕を高くして眠れなくなりますので。「虎も蠅も」と言っている習近平、追及の先頭に立っている王岐山だって周ほどではないにしろ賄賂を取っていることは中国人だったら誰でも知っています。そうしなければ権力の中枢には絶対行けませんので。受領拒否した時点で仲間はずれです。そういう清廉な人が出世を重ね、権力を握るのは中国の歴史では絶対無理です。『清官三代』なる言葉もあるくらいです。それでも日本の賄賂の額とは桁違いです。何清漣によれば「中国共産党は歴代王朝の中で一番腐敗が進んだ統治機構」だそうです。習が狙っているのは多分曽慶紅(上海派)でしょう。江沢民は実権を握っていなかったので。団派がどう動くか見物です。胡錦濤は党主席時代、上海派の横やりになす術もなく、自分の思いを実現できなかった恨みがあるので、上海派は潰したいと思っているはずです。しかし、習の独り勝ちを認めると次は彼らの番になりますので兼合いが難しいです。軍を団派が取るか、習近平が取るかで決まるでしょう。上海派の復活はないでしょう。彼らは共産党のエリート(団派)でも太子党(革命の相続人)でもなく、天安門事件の後に鄧小平から選ばれた利権集団ですので正統性がありません。もっと言えば時代の遺物である共産党なんて正統性があるはずがありません。悔しかったら中国でも真の民主選挙をしたらどうでしょう。香港にすら与えないのですから。多様な価値観を認めない社会は、この科学が進んだ世界にあっては長い目でみれば存続できません。

記事

かつて中国で警察・武装警察権力のトップにいた元政治局常務委員の周永康の党籍剥奪と逮捕がこのほど、ついに発表された。周永康については、元重慶市党委書記の薄熙来失脚に連座する形で転落への道筋が見えてはいたが、党籍剥奪と司法機関への身柄送致の正式発表を聞くと、さすがに習近平政権はここまでやりきったか、という感慨がわいてくる。しかも、その容疑の中に収賄などと並んで、女性関係、党と国家の機密漏洩といったきな臭いものが並び、「反党的な重大規律違反」を犯したという。国家機密漏洩がかかわっているとなると、おそらくは周永康の裁判は非公開となるのではないか。薄熙来は中国の法治国家ぶりをアピールする見世物サーカス的な公判で、結局は執行猶予付き死刑という判決であったが、新華社や人民日報の報道ぶりをみれば、周永康については死刑判決が出るのではないか、という憶測も流れている。周永康の死刑はありえるのか、考えてみたい。

党員は厳格な規律を要求され、それ自体が党の本質

新華社で周永康の処分が発表になった後、人民日報の微信アカウントが出した論評がすこぶる厳しく、周永康死刑説の裏付けになっている。以下抄訳をあげる。12月5日、習近平の虎狩りはさらに劇的な状況を更新した。中央政治局会議は中央規律検査委「周永康に関する重要規律違反審査報告」を審議、採択し、周の党籍剥奪とその犯罪容疑について、司法機関に身柄を送致することを決定。中央が発表した周の紀律違反行為の中で、「重大な反党的政治紀律、組織紀律、秘密保持紀律に違反した」「党と国家の機密を漏えいした」という部分は注目に値するだろう。かつて政治局常務委として、国家指導部幹部として、周が党と国家のどんな機密を誰に漏洩したというのか? 党の政治紀律、組織紀律、秘密保持紀律とはどのようなものか? 目下は知るすべもないが、周がしでかしたことは、党の歴史においてかつて出現した「叛徒」と大した差はないだろう。中国共産党と世界の多くの政党は同じではない。党員は厳格な規律を要求され、それ自体が党の本質であり、長期の闘争の経験における総括なのだ。このため、今日の入党誓詞の中に、「党の秘密を守る」「永遠に党に謀反を起こさない」「党への忠誠」「常に党と人民のために一切の犠牲を払う覚悟」などの言葉が散見するのである。党史上、多くの命を懸けて信条を守る誓いがあり、党の秘密を守った英雄的人物があった。しかし、敵の拷問に耐えられず、誘惑に負けて変節した叛徒もあり、その中には党の高級幹部も少なくなかった。…

こういう論評とともに、1930年代に党中央秘密特務組織の責任者でありながら国民党に投降し大量の党機密を漏えいした顧順章など党歴代の叛徒5人の名前を列挙している。「叛徒」「売国奴」というのは、中国共産党政治において死刑に値する罪であり、フェニックステレビなどが、この激しい論評が何を意味するのか、盛んに取り上げて解説している。「周永康が叛徒であると決めつける文章のあと、中国共産党史上の高級幹部叛徒5人の名を列挙し、その5人がいずれも死刑になっている。…では、この5人が例外なく死刑になっているということは、周永康の最後はどうなるのか? 非常に意味深な文章である」

巨額汚職、愛人たちが情報収集

ところで周永康はいったい何をしたと言われているのだろうか。もう一度整理してみたい。まず巨額汚職である。これまで中国メディアに報じられているところを総合すると、周永康は石油企業トップから政界入りし、党中央に石油閥を形成し、石油企業との癒着により巨万の富を得ていた。その汚職規模は数千億元に上るといわれている。また四川省の書記時代に築いた人間関係を四川閥と言う形でまとめあげ、後に周が中央政法委員会書記(公安・武装警察のトップ)の地位につくと公安関係人事も把握し、石油閥、四川閥、公安閥、そして彼の秘書経験をもつ側近たちのグループを束ねて、広範囲の利権グループを掌握していた。また家族・親族、友人、愛人たちを汚職や情報収集の手駒にも使っていた。中でも「百鶏王」と呼ばれる精力絶倫の周永康には大勢の愛人がおり、その中には軍属歌手で習近平国家主席夫人の彭麗媛の妹分にあたる湯燦や、CCTVの美人キャスター葉迎春、沈冰といった軍や報道の中枢にいる女性たちも多くいた。こういった女性たちをパイプに使い、軍との関係強化やメディアコントロールも行っていたと見られている。

また殺人容疑も噂されている。周永康の最初の妻・王淑華は不審な交通事故で死亡。これは周永康が仕組んだ謀殺ではなかったかといわれている。もちろん、裏のとれていない話ではあるが、当時、周永康は別の愛人と付き合っており、その愛人が今の妻でCCTV編成部に勤務していた賈暁燁で、彼女が妊娠した(後にウソだとばれた)と言ったことから、いつまでも離婚してくれない王淑華を殺害したというのがもっぱらの噂である。一説によると賈暁燁が、江沢民の妻の王冶平の妹の娘であり、江沢民の親戚になり中央権力へのコネを得るために、周永康が長年連れ添った妻を殺害したという見立てもある。

殺人容疑、クーデター首謀、機密漏洩…

周永康の妻が江沢民の親族であるという噂はかねてから流れていたが、それが最初の妻か二番目の今の妻かは情報が錯そうしていた。以前、このコラムでは王淑華が王冶平の姪であるという噂を紹介したと思うが、最近信じられているのは、四川省党書記時代の周永康に2001年に後妻に入った賈暁燁が、周永康と江沢民をつなげる女性であったという話である。また彼女の姉・賈暁霞は、中国石油カナダ支社の首席代表というポスト(現在離職、行方はしれず)についており、周永康事件の石油閥汚職に連座しかねない立場にある。そして、すでに失脚、服役中の薄熙来とともに、習近平政権からの権力奪取の計画に加担していたという噂がある。いわゆるクーデター首謀説である。もし「反党的」と言われる謀反の疑いがあるとしたら、このことではないか、とみられている。これらの容疑はすでに、中国メディアでも海外メディアでもふれられていたが、新華社発表では「党と国家の機密漏洩」という、いままでにあまり聞かなかった容疑がふくまれている。これは、何を指すのか。一つ推測されるのが、2012年6月にブルームバーグが報じた、習近平ファミリーの不正蓄財疑惑で、習近平の姉らが3.76億元を蓄財しているというスクープだ。この報道が習近平の逆鱗に触れ、ブルームバーグが強制捜査を受けたことはすでに報道されているとおりである。ブルームバーグのネタ元は、香港紙蘋果日報が報じているように李東生・元公安副部長(失脚済)らしい。李東生は元CCTV局長でテレビマン時代に周永康にCCTV美人キャスターらを愛人にあっせんした功績で、公安副部長に取り立てられた周永康の側近中の側近。また同じキャスターの愛人を共有する“義兄弟”関係にあり、また周永康と賈暁燁を引き合わせて結婚させた“仲人”とも言われている。李東生に習近平スキャンダルをブルームバーグに流させたのが周永康ではなかったか、と言われている。

もう一つは、2014年1月に世間を騒がせた「中国オフショア金融の秘密」報告。これは国際調査報道ジャーナリスト連合に匿名で送り付けられたデータを連合に加盟するメディア記者たちが手分けして裏をとり、習近平や温家宝の親族がどれほどの財産を租税回避地のオフショア金融に隠し持っていたかを報じたもの。誰がこの特ダネデータを送り付けたかは不明ながら、このオフショア金融リストに、当然入っているはずだと思われてきた江沢民、周永康、曽慶紅の名前が入っておらず、上海閥、つまり周永康筋がネタ元であるという推測はされていた。

愛人のスパイ容疑もリンクか

もう一つ興味深いのは、今年に入って、周永康や徐才厚・元中央軍事委員会副主席(失脚済)らの愛人であった軍属歌手の湯燦が、実は生きていて国家機密漏洩などのスパイ容疑で懲役15年の判決で服役中という情報が相次いで香港メディアに流れたことである。彼女については拙著『現代中国悪女列伝』(文春新書)でも紹介しているが2011年12月以降、突如行方不明となっており、秘密裡に処刑されたという噂も流れていた。だが、周永康の処分が発表される前後から香港紙で彼女が実は生きており、湖北省武漢の刑務所に服役中で、囚人たちに声楽指導をしているという情報が流れ始めた。報道によると、彼女は軍や党の幹部との愛人関係を通じて得た、中南海内の最高指導部の居宅や事務所の地図、軍事・経済情報を米国に渡していたという。彼女は米国に遊学中に、米国から工作員としての教育を受けたという話も伝えられている。 また最近、湯燦が周永康の秘書の一人・余剛(失脚し服役中)と同棲していたという情報も流れており、彼女のスパイ罪と周永康の国家機密漏洩がリンクする可能性もあるかもしれない。

在米亡命華人学者の何清漣氏が自分のブログでこんな指摘をしている。「少し前に中国が反スパイ法を発表し、すべての兆候からみると周永康が極めて重い刑を受ける可能性はあるだろう。類似事件ではこの10年以上の間、中共高官で外国への機密漏洩で死刑に処せられたのは劉連昆少将だけ。台湾に情報を漏らしたかどで1999年に死刑にされた。ほかに姫勝徳少将がアモイ遠華密輸事件で軍事情報を売って2000万以上の暴利を得たという事件では、検察側は収賄、汚職、公費横領罪など多数の罪名で起訴したが、軍事法廷一審では執行猶予付き死刑だった。姫勝徳の量刑はその父親が共産党元老の姫鵬飛であることを考慮し処置を軽減したものと思われる。周永康が、これまでの共産党の暗黙のルール“常務委員は罰せず”を考慮するかどうかによってその刑の重さが決まる」

恐怖政治の始まりか、権力闘争は続く

文革の終結とともに江青ら四人組が逮捕され1981年に裁判が行われたが、江青は死刑にはならなかった。この裁判について人民日報などは当時「法治国家到来の始まり」と評価している。とすれば、周永康に死刑判決が出るようなことがあれば、文革以前に戻るという言い方もできるかもしれない。“常務委員は罰せず”という最高権力者だけが優遇される暗黙のルールがなくなり法の平等が実現するというよりは、共産党体制内に、不満分子が増え、“死刑”という厳しい見せしめ無しでは、党の団結が守れない“恐怖政治”時代に入ってきたともいえないか。だが、実力を伴わない強権の発動は、内なる敵をさらに増やす可能性もある。周永康事件で江沢民氏の連座は免れたとしても、胡錦濤の大番頭と呼ばれた令計画・党中央統一戦線部長への包囲網はじりじりと狭まっているという話も聞く。反腐敗キャンペーンを建前にした権力闘争はまだ続くはずだ。こういう状況で、周永康事件は、中国法治の行方と共産党体制の盤石さを占う上でも重要な裁判になりそうだ。