『米国務長官解任の裏に元ロシア・スパイ殺人未遂 ティラーソン氏は直ちに英首相を支持、トランプ氏は事実関係解明を優先』(3/16日経ビジネスオンライン 高濱賛)について

3/15NHKニュース23:02「英米仏独4か国が緊急声明 元スパイ暗殺未遂でロシア非難

イギリスで起きたロシアの元スパイの男性と娘に対する暗殺未遂事件を受けて、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツの4か国の首脳は異例の共同声明を発表し、事件を強く非難したうえでロシアに対してすべての疑問に答えるよう求めました。

イギリス南部のソールズベリーで今月4日、ロシアの元スパイが娘とともに意識不明の状態で見つかり、メイ首相はロシア軍が開発した神経剤を使った暗殺未遂事件だとしてロシアの責任を主張し、イギリスに駐在するロシアの外交官23人を追放するなど厳しい措置を発表しました。 事件を受けて15日、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツの4か国の首脳は異例の共同声明を発表し、「軍事目的に利用される神経剤がヨーロッパで使用されたのは第2次世界大戦以来、初めてのことだ。化学兵器禁止条約にもいかなる国際法にも明らかに違反しており、われわれの安全を脅かすものだ」として事件を強く非難しました。 そして「事件の責任はロシアにある可能性が高いとするイギリスの見解を、われわれも共有する」として、ロシアに対して事件に関するすべての疑問に答えるよう求めています。 一方、メイ首相は15日、事件後初めてソールズベリーの事件現場を視察し、報道陣に対して「人々が楽しむはずの町でおきた大胆で卑劣な行為に対して、ロシアがとがめられるべきだと考えている」と述べ、改めてロシアを非難しました。

トランプ大統領「背後にロシア人」

アメリカのトランプ大統領は、この事件について15日、ホワイトハウスで記者団に「本当に悲しい状況だ。ロシア人が背後にいることは確かなようだ。二度と起きてはいけない。われわれは深刻に受け止めている」と述べ、ロシアに事件の責任があるとの見方を示しました。」(以上)

これに対しロシアが反論。3/16NHKニュース04:21「「動機は英国にあり」元スパイ暗殺未遂でロシア外相

イギリスでおきたロシアの元スパイの男性と娘に対する暗殺未遂事件についてロシアのラブロフ外相は、15日、事件を起こす動機はロシアにはなく、むしろその動機はEU=ヨーロッパ連合からの離脱交渉に対する国民の厳しい目をそらせたいイギリスにこそあると主張しました。

イギリス南部のソールズベリーで、今月4日、ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパル氏が娘とともに意識を失って倒れているのが見つかった事件で、メイ首相は、ロシア軍が開発した神経剤が使われたとしてロシアの責任を主張しています。 ラブロフ外相は15日に開いた会見で、「イギリスはロシアへの非難の言葉を並べ立てているが、その根拠を全く示していない」としたうえで「大統領選挙やサッカーのワールドカップが開かれる前になぜこんな問題を引き起こす必要があるのか。私たちには動機が一切ない」とロシアの関与を改めて否定しました。 一方、ラブロフ外相は、イギリスではEU=ヨーロッパ連合からの離脱交渉をめぐって政府に対して厳しい世論があるとしたうえで「ロシアに対するこうした挑戦的なやり方をとることで国民の目をそらすことができる」と述べ、イギリスにこそ事件を起こす動機があると主張しました。 そのうえでラブロフ外相は「われわれは対話に関してはオープンだ」と述べ、ロシアとイギリスも加盟している欧州評議会の犯罪捜査をめぐる協力協定などに基づいて、イギリスとともに真相解明にあたる用意があると強調しました。」(以上)

トランプも高濱氏記事にありますように事実解明優先の姿勢を見せていたのが一転ロシアの関与について言及しました。米国の報道を見てもトランプは3/13には「英国の証拠を見ればロシアがやったように見える。事実が明らかになれば、それに基づきロシアか他の誰かを非難することになる」と述べていたのに、3/15には「本件は裏にロシアがいるようだ」と明らかにトーンが変わりました。

3/13CNN“Trump: Russia likely poisoned ex-spy, ‘based on all the evidence’”

https://edition.cnn.com/2018/03/13/europe/trump-russia-spy-intl/index.html

3/15CNN“Trump: ‘It certainly looks like’ Russia was behind UK attack”

https://edition.cnn.com/2018/03/15/politics/donald-trump-russia-nerve-agent-attack/index.html

でも、3/15本ブログで書きましたように大統領選がある時を狙ってわざわざ暗殺未遂事件を起こすかどうかです。ラブロフの言うのも一理あります。英国が言う「ロシアの神経剤の管理が悪くて政府とは関係なく行われた」のかどうか。でも裏切り者の元スパイを暗殺しようとするのはどう考えてもスパイ組織でしょう。政府の関与がないというのは考えにくいです。後考えられるのはプーチンがKGBの言うことを聞かなくなったので、大統領選に影響を与えるためにやったというくらいですか。真相は藪の中です。

http://dwellerinkashiwa.net/?p=8512

3/16北野幸伯氏メルマガによれば現在のロシア大統領選の支持率は以下の通り。

「世論調査基金(FOM)、3月3~4日の調査によると、

1位 プーチン 64%

2位 ジリノフスキー 6.6%

3位 グルディニン 6.5%

4位 ソプチャク 1.2%

他の候補は、1%以下」とのこと。プーチン圧勝の構図は変わっていません。

高濱氏記事にある通り、テイラーソン国務長官解任、ポンペオ国務長官就任は間違いなく北朝鮮シフトでしょう。金正恩も「嫌な奴がなった」と思っているに違いありません。韓国が「米朝トップ会談」を持ち掛け、トランプはそれに即座に乗り、平和への努力を米国はしていることを見せつけました。ただ、北がすんなり会談に臨むかどうか。この人事を見て北から断ってくる可能性もあります。何せ韓国からの口頭伝達だけなので「そんなことは言った覚えはない」となるかも。

記事

トランプ大統領に解任され、記者会見に臨んだティラーソン国務長官(写真:AP/アフロ)

—ゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)議長が辞任*したのに次いで、レックス・ティラーソン国務長官が解任されました。理由は何ですか。なぜ今なのでしょう。

高濱:コーン議長とティラーソン国務長官が辞める、解任されるとの説は昨年後半から流れていました。ですからワシントンでは、大きな驚きを持って受け取められているわけではありません。ついに来たか、といった感じです。

 トランプ政権の閣僚の特徴を表わすのに「G3」という言葉が使われていました。大富豪(gazillionaire)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という3つのキーワードの頭文字を取って名づけられたものです。その一角が崩れ始めたのです。

 コーン氏はゴールドマン・サックス社長兼COO。ティラーソン氏はエクソンモービル会長兼CEO。どちらも広い意味では「G3」に属する財界の超大物でした。ドナルド・トランプ大統領は、経済と外交の要として二人を「三顧の礼」で迎え入れたのですが、両者とも就任14カ月でついに政権を去ることになりました。

*:コーン氏の後任には自由主義貿易を唱える、米テレビCNBC解説者のラリー・クドロー氏の名前が挙がっている。

 ティラーソン氏を国務長官に推薦したのは、ジョージ・W・ブッシュ政権の国務長官だったコンドリーザ・ライス氏と国防長官だったロバート・ゲイツ氏でした。いわば共和党保守本流。ティラーソン氏が、エクソンモービルのトップの経験を基に現実的な外交を展開すること、トランプ氏の暴走を防ぐブレーキ役となることを期待してのものでした。

 ティラーソン氏は期待通り、イラン核合意、ロシア問題、貿易、地球温暖化で現実的なアプローチを取りました。しかし、その分、トランプ大統領とはことごとく対立。ティラーソン氏は某政府高官に大統領のことを「どうしようもない愚か者」(F—-ing Moron)と悪口を言っていたそうです。トランプ氏もティラーソン氏が自分を小馬鹿にしているのを感じ取っていたのだと思います。

「英国に対する無謀な攻撃だ」と外交官23人追放

—そうした雰囲気の中で、ここにきて、外交理念の違いが決定的になってしまったわけですね。

高濱:その通りです。トランプ氏の「堪忍袋の緒」が切れたのです。直接の理由は、海の向こうの英国で起こった元ロシア・スパイ殺人未遂事件についての見解の相違です。同事件に対する大統領と国務長官の反応が違ってしまい、トランプ氏は烈火のごとく怒った。まさに、トランプ氏がテレビ番組「ジ・アプレンティス」に出演する際によく使っていた「You’re fired」(お前は首だ)です(笑)

英国の元ロシア・スパイ殺人未遂事件について、かいつまんで説明すると、こうです。

 さる3月4日、英南西部のソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66歳、英国に政治亡命していた)と娘さんのユリアさん(33歳)が何者かに神経剤を使って殺されそうになった未遂事件がありました。

 テリーザ・メイ英首相は同月12日、英下院で、ロシアが開発した軍用レベルの神経剤「ノビチョク剤」が使用されたことを明らかにしました。またこの事件に「かなりの確率でロシアがかかわっていた。これはスクリパリ氏への攻撃にとどまるものでなく、英国に対する無差別で無謀な攻撃であり、英国市民が危険にさらされた」と指摘しました。メイ氏は13日、同事件にかかわったとされるロシア人外交官23人を国外に追放しました。英国とロシアの関係は今後、緊張状態が続きそうです。

(”Russian spy: UK to expel 23 Russian diplomats,” BBC, 3/14/2018)

トランプ大統領はロシアに配慮した?

 これに対して、ティラーソン氏は直ちに「ロシアが関与していた可能性が高い」と述べて、メイ氏の見解を全面的に支持しました。

 ところがトランプ氏は、「事実関係が判明し次第、英国の見解を支持する。事実ならロシアを強く非難する」とコメント。ティラーソン氏とは異なる見解を示したのですね。英米の情報機関はまさに表裏一体。メイ氏が「ロシアの仕業だ」という前に、両国はその情報をすでに共有していたはずです。それなのになぜトランプ氏は英国支持を躊躇したのか。おそらくロシアの立場を慮ったでしょうね。

 13日早朝、トランプ氏はツィッターでティラーソン氏の解任を明らかにしました。ティラーソン氏が大統領から正式に解任を伝えられたのは、それから3時間以上経った昼過ぎだったようです。しかも一本の電話ででした。

 ホワイトハウス高官は13日、解任の理由について、①大統領と国務長官がイラン核合意をめぐって意見の食い違いがあったことや、②5月までに行われる見通しの米朝首脳会談、③今後の貿易交渉に新しい態勢でのぞむため、と説明しています。どことなく「後講釈」的な感じがします。

(”Why Did Trump Fire Tillerson Now?” David Frum, The Atlantic, 3/13/2018)

(”Rex Tillerson gets fired the day after he criticized Russia,” John Cassidy, The New Yorker, 3/13/2018)

後任のポンペイオ氏は大統領お気に入りの超タカ派

—ティラーソン氏の解任と同時に、スティーブ・ゴールドスタイン国務次官(公共外交・広報担当)も解任されましたね。

高濱:国務長官の解任についてホワイトハウスの説明と異なる声明を出したからだとされています。ゴールドスタイン氏は「長官は解任発表前に大統領と会話しておらず、解任理由を知らされていなかった。長官は解任を予期していなかった」と記者団に説明したのです。同氏はティラーソン氏の側近中の側近です。

 解任に当たってトランプ氏はティラーソン氏に労いの言葉さえかけなかった。まさに喧嘩別れといった感じですね。

ロシアゲートの捜査指揮官が次期国務長官に

—後任には共和党タカ派と言われるマイク・ポンぺオ米中央情報局(CIA)長官が指名されました。米国の外交政策、中でも対北朝鮮政策に影響が出るのでしょうか。

高濱:ポンぺオ氏はカリフォルニア州オレンジ郡出身の54歳。ウエストポイント(米陸軍士官学校)を出て陸軍に入隊し、湾岸戦争に参加しています。除隊後、ハーバード大学法科大学院を出たのち、ウエストポイントの時の同級生と飛行機装備品会社を設立。2010年に下院選に出馬するまで油田採掘機械メーカーの社長を務めていました。この会社は保守派億万長者のコーク兄弟がパートナーになっています。

 政治理念や外交政策全般においてトランプ氏と極めて近い考え方をしており、それだけにトランプ氏への影響力は大きいでしょう。下院では情報特別委員会やエネルギー商業委員会の委員でした。CIA長官として、トランプ氏の側近たちとロシア政府当局者との関係を調査する「対敵情報活動センター」を直接指揮していました。

 外交政策では、イラン核合意に真っ向から反対しています。ただし、ロシアのクリミア半島編入やウクライナ東部への侵攻にも批判的でした。

(”Trump ousts Tillerson, will replace him as secretary of state with CIA Chief Pompeo,” Ashley Parker, Washington Post, 3/13/2018

 北朝鮮問題についてポンぺオ氏はこれまで発言を控えてきています。ただし、米朝首脳会談について慎重だったティラーソン氏に比べると、トランプ氏の「大博打」を側面から支援することになるでしょう。

 ポンぺオ氏の起用について「トランプ大統領が外交政策を進める上で断行した“新品への買い替え”」と指摘する向きもあります。

(”Pompeo’s Promise at State,” The Editorial Board, Wall Street Journal,” 3/13/2018)

 ティラーソン氏はどちらかというと外交の素人。国務省の組織解体を指揮し、ベテラン外交官を何十人も辞めさせました。駐韓国大使をはじめとする大使は未だに空席のまま。人柄はよかったのですが、国務長官として及第点は付けられそうにありません。

 一方のポンぺオ氏は、トランプ氏と仲が良く、軍人、実業家、下院議員を経験したオールラウンドプレーヤーです。トランプ氏に何でも言える点を評価し、新国務長官に期待する向きも少なくありません。

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