『トランプ大統領に沁みついたバノン色は消えず 3将軍による「ラスプーチン退治」は成功したように見えるが…』(8/29日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『トランプの「鈍感力」は米国社会を分断し世界を混乱させる』(8/29ダイヤモンドオンライン 真壁昭夫)について

8/25ZAKZAK高橋洋一氏記事<やはり娘に逆らえなかったトランプ氏、政権“辞任ドミノ”の日本への影響は?>

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170825/soc1708250002-n1.html

8/27宮崎正弘氏メルマガ<トランプ政権、高官人事が進まないのは何故か?行政に支障がでても、構わないという態度の根本的理由>

http://melma.com/backnumber_45206_6574644/#calendar

8/24NHKニュースクリントン氏 来月出版の回顧録 トランプ大統領を「不快」

アメリカのクリントン元国務長官は、来月出版される大統領選挙の回顧録で、討論会でのトランプ大統領について「不快で身の毛がよだった」と振り返りました。

去年のアメリカ大統領選挙をめぐっては、共和党の候補者だったトランプ大統領に敗れた、民主党のクリントン元国務長官が書いた回顧録が、来月12日に出版されます。

アメリカのメディアが23日に伝えた回顧録の抜粋によりますと、クリントン氏は去年10月、トランプ氏がかつて「有名人になれば、女性は何でもしてくれる」などと、女性を見下すような発言をしていたことが報じられ、批判が高まっていた中で開催された討論会について、「小さなステージで私がどこに行ってもトランプ氏がぴったりとつきまとい、凝視してきて不快だった。首に息がかかり身の毛がよだった」と振り返りました。

そしてトランプ氏に対し、その場で「気味が悪い。私から離れなさい」と言うべきだったかどうか自問しているとして、後悔の念ものぞかせました。また、クリントン氏は、選挙で敗北したことについて「屈辱的だった。多くの人が私に期待してくれたががっかりさせてしまった。そのことを背負って残りの人生を生きなければならない」と記しています。

このほか、回顧録ではロシアが選挙に干渉したとされる疑惑などについても、言及していると見られています。>

トランプも敵が多くて大変です。偏向メデイアを相手する訳ですから、強力な力で撥ね返さないとやられてしまいます。米国は行き過ぎたPC(ポリテイカル・コレクトネス)のせいで社会がおかしくなってきています。それに歯止めをかけ、強いアメリカを取り戻そうというのがトランプです。

北との関係がきな臭くなっている今、ヒラリーでなくて本当に良かったと思っています。ヒラリー民主党であれば、裏で中国と手を握り、北を核保有国と認めた上で、平和条約を結んだかもしれません。日本にとっては近隣国にもう一つ核保有国ができるという悪夢が実現することになります。勿論、トランプも交渉の行方次第でどういう展開になっていくかは読めませんが。ただトランプの支持層は軍人と警察です。軍事行動を起こす時には、3将軍が上に居てスムースに動かせるのでは。ハリス太平洋軍司令官も中国に嫌われているくらいですから、非常に頼りになる軍人という事です。

バノンの辞任は仕方のないことでしょう。政権内部に余りに敵を作りすぎました。ただ、彼が考えている「北朝鮮は前座、本命は中国」の見方は正しいです。これが、政権内部で共有されてほしい。クシュナーが9月に訪中するときに、合法的な金の絡むプレゼントを貰わないようにしないと。ロシア問題で、上院にて非公開証言させられたりしているので、慎重に行動するとは思いますが。ただ、相手は中国ですから。いろいろと仕掛けて来るでしょう。

日経ビジネスオンライン記事

トランプ大統領を支えていた2人は袂を分かった。ホワイトハウスを去ったスティーブン・バノン氏(左)とトランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏(右) (写真:AP/アフロ)

—「ホワイトハウスのラスプーチン」と呼ばれていた保守強硬派のスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問がついにホワイトハウスを去りました。あれから2週間、ウエストウィング(大統領行政府)の空気は変わりましたか。

高濱:トランプ政権が発足して以降ずっと続いていたホワイトハウスの内紛は、バノン氏が去ったことで一応収まりました。しかしこれでトランプ大統領とバノン氏との絆が完全切れたかというと、そうとは言えません。

トランプ大統領にとってバノン氏は「アルタエゴ」(分身)であり、トランピズムの振付師でした。大統領補佐官(国家安全保障担当)を代えても、大統領首席補佐官を代えても、相手代われど、バノン氏との確執がつねに続いてきました。トランプ大統領としては、バノン氏を傍に置いておきたいのはやまやまでしたが、内紛を解消するため「泣いて馬謖を切る」といった感じです。

—バノン氏自身は「1年間の契約が切れたので辞めた」と発言しています。強がりにも聞こえますが、実のところはどうなのですか。

高濱:辞めたバノン氏は「われわれ(つまりトランプと自分)の闘いは終わった。勝ち取ったトランプ政権は終わった」と言っています。なんとなく意味深な発言ですね。

そのココロを、大統領選挙中からトランプ氏をフォローしてきた米テレビ局の記者が筆者にこう解説しています。「バノンが言いたかったのは、こういうことですよ。『俺とトランプとは、反エスタブリッシュメントを錦の御旗に苦しい選挙戦を勝ち抜き、政権を打ち建てた。ところが外様が次々に入ってきて、当時目指した理想の政権は様変わりしてしまった』」

トランプ大統領自身、バノン氏にこう感謝の辞を述べています。「バノン君は、不正直なヒラリー・クリントン(民主党大統領候補)と私が闘っている真っただ中でわが陣営に参加してくれた。有難かった」

ヒラリー優勢の状況において、戦略を立て、実施に移し、形勢を逆転させたのは軍師であるバノン氏でした。バノン氏はいわば、豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛です。

トランプ氏が大統領に就任した後、バノン氏は首席戦略官・上級顧問としてトランプ大統領がやりたかった環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、地球温暖化防止の「パリ協定」脱退などを実現させました。しかし、その強烈な個性と妥協を許さぬ「野蛮人バノン」(Barbarian Bannonとホワイトハウス内では呼ばれた)は他の側近と衝突し続けました。

バノン氏を「解任」するようトランプ大統領に助言したのはジョン・ケリー大統領首席補佐官です。ケリー首席補佐官がホワイトハウス入りしたことでバノン氏も少しはおとなしくなるかと思いきや、内紛は収まらず。

側近の間のいがみ合い、対立を解消するには、どうしてもバノン氏に辞めてもらうしかないというケリー補佐官に加勢したのは、ジャレッド・クシュナー氏とH・R・マクマスター氏でした。クシュナー氏はトランプ大統領の娘婿。マクマスター氏は大統領補佐官(国家安全保障担当)です。いずれも、以前からバノン氏と対立していました。

特に、穏健派とされるクシュナー氏とバノン氏は、イスラム圏6カ国からの渡航者の米入国一時禁止やメキシコ国境への壁建設で激しく対立してきました。一方、マクマスター氏とバノン氏はアフガニスタン増派をめぐって真っ向から対立しました。政策上の対立以上にどちらがトランプ大統領に影響力を与えるか、その確執の方が大きかったかもしれません。

バノン氏は辞めた直後、クシュナー氏らを「ホワイトハウスに住み着く民主党系グローバリスト」とまで言って悪意をむき出しにしました。

アフガンへの関与継続では将軍たちの主張が通る

—バノン氏が去ったあと、実際の政策に変化が出てきましたか。

高濱:顕著な変化は外交面で出始めています。

一つはジョージ・W・ブッシュ政権時代から続く「米史上最長の戦争」――アフガニスタン――への関与継続を認めたことです。具体的には4000人規模の部隊を増員します。これで、駐留する部隊の規模は8400人に引き上げられました。

トランプ大統領は選挙中から、オバマ政権がアフガニスタンに関与し続けるのを激しく批判してきました。そして即時完全撤収を公約に掲げた。その基本にあるのは「米国第一主義」です。「外国のために米兵を送り、血を流すのはもうまっぴらだ」。バノン氏の助言でした。

トランプ大統領がこれを覆して増派を決めたのは、3人の将軍から強い進言があったからでした。アフガニスタンを管轄する中央軍司令官を務めたジェームズ・マティス国防長官、H・R・マクマスター補佐官、それにジョン・ケリー首席補佐官はこう大統領に訴えました。「今、撤退すれば、テロリストに再び安住の地を与える。撤退する前提としてテロリストを徹底的に根絶する必要がある

ケリー補佐官の長男は海兵隊に志願入隊し、アフガニスタンで戦死しています。愛する息子を失った補佐官の発言には重みがありました。 (”With Steve Bannon out of the White House the military is now firmly in charge of Afghan policy,” Kim Sengupta, The Independent, 8/22/2017)

金正恩に「オリーブの枝」を振って見せたトランプ

今一つは北朝鮮に対する対応です。北朝鮮の核・ミサイル問題でトランプ政権は経済制裁を通じた締め付けを強化する一方で、北朝鮮の対応をある程度評価する姿勢を見せました。

トランプ大統領は8月22日、金正恩朝鮮労働党委員長が弾道ミサイルの新たな発射計画について「米国の行動をもう少し見守る」と言い出したことを受けて、「金正恩はわれわれに敬意を払い始めた」とコメントしたのです。今まで「目には目を、歯には歯を」的発言を繰り返してきたトランプ大統領の変身だけにみな「なにか水面下で動いているのか」と勘繰りました。

北朝鮮に対話を促すような発言をするようトランプ大統領を説得したのも前述の3将軍とレックス・ティラーソン国務長官だったとされています。ティラーソン国務長官はおそらく、「強硬発言ばかりではなく、たまにはオリーブの枝でも振ってみたらいかがでしょうか、大統領閣下」とトランプ大統領に助言したのでしょう。

北朝鮮は「先軍節」の翌日の8月25日、短距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射しました。グアム沖に発射すると言っていた計画は現時点では控えています。「通常の軍事演習」(韓国政府高官)と米韓は見ているようです。北朝鮮に対しても強硬なバノン氏がホワイトハウスを去って4日後のことでした。バノン氏は「それ見たことか」をうそぶいているかどうか。

バノン氏はもともと中国嫌いです。中国の海洋進出を阻止するには軍事衝突も辞さぬと公言してきました。ですから、北朝鮮に自制をうながすべく中国に「おもねる」ことに猛反発していました。

ホワイトハウス中枢にまだ「バノンのブレーン」

—トランプ大統領に対するバノン氏の影響力は完全に消滅したのでしょうか。

高濱:米英メディアは総じて、「バノン氏の影響力は何らかの形で続くだろう」といったニュアンスで報じています。

その理由について、英高級誌「エコノミスト」が極めて明快に指摘しています。米政治の節目で、米メディアよりも岡目八目的、冷静沈着に報道するのは英メディアです。中でもエコノミストは米インテリ層に一定の影響力を持っています。

バノン氏が、辞めた直後に単独インタビューに応じたのは、保守系知識層向けの「イブニング・スタンダード」とエコノミストだけでした。特にバノン氏はエコノミストの記者を私邸に招いて長時間のインタビューに応じています。 (”The future of Bannonism,” The Economist, 8/25/2017)

エコノミストは「バノンは去っても『バノニズム』(Bannonism=バノン思想)はトランプ・ホワイトハウスに付着したままになるだろう」と指摘し、その理由を3つ挙げています。

一つは、バノン氏が首席戦略官としてホワイトハウス入りした時に連れてきた同僚がその後もホワイトハウスの中枢に残っているからです。

もっともその一人、英国生まれのハンガリー系アメリカ人のセバスチャン・ゴルカ大統領副補佐官は8月25日に辞任しました 。でも、もう一人のステファン・ミラー大統領補佐官兼上級顧問(政策担当)は依然として残っています。

ミラー氏大統領補佐官兼上級顧問は、トランプ大統領の首席スピーチライターでもあります。トランプ大統領の就任演説の草稿を書いたのは同氏でした。バノン氏が最も買っている保守派の若手イデオローグ(あるイデオロギーの創始者・唱導者)です。ホワイトハウス入りする前にはジェフ・セッションズ上院議員(現司法長官)の広報担当補佐官でした。イスラム圏諸国からの渡航者の一時入国禁止案をトランプ大統領に強く進言したのはミラー氏と言われています。

バノン、ゴルカ両氏が辞めても、政策担当上級顧問・補佐官と首席スピーチライターという重要な仕事を、バノン氏の「ブレーン」であるミラー氏に引き続き任せているわけです。バノン氏の考えはミラー氏を通じて逐一、トランプ大統領の耳に入ることになりそうです。

「シャーロッツビル騒乱後の「喧嘩両成敗」発言

第2の理由は、バノン氏が掲げてきた「反エリート主義、反イスラム主義、白人至上主義」の思想・信念はトランプ大統領の体内に浸透しきっているというもの。「分身」は、物理的にはいなくなっても精神的にはトランプ大統領の中で生き続けているというのですね。

米バージニア州シャーロッツビルで8月12日に騒乱が起こった直後、トランプ大統領は「喧嘩両成敗」的な発言をしました。そこに「バノンの体臭を感じる」というわけです。

トランプ大統領は8月25日、米アリゾナ州マリコパ郡の元保安官を恩赦にしました。人種差別主義者として批判されている人物です。主要メディアは白人至上主義を擁護するトランプ大統領のスタンスが一段と浮かび上がったと批判しています。

第3は、バノン氏が超保守派アルト・ライトの機関誌的存在「ブライトバート・ニュース」に戻ったことです。

バノン氏は前述のインタビューでこう語っています。「私はホワイハウスでは影響力(influence)を持っていた。ブライトバートでは権力(power)を持つ」

「私はイデオローグだ。だからホワイトハウスを追い出された。だが私は(トランプ大統領のための)支持母体を結集できる。私はトランプ大統領の後ろ盾だ。トランプ大統領が激しく攻撃されればされるほど、私と私の同僚たちはトランプ大統領をより強固に守る」

バノンが目論む「米メディア大革命」構想

—バノン氏は古巣「ブライトバート・ニュース」(*注)で何をしようとしているのですか。

*注:「オルト・ライト」のアンドリュー・ブライトバート氏(2012年逝去)が2007年に設立したオンラインメディア。ブライトバート氏の死後、バノン氏が会長兼務主筆を務めていた。16年の米大統領選では、トランプ陣営の別動隊の役割を演じた。

高濱:短期的には、バノン氏を追い出して主導権を握った「将軍トリオ」とこれを支持した穏健派ビジネスエリートに対する「報復」でしょう。穏健派ビジネスエリートにはクシュナー氏やティラーソン国務長官などが含まれています。

報復と言っても無論、物理的な行為ではありません。トランプ政権のよって立つ保守主義路線を彼らが修正するようなことがあれば、メディアを通じて徹底的に叩くことを意味します。返す刀で、医療保険制度改革(オバマケア)見直しや税制改革をめぐって党内をまとめきれずにいる共和党議会指導部も批判するでしょう。来年の中間選挙を見据えて、トランプ政権に批判的な議員の再選を阻むために個人攻撃も辞さないでしょう。

バノン氏は中期的目標として、ブライトバートをさらに拡大強化して世界規模のメディアにしようと考えているようです。バノン氏には、ボブ・マーサー氏というヘッジファンドで財を成した億万長者の支援者がおり、これまでもブライトバートに1000万ドル単位の資金を提供しています。バノン氏は辞める2日前にマーサー氏と数時間会談しています。バノン氏がこれから手を染めるプロジェクトへの資金面での支援について要請したことは間違いないでしょう。

その一方で、主要メディアに対抗する保守メディアの結集ももくろんでいるといわれています。ブライトバートが保守系テレビ局FOXニュースを吸収合併し、巨大な保守系テレビ媒体を形成する構想があるようです。FOXニュースのロジャー・エイルズ前会長(今年5月に逝去)と合併話をしていたといわれています。 (”Bannon plots Fox competitor, global expansion,” Jonathan Swan, www.axios.com., 8/19/2017)

リベラル派から「もっとも危険な政治仕掛け人」と恐れられたバノン氏がこれから何をし始めるのか、目が離せません。

ダイヤモンドオンライン記事

米国内政治の不透明感は一段と高まった

トランプ大統領は、バージニア州シャーロッツビルにおける白人至上主義団体と反対派の衝突について、「反対派にも責任がある」との見解を示した。その発言を受けて、政権内部をはじめ、さまざまな分野からの反発が出ている。

元々、米国は“人種のるつぼ”と言われ、多民族が共存する国家だ。その社会環境を考えると、人種差別は一種のタブーと言ってもよいだろう。今回、トランプ大統領は、そうした米国社会が持つ微妙な部分に抵触したともいえる。

それでなくてもトランプ大統領は、ロシアとの癒着疑惑や共和党との関係悪化などの問題を抱えている。米国内政治の先行きに関する不透明感は一段と高まったといえる。賭け屋のオッズ(掛け率)によると、2018年末までトランプ氏が大統領職に居続ける確率は60%程度まで低下しているという。

大手ヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏などの市場関係者からも、米国社会の亀裂が深まり政治は一段と混乱しやすくなったとの見方が示されている。ここへ来て、トランプ大統領を巡る風向きが微妙に変化しているのかもしれない。

トランプ政権への求心力低下につながる恐れ

米国の社会は多様な価値観を受け入れ、人々のアメリカンドリームを追い求めるアニマルスピリットを掻き立てることで成長を遂げてきた。

その意味では、多様性は米国社会のエネルギーの源泉の一つと言えるだろう。ITをはじめ、企業の経営者の顔ぶれを見てもその属性はさまざまだ。それゆえ、もともと米国では政治家などが差別を容認する姿勢を示すことは、社会的な禁忌(タブー)とされてきた。

今回のトランプ氏の発言の背景には、白人労働者など支持層への意識があったのだろう。しかし、差別を容認するようなスタンスは、米国社会の分裂につながる恐れがある。

ブッシュ(息子)政権以降、米国では一つの考え方に固執する一種の原理的な傾向が見られるように思う。前オバマ政権においては、かなり保守的な考え方を持つティーパーティー派の共和党議員の存在が鮮明化していた。

ティーパーティー派は当時の予算成立に反対し、米国の政府機関の一時閉鎖につながった。こうした動きを受けて、今回のトランプ大統領の差別容認姿勢は、米国社会の分断に拍車をかけることも懸念される。

今回、トランプ大統領の発言を受けて、複数の大手企業の経営者が大統領の助言組織の委員を辞任した。米国の経済界が、トランプ大統領への不信感を募らせていることは明らかだ。

政策の先行きに関する不透明感も高まる中、企業の採用や設備投資への意欲低下の懸念もある。金融市場がそうした変化を感じ取ると、株式市場を中心にリスク回避的な雰囲気が広がり、ドルが軟調に推移する展開は排除できない。

今回の件を受けて、トランプ陣営に残ったのは、事実上、家族と軍関係者、大手投資銀行ゴールドマン・サックスOBが主流になった。その中でも大統領が頼れる存在は娘のイバンカとその夫クシュナーの両氏であり、ますますインサイダー=内部者への依存が強まったとの揶揄もある。

トランプ政権の政権運営能力と今後の政権動向

トランプ大統領の政権運営能力を評価すると、歴代政権の中でも政策立案の遅れと利害対立が浮き彫りになってきた。今後もトランプ政権の政策運営は厳しい状況に直面することが予想される。ポイントは4つに分けられるだろう。

まず、政治任命=ポリティカルアポインティーが遅れている。トランプ政権下、上院の承認が必要な各省庁の幹部数は500を超える。8月上旬の時点で、承認されたポストは120程度だ。

歴代の政権の政治任命は、政権発足後の100日を過ぎたあたりから加速してきたが、現政権の任命は遅れに遅れているのが現状だ。この背景にはトランプ政権への不信感があるために、適切な候補者が見つからないことなどが影響している。

2点目は政権内部の対立の深刻化だ。問題は、それが今後も続くと考えられることだ。最終的にトランプ氏が信用できるのは家族だけと指摘する専門家は多い。軍関係者等との関係悪化や白人至上主義への傾倒が懸念されたバノン氏の更迭が、政権安定につながるとは考えづらい。トランプ大統領が”聞く耳”を持つとも考えづらい。側近同士だけでなく、大統領と側近の関係悪化も懸念され、ホワイトハウスの混乱が続く恐れがある。

3点目は、議会と大統領の関係悪化だ。現在、上下院では共和党が過半数を超える議席を確保している。にもかかわらず、トランプ大統領が改革の最優先課題として進めたオバマケアの代替法案は上院で否決された。

その上、トランプ大統領が南北戦争時代の南軍指導者の像を撤去することに反対したことを受けて、共和党内部からの非難は追加的に高まっている。トランプ氏は孤立し、議会との関係は一段とこじれることが懸念される。

4点目は、トランプ政権が掲げる経済対策の成立がより困難になったことだ。政権内部の混乱や議会との関係悪化から、税制改革が早期に成立し減税が行われる可能性は遠のいた。現在、米国経済の回復のモメンタム=勢いは徐々に弱まりつつあるとの見方も増えている。ポリティカルアポインティーが遅れ、政府の実務対応力が十分ではない中、景気減速のリスクは高まりやすくなる。それは、米国のみならず、わが国を始め世界経済にも-の影響を及ぼす可能性がある。

今後の米政権を巡るシナリオ注目すべきはトランプ大統領の鈍感力

北朝鮮問題に関する緊張感の高まりなどを受けて、多くの同盟国のトランプ大統領への信頼・信用はかなり低下したはずだ。それだけでなく、各国の産業界の中にも「トランプ氏には早い段階で辞めてほしい」との本音があるだろう。

もともとユダヤ系が多いウォールストリートでもゴールドマン・サックスを筆頭にトランプ批判が熾烈化している。トランプ氏がビジネスと国家間の交渉を明確に区別できていないことを考えると、そうした批判の声が高まるのはむしろ当然かもしれない。

ただ、トランプ氏が大統領の職を失うシナリオはそう簡単ではない。支持率の低さが指摘されて久しいが、同氏は低支持率をさほど気にしてはいないようだ。言い換えれば、鈍感だ。自らの発言が正しいと信じで疑わずに米国第一を主張し続け、大衆迎合的な政治の色合いが強くなる可能性がある。

そうなった時、共和党員がトランプ離れを起こすか否かが注目される。2018年11月には中間選挙がある。トランプ政権への危機感が共和党全体で共有されれば、トランプ離れが進むだろう。その結果、同氏は一段と“裸の王様”になるはずだ。米国民がこの状況を本当の意味で嫌い避けようとするなら、支持率低下から政権運営が困難となり、辞任に追い込まれる可能性は全くないわけではない。

最悪のシナリオは、支持率が低下する中で現在の政権が続くことだ。トランプ氏の当選は、米国第一の政治への期待が強いことを確認する機会となった。それゆえ、共和党の議員にとって、トランプ氏への批判を強めることは有権者からの反感につながる恐れがある。今のところ、共和党全体が大統領に“NO”を示す展開は考えづらい。

最も注目すべきはトランプ氏が持つ一種の鈍感力だ。同氏は、これまで何があっても、自分の責任というスタンスを取ったことがない。ということは、今後も同氏は、これまでと同じ行動を取り続ける可能性が高い。

トランプ政権が続く場合、米国に対抗して各国が自国中心の政策を重視し、世界的にポピュリズム的な政治が進む恐れもある。それは、国際社会の秩序を大きく混乱させる懸念がある。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

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『ロシアから見た北朝鮮の核』(日経ビジネス2017年8月28日号 FT)、『朝鮮半島危機は台湾海峡に連動するか?微妙なバランスを保つ米中の政策、役割を問われる日本』(8/28JBプレス 阿部純一)、『強すぎる米国が作り出してしまった“ウイルス” 厄介な「怯える北朝鮮の核ミサイル開発」退治:日本の責任重大に』(8/28JBプレス 樋口譲次)について

8/29早朝に北はまたミサイルを飛ばしました。下記のワシントンポストの記事によれば、「Hwasong-12=火星12」(朝鮮語は中国語に似ています。中国語で火星はhuoxingですから)タイプのミサイルであれば3000マイル=4827Kmは飛ぶとのこと。ミサイルの方向を変えればグアムにまで届くとも。グアムまでの距離は3400キロと言われていますので。ただ、ロイターによれば今回のミサイルの飛行距離は2700Kmとありました。北朝鮮は米国を怒らせない程度に逆らっているというところでしょう。

<North Korean missile flies over Japan, escalating tensions and prompting an angry response from Tokyo >

https://www.washingtonpost.com/world/north-korean-missile-flies-over-japan-escalating-tensions-and-prompting-an-angry-response-from-tokyo/2017/08/28/e1975804-8c37-11e7-9c53-6a169beb0953_story.html?tid=ss_fb&utm_term=.7416f1948be0

https://jp.reuters.com/article/nk-missile-idJPKCN1B82EZ

FT記事にありますように、北の核保有を認めることが最善の策か疑問です。特に日本にとっては。小生は米軍がB61-11や”mother of all bombs”を使い、北の兵力を無力化してほしいと願っています。北の核保有を認めると、

①日本は中露北と核保有国に挟まれ、彼らの属国とされる可能性が高くなる。

②北に核保有を認めるのであれば、日本の核保有も認めさせるようにしなければ。樋口氏の言う「非核三原則」は当然撤廃。少なくとも米国とニュークリアシエアリングしながら「核保有」への道を探る。

③北と米国との交渉を中国はじっと見ている。北のような弱小国を武力行使して潰せないのであれば、中国相手に潰せる訳はないと彼らは思う。バノンの言ったように「北は前座」であり、「本命は中国」である。もしそうなれば、太平洋二分割で日本は中国の属国になりかねない。勿論、中国の野望は太平洋の二分割で収まる訳はなくて、世界制覇にある。

④樋口氏の言う「日本列島電子戦バリアー構想」、イージス・アショア(イージス艦MDシステムの地上配備型)や電子戦・サイバー攻撃、電磁砲・電磁波弾、さらにはレーザやレールガンの配備も早急に進めねば。予算措置が大事。早くGDPの2%の10兆円にしなければ。

⑤阿部氏の言う台湾放棄論は地政学上あり得ないのでは。米国と中国の経済的・軍事的な力が逆転すれば分からないが。それ故、中国へも早く経済制裁を課すべき。南シナ海で明らかな国際法違反を犯しているので。ロシア同様の扱いとすべき。

日経ビジネス記事

北朝鮮の核・ミサイル開発を巡って、米国と中国が駆け引きを激化させている。こうした中、もう一つの大国であるロシアの行動が重要性を増す。ロシア人研究者らは、北朝鮮の核開発に理解を示す。「核保有国として認めることが現実解」との見解も浮上する。

北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長は8月、イランのハッサン・ロウハニ大統領の2期目の就任式に出席した。注目されるのは、はるかに便利な北京経由便ではなく、モスクワ経由便を利用してイラン入りしたことだ。

極東ロシア・ウラジオストクに入港する万景峰号。ロシアは北朝鮮への融和姿勢を取っている。今春から初めて、客船の定期便を運航させ始めた(写真=ロイター/アフロ)

観測筋によれば、金氏がモスクワ経由便を選んだのは、以下の2つのことを象徴している。一つは、同盟関係にある中国との関係が核開発を巡って冷え込んでいること。もう一つは、北朝鮮が、長く友好関係にあるロシアとの関係を一層強化しつつあることだ。

北朝鮮が意識をロシアに向け始めた変化は、急速に進む北朝鮮の核・ミサイル開発を抑制する策を探る米国の外交官にとって突破口となる可能性がある。

ロシアの力を測る米国

「北朝鮮は中国に怒りを感じている。中国との間にある政治的パイプの多くが凍結されたり極端に狭められたりしている」。在北朝鮮ロシア大使を務めた経験を持つワレリー・スヒニン氏はこう指摘する。同氏はロシア関係者の中でも北朝鮮問題に最も詳しい人物の一人だ。

北朝鮮政府関係者は過去1年の間にロシアをたびたび訪問し、モスクワで開かれた式典にも何度か出席した。西側諸国の観測筋によれば、北朝鮮内で同国の政府関係者がロシア人外交官と接触した回数は、中国人外交官と接触した回数より多いという。

トランプ政権は中国の姿勢にいら立ちを感じている。8月5日に国際連合が採択した新たな北朝鮮制裁を支持したものの、その経済的な影響力──北朝鮮の総貿易高の9割を対中貿易が占める──を駆使して金正恩委員長に圧力をかけようとしないからだ。

ロシアとの関係が悪化しているにもかかわらず米国は、ロシアが北朝鮮に揺さぶりをかけることに期待を寄せ始めている。

西側のある外交官は「米国は、ロシアが北朝鮮と接触し影響力を行使するかどうかを見極めようとしている」と語る。同外交官によれば「3月から4月にかけて(レックス)ティラーソン米国務長官は、中国が北朝鮮と接触し、影響力を発揮するかどうかを確かめようとしていた。今は同じことをロシアに対してしている」

ティラーソン氏は8月、中国とロシアについて同時に言及し、どちらも北朝鮮と「極めて太い対話のチャンネルを持っている」と述べた。

同氏は「両国は北朝鮮に対する影響力を行使できる」との考えを示したうえで、「その影響力をもって、北朝鮮を対話の場に引き出すことができると期待している」と語った。

2017年4月の軍事パレードに登場した「火星12号」とみられるミサイル。北朝鮮はこの型のミサイルを米グアム近海に撃つ準備をしていると警告した(写真=AP/アフロ)

数カ月にわたって米朝の緊張が高まる中、ロシアは、中立の立場にあることを示そうとしてきた。米朝が非難の応酬をエスカレートさせることの危険性を双方に対して警告している。加えて、北朝鮮が核とミサイルの実験を、米国が米韓合同軍事演習を同時に停止し、対話による解決の道を探るよう、中国とともに働きかけている。

前出の西側外交官は「米国は2つのことを見守っている。まずは北朝鮮がポジティブな反応を示すかどうか。そして、北朝鮮が強硬姿勢を崩さない場合に、同国を交渉のテーブルに着かせる上でロシアがどの程度の影響力を有しているかだ」との認識を示した。

制裁決議支持で影響力が低下

対北朝鮮制裁決議を議論する安保理を前に話をする、ロシアのウラジーミル・サフロンコフ国連次席大使(左)と米国のニッキー・ヘイリー国連大使(写真=Pacific Press/Getty Images)

危機を回避するためにロシアは重要な役割を果たすことができる──との米国の期待を、ロシアは冷ややかに受け止めている。

ロシアの専門家らは慎重だ。先の国連安全保障理事会で、北朝鮮を対象とする新たな制裁決議を支持したため、北朝鮮に対してロシアが辛うじて保持していた影響力も弱まってしまったと考えている。この決議には中国も賛成した。

かつて、ロシアと北朝鮮は同盟関係にあった。しかし2000年、両国はソ朝友好協力相互援助条約に代えて、ロ朝友好善隣協力条約に調印した。ソ朝友好協力相互援助条約には、北朝鮮が第三国から武力攻撃を受けた場合にロシアが支援するという条項が含まれていた。ロ朝友好善隣協力条約はそうした条項を盛り込んでいない。

スヒニン氏は「このため、北朝鮮はもうとっくにロシアに期待などしなくなっている。とはいえ、北朝鮮は少なくとも我々(編集部注:ロシア)を非難したり、我々を怒りの応酬に巻き込んだりはしないだろう。だが北朝鮮は直近の声明で、米国に屈し米国を支持したとしてロシアを初めて名指しで非難した」と指摘する。

スヒニン氏はこう続ける。国連の制裁決議を支持したことに対し、ドナルド・トランプ米大統領が中国とロシアに公式に謝意を表明したことが、とりわけ事態を悪化させた。「こうした状態が続けば、北朝鮮はロシアとも距離を置くだろう。そして孤立感を深め、揚げ句の果てに核開発計画を一層推進することになる」

恐らく最も重要なことは、北朝鮮の核開発計画を巡る行き詰まりについて、ロシアは米国と全く異なる評価を下していることだ。「ロシア政府は、こうした危機の責任は依然として米国にあると見なしている」。カーネギー・モスクワ・センターでアジア問題を研究するアレクサンドル・ガブエフ氏はこう捉える。

ロシア政府の担当者らは、北朝鮮が核兵器の開発に執念を燃やすのは、孤立した弱小国がより強力な敵から自国を守るための試みとして理解できると見ているのだ。

ロシアは北朝鮮が核保有国であると公式には認めていない。したがって国連による対北朝鮮制裁を支持している。しかしながらロシアの外交関係者やアナリストのほとんどは、この危機を緩和する唯一の現実的な選択肢は、北朝鮮をインドやパキスタンと同様に位置づけたうえで交渉に臨むことだと主張する。公式には認めないものの、事実上の核保有国として扱うわけだ。この際、北朝鮮に武装解除を求めないことも条件となる。

ソウルにある韓国国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は危機解決に向けた選択肢を探る論評の中で、こう論じた。「米国をはじめとする関係国は、北朝鮮に核を放棄させるという実現不能で達成し得ない目標を追い求めるよりも、不快ではあっても現実に達成可能な目標に静かに転換すべきだ。すなわち、北朝鮮に小規模の安定した核兵器の保有を認めるという目標だ」

スヒニン氏は「北朝鮮の目標は、インドやパキスタン、イスラエルと同様に今や核兵器を保有している事実を、たとえ非公式であっても、すべての人々に受け入れさせることにある。彼らはそうした状態を達成したいと思っている」と分析する。

「北朝鮮がロシアや中国に脅しをかけるとは思えないが、このプロセスがさらに広がらないようにすることが重要だ。核がこれ以上拡散しないよう保証する必要がある」(同氏)

Kathrin Hille and Katrina Manson ©Financial Times, Ltd. 2017 Aug.17

阿部記事

パナマは台湾との外交関係を断絶し、「一つの中国」原則を受け入れて中国と外交関係を樹立した。共同記者会見で握手するパナマのイサベル・サインマロ副大統領兼外相(左)と中国の王毅外相(2017年6月13日撮影)。(c)AFP/GREG BAKER〔AFPBB News

北朝鮮によるICBM開発の進展で緊張が高まる朝鮮半島をめぐって、米朝の駆け引きに関心が集まっている。はたして、北朝鮮によるグアム島近海へのミサイル発射があるのか、そうした場合、トランプ米政権は何らかの軍事的対抗手段を採りうるのか。事と次第では日本にも北朝鮮からミサイルが飛んでくる可能性さえある中で、予断を許さない状況が続いている。

しかし、それが東アジアのもう1つのフラッシュポイント(引火点)である台湾海峡に与える影響についてはあまり議論されていないようだ。

今も変わらない米中の構造的な対立要因

1950年6月25日に朝鮮戦争が勃発すると、トルーマン政権下の米国は即座に参戦を決定するとともに、台湾海峡に第7艦隊の艦船を差し向けて海峡の「中立化」を図った。建国間もない中国が朝鮮戦争勃発をチャンスと見て台湾に武力侵攻し「中国革命」を完遂すること、また、逆に台湾に逃れた国民党政府が大陸反攻に打って出ることを抑制するための措置である。それは、東アジアで同時に2つの武力紛争に関わりたくない米国にとって合理的な措置でもあった。

言うまでもなく現在の状況は当時とは大きく異なる。最も大きく異なる点は、米国と中国とが経済的に深い関係にあり、おいそれと対立を先鋭化させるわけにはいかないことである。

朝鮮半島における米中の利害が対立したにせよ、朝鮮半島危機がそのまま台湾海峡危機に連動する要素は直接的にはないと言っていいだろう。

しかしながら、当時も今も変わらない構造的な対立要因を抱えていることは指摘しておかなくてはならない。すなわち、まず共通項として、南北朝鮮、中台という「分断国家」の「統一」問題が絡むことと、そして、そこにおいて米中関係が決定的役割を担っていることである。朝鮮戦争が事実上の米中戦争であったように、台湾海峡危機も事実上の米中対峙の構図で理解できる。

朝鮮半島においては、中国側にとって米軍の撤退による「中立化」の下での統一が望ましい。韓国に米軍が配置されている現状が続く限り、バッファー(緩衝)としての北朝鮮の存続が必要となる。たとえ北朝鮮が中国のコントロールの効かない核とミサイルを開発・保有しても、その状況は変わらない。

台湾について言えば、中国は常に台湾を併呑し「統一中国」を完成させたいというモチベーションがある。その統一スキームは香港返還で適用された「一国二制度」である。だが、民主主義体制下にあり住民が指導者を選出できる台湾で、それが受け入れられる余地はないと言ってもよいだろう。中国の平和的手段による「統一」政策が奏功せず 台湾が将来的な「統一」を拒絶した場合には、中国は武力行使も辞さないとしている。

その一方で米国にとっては、朝鮮半島ではいまだ朝鮮戦争は終結しておらず、「休戦協定」によって現状が維持されている状況である。米国は韓国との相互防衛条約によって北朝鮮の軍事的脅威に対抗するための兵力を配置してきた。北朝鮮の核保有と米国本土に届くICBMの配備は、北東アジアの緊張を高めるばかりか、米国本土の安全をも脅かすことになるため容認できない。米国の目標は、北朝鮮の核・ミサイル開発の「凍結」、さらには「放棄」による朝鮮半島の非核化である。だが、それを北朝鮮に受け入れさせるのはもはや見込めない状況となっている。

また、米国の台湾に対する立場は、1979年の「台湾関係法」によって規定されている。つまり、正式な国交はないものの、台湾の安全が脅かされる事態を米国は座視せず、台湾の防衛に必要な武器を供与するとしている。米国はいわゆる「一つの中国」政策を採っているが、中国が言う「台湾は中国の不可分の領土である」という主張を受け入れているわけではなく、中国(中華人民共和国)の主権が台湾には及んでいないという認識から、上記の「台湾関係法」を維持してきた。

微妙なバランスを保つ米中の政策

こうした米中の朝鮮半島と台湾に関する政策の違いは、微妙なバランスによって安定が保たれていると言ってよいだろう。

皮肉なことに、南北朝鮮も中台も、「和解」によって「統一」が実現するような事態になれば、在韓米軍は撤退することになり、「台湾関係法」は無効化する。米国の韓国、台湾への安全保障コミットメントは、南北朝鮮の軍事的対立の継続、台湾における一貫した「中国との一体化への忌避」によって支えられているのである。

この微妙なバランスを朝鮮半島に当てはめてみよう。もし米国が、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を除去することについて外交的にも軍事的にも有効な手を打てないままでいた場合、北朝鮮を「核保有国」として認めたうえで「米朝平和協定」を結んで「敵対関係」を解消し、国交を樹立することによって「北朝鮮の脅威」を解決するべきだという議論が出てくるだろう。北朝鮮が脅威でなくなれば、在韓米軍を維持する必要もなくなるから撤退が現実のものとなる。期せずして中国が望む「米軍がいない朝鮮半島」が実現することになる。

台湾の場合はどうか。2008年から2016年まで8年間続いた馬英九政権のもとで、中台関係は大きく改善を見せた。中台がともに「一つの中国」を共通認識として共有する(「92共識」)合意がその背景にあった。中台FTAであるECFA(「経済協力枠組み協定」)が締結されて中台の経済関係が進展する中で台湾の中国への依存度が拡大し、また中台直航便の開設とその拡大が両岸の人的往来を飛躍的に高めることになった。

その結果、米国内で台頭してきた議論が「台湾放棄論」であった。中台の事実上の「一体化」が進み、中台間での武力衝突の可能性が低下するなかで、もはや米国による台湾への防衛コミットメントは必要なくなったという認識がその背景にあった。

しかし、台湾内部では、逆に台湾人としての自己認識、すなわち「台湾人アイデンティティー」が高まっていった。中台が「経済的には接近したが、心理的には遠ざかる」状況下で、「92共識」を認めない蔡英文政権が成立したことで、中台関係は政治的に冷却化していった。その結果、米国で「台湾放棄論」は影を潜めたものの、中台間では公式の対話ルートが途絶えたまま、中国からの観光客の減少による台湾観光業へのダメージが継続している。パナマの台湾との断交に見られるように、中国による台湾への外交的締め付けも強まっているのが現状である。

朝鮮半島危機と台湾問題を連動させるトランプ政権

そうした中で、トランプ米政権には、むしろ朝鮮半島危機と台湾問題を積極的にリンケージさせるような行動が見られる。

例えば今年4月、トランプ大統領は習近平主席をフロリダの別荘に招き、中国に北朝鮮への圧力強化を求めたが、それが期待外れと分かると、6月末に台湾向けの14億ドルの武器売却を決めた。

また、ほぼ同時期に、台湾への米海軍艦船の定期寄港を認める内容を盛り込んだ2018年国防授権法案が米上院軍事委員会で承認された。朝鮮半島危機が米中の齟齬を拡大していけば、おのずと台湾海峡に影響が及ぶことになる。

朝鮮半島と台湾海峡の両方に安全保障上深くかかわるわが国としても、主体的に何ができるか、何をするべきか、が問われることになる。陸上配置のイージス・システム(イージス・アショア)導入はその一環であり、防衛力強化は必然の選択であろうが、外交的に何らかの役割を見出せなければ、日本は東アジア国際政治の場でますます「縁辺化」されてしまいかねない。

樋口記事

北朝鮮の国防科学院化学材料研究所を視察した金正恩朝鮮労働党委員長(撮影日不明、2017年8月23日配信)。(c)AFP/KCNA VIA KNS〔AFPBB News

朝鮮戦争を引き起こしたのは誰か?

忘れてはいけない。朝鮮戦争を引き起こした張本人は、北朝鮮の金日成である。

朝鮮半島は、第2次大戦末期に、対日参戦の目的で満州から朝鮮半島に入ったソ連赤軍によって北半分を占領された。その急進撃に触発された米軍は、沖縄から軍を進め仁川に上陸して朝鮮半島の南半分を占領した。

その後、1948年8月に米国の影響下で大韓民国(韓国)が建国されたのに対抗して、同年9月、占領中のソ連赤軍の強い指導により、「傀儡国家」として朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)がつくられた。

北朝鮮の憲法、立法・行政・司法制度、朝鮮労働党による一党独裁の政治制度、軍事機構、治安機関などの国家機構は、すべてソ連体制の複製であり、朝鮮民主主義人民共和国という国名もロシア語からの直訳であった。

そしてソ連は、満州で抗日ゲリラ活動に従事していたソ連赤軍大尉・金日成を北朝鮮の初代指導者に指名した。

全朝鮮に施行されるべきとされた北朝鮮の1948年憲法(朝鮮民主主義人民共和国憲法)は、南北朝鮮の統一を積極的に促進するという政治目標を掲げ、北朝鮮体制を南朝鮮に拡大させる、いわゆる「赤化革命」を正当化するものであった。

それが、「北朝鮮の野心的な指導者」と見られていた金日成の企てによって、ソ連のスターリンと中国の毛沢東を動かし、ソ中ともに冒険的な南進武力統一を承認したことから、1950年6月に始まり、1953年7月に休戦となった朝鮮戦争へと突入したのであった。

北朝鮮軍が38度線を越えて仕かけた戦争に対して、国連安保理は北朝鮮の行為を国連憲章違反と非難し即時停戦を求めたが、事態が深刻化したため、米軍を主体とした国連軍の創設が決議された。

国連軍後方司令部(キャンプ座間、2007年に横田飛行場へ移転)が置かれた日本は、その活動を後方から支援した。

なお、国連軍創設決議は、当時、国連の中国代表権(安保理の議席)は中華民国政府(台湾)が有し、そのことに抗議してソ連が安保理の採決をボイコットしたことによって成立したものであった。

一方、戦後の復興期にあったソ連のスターリンは、米国との衝突が第3次大戦へと拡大するのを極度に恐れ、武器の提供などの兵站支援と航空機の派遣にとどめた。

スターリンによってアジアの個別的問題に対する主導的役割を認められた中国は、そのまま放置すれば米国が隣人となりかねない朝鮮半島の地政学的重要性を深刻に受け止め、中国人民義勇(志願)軍として約500万人とも言われる大兵団を参戦させた。

北朝鮮をソ連と中国が支援し、韓国を米国と日本が支援した朝鮮戦争の対立構造は、今日に至ってもそのまま続いており、周辺各国の戦略的利害が交錯する朝鮮半島の地政学的宿命を反映しているとの見方が成り立とう。

北朝鮮の最高目標は金王朝の存続と南北統一

北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野における社会主義的強国の建設を基本政策として標榜している。

また、金日成、金正日、金正恩と3代にわたって金一族の世襲による権力移行体制が固定化されてきたことから、世襲制の専制君主国家、すなわち金王朝の存続が最高の国家目標となっていることは疑う余地がない。

一方、南北(祖国)統一は、北朝鮮にとっても、また韓国にとっても至上の政治目標となっており、民族共通の歴史的悲願と言えよう。

しかし、北朝鮮が武力統一を目指した朝鮮戦争は、半世紀以上にわたって同じ民族を分断する悲劇を生み出した。

そして、休戦状態とはいえ、現在も非武装地帯(DMZ)を挟んで、両軍併せて150万人ほどの地上軍が対峙する厳しい現実を突きつけており、南進武力統一(暴力革命)や赤化革命を標榜し、力によってその実現を目指してきた北朝鮮の統一戦略には、特段の注意を払わざるを得ない。

北朝鮮の1998年憲法では、南北(祖国)統一について、以下のように記述されている。まず、その「序文」では、

 偉大な領袖金日成同志は、民族の太陽であり、祖国統一の救いの星である。金日成同志は、国の統一を民族至上の課題としてかかげ、その実現のためにあらゆる労苦と心血をすべて捧げた。

 金日成同志は、共和国を祖国統一の強力な堡塁として固める一方、祖国統一の根本原則と方途を提示し、祖国統一運動を全民族的な運動に発展させて、全民族の団結した力で祖国統一偉業を成就するための道を開いた。

また、「第1章政治」の第9条では、

 朝鮮民主主義人民共和国は、北半部において人民政権を強化し、思想、技術、文化の3大革命を力強く繰り広げ、社会主義の完全な勝利を成し遂げ、自主、平和統一、民族大団結の原則から祖国統一を実現するために戦う。

このように、序文では、朝鮮戦争を引き起こした金日成を「祖国統一の救いの星」と奉り、「祖国統一偉業を成就するための道を開いた」偉大な領袖として神格化している。

また、第9条では、「北半部において人民政権を強化し、・・・社会主義の完全な勝利を成し遂げ、自主、平和統一、民族大団結の原則から祖国統一を実現するために戦う」として、北朝鮮を革命基地と位置づけ、韓国を吸収統一する方針を堅持しており、現在でも北朝鮮の南北統一戦略は、基本的に建国当初と何ら変わるところはない。

つまり、北朝鮮の南北統一戦略の目標は、朝鮮半島全体に金王朝を拡大し、その支配を永久化して絶対安定を実現するものと見ることができるのである。

北朝鮮は、長年にわたって韓国に対して侵入、殺傷、破壊、瓦解工作を繰り広げてきた。そして、陸海からのルートを使ってスパイを送り込み、韓国内に地下党組織を構築し、韓国内の民衆革命の機運を醸成しつつ「決定的な時期」を待って蜂起の機会を窺ってきた。

その中で、特に学生、労働者、宗教界などサークル形態の小組織をターゲットに宣伝・煽動活動を着実に拡大してきた。

最近では、韓国海軍哨戒艦「天安」号撃沈事件(2010年3月)や延坪島(ヨン・ピョンド)砲撃事件(2010年11月)など、北朝鮮は北方限界線(NLL)を紛争地化し、韓国を軍事的に圧迫するとともに、韓国内の思想対立を拡大させ、また、戦争の恐怖を呼び起こして対南交渉を優位に導こうと画策してきた。

また、金大中政権以降、「太陽政策」を利用した「わが民族同士」という戦略が提起され、「南北和解」を演出することで米韓の対立を煽り、米軍撤退と有事における米軍介入の阻止を狙った工作が展開された。

顧みれば、北朝鮮は、韓国大統領官邸である青瓦台襲撃事件(1968年)、米国情報収集艦プエブロ号拿捕事件(1968年)、朴正煕大統領襲撃事件(1974年)、アウンサン廟爆破事件(1983年)、KAL爆破事件(1987年)など、対南工作のために重大事件をたびたび引き起こし、国際社会に大きな衝撃を与え、世界を震撼させた。

日本関連では、対南工作の「側面部隊」と位置づけられる朝鮮総連を活用し、日本を経由した工作戦術が駆使されてきた。

特に、1970年代から1980年代にかけて北朝鮮の工作員や「よど号グループ」などによって、多数の日本人が、日本から極秘裏に北朝鮮に拉致され、いまだに拉致被害者の救出は果たされていない。

本当に危うい韓国の政治社会状況

2012年の韓国大統領選挙では、右派・セリヌ党の朴槿恵(パク・クネ)氏の得票率は51.6%、金大中大統領による太陽政策(包容政策)を継承した盧武鉉前大統領の秘書室長を務め、北朝鮮に対する融和政策を支持する左派・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏は48.0%であった。

朴槿恵大統領の当選は僅差で、北勢力の浸透の深刻さを物語る選挙結果であった。

その朴槿恵大統領も、弾劾裁判の結果、2019年3月に失職した。その後の大統領選挙では、前述の文在寅(「共に民主党」)氏が得票率41.08%を獲得し、旧与党「自由韓国党」の洪準杓候補(同24.3%)、中道野党「国民の党」の安哲秀候補(同21.41%)を破って大統領選に勝利した。

ロウソク・デモによって朴槿恵大統領を弾劾裁判に追い込んだ左派勢力は、その手法の成功体験に味をしめて、盛んにデモを繰り返している。

一方、右派勢力は、朴槿恵大統領の罷免が妥当だとした憲法裁判所の判断を合憲だとは認めず、大韓民国憲法精神で保障した「国民抵抗権」を根拠に、弾劾反対団体が集まった「国民抵抗本部」を発足し、大統領弾劾棄却のための国民総決起運動として、同じく街頭に出て気勢を上げている。(中央日報日本語版(2017年2月19日11時59分)から要約加筆)

前2回の大統領選挙の結果などから見ても、韓国の世論は左右に分かれて大きく対立し、一種の内乱状態に陥っていると言っても過言ではなく、北朝鮮の対南工作から見て、韓国の政治社会状況は極めて危うい局面に立たされている。

北朝鮮最大の障害は米国:核ミサイルは「最後の切札」

韓国に親北・左派の政権が誕生した現在、北朝鮮の最高目標である金王朝の存続と南北統一の最大の障害となるのは、米韓相互防衛条約に基づいて陸空軍を中心に約1.7万人の在韓米軍を維持する米国の存在である。

米国は、湾岸戦争(1991年)やコソボ紛争(1999年)において、通常戦力の優越を存分に見せつけ、ロシアや中国などはその実力に驚嘆し、あるいは恐れ慄いたと伝えられている。

なかでも北朝鮮は、依然として大規模な軍事力を維持しているものの、旧ソ連圏からの軍事援助の減少、経済の不調による国防支出の限界、韓国の防衛力の急速な近代化といった要因によって、在韓米軍や韓国軍に対して通常戦力において著しく劣勢に陥っているため、「従来の通常兵器を使った“戦場”で米国に直接対抗するのは不可能だ」との教訓を得ていることは間違いないところであろう。

このため、北朝鮮は、核兵器などの大量破壊兵器や弾道ミサイルの増強に集中的に取り組むことにより劣勢を補おうとしている。

逆に、通常戦力において圧倒的な優越性を保持している米国の立場から見れば、その優越性が核の拡散を助長するジレンマを引き起こす要因となっている。

すなわち、現状において、米国の圧倒的な通常戦力の優越に対抗できる国はなく、その反動で、米国の通常戦力に対抗し、それを相殺する「最後の切札」としての核兵器の価値と有用性を高めてしまった。

そして、比較的安価かつ容易に開発でき、決定的な破壊(損害付与)力を持ち、政治的恫喝手段としての役割も果たす核兵器の開発が促進され、米国の核戦力削減の方向に逆らうかのように、さらなる核の拡散を引き起こすという負のスパイラルに陥っている。

金正恩は、2013年の党中央委員会総会で父・金正日の「先軍政治」から転換して、核武力建設と経済建設の「併進路線」を提案し、2016年5月はじめ、35年ぶりの朝鮮労働党大会(第7回)でも同路線の堅持を確認した。

金正恩は、「わが民族の自主権と生存権を守るための唯一の方途は今後も、核戦力を質量共により強化して力の均衡をとることである」と述べたが、これは、金王朝の存続には核兵器が不可欠である、と宣言したことに等しい。

同時に、北朝鮮のGDP(国内総生産、約400億ドル=約3兆9000億円、韓国銀行等推計)は日本の茨城県内総生産規模と見られ、その行き詰まった国家経済を立て直し、破綻国家や中国の属国に陥らないためには、軍事予算の削減は避けて通れない。

このため、その矛先は自ずと大規模で、老朽化が著しい通常戦力の削減に向けられることになり、併せて国家運営に及ぼす軍の影響力を極力低下させようというのが「併進路線」の狙いであろう。

つまり、北朝鮮は、国際社会からの非核化の要求を尻目に、今後一段と核兵器の地位と役割を押し上げ、その建設と運用に大きく依存することは間違いない。

北朝鮮は、核の力を背景に、ぎりぎりまで緊張を高めて相手に譲歩を迫る瀬戸際外交を常套手段としている。

また、米国の圧倒的な通常戦力の優越に対しては、核による恫喝・使用(エスカレーション)によって脅威を相殺するものと見られ、わが国の安全保障にとっても「眼前の差し迫った脅威」、また中長期的な脅威として重大な影響を及ぼすことになる。

北朝鮮による核ミサイル危機をいかに乗り越えるか?

北朝鮮は、2017年3月6日、4発の弾道ミサイルを同時に日本海に向けて発射し、そのうちの3発は日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。

翌7日の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、発射を行った部隊について「有事の際には在日米軍基地を攻撃する任務を持つ部隊」と説明し、日米同盟下の日本攻撃の可能性について初めて言及した。

北朝鮮が、日本を攻撃する「能力」のある弾道ミサイルを多数保有し、日本をターゲットとして使用する「意思」を明示したことは、わが国安全保障上の死活的課題として再認識させ、核抑止の強化のための国を挙げた総合的な対策の必要性と緊急性をいやが上にも高めることとなった。

北朝鮮は、スカッドER(射程約1000キロ)、ノドン(同約1300キロ)、テポドン1(同約1500キロ)に新型ミサイル・ムスダン(約2500~4000キロ)を加えた多種の中距離弾道ミサイルを開発し、日本から西太平洋・グアムまでの攻撃能力を強化している。

米国防情報局(DIA)は、2017年7月、北朝鮮が弾道ミサイルに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功したとの機密分析をまとめた、と報じられている。

弾道ミサイルの実戦配備に必要な弾頭部の大気圏再突入技術を保有しているかどうかは不透明だが、多くの専門家は来年末までにこの技術を獲得する可能性があるとみている。日本政府も北朝鮮の核兵器について、17年版防衛白書で「小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる」と分析している。

そこで、本論のまとめとして、米国、日米共同および日本独自の政策を「懲罰的抑止」と「拒否的抑止」の観点から考察し、わが国の核抑止のあり方について述べることにする。

(1)米国および日米共同の政策

わが国にとって最大の問題は、北朝鮮の核ミサイル開発によって、東アジアにおける米国の「地域的核抑止」が無効化しているのではないか、との深刻な懸念が生じていることである。

では、それを打ち消し、米国の核抑止の実効性を高めるにはどうしたらいいのか?

わが国は、「非核3原則」によって米国が保有する抑止機能をいたずらに縛っており、安全保障上の大きな損失となっている。

わが国および周辺地域における核抑止を確保するには、米空母や潜水艦、あるいは戦略爆撃機の運用上の要求による核の持ち込みを認めなければならない。また、情勢緊迫時には、目に見える形で、戦域レベルのパーシング・ミサイルシステムの日本配備を求めることによって抑止効果も格段に高まろう。

つまり、「非核三原則」のうち「持ち込ませず」を廃止して「非核二原則」にするか、その見直しが不可能ならば、有事(情勢緊迫時)を例外として、核の持ち込みを可能にする政策の柔軟な運用が欠かせない。

日米両政府は、2015年4月に新「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を了承した。その中で、平時から緊急事態までのあらゆる段階における自衛隊・米軍の活動に関連した協議・調整のための「同盟調整メカニズム」の設置などに合意し、11月初めから運用を始めた。

今後、同メカニズムにおいて「核抑止の強化」を協議の主要テーマとして取り上げ、共同核抑止戦略を構築するとともに、統合幕僚監部と太平洋軍司令部の間で組織される「共同運用調整所」などを常設して、共同の情報収集、警戒監視および偵察(ISR)活動を継続し、弾道ミサイル発射などの情勢変化に即応できる態勢を確立することが必要である。

米国は、航空自衛隊車力分屯基地(青森県)および米軍経ヶ岬通信所(京都府)に最新型ミサイル防衛用「Xバンド・レーダー」を配備している。また、米軍の「ペトリオットPAC-3」が嘉手納飛行場と嘉手納弾薬庫地区に配備されている。

わが国にこの種の弾道ミサイル防衛(BMD)施設やシステムを配備することは、日本のみならず周辺地域の核抑止・対処体制の強化に資するものである。併せて、いわゆる「トリップ・ワイヤー」として米国の拡大抑止の信頼性・信憑性を高めるうえでも有効であり、今後、このような施策の積極的な拡大が望まれる。

(2)日本独自の政策

現在、わが国の拒否的抑止力としては、イージス艦とペトリオットPAC-3があるが、その能力は質量ともに限られている。また、国家機能や重要インフラ、国民や産業基盤を防護・維持する「損害限定戦略」の一環としての国土強靭化が進んでいない。

一方で、報復的抑止力は、米国の力に全面的に依存しており、わが国の核抑止は極めてバランスを欠いた不十分な態勢にあると言わざるを得ない。

核の脅威を抑止するには、基本的に核に頼るしかない。その厳しい現実の中で、わが国が自ら報復的抑止力としての核開発に踏み出せば、米国や周辺諸国をはじめとする国際社会の複雑な反応を引き起こすとともに、国論の分裂を見るのは火を見るよりも明らかである。

わが国の核政策は、軍事戦略上の合理性・妥当性を超えて、政治外交上の実現の困難さが重く圧しかかかり、結論の見えない論争に巻き込まれること必定である。

他方、限定的ながら、通常戦力である自衛隊の統合力をもって報復的抑止力を創出することが可能である。

つまり、国際法上認められた主権国家の当然の権利としての「自衛権」の範囲で、自衛隊に北朝鮮や中国のミサイル基地を叩く敵基地攻撃の任務権限と地中貫通型ミサイル、ステルス・無人対地攻撃機、特殊作戦部隊などの能力を政治決断によって付与すればよいのである。

さらに、地域的抑止の限界を認識する米国が同盟国・友好国に求めているように、拒否的抑止力を可能な限り自力で賄う努力が不可欠である。

昭和50年代に「日本防衛ハリネズミ論」が提唱されたことがあるが、その現代版は、さしずめ「日本列島電子戦バリアー構想」であろう。

喫緊の課題は、北朝鮮(そして中国)の弾道ミサイルによる飽和攻撃なので、日本の全領域を覆うように電子戦バリアーを張り巡らせて、北朝鮮の核ミサイルの能力を可能な限り無効化あるいは盲目化することである。

わが国には優れた電子戦の技術・能力があり、その装備化を可能とする小型高出力電源の技術も保有している。

つまり、拒否的抑止力の実効性を高めるためには、「日本列島電子戦バリアー」の展開を基盤として、既存のMDに加え、イージス・アショア(イージス艦MDシステムの地上配備型)や電子戦・サイバー攻撃、電磁砲・電磁波弾、さらにはレーザやレールガンなどによる新たなBMDシステムを導入し、多重多層のBMDシステムを構築して質量両面からわが国のBMD能力を強化しなければならない。

併せて、核弾頭の運搬手段には、弾道ミサイルのみならず、巡航ミサイルや有人・無人の航空機などが使用されるため、航空を対象とする防空と巡航・弾道ミサイル防衛を一体化した統合防空・ミサイル防衛(IAMD)システムの開発が待たれる。

また、核攻撃に対する自衛隊の施設、装備、C4ISRおよび部隊行動時の強靭性・抗堪性の強化には、格別の対策を施さなければならない。

同時に、わが国の国家機能、重要インフラや産業基盤の維持ならびに国民生活保護のための民間防衛(国民保護)の強化は不可欠であり、そのため、地下シェルターなどの避難用施設・場所、食料・水・医薬品等の生活必需品、輸送交通の確保などの対策を講じることも大きな課題である。

国土強靭化は、災害対策のみならず、安全保障・防衛上の「損害限定戦略」と一体化した総合的な国家施策として強力に推進することが重要である。

わが国は、世界で唯一の被爆国であり、そのために、他のどの国よりも自国の核抑止に真剣に取り組むことを当然の責務として、何としても北朝鮮による核ミサイルの危機を乗り越えなければならない。

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『おばさん債権取立集団“見せしめ懲役”の顛末 「弱さ」を盾に、騒いで回収。根本には貧困問題が』(8/25日経ビジネスオンライン 北村豊)について

上念司著『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』より

<P.59

(P.60~61)

しかも、中国経済はニ〇〇八年のリーマンシヨック以降、変調を来しています。当初は四兆元の財政政策などによってごまかしてきましたが、二〇一五年の上海市場の大暴落からそれを隠し通すことができなくなっています。

中国経済がすでにピークを越えて下り坂に向かい始めていることは、他ならぬ中国共産党が認めています。公式のGDP統計の数字が毎年下がり続けているのがその証拠。どんなに水を含ませても、もはや覆い隠すことができなくなったのです。

つまり中国経済は、その規模で日本経済を追い抜きかけたが、実際には迫い抜けず、このあと大幅に伸びが純化するか、場合によっては縮小していく、ということです。

――私たちは騙されていました。日本人は、とんだお人好しだったということかもしれません。

中国はソ連の失敗に学び、崩壊を回避したといわれています。しかしそれすらも、たぶん幻だったのかもしれません。

近年の南シナ海や東シナ海における侵略行為、文化大革命以来タブーといわれてきた個人崇拝の復活、そして隠しきれなくなった経済の低迷などを見るにつけ、中国の「ソ連化」は紛れもない事実のように思えます。

ソ連と同じ運命をたどる中国

日本では、これほど強固な社会主義体制、独裁体制は簡単には滅びないと思いがちですが、果たしてそうでしょうか?実は、独裁体制には意外な脆さがあります。経済学者の福田亘氏は、ソ連崩壊に際して、次のような鋭い指摘をしていました

<それにしても、このような長期にわたる大々的な統計改ざんが可能であったということは、権カ批判を封じた独裁型全体主義国家の情報管理がいかに徹底していたかを物語るものであるが、そのことは同時にまた確立された独裁体制はよほどのことがない限り、簡単には崩れそうにない堅牢性によって特徴づけられるということをも意味している。この意味で、史上稀に見る程の絶対権力を掌握したソ連型経済が通常ならとっくに放棄されてしかるベき状態をも持ちこたえて存続することができたのは決して偶然ではなかったと言えよう。もっとも、強権体制のこのような硬構造体質は矛盾や対立が深刻さを増せば容易に体制の脆弱性に転化しうるわけで、ソ連型経済の一見唐突な終焉はこの脆弱性の現れでもあることを付け加えておくべきであろう〉 (「『計画の大失敗』の体制論的考察」/「同志社商学」第五七卷第六号、ニ〇〇六年三月)

(P.71~73)

リーマンシヨックで大きな勘違い

ジヨージ・ブッシュ大統領(父)のアドバイザーを務めた戦略家のエドワード・ルトワツク氏は、習近平のこうした行動は極めて愚かなことだと指摘しています。中国は国際秩序を守り、現状を武力で変更することなく、平和的台頭を続けるべきでした。そして、アメリカも無視できないぐらい大きな力を手に入れて、誰も反論や反撃ができなくなってから初めて、その野心を開示すべきだったのです。

ところが二〇〇八年のリーマンショックが、中国共産党にトンデモない勘違いをもたらしたと、ルトワック氏はいいます。

リーマンショックで日米欧各国の経済がおかしくなったのは周知の事実です。このとき中国は、4兆元(約六四兆円)にも及ぶ巨額な財政政策によってリーマンショックを克服したことになっています。おそらく統計をまとめる官僚たちが、そういう上層部の願望をくみ取って数字を作ったのでしょう。それを鵜呑みにしたのかどうかは分かりませんが、中国共産党上層部は、これだけ日米欧の景気が低迷し、中国がいち早く立ち直ったのであれば、もう 勝負あったと勘違いしてしまったのです。

しかし、第一章で指摘した通り、地方政府がまとめたGDP統計の「水分率」は、リーマンショックの翌年のニ〇〇九年から右肩上がりに上昇しています。自分の尻尾を追う犬のごとく、自ら作り上げた水増しGDPを信じて「世界経済は中国が牽引する!」と誤った自信を深めてしまったのです。

ちなみに、この勘違いは未だ続いているようで、習近平は二〇一七年のダボス会議で自由主義経済の守護者の如く振る舞いました。その様子をロイターが次のように伝えています。

〈【ダボス(スイス)一七日ロイ夕—】中国の習近平国家主席は一七日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で講演を行い、グローバル化や自由貿易の重要性を強調した。

保護主義は自ら暗い部屋に閉じこもるとともに、部屋から光や空気を奪うようなものだと指摘。他国を犠牲にして自国の利益を追求すぺきではないと述べ、トランプ次期米大統領を名指しこそしなかったものの、同氏の言動を暗にけん制した。

習主席は「通商戦争を仕掛けても誰も勝者とはならない」とした上で、経済のグローバル化は多くの国々にとって「パンドラの箱」ではあるものの、世界的な諸問題の根源になっているわけではないと述べた。世界的な金融危機もグローパル化に原因があるのではなく、過剰な利益迫求が引き起こしたものと分析した〉(「ロイ夕一」二〇一七年一月一八日)

国家資本主義によって国内経済を統帥する独裁者が「自由貿易の重要性を強調」だそうです。現役の泥棒が防犯講座をやっているような滑稽さを感じるのは気のせいでしょうか?

二〇-七年三月、アメリカが韓国に終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を開始すると、中国は韓国製の食品を焼却処分したり、国営メディアが韓国製品の不買運動を煽動したり、THAADの配備される土地のオーナーであるロッテにサイバー攻撃をしたりと、露骨な報復行動に打って出ました。文字通り舌の根の乾かぬうちに、自由貿易は、どこかに行ってしまいました。>(以上)

上記グラフにより、見て戴けば分かる通り、中国の真のGDPはどんなに甘く見積もって見ても、日本のGDP以下で、MAX437兆円だろうと推定しています。根拠は社会主義のお手本格のソ連の統計の誤魔化し方からの推論で、改革開放以後の1985年を起点として計算しています。

でも、ソ連時代は西側に閉ざされた世界で、貿易は活発ではありませんでした。然るに、中国は共産主義国でありながら、自由貿易の旨味を最大限享受してきました。その違いは大きいと思います。購買力平価の問題はありますが、日本のGDP以下というのは今の都市部の発展を見れば、債務の大きさは別として、単年度の付加価値は大きいものがあるのではと考えます。それでも1200兆円もGDPがあるとは思えません。2/3の800兆円くらいが妥当では。あくまでも小生のブタ勘です。でもその内、半分は賄賂と小金庫(裏金保存庫)に蒸発していると思います。何せ中国は上から下に至るまで賄賂を取る社会ですから。企業では3種類の財務諸表を作るのは当り前で、役人への接待や賄賂の為の小金庫と言うのはあらゆる企業が持っています。アングラマネーが幅を利かしている社会です。そう言う意味で、表(オモテ)のGDPが437兆円というのはいい線かも知れません。

北村氏の記事を読んで感じたことは

①“大媽討債団”のメンバーは刑事処分を受ける程度のものかと言う思いと、中国では営業の自由もなければ結社の自由もありません。金を稼ぐとしたら、個人でも正式には工商局への登記が必要です。行政処分の対象にはなると思います。公安に賄賂を払っていれば捕まらないでしょうが、それでは細々と稼いでいるのに生活できません。

②中国社会のセーフテイネットが如何に整備されていないかです。本記事によれば、6千万人にも上る人が生活保護を受けているとのこと。中共が棄民政策を採り、日本にこういう人が押し寄せることを考えるとぞっとします。限界集落に中国人や韓国人を殖民するため、1000万人も移民を受け入れする何てキチガイ沙汰です。何時も言ってます通り、中国は人口侵略が得意な国です。みすみす敵に領地を渡すようなものです。また将来はAI、ロボット化が進みますので、人口減少をそれ程深刻に考えなくても良いのではと思います。

日本の問題は、現時点でメデイアと教育に左翼が跋扈していることです。情弱老人が余りに多すぎることです。次の記事は加戸前愛媛県知事が旅行に行ったときに、誰も加戸氏とは気づかず、内閣の悪口ばかりとか。小生が以前に行ったスーパー銭湯で聞いた話と同じです。こういう情弱老人が若者の未来を奪っているという事に気付いていません。もう少し自分の頭で考えて見たらと言いたいです。

8/26『言論TV』加戸守行&櫻井よしこ<加戸氏「パックツアーでバルト三国に行った時、高齢者の方々が雑談の中で『もう安倍総理は辞めた方がいい。加計問題であれだけ疑惑が出てるから』と何回も言っていた。その方々で私を知ってる人はいなかった。その時思ったのが印象操作によるテレビの影響はこんなに大きいのかと思った」>

https://twitter.com/blue_kbx/status/901084039469162498

記事

河南省の“瞧県(しょうけん)”は省東部に位置する“商丘市”の管轄下にある。7月5日、その瞧県にある“瞧県人民法院(下級裁判所)”で“大媽討債団(おばさん債権取立グループ)”の主要構成員14人に対する判決が下された。彼らは“黒社会(暴力団)”的組織を結成し、指揮、参加した罪と“尋釁滋事罪(故意に騒動を起こした罪)”で裁かれ、懲役2年から11年までの実刑を言い渡されたのだった。この一審判決後、14人の被告人のうち12人は判決を不服として“商丘市中級法院(地方裁判所)”へ上訴したというから、そう遠くない時期に当該事案は商丘市中級法院で二審の裁判が行われるものと思われる。

彼らが懲役刑に処せられたのはなぜなのか。8月7日付の北京紙「新京報」が事件の詳細を報じたが、その概要は以下の通り。

45歳で失明、生活に困る中…

【1】懲役5年の判決を受けた“高雲”(仮名)は商丘市の“梁園区平原辦事処”に属する“劉庄村”の住人で、45歳の時に糖尿病を発症して両目を失明し、不自由な生活を余儀なくされた。3~4年前、高雲は村内の知り合いのおばさんに誘われ、人助けで初めて債権取立に参加した。毎日何もすることがなくて退屈していた高雲は気分転換に参加したのだが、やってみたら債権取立は楽しかったし、食事にありつけたことがありがたかった。高雲の亭主は何年も前に死去し、娘は商丘市の市街区へ移り住み、当時彼女は1人で劉庄村に住んでいた。しかし、失明しているために自力では生活できず、食事まで友人に頼る始末だった。

【2】高雲を債権取立に誘ったおばさんは親友で、彼女は動員した年配の女性たちに債務者をはやし立てて脅威を煽らせた。劉庄村にある数百戸は大多数が親類や友人で、誰かが困っていれば助け合うのが当たり前だった。いとこの一家は頻繁に高雲の面倒を見てくれていたので、いとこの息子が協力を要請した時には、高雲は進んで債権回収に協力した。一般に彼女たちに債権回収の協力を要請するのは村内の零細な経営者たちで、彼らはいとこの息子と同世代の若手だった。

【3】劉庄村は典型的な郊外地で、梁園区政府から5km、商丘市政府から10kmの距離にあり、その沿道で建設が盛んに行われていたので、村民の多くが建築業に従事していた。劉庄村では、肉体労働者が雇用主に遅れた賃金の支払いを要求し、工事請負業者が施工主に遅滞した工事費の支払いを要求するのはごく普通の事だった。数年前、全国の不動産業に比較的大きな不況の波が襲い、商丘市内でも非常に多くの企業が資金不足に陥って資金回収が困難となり、債権回収を巡る紛争が頻発した。工事の請負契約は支払い期限や支払い遅延の場合の延滞金に関する規定が書かれただけの簡単なものであったが、期限内に工事費が支払われるのは半数にも満たなかった。債権回収が容易ではないことから、民間では各種の債権回収グループが出現することになった。

「暴力」ではなく「老婦人」で

【4】債権回収グループが民事や債務の紛争に介入すると、“公安部門(警察)”は双方にけんかせず、騒動を起こさぬよう要請してその場を収拾するだけだった。裁判所へ訴えても司法手続きに従えば時間がかかり、費用もかさみ、たとえ勝訴してもそれが執行される保証はない。手っ取り早いのは“討債公司(債権回収会社)”を起用することであった。不完全な統計によれば、全国に債務の支払いを催促する“討債公司”は2500~3000社あり、30万人近くが債権回収業務に従事しているという。債権回収会社は一般に回収金額の15~40%を手数料として取り、債務者の企業経営や家庭生活をかき乱す手段を採り、多少の暴力は免れないという脅しを暗示するのが常である。総じて、債権回収会社は手数料が高く、債務者との関係を気まずくさせ、彼らが暴力を振るえば法を犯すことになるから、零細な経営者にとっては商売を継続する上で触れてはならない存在だった。

【5】そこで登場するのが、老婦人だけで構成された債権取立グループであった。男が債権取立に行けば容易に暴力沙汰になるが、可哀想な“老弱病残(老人・虚弱者・病人・障害者)”が債権取立に行けば、債務者も手の出しようがなく、債務の支払いに応じる可能性は高まるのだ。高雲は盲人である自分にも価値があることを徐々に認識するようになった。高雲は最初のうちは債権取立に出ても、親類や友人を助けるためだと考えてカネも取らず、食事を支給してもらうだけで満足していた。しかし、人助けのつもりで債権取立に参加したのに、カネの回収が上手く行くと、債権主が彼女たちに1⼈当たり1⽇100〜200元(約1600~3200円)を協力費として支払ってくれるようになった。協力費の多寡は、債権主である経営者が“大方(気前が良い)”かどうかで決まった。高雲が受給している生活保護費は月額で200元(約3200円)にも満たない金額であり、糖尿病と冠状動脈心臓病を患って久しい高雲には他の収入は皆無だったから、協力費がもらえることはありがたい限りだった。

【6】2015年頃、古い住宅の雨漏りがひどくなり、高雲は劉庄村を離れて市街区に住む娘の家へ移り住んだ。娘がいない昼間はテレビを「聴いて」過ごし、夜は娘の帰宅を待って食事を作り、夕食後は団地の近くで行われる“広場舞(広場などで行われる集団ダンス)”に参加した。高雲は広場舞で61歳の“蘇木香”と知り合った。蘇木香は息子夫婦と一緒に近くの団地に住んでいたが、毎日家で家事を行い、孫の世話をしていた。蘇木香も高雲と同様に身体が悪く、かつて乳腺がんを患って左乳房を切除したが、術後に左腕の血管が正常に流れなくなり、左腕が右腕より太くなっていた。同病相憐れむで、高雲と蘇木香は仲良くなったが、蘇木香は広場舞で知り合った“大媽(おばさん)”たちと債権取立に行った経験を持っていた。

【7】高雲は広場舞で53歳の“陳美”(仮名)とその同級生の男性“胡林文”(仮名)とも知り合った。陳美は高血圧と冠状動脈心臓病を患い、4~5年前に離婚してからは長女の家に住んで孫の世話をしていた。胡林文は肺気腫で喘息の発作があり、3~4年前に転んで足の骨を折り、今でも足を引きずっていた。彼は外出が不便なために、通常は家で80歳を過ぎた母親の世話をしていた。陳美と胡林文は何十年も会っていなかったが、2015年に再会してから付き合うようになったのだった。

「数日騒げば、捻出してくる」

【8】高雲、蘇木香、陳美、胡林文の4人が集まって世間話する中で、話が債権取立に及び、高雲と蘇木香の2人が債権取立に参加した経験を持つと話したことから話が弾み、小遣い稼ぎができるということで陳美と胡林文も債権取立に興味を示した。その詳細な経緯は不明だが、彼ら4人に高雲の劉庄村の親戚である“劉〇”を加えた5人はいつの間にか男性の胡林文を代表とする“大媽討債団(おばさん債権取立グループ)”を結成することになった。彼らが債権取立グループを結成したことは、広場舞の仲間や友人・知人のネットワークを通じて知られるようになり、債権回収の必要な人が協力を要請するようになったのだった。但し、彼らは要請があっても、“欠条(借用書)”や“合同(契約書)”があることが前提で、筋が通った話しか受けなかった。5人で結成されたグループは次第に構成員の数を増やし、最後には30人以上にまでなったが、胡林文を除く全員が“大媽(おばさん)”であり、年齢は50歳前後が主体で、最高齢は70歳だった。

【9】彼らの活動が地元で知られるようになると、様々な人々から協力要請が舞い込むようになり、いつの間にか彼らの業務範囲は債権取立に止まらず、立退き補償や医療事故の賠償などの請求にまで及ぶことになった。協力活動が終わると、受け取った協力費は参加者で公平に分けたが、代表である胡林文の取り分は若干多かった。それでも参加者は毎回1人当たり200元(約3200円)前後の稼ぎになった。遠方へ出張した場合は、往復の交通費、食事および宿泊費が精算して支払われたし、万一誰かが警察の派出所に拘留された、あるいは負傷した場合は参加費が余分に支払われた。

【10】彼らに協力を要請したある経営者は、「債権回収は当然のことで、“大媽討債団”に出動を要請しても法を犯すことにはならない」と述べ、長年の経験から言って、「債務者は誰もが商売をしており、カネの有無にかかわらず、数日間騒げば、何とかカネを捻出してくるものだ」と語っている。これこそが“大媽討債団”の存在価値であり、債務者の会社や店舗あるいは住宅へ出向いて「カネ返せ」を連呼すれば、“面子(体面)”を失うことを恐れる債務者は渋々ながらもカネを支払わざるを得なくなるのだ。時には債権者と債務者の双方が彼ら“大媽討債団”に協力を要請し、現場で鉢合わせしたら何と同じ仲間だったということもあった。この時は双方の代表が話し合って調停に漕ぎつけ、債務が30万元なら、先行して5万元、残りは3~6か月以内に支払うことにして決着させた。

【11】2016年1月、商丘市内の工事現場で紛争が発生し、“大媽討債団”は協力要請を受けて出動した。地元警察が何度も仲裁を試みたが和解には至らなかった。当事者双方の対峙は数日間に及び、双方の助っ人が続々と現場入りして、最後には現場の労働者を含めた双方の合計200人が一発触発の状態となり、小競り合いが始まった。この時、相手側から突然数人のエイズ患者が飛び出し、その中の1人が鉄の棒で自分の頭を殴って出血させた上で、「俺はエイズだ。俺の血をお前たちに付けるぞ」と叫びながら“大媽討債団”がいる方向へ走り寄った。“大媽討債団”のメンバーは全員が必死の思いで逃げ出して事なきを得た。“商丘市公安局”はこの事件を極めて悪質であるとして、特別チームを発足させて捜査を行ったが、その捜査過程で“大媽討債団”の存在が浮かび上がった。

鶏を殺して猿を驚かす

【12】商丘市公安局は“大媽討債団”の動向を偵察した結果、彼らが平均50歳位の30人からなるグループで、正式な職業を持たず、電話で情報交換し、人助けと称して各種の債権取立や工事紛争、医療事故処理に介入していることを突き止めた。彼らは人に雇われて、口汚く罵(ののし)る、侮辱する、恐喝する、暴行する、財物を破壊するなどの手段を採って、相手側を耐え難い所まで追い込むことで、譲歩させて問題の解決を図っていた。2016年3月、商丘市公安局は“大媽討債団”の幹部5人を含む14人を、暴力団的組織を結成し、指揮、参加した罪と故意に騒動を起こした罪の容疑で逮捕したのだった。

【13】一審の判決書によれば、河南省では彼らのような“大媽討債団”による“尋釁滋事(故意に騒動を起こす)”事件が、2013年から2016年までの間に29回発生したという。2013年に1回、2014年に5回であったものが、2015年には20回に急増し、2016年の1月だけで3回も発生していた。また、その内容は、債権取立、医療事故賠償、立退き補償、宅地を巡る紛争、隣り近所の紛争などに及んでいた。上述したように、胡林文を代表とする“大媽討債団”が結成されたのは2015年であるから、29回の“尋釁滋事”事件が全て彼らの関与したものではないことは明らかである。商丘市には彼ら以外の“大媽討債団”も複数存在するし、他にもエイズ患者や盲人が率いるグループなどが存在するが、その多くは同じ村の村民で構成されている。

【14】要するに、一審で懲役2~11年の判決を受けた“大媽討債団”の14人は、商丘市に数多く存在する“討債団(債権取立グループ)”を取り締まるための見せしめとされたものと考えられる。これを中国語で“殺鶏嚇猴(鶏を殺して猿を驚かす=見せしみにする)”と言う。しかし、彼らは貧しい“老弱病残(老人・虚弱者・病人・障害者)”のグループであり、債権回収、医療事故賠償や立退き補償などを要求する人々に協力したのであって、一審判決が罪状とした“黒社会(暴力団)”的組織であろうはずがない。彼らが報酬として受け取った協力費も決して高いものではなかったし、代表の胡林文および幹部4人とその他のメンバーの関係もあくまで平等であって、親分子分の関係ではなかった。このため、乳がんが肝臓に転移して余命2年と判定された蘇木香ともう1人を除く12人は上告し、商丘市中級⼈⺠法院で行われる二審の審理開始を待っている。

必要なのは、貧困対策

筆者は2015年3月15日付の本リポート『エイズ患者や凶暴女性が脅す「立ち退かせ隊」』で、河南省各地に跋扈して、立ち退き拒否者を脅す「⽴ち退かせ隊」の実態について報じたので参照願いたいが、上述の“大媽討債団”はその発足が2015年の中頃と思われるので、「立ち退かせ隊」とは時期的に重複していない。上記【13】に記したように、河南省では“大媽討債団”が故意に騒動を起こした事件が2013年から2016年までに29回発生しているというが、これらは事件として記録されたものだけだろう。実際にはこの種の事件は数え切れない程発生しており、今なお各種の「立ち退かせ隊」や「債権取立グループ」が乱立して活動していることがうかがえる。恐らく中国全土で類似の隊やグループは存在すると思うが、河南省以外の報道は見当たらない。

筆者が敢えて本件をリポートしたのは、“大媽討債団”に庶民の苦しみが見て取れるからである。2015年の時点で盲目の高雲が受給している生活保護費は月額で200元(約3200円)だったという。これでは年間で2400元(約3万8500円)にしかならない。物価が年々上昇している中国で月額200元の収入で生活ができるはずがないことは明らかな事実であり、高雲と似たり寄ったりの境遇にある“老弱病残(老人・虚弱者・病人・障害者)”の人々が別の収入を得る方法は、“大媽討債団”の類しかないのである。

中国政府“国家統計局”発表の『2016年国民経済・社会発展統計公報』によれば、2016年末時点における生活保護受給者は、都市部:1480万人、農村部:4577万人の合計6057万人で総人口の4.3%を占めた。このうち極貧として特別支援を受けた人口は497万人であった。生活保護費の額は地域毎に異なるが、“民政部(日本の総務省に相当)”によれば、2016年の1人当たり月額の全国平均は、都市部:495元(約7920円)、農村部:312元(約4990円)であった。なお、高雲が受給していた商丘市の農村部生活保護費は2016年から年間標準額が2960元(月額247元)に改訂された。

上述の『2016年国民経済・社会発展統計公報』によれば、2016年末時点で年間収入2300元(約3万6800円)の農村貧困基準以下の収入しかない農村貧困人口は4335万人で、2015年より1240万人減少したという。但し、農村貧困基準の年間2300元を1日当たりで計算すると6.3元(約0.95米ドル)にしかならず、世界銀行の貧困基準である1日当たり1.5米ドルには達しない。中国政府の統計が正しいと仮定しても、世界銀行の貧困基準1.5米ドル/日に基づけば、実際の農村貧困⼈⼝は少なく見積もっても1億人以上はいるものと思われる。「貧すれば鈍する」の言葉通り、貧者のさらなる生活改善がなければ、“大媽討債団”の類がなくなることはないだろう。

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『北朝鮮にミサイル技術流したのは誰だ 対立するロシアとウクライナの新たな火種に』(8/25日経ビジネスオンライン 池田元博)について

馬渕睦夫氏の『アメリカ大統領を操る黒幕 トランプ失脚の条件』には「グローバリズムに対抗するナショナリストとして、“ギャング・オブ・フォー”と呼ばれるプーチン、安倍、エルドアン、モデイの名が挙げられている。ここにトランプが加わると“ギャング・オブ・ファイブ”になる。「自国ファースト」主義は近代の国家原則を定めた1648年の「ウエストファリア体制」復帰を意味する」(P.221)とありました。馬渕氏はウクライナ大使であったこともあり、ロシア及びロシア正教に思い入れがあるのではと思われます。勿論、小生はコミュニズムに親和性を持つグローバリズムは好きではありませんし、国や民族の伝統、文化を尊重するナショナリズムを大事にする立場です。

8/25 business insider < A scene from Putin’s worst nightmare just unfolded in Ukraine=ウクライナで広がるプーチンにとって最悪のシーン>

“Mattis appeared to slightly give away his own take. “Defensive weapons are not provocative unless you’re an aggressor,” he said at the press conference, “and clearly, Ukraine is not an aggressor, since it’s their own territory where the fighting is happening.””

8/24キエフでのウクライナ独立(ソ連からの)閲兵式に米軍部隊は初参加。オバマ時代には物議を醸す(ロシアを挑発する)のでウクライナへの対戦車ミサイルの供与はしませんでしたが、今回は供与したことについてマテイスが記者団に聞かれて答えたのが上記です。簡潔・明察な答弁と思います。本当にオバマはヘタレだったというのが分かるでしょう。この答弁は南シナ海や東シナ海に触手を伸ばす中国に対する牽制の意味も含まれます。Aggressorは中国ですから。マテイスは政治的な酌量をしませんので。

http://www.businessinsider.com/a-scene-from-putins-worst-nightmare-just-unfolded-in-ukraine-2017-8

ロシアのクリミア侵攻に関し、米国の「NATOは東方進出しない」というロシアへの密約の存在が囁かれており、常識的に考えれば、ロシアが自分の衛星国をタダで手放すとは思えません。米国が約束を破ったと思っています。またフルシチョフのクリミアのウクライナ編入の経緯を見れば、ロシアのセヴァストポリ軍港確保の意味もあり、侵攻は許容できるかと。これに対し中国の領土・領海拡張の動きは主張に何の根拠もありません。それでも力で押してくるのは厚顔無恥の中国人らしさが表れていると思います。

8/26 business insider <間もなく実戦配備? 米軍が開発するレーザー兵器とレールガン>。日本も米軍と一緒になって研究を進めた方が良いと思います。ただ、高エネルギーレーザーは「依然、開発中」とのコメントは、軍事機密をそうそう開示したくないと言う思いの表れと思っています。既に終わっている可能性もあります。

https://www.businessinsider.jp/post-100765

http://www.sankei.com/world/news/170814/wor1708140001-n1.html

8/27朝のNHKニュースで武貞秀士氏が8/26北朝鮮のミサイル3発発射についてコメント。「米朝は裏で外交交渉している。今後レベルを上げた交渉が行われるだろう」と。彼は朝鮮半島に思い入れがあるのでしょう。軍事オプションより外交交渉で解決すべきと思っているのがありあり。米国が妥協して、「北に核保有を認め、中距離弾までは認める」ことになったら、日本にとって最悪です。その場合、日本の核保有を米国に迫れますか?

池田氏記事では、北にミサイルのエンジン技術を流出させたのは、ロシアかウクライナかは今の所、特定できないとのこと。核技術は中国からとして、北の軍事暴発を誘っているのは、中露(含むウクライナ)でしょう。北が核やミサイルの実験を繰り返せるのは、経済的な裏付けがあってのことです。真犯人が分からなくても、国連決議違反を繰り返す北に経済制裁すべきです。特に北と取引がある世界中の国、企業、個人に対し。ガンガンやるべきです。

記事

2014年のクリミア半島の併合問題をきっかけに反目が続くロシアとウクライナ。その両国の対立を一段と深めかねない火種がまた浮上した。どちらかが北朝鮮にミサイルのエンジンやその技術を流出させたのではないかという疑惑だ。

北朝鮮は7月29日、夜間にICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射した(写真:AP/アフロ)

事の発端は8月14日付で米紙ニューヨーク・タイムズが1面に掲載した記事。北朝鮮が米本土に到達する可能性のある大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に成功したのはたぶん、ロシアのミサイル計画と歴史的つながりのあるウクライナの工場から強力なミサイルエンジンを闇市場経由で調達したためだとする内容だった。ミサイルの専門家の分析と米情報機関の情報という。

北朝鮮は今年7月4日と28日深夜の2度にわたり、ICBM「火星14」と称する弾道ミサイルを発射した。日本の防衛省によると、とくに2度目に発射されたミサイルは約45分間飛行し、高度は3500km超と過去最高だった。飛距離は約1000kmで、発射角度を通常より高くする「ロフテッド軌道」で打ち上げられた。最大射程は1万km前後に達するとみられ、北朝鮮は「米国本土全域が射程圏内」に入ったと豪語していた。

米国社会でも北朝鮮の核・ミサイルの挑発が現実の脅威として語られるようになり、北朝鮮のミサイル技術への関心が高まる中で掲載された記事だった。記者がよりどころとしたのは、英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)の米国人のミサイル専門家が発表した「北朝鮮のICBM成功の秘密」と題する分析論文だ。

論文は中距離弾道ミサイルからICBMへと、これほど短期間で開発に成功した国は他にないと指摘。失敗を繰り返してきた北朝鮮が急速にミサイル技術を進化させた理由は極めて単純で、海外から高レベルの液体燃料式のミサイルエンジンを調達したからだと結論づけた。

確かに北朝鮮は今年に入っても、3月から4月にかけて弾道ミサイルの発射失敗を重ねた。一方で北朝鮮メディアは昨年9月20日と今年3月19日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が新開発の「大出力エンジン」の燃焼実験を視察・現地指導したと報道。北朝鮮はその後、5月14日に地対地中長距離戦略弾道ミサイル「火星12」、7月には2度にわたってICBM「火星14」を発射し、いずれも成功したと発表している。

ウクライナから北朝鮮にミサイル技術が流出?

IISSの専門家は写真分析などを基に、「火星12」「火星14」には旧ソ連製のロケットエンジン「RD-250」の改良型が搭載されたと断定。旧ソ連製のエンジンは恐らく、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の度重なる発射失敗を受けて、過去2年以内にロシアかウクライナから非合法ルートで調達されたと推測した。

専門家はエンジンの具体的な調達元にも触れ、設計を担当したロシア企業の「エネルゴマシュ」か、あるいはウクライナ企業の「ユジマシュ」の可能性があるとした。さらに北朝鮮が2016年から新エンジン開発に着手したとすれば、その年に旧ソ連製エンジンを調達したとみられ、まさにユジマシュ社が財政難に陥っていた時期だと強調。「ウクライナ政府が関与した可能性を示唆するものではない」と断りつつも、ユジマシュが流出元ではないかとの疑いを強くにじませている。

ユジマシュは「南機械製造工場」の略称で、ウクライナ東部ドニプロ(旧ドニプロペトロフスク)にあるウクライナ有数の国営企業だ。旧ソ連時代はICBMやロケットエンジンなどの生産を主力にソ連軍需産業の一翼を担っていたが、ソ連崩壊で経営環境が激変。2014年のロシアによるクリミア併合後は、主な取引先だったロシアとの関係も悪化し経営難に陥った経緯がある。北朝鮮との闇取引が疑われるゆえんでもある。

過去には実際、北朝鮮がユジマシュ社をターゲットにした事件も起きている。当時、隣国ベラルーシの北朝鮮通商代表部に駐在していた2人の北朝鮮工作員がインターネットを通じて、ユジマシュの職員にロケット・宇宙関連機器の技術に関する機密情報の提供を呼びかけた。2人の北朝鮮工作員は結局、「秘密」印が押された科学論文をカメラで撮影中に拘束され、懲役8年の有罪判決を言い渡された。2012年のことだった。

旧ソ連製のロケットエンジン「RD-250」はかつて、そのユジマシュで製造されていた。IISSの専門家によれば、エンジンの大きさは2m以下、幅も1mほどで、航空機による輸送はもちろん、ロシア経由の鉄道で北朝鮮に運ぶことも可能だという。一方で当然、同型のエンジンを大量に保有しているロシアから流出した可能性も否定できないとしている。

ただでさえ経済苦境が続くのに、不本意な汚名を着せられ国際社会から見放されてはたまらない――。恐らく、こんな思いもあったのだろう。ニューヨーク・タイムズ紙の報道やIISSの分析に対し、真っ先にかみついたのがウクライナの政権幹部たちだ。いずれも「ウクライナは北朝鮮のミサイル開発に一切関与していない」と完全に否定。ポロシェンコ大統領は直ちに真相究明の調査を指示するとともに、疑惑を晴らすため、記事を書いたニューヨーク・タイムズの記者を招待するとまで豪語した。

当のユジマシュ社も「当社は宇宙開発用であれ軍事用であれ、北朝鮮のロケット開発計画には過去も現在も一切関わっていない」との声明を発表した。

よりやっかいなのは、ウクライナ政権幹部の間でロシアに責任転嫁するような発言が相次いでいることだ。宇宙庁のラドチェンコ長官代行は「同型のエンジンは今もロシアが保有している」として、ロシアから北朝鮮に流出した可能性を強く示唆。国家安全保障・国防会議のトゥルチノフ書記は「今回の騒動を扇動したのはロシアの特殊機関だ」と批判した。

ロシアへの責任転嫁でクリミア論争再燃か

ロシアも黙っていない。ロゴジン副首相は北朝鮮が旧ソ連製エンジンをコピーしたとすれば、「ウクライナの専門家が協力しないと実現できない」と主張。プシコフ上院議員は「ロシアが北朝鮮に供給したとするウクライナ政権の声明は全く無礼なウソだ」と断じた。

ロシアメディアも、ウクライナからの流出の可能性を示唆するようなユジマシュ社幹部らの発言を報じたり、ウクライナが過去に旧ソ連製の空母「ワリャーク」を中国に売却するなど、兵器や軍事技術の売却で第3国の軍事技術向上に“貢献”してきた経緯を吹聴したりして、ウクライナの関与を強くにじませている。

かつてソ連を構成する共和国で、ともにスラブ系民族を主体とする兄弟国だったロシアとウクライナがここまで反目するのは、やはり2014年からのウクライナ紛争が大きく影響している。クリミアはロシアに併合されたままで、政府軍と親ロシア派武装勢力のにらみ合いが続くウクライナ東部でも、和平プロセスが一向に進んでいないからだ。

両国のそれぞれの世論調査をみても、極めて良好だった両国関係が2014年を境に急激に悪化したことがわかる。一見、両国関係に関わらないような北朝鮮へのエンジン流出疑惑をめぐっても、激しい非難の応酬が起きるゆえんだろう。

もっとも、全く無関係というわけではない。ロシアメディアの一部は、ウクライナが独立後にソ連時代に配備された核兵器を放棄する際、廃棄したはずのミサイルエンジンの一部が北朝鮮に流れた可能性を示唆した。

ソ連時代に国内で核兵器が配備されていたのは、ロシア、ウクライナ、ベラルーシとカザフスタンの4共和国。ウクライナは核弾頭数がロシアに次いで多く、国家独立後は一時的に「世界第3の核大国」となったものの、結局はベラルーシ、カザフとともに核保有を放棄した。

ロシアの報道はその時の混乱と北朝鮮疑惑を結びつけたものだが、ウクライナが当時、核放棄に当たって米国、英国、ロシアと交わした文書がある。1994年のブダペスト覚書だ。ウクライナが核兵器を放棄する見返りに、米英ロがウクライナの安全を保障すると規定したものだ。2014年のロシアのクリミア併合は、このブダペスト覚書への「明白は違反」というのがウクライナの主張だ。成り行き次第では、北朝鮮疑惑がクリミア論争に再び火をつけかねないわけだ。

話を戻そう。さて、ポロシェンコ大統領が指示したウクライナの調査結果はどうだったのか。トゥルチノフ国家安全保障・国防会議書記が22日、大統領に提出した報告書は「ウクライナはRD-250を含む一切の軍事物資を北朝鮮に提供していない」と関与を否定した。ウクライナはRD-250やその改良型を1991年から生産しておらず、ユジマシュ社の生産ラインは1994年に撤去されたと指摘。在庫として残っていたエンジンもすべてロシアに供給したとしている。

やはりというべきか。報告書はさらに「ロシアはウクライナの信用をおとしめるような挑発的な情報戦を組織的、計画的かつ露骨に行っている」と非難した。ロシアは6月初めから、北朝鮮がウクライナ専門家の支援でミサイル開発を進展させたかのような情報をモスクワで流し始め、ロシアの情報機関もかねてパイプのある海外の専門家やジャーナリストたちに流布したと主張。くだんの分析論文を書いたIISSの専門家も家族がロシア特殊機関幹部と親しいとして、ロシアによる情報操作が騒動の原因との見方を示した。

その真偽はともかく、両国の非難合戦が今後も加熱していくことは疑いない。

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『口先だけの日米同盟強化、北朝鮮と中国は意に介さず 日本に対する軍事的脅威は高まる一方』(8/24JBプレス 北村淳)について

8/25NHKニュース中国語版13:57(日本語版はなし)参加“朋友”行的美官兵起诉东电要求赔偿トモダチ作戦に参加した米兵は米国CA州に核を浴びたことに対して東電に損害賠償を求めて提訴)

据东京电力公司公布的消息称,东日本大地震之后,参加由美军开展的代号为“朋友”的大规模救援行动的美航空母舰157名官兵等以在活动中遭受核辐射为由,8月18日以东京电力公司和1家美国企业为对象向加利福尼亚州南部地区的联邦法院提起诉讼。

原告称,福岛第一核电站因设计、建设、维修管理不善导致事故发生,官兵在救援行动中遭受核辐射,蒙受损失,从而要求东电等创立至少50亿美金,折合约为5500亿日元的基金用于支付医疗费用、赔偿损失等。

参加“朋友”救援行动的美军官兵等从5年前起截至目前已有239人提出了类似起诉。本次的原告方提出了合并相关起诉的要求。东京电力公司就本次起诉表示,目前还没有正式收到诉状,今后将在对原告的主张和要求等进行详细研究之后,做出妥善对应。=東電が明らかにした情報によれば、東日本大震災後、米軍の大規模救援活動の“トモダチ作戦”に参加した空母の乗組員はその活動中被爆したことで、8/18に東電と米国の一企業を相手にカリフォルニア南部地区連邦裁判所に訴えを起こした。原告側は、「福島第一原発は設計・建設・メンテに問題があり、事故の発生を引き起こした。乗組員は救援活動中、核被爆を受け、損害を被り、東電に少なくとも50億$(日本円換算5500億円)の基金を設立し、医療や損害賠償に充てる」よう求めた。“トモダチ作戦”に参加した米軍の乗組員は5年前から目下239人が類似の訴訟を起こしている。今回の原告側は併合審理するよう要求した。東電は今度の訴えについて「今の所未だ正式な訴状を受け取っていないため、今後原告の主張と要求につき、細部に亘り検討してから、適切な対応を取る」と。

8/25NHK中国語版美美甜品福

自从2011年那场核电站事故后,日本福岛被贴上了核辐射的标签,令许多人谈之色变。但对于生于斯长于斯的福岛人而言,那里却是他们永远的故乡。为了改变人们的印象,福岛一家世代经营的日式甜品店开始做起了非同一般的艺术甜品。=福島県の美しく甘い和菓子  2011年の福島原発の事故後、福島のものは核被爆したとのレッテルを貼られ、見る眼も変わった。しかし福島で生まれ育った人たちにとって、そこは永遠にふるさとである。福島の印象を変えるため、数世代経営しているある和菓子店は普通の和菓子ではなく芸術的な和菓子を作り始めた

https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/zh/news/weekly_video/201708251300/ (こちらは9/1までしか視れません)

NHKがNHK Worldで、何故“トモダチ作戦”の訴訟について中国語で放送したのか分かりません。8/26確認したところでは、日本語と英語版にはありませんでした。中共にシンパシーを感じているNHKのことですから、日米離間のニュースをご注進することによって機嫌を窺ったのかもしれませんが。ロイター報道によれば、東電は24日に発表しています。NHK日本語で報道されたかどうかは、NHKはネットでは2日間分しか見れませんので、確認できませんでした。

http://jp.reuters.com/article/tepco-idJPKCN1B40NP

北村氏の論考に全面的に賛成です。日米が抑止力を高めても、当然敵の中・北はそれ以上に攻撃能力を高めて来るのは分かり切ったこと。軍拡競争になる訳です。でも日本だけが置いてけぼりを喰っている構図ですが。民主主義国では、米国でもそうですが、予算は議会を通じて監視されます。共産党一党独裁にはそれがなく、軍事費に歯止めがかかる状態にはなりません。為政者の胸三寸でどうにでもなります。こういう国には、やはり経済制裁して、軍事費を捻出させないようにしませんと。中国は大躍進政策(英米に経済で追いつく目的)を採り、自国民を数千万をも餓死させる失敗を犯しました。にも拘らず、朝鮮戦争の時に、トルーマンが中国への原爆投下の可能性について言及があり、それ以降中国は「ズボンをはかなくとも」と言って、原爆を開発し続けます。北も同様、軍事優先の為、自国民を数百万餓死させたりしています。北に至っては日米から人道支援まで貰って、核開発を続けてきた訳ですから。左翼メデイアの言いなりになることが如何に愚かか分かるでしょう。中国は早速日本に対しても、北と取引をしている中国企業と個人についての制裁に断固反対するとのこと。中国が文句を言って来ると言うのは効いている証拠ですからどんどんやるべしです。また、江崎道朗氏の言う通り、日本の防衛費も早く2%、10兆円にしないと相手国の攻撃力に見合ったものになりません。核ではありませんがMAD(相互確証破壊)のレベルまで行かないでしょう。

http://asahi.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1503652804/

記事

日米安全保障協議委員会(2プラス2)の会合に臨むため米首都ワシントンを訪れアーリントン国立墓地を訪問した河野太郎外相(左)と小野寺五典防衛相(2017年8月16日撮影)。(c)AFP/MANDEL NGAN〔AFPBB News

8月17日、日米外務・防衛トップによる日米安全保障協議委員会(いわゆる「2プラス2」)の共同発表において、2015年版「日米防衛協力のための指針」を着実に実施していくこと、ならびに日米同盟のさらなる強化を推進することが再確認された。

「日米同盟の強化」とは?

今回の会合のみならず、日本政府高官などがアメリカ政府高官や軍当局者たちと会合すると、常套句のように「日米同盟の強化」が強調される。少なくとも安倍政権が誕生して国防力の強化を口にするようになって以来、「日米同盟の強化」は日米共通の基本方針として何度も繰り返し打ち出されてきた。

「日米同盟の強化」の重要な目的、とりわけ日本にとって最も重要な目的は、「日本に対する軍事的脅威に対する抑止力を強化すること」、すなわち「抑止効果の強化」にあるとされている。

もちろん日米同盟が軍事同盟である以上、「日米同盟の強化」とは「日米同盟から生み出される戦力がトータルで強化されること」を意味している。すなわち日米同盟が強化されれば、自衛隊と日本周辺に展開する米軍の戦力がトータルで強化され、その結果として日本に対する軍事的脅威は抑止される、ということになる。

強化されていない抑止効果

だが、数年前からまるで念仏を唱えるように「日米同盟の強化」が唱えられてきたものの、1年前、2年前、3年前・・・に比べて具体的にどの程度、日米同盟は強化されてきたのであろうか?

「日米同盟の強化」の目的とされている「抑止効果」という観点から判断するならば、「抑止力など強化されていない」ということになる。なぜならば、北朝鮮軍や中国軍による日本に対する直接的・間接的軍事的脅威は、1年前、2年前、3年前・・・に比べて抑止されるどころか、ますます強化されつつあるからだ。

北朝鮮の日本攻撃用弾道ミサイル戦力が“日米同盟の強化に恐れをなして”弱体化される兆候は全くない。それどころか、対日攻撃用弾道ミサイルの精度は上がり、対日攻撃用の潜水艦発射型弾道ミサイルやミサイル潜水艦まで誕生してしまった。

それだけではない。核弾頭やそれを搭載してグアムやハワイそれにアメリカ本土まで攻撃可能とみられるICBMまで開発してしまったのだ。過去数年にわたる「日米同盟の強化」が、北朝鮮の対日軍事的脅威に対して抑止効果を生み出しているとは、到底考えることはできない。

中国の対日軍事的脅威に対してもしかり。中国人民解放軍は北朝鮮とは比べものにならないほど多種多様の対日攻撃用長射程ミサイルを大量に保有しており、核弾頭を用いずとも、日本全土を灰燼に帰する準備が整っている。ところが、日米同盟が強化されているはずの過去数年にわたって、それらの日本攻撃用長射程ミサイル戦力は弱体化されるどころか、ますます強化され続けている。日米両政府が唱えている「日米同盟の強化」が、人民解放軍の対日ミサイル脅威に対して抑止効果を発揮しているとは、やはりみなすことはできない。

日本の安全保障に重大な脅威となる東シナ海や南シナ海に対する中国の軍事的進出状況も、過去数年間でますます強化されている。

東シナ海では、日本の領海や接続水域への接近・侵入事案が多発し続けている。日本の領空に接近する恐れがある中国軍用機に対する航空自衛隊のスクランブル件数もうなぎ上りの状態だ。南シナ海では、本コラムでも繰り返し取り上げているように、南沙諸島に人工島を建設し軍事基地化も猛スピードで完成しつつある。そのため、南シナ海の軍事的優勢は、中国側の手に転がり込みつつあるのが実情である。

このように、日米同盟が強化されつつあったはずの過去数年間で、東シナ海や南シナ海への中国軍の活動は抑止されるどころか飛躍的に強化されてしまった。

「自衛隊の打撃力」構築が鍵

もちろん、日本周辺に展開するアメリカ軍が戦力を縮小してしまったというわけではない。2015年版「日米防衛協力のための指針」が公表された際の2プラス2共同発表や、両国首脳や国防当局などが事あるごとに確認し合ってきたように、アメリカ軍が日本周辺に最新鋭兵器を含む強力な戦力を展開させ続けていることは事実である。

ということは、これまでの日米同盟の戦力構成、すなわち「自衛隊の防御能力」プラス「アメリカ軍の打撃能力および防御能力」(しばしば「日本が盾、アメリカが矛」という表現がなされるが、アメリカ軍自身も強力な防御能力を保持していることは言うまでもない)では、もはや中国軍や北朝鮮軍の対日軍事的脅威を威嚇することはできないということを意味している。

したがって、日米同盟の戦力をトータルで強化するには、これまで実施されることがなかった「自衛隊の打撃能力」を構築し、日米同盟の戦力構成を、「自衛隊の防御能力および打撃能力」プラス「アメリカ軍の打撃能力および防御能力」へと転換しなければならい。

もっとも、このような趣旨の同盟強化は、すでに2015年版日米防衛協力のための指針」に明記されている。だからこそ今回の2プラス2共同発表でも、あえて2015年版「日米防衛協力のための指針」の実施が強調されたものと思われる。

しかしながら、日本の国防・外務当局側には、依然として「日米同盟の強化」を「アメリカ側が喜ぶような施策を実施すること」と履き違えている感が否めない。すなわち、日本防衛の優先順位にかかわらず、高額兵器をアメリカから購入するといった事例が目立つ。日本政府は、日本が「日米同盟を強化させる」ために必要なのは、「自衛隊に打撃能力を付加すること」との認識を明確に持ち、アメリカ側から注文される前になけなしの防衛費(もちろん防衛費総額の倍増は急務なのだが)を有効に活用していく責務がある。

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『中国「企業の姓は党」キャンペーンの先に待つ闇 北戴河会議終了、「習近平独裁」への道は広がったのか』(8/23日経ビジネスオンライン 福島香織)について

8/25日経電子版中国国有企業、止まらぬ巨大化 習氏主導で合併相次ぐ 

中国で国有企業の合併が相次いでいる。仕掛ける共産党が掲げるスローガンは「より強く、より優れ、より大きく」。世界で戦える巨大な国有企業をつくる構想は、権力集中を進める習近平総書記(国家主席)の政権戦略と密接に絡む。

石炭大手の神華集団と、発電大手の中国国電集団が合併へ――。2日、国有企業の大型再編を伝えるニュースに、業界関係者は色めき立った。

北京で開かれた公開のフォーラムで、国電幹部が明らかにしたのを受けた報道だった。ところが主催者は翌日、奇妙な対応を取った。「上の指示で、国電の幹部が発言した部分だけ会議録を渡せなくなった」。合併を表明した発言を事実上なかったことにしたのだ。

関係者は「発言は事実だ」と認めたうえでこう解説した。「国電幹部は党の許可を取らずに話してしまったのだろう」

中国には国務院(政府)が所管する「中央企業」と呼ばれる大型の国有企業が現在、99社ある。神華と国電はいずれも中央企業だ。当局はいま、猛烈な勢いでその統合を進めている。

当局の背中を押すのが、共産党中央と国務院の連名で2015年8月にまとめた「国有企業改革の深化に関する指導意見」だ。「世界一流の多国籍企業を育てる」との目標を掲げ「20年までに決定的な成果を上げる」とぶち上げた。「より強く……」のスローガンもこの中に出てくる。

数値目標は設けなかったが、当時110社あった中央企業を40社程度に集約する案を念頭に置いていた。期限まであと3年。自動車大手の中国第一汽車集団と東風汽車公司などをはじめ、ここにきて多くの統合構想が浮上してきた背景には当局の焦りがのぞく。

15年の指導意見は、共産党が国有企業改革で前面に出る根拠にもなっている。「習総書記のたび重なる指示を受け、改革の方向性と基本ルールを明記した」。国務院の担当幹部は当時の記者会見で、意見が「習氏の意向」であると強調した。

習氏の狙いを理解するには、06年末に胡錦濤前政権がまとめた国有企業改革の指導意見を振り返る必要がある。

中央企業を再編し、グローバルな競争を勝ち抜く巨大な企業集団をつくる発想自体は変わらない。しかし、あくまで主役は国務院で、党は余計な口を挟まないという姿勢をにじませていた点が15年と大きく異なる。

それが裏目に出た。国有企業は既得権を守るために統合を渋り、再編は遅々として進まなかった。党高官や引退した長老らの利害が複雑にからみ合い、胡指導部はひどくなる一方の汚職に手をつけられなかった。

12年に最高指導者の地位に就いた習氏は、党が国有企業をコントロールできていない状況に危機感を抱いたはずだ。

反腐敗闘争を通じて国有企業の幹部を次々に摘発し、党の指示を忠実に守る人物を新たに送り込んだ。経営上の重要な決定にあたって党の意見を事前に聞かなければならないとする規定を定款に書き込ませ、党の意のままに動く企業グループを次々につくり出した。

1990年代後半に当時の朱鎔基首相が取り組んだ国有企業改革とはだいぶ違う。朱氏は非効率な国有部門を小さくし、民間部門を育てて競争を喚起しようとした。80年代に実現した日本の国鉄や電電公社の分割民営化を研究し、参考にした。

習氏は逆だ。国有企業を集約してさらに大きくし、国内である程度の独占を認める。中国勢どうしの消耗戦を避け、世界に出ていく発想だ。

習政権下で合併してできた鉄道車両の中国中車や、海運業の中国遠洋海運の存在感は世界で無視できない。低価格を武器にますますシェアを高め、他国の企業との競争を有利に進めている。

だが、国や党の思い通りになる巨大な紅(あか)い企業が世界の市場でわがままに振る舞えば、自由で健全な競争をゆがめかねない。必ずしも経済合理性だけで動かないとされる中国企業の巨大化に警戒感が強まる。(中国総局長 高橋哲史)>(以上)

習近平の狙いとするのは、「共産主義」の革命の世界輸出ではなく、中国が軍事的・経済的に世界を制覇することでしょう。富を全部彼らが奪いたいと思っているだけです。そもそも今の中国に「共産主義」の理念とする「結果の平等」なんてありません。勿論ソ連にもありませんでしたが。三権分立していないため、ノーメンクラツラーが好き勝手できる社会です。ただ、今の中国は世界と貿易して富んでいる分だけ余計に質が悪いと言えます。

中国は貿易で稼いだ富を人民に分配するのでなく、高官の蓄財と軍拡に使っています。それでGDPに占める消費の割合が37,8%にとどまっている訳です。

毛沢東時代には左派の陳雲が「鳥籠経済」を唱え、閉じた経済で中国国内にしか影響を与えませんでした。歴史的転換は①1971年のキッシンジャー訪中で中国共産党をソ連共産党から引き剥がし米国側につけたこと。(キッシンジャーは中国人の底意が読み切れていなかったのでしょう。利用するつもりで利用された訳です。中国お得意のハニーやら賄賂に動かされたのでは)②2001年12月の中国のWTO加盟(日米とも後押しをしてモンスターを造ってしまったわけです。製造物責任が両国にはあります。「中国が富めば民主化する」何て幻想を抱くのは中国人を余りに知らな過ぎです。「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という国ですから)です。中国人は利用できるものは何でも利用します。民主主義の弱点に付け込むこともして来ます。

8/25日経記事にありますように、朱鎔基は1998年総理となり、鉄飯碗と言われた国営企業改革に命を懸けて取り組みました。鄧小平の下で企業に経済的自由度を与えようとした訳です。習近平は正しくそれと逆方向のことをしようとしています。米国に亡命した何清漣が1年前に習の経済政策について解説したものがあります。ご参考まで。

http://heqinglian.net/2016/08/06/soe-reform-2/

習の国営企業合併策は、経済音痴で力の信奉者の為せる業です。第二の毛沢東を目指すというよりは、毛沢東越えを目指していると言った方が適切です。毛は「大躍進」や「文化大革命」で2000万~1 億人もの中国人を殺したと言われています。今度の習は毛を越えるというのであれば何億人殺すのでしょう?今度は自国民だけでなく、外国人も含めた殺戮を楽しむ核戦争を始めるつもりでは?福島氏が「習近平独裁の中国は、北朝鮮よりもさらに巨大で横暴な大国として日本の脅威になりそうな予感である。」と述べているのは杞憂ではありません。現実化しつつあります。

馬渕睦夫氏の『アメリカ大統領を操る黒幕 トランプ失脚の条件』から中国について述べた部分を紹介します。中国ほど危険な国はありません。日本国民、日本企業には自覚が求められます。

(P.150~151) 習近平は反腐敗キャンペーンを行ない、汚職に手を染める党幹部や官僚を摘発していますが汚職に関与していない党幹部などいるはずがなく、誰でも摘発できるわけで、政敵 の掃討に利用しているだけです。

中国では「上に政策あれば、下に対策あり」とよく言われますが、そういう社会に生きてきた一般の民衆が、上の人間たちの腐敗を目にして社会や国家への帰属意識をもたなくなり、「自分の身は自分で守る」と考え、それがエスカレートして極めて自分本位な考え方になるのは当然です。

私は別に中国人が嫌いでも何でもなく、むしろ非常に気の毒だと思います。しかし、こういう自己中心的な人々が何億人集まろうと、「国家」にはなりません。韓国もよく似た面がありますが.後述するように中国は「国家」ではないので、いくら条約を結ぼうと、 合意をしようと守らなくても平気です。

南京大虐殺問題でも、中国が嘘を平気でつくのは、それが“中国の性”だからだと言えます。戦前に中国に渡ったアメリカの外交官、ラルフ•タウンゼントが著わした『暗黒大陸中国の真実』(田中秀雄・先田賢紀智訳•芙蓉書房出版)には、誰もが平然と嘘をつき、それを恥じない中国人が詳細に描かれています。タウンゼントは同書で、「他人を信用する中国人はいない。なぜなら自分が他人の立場に立ったら、自分を信用できないからだ」と述べています。

支配者が搾り取れるだけ搾り取ろうとし、そこから逃げなければ生きていけないという 世界に生きていれば、そうなるのも当然だと思います

中国は「国家」ではない

中国が自力で発展できなかったのは、愛国者がおらず、「国家」になれなかったからです。 では、あの地には何があるのかというと、「安い労働力」と「13億人の市場」があるたけです。アメリカやEU、日本や台湾、韓国などが資本や技術などを支援しなければ、自力で発展することができなかった国なのです。

(P,152~153)一方の中国には大した天然資源がなく、安い労働力があっただけでした。だから、工場 を移転させて、安い労働力を利用して、世界の工場にしたのです。

その際に役に立ったのが中国共産党政府です。民主国家であれば、土地の強制収用には 面倒な手続きが必要で、反対運動でも起きれば頓挫してしまぅこともあります。しかし、 共産党政府であれば強権的!に有無を言わさず、強制収用ができます。労働者を劣悪な労働環境で働かせたり、排気ガスや廃水で環境を汚染したりしても、住民を黙らせてくれます。 だから、共産党政府を温存したのです。

アメリカは中国を民主化しようなどとは微塵も考えてきませんでした。共産党の体制下で、甘い汁を吸ってきただけです。それが限界に来て、酸っぱい汁しか出なくなったので、 いよいよ中国からの撤退を始めたというところです。 実際,中国の経済成長はすでに:終わりつつあります。

中国が発表する統計数字はデタラメばかりで、明らかに経済は失速しているにもかかわらず、経済成長率が7%前後なんてあり得ません。そこには理由があります。2013年 の全国人民代表大会(全人代、国会に相当する)で習近平政権が誕生したときに、中国の実質GDPを10年で「2倍にする」という公約を打ってしまっているのです。実質GDPを 10年で2倍にするためには、年間の経済成長率を7%前後に維持しなければ達成できません。

しかし、7%から大きく乖離した数字を発表すれば、習近平政権が公約違反をしたという話になってしまいます。中国共産党の権威は、経済を成長させ、中闰人民を豊かにするということで支えられています。だから「年7%前後の経済成長」が守れないとすると、習近平、いや中国共産党の威信が失われてしまいます。実態はそれこそマイナス成長だったとしても、絶対に発表するわけにはいかないのです。

「世界の工場」として経済発展したおかげで労働者の賃金が上昇し、すでに中国は「安い労働力の国」ではなくなりつつあります。レイバーコスト(人件費)が上がって、かつ品質の悪い製品しか製造できないのであれば、外国企業が撤退していくのは当然です。

(P.158~159) 本物の海洋国家であるアメリカの海軍に挑戦し、衝突すれば、ひとたまりもなく粉砕さ れるでしょう。そんなことは中国側もよくわかっていますから、常識的に考えれば中国が本気でアメリカに対峙することはないと言って構わないでしょう。しかし、中国の対米関係は習近平の権力闘争の一環でもあることを考えれば、習近平がアメリカを挑発し続ける可能性は排除できないでしょう。もし、アメリカの海洋覇権という.虎の尾を踏めば、アメリ力は中国を軍事的に叩くと考えられます。

そもそも、人民解放軍が本当に共産党政権を守るかどうかも怪しいと言わざるを得ません。人民解放軍は自給自足型の軍隊で、不動産開発から医療事業、農業、工業に、ホテルやレストラン、カラオケ店の経営まで、非常に幅広く営利事業を展開し、共産党政府からの予算だけに縛られていません。

中国の国家主席は、人民解放軍を実際に動かせる力があるかどうかで決まるといわれ、逆に人民解放軍からすれば、共産党政府が倒れたところで昔の軍閥に戻ればいいだけで、大した影響はありません。国家に対するロイヤリティがなく、目先の利益にしか興味がないのは、人民解放軍とて同じです。

フランスの経済学者で、ミッテラン仏大統領の補佐官や復興開発銀行の初代総裁を務めたジャック•アタリは.著書『21世紀の歴史―未来の人類から見た世界』(林昌宏訳、作品社)のなかで、「2025年には、いずれにせよ中国共産党の76年間にわたる権カに終止符が打たれるであろう」と述べています。アタリの予想通りならば8年先ということになりますが、私はそれより早く崩壊.が訪れるだろうと予測しています。

注目すべきことは、そもそもアタリは何故こんな予測ができるのかということです。アタリは、世界統一を目指す国際金融勢力の仲間だから、彼らの計画を述べることが可能なのです。

一般に言われているように経済成長が望めなくなれば、今まで民衆の間に吹き溜まってきた不満がいよいよ爆発します。経済が伸びて潤っていたから我慢していただけで、「金の切れ目が縁の切れ目」となります。経済成長が止.まれば、国際金融資本も共産党一党支配を支える必要がなくなります。彼らが作った中国共産党政権に引導を渡すことになるのです。

記事

「習近平独裁」への道は広がったのか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

このコラムでも注目してきた今年の北戴河会議(河北省のリゾート地・北戴河で行われる共産党幹部・長老の秘密会議、秋の党大会の根回しが行われる)がどうやら8月16日までには終わっていたようである。政治局常務委員の一人、張徳江(全人代常務委員長)が湖南に全人代執法検査のために訪れた様子を、16日夜のCCTVテレビが報じていたからだ。17日には習近平もメディアで動静を報じられるようになった。北戴河会議はいつ始まって終わったと広報されることはないので、政治局常務委メンバーの動静が報じられなくなった段階で始まったな、と判断し、その動静が再び報じられて、あ、終わったな、と気づく、そういうものである。そうすると8月3日ごろから15日ごろまで開かれたのだろうと判断できる。

ただ、この北戴河会議で、人事における激しい攻防があったとか、そういう話は今のところ、流れてこない。むしろ習近平の思惑どおりの人事が進んだ、習近平の勝利で終わった、という分析の方が香港メディアを中心に多くでているのではないか。5月ごろまでは、北戴河会議では壮絶な権力闘争、駆け引き、特に反習近平派の反撃が展開されると思われていた。だが蓋をあけてみれば、異様なほど静かな北戴河会議であったようだ。

長老たちの静かな夏休み

北戴河会議直前に、孫政才を完全失脚させるなどの荒技で、長老らアンチ習近平派が会議での反撃の意欲を失ったということなのだろうか。8月18日付けのサウスチャイナ・モーニングポストのように、例年のような秋の党大会の水面下交渉といった意義のある北戴河会議自体が今年は開かれなかったのだ、と報じる香港メディアもあった。つまり、長老たちの影響力自体がすでになく、彼らの北戴河入りは、単なる“夏休み”に過ぎなかった、というわけだ。

サウスチャイナ・モーニングポストは習近平寄りの政商・馬雲率いるアリババが資本を握るメディアなので、これは習近平サイドのプロパガンダの可能性もあるが実際、江沢民は連続三年、北戴河会議を欠席しており、兪正声、孫春蘭、劉延東ら現役政治局員を含む幹部がこの時期、内モンゴルに視察に行って北戴河会議には出席していなかった。

江沢民派、上海閥には特に若手の後継もなく、習近平の対上海閥との権力闘争という点では、習近平に軍配が上がる形でほぼ決着がついているので、兪声正らが会議をさぼるのはわかるのだが、孫春蘭や劉延東ら共青団派の重鎮たちが会議に参加しなかったら、孫政才が失脚後、ほぼ唯一の希望の星といっていい共青団ホープの胡春華の政治局常務委員会入りは危ないのではないか。しかも、胡春華自身もどうやら北戴河会議に参加していない。また同じく政治局常務委員入りの可能性があるといわれている汪洋(副首相)も、韓正(上海市書記)も、北戴河会議の期間、海外に行ったり、地元の視察に行ったりしていた。つまり出席していない。

となると、北戴河会議は政治局常務委員会入り人事に絡む重要人物や長老たちの多くが欠席したか、あるいは開催したとしても、ろくな話し合いをしなかった可能性がある。

これを、習近平がすでに独裁的な権力を掌握しており、今年の北戴河会議は習近平による習近平のための会議であったので、多くの長老や現役政治局委員たちが出席する意欲すら起きなかった、ととらえる人も多い。しかも習近平寄りのネタ筋は、盛んに党規党章に「習近平思想」が書き込まれることが北戴河会議で決定したという情報も流している。

とすると、本当に習近平が毛沢東、鄧小平に続く中国共産党第三の強人独裁政治を打ち立てるのだろうか。ならば、もし習近平強人独裁政権が確立したら、中国はどんな国になるのだろうか。それを今回、想像してみたい。

中華民族が偉大であった時代とは

習近平思想は具体的に何を指すのかというと、「中華民族の偉大な中国の復興の夢」「中国の特色ある社会主義の堅持と発展」「四つの全面(全面的小康社会、全面的法治、全面的改革の深化、全面的に厳格に党を治める)の実現」「五位一体(政治・経済・社会・文化・エコ)の全体的レイアウト」「平和発展の道」「国防と軍隊の現代化」「人民を主体とした党の一切の指導」などが挙げられている。

特に重要なのは「中華民族の偉大な中国の復興の夢」。では習近平が目指す中華民族が偉大であった時代とは、いつのことかといわれると、最大版図を築いた清朝なのか。あるいは外国まで侵略した元王朝なのか、いや両方とも外来民族が築いた王朝ではなかったか。それなら一応漢族の王朝であった明朝を目指しているのか、といった話になる。要するに、かつてあった世界の中心として周辺国を朝貢国として従えていた帝国を再現したい、という風にとらえられている。必ずしも、現代世界の責任ある近代国家の大国を目指しているわけではないのがミソだ。

これを実現するために必要なのが「国防と軍隊の現代化」「人民を主体とした党の一切の指導」ということになる。「四つの全面」などのスローガンをみると、習近平思想も法治や改革を目指しているのだろうと言う人もいるかもしれないが、四つの全面に挙げられている全面的な法治国家の実現とは「共産党による法を使った支配」を指しており、西側民主主義国家の法治概念「法の支配」と全く別ものということは、すでに現役の人民最高法院長らが言明している。さらに「党の一切の指導」は強化され、下部組織は上部組織に従うという共産党独裁の原則が徹底される。もちろん今までも共産党独裁であったが、党内のシステムをいえば、最終的な決定は政治局常務委員による多数決で決まる合議制であり、寡頭独裁、あるいは党内寡頭民主といわれる多数派政治であった。総書記の発言には否決権も議決もなく、奇数人数の政治局常務委員会メンバーが持つ一票分の権力に制限されていた。

強軍化へ軸足を移す

習近平は、これを自分自身が「唯一無二の党の核心である」と位置付けるキャンペーン、「メディアの姓は党」(メディアは党に忠誠を誓う)キャンペーンでメディアを通じた世論コントロールを強化。今度の党大会では党規党章に「習近平思想」を盛り込み、できれば党主席制度の復活も狙っている。党主席とは毛沢東独裁の象徴のような職位。否決権も議決権も持ち、定年制も関係ない特別の唯一無二の地位、ということになる。習近平が党主席となって党の指導思想を「習近平思想」と呼び「党の一切の指導」という独裁体制を徹底し、清朝だか明朝だか元朝だかの版図と国際影響力と取り戻す。それが習近平の目指す長期独裁体制である。

そのための国防と軍の近代化は、決して国軍化ではなく、党の私軍という解放軍の基本に立ち返ることであり、共産党の執政党としての権威維持の根拠は鄧小平、江沢民、胡錦涛時代まで続いていた経済発展から、中国の夢の実現をかなえる強軍化へと軸足を移すということである。

この「党の一切の指導」の徹底というのが、今顕著に表れているのは経済分野である。たとえば今、注目を集めている「企業の姓は党」(企業は共産党に忠誠を誓う)キャンペーン。企業は、共産党の指導に従うことを徹底する、ということであり習近平政権は、現在約3200社の大企業に、党の指導に企業が従うことを条文に盛り込んだ定款に変更するよう通達を出している。これには香港上場企業も外資との合弁企業も含まれており、また民営企業も追随する方向で動いている。すでに200前後の企業が定款変更届を出しており、うち香港上場企業も30社以上含まれるようだ。

リコノミクスは雲散霧消

中国における企業はすべて自社利益よりも党の利益を優先すべきであり、投資案件も株の売買も人事も党の利益を最優先して決定される、ということだ。すでに万達集団や復星国際などの民営大手が、勝手な外資購入を行ったとして銀行融資を止められる懲罰を受けているが、今後、民営、国有、合弁、上場企業問わず、外国投資は党が「戦略的」と判断したものしか許されなくなるという。この「戦略的」という判断は、企業にとっての経営戦略の意味ではなく、国家戦略、包み隠さずいえば対外拡張戦略、軍事国防戦略を指す。なぜなら習近平思想の骨子は、「中華民族の偉大なる復興の中国の夢」、清朝あたりの版図および国際影響力の復興だからだ。すでに何度かこのコラム欄でも指摘していると思うが、習近平のぶち上げる経済構想「新シルクロード構想・一帯一路」も軍民融合戦略も、企業や消費者に利益をもたらすように設計されていない。これは中国の長期軍事戦略の視点から打ちたてられたものである。

習近平のいう「改革の深化」とは当然、同じ方向性で、党の統制強化のための改革である。「国有企業改革」とは、ゾンビ企業を淘汰して民営化して、外資なども入れて香港市場に上場して経営を立て直すなどといった真っ当な国有企業改革ではなく、有力国有企業の合併を進め、大規模化し、その経営から人事に至るまで党がコントロールし、その大規模国有企業を通じて市場を党がコントロールするという方向に変わった。2013年秋の三中全会にリコノミクス(李克強が主導する経済政策)として打ち出された経済政策は、「簡政方権(行政手続き簡素化と権限委譲)」といったキーワードで説明されていたが、今やリコノミクスは雲散霧消し、習近平が目指すのは企業の党への忠誠と市場の支配である。

これはわかりやすくいえば、鄧小平路線の終焉である。共産党寡頭独裁(あるいは党内寡頭民主)も、改革開放路線も鄧小平が打ち立てた共産党秩序と方向性である。鄧小平は党員が資本家になり、資本家が党員になる道を開き、共産党こそが人民を豊かにしてくれるという幻想を共産党の執政党としての権威根拠に利用した。その結果、権貴政治と呼ばれる政治家と資本家が癒着した腐敗構造が起き、富める党員・中産階級と改革開放の恩恵を受けられず搾取される農民・労働者という二元構造が中国共産党政治の大いなる矛盾として持ち上がり、ついには経済発展の頭打ちという現象が胡錦涛政権末期に表れるのである。西側民主主義的発想ならば、ここで天安門事件以降棚上げされていた政治改革に取り組め、ということになるのだが、この矛盾を抱えたまま政権を禅譲された習近平は鄧小平路線そのものを捨てる方へ舵を切った。共産党の権威の根拠を持続的な経済発展に求めるのではなく、党の指導強化と強軍化に求め、清朝並みの国際社会における版図、影響力を取り戻すという野望を人民と共有することで、求心力を維持しようと考えたわけだ。

巨大で横暴な、最後の王朝か

習近平独裁の中国イメージがおのずと湧いてくるのではないか。中国が段階的にロシア方式で変貌していくという一部西側の学者たちの期待は裏切られつつあり、中国は、むしろ北朝鮮の先軍政治に近い方向に向かっている。いかに、習近平が有能な経営能力を持っていたとしても、企業活動に党が深く介入すれば経済の活力は大きく低下し矛盾は増大する。国際社会が最後のフロンティアと期待した中国市場は閉ざされていく。もちろん、AIやITなど共産党が戦略意義を認める分野には集中的に資金投入され、中国がAI、IT技術で世界を凌駕するかもしれないが、そのAI、IT技術がジョージ・オーウェルの小説「1984」に出てくる「ビッグブラザー」を創り、周辺国を支配するために利用される。人類を幸福にするイノベーションとは程遠そうだ。

習近平が目指す長期独裁政権に対する私のイメージはこんな感じだ。全く見当違いだと批判する人もいるだろうし、私自身、見当違いであってほしい。権力を握った習近平が、いきなりゴルバチョフのようにペレストロイカやグラスノチを打ち出すといった大転換があればよいのに、とも思う。だが、この5年間の習近平政権の言動を総合すると、習近平独裁の中国は、北朝鮮よりもさらに巨大で横暴な大国として日本の脅威になりそうな予感である。

まだ党大会までには時間もあり、また党大会前には七中全会(第七回中央員会全体会議)もあるはずで、人事も習近平思想も党主席制度もどうなるかはわからない。私自身はそのような独裁体制がたとえ誕生しても、長期の安定を維持できるとはとうてい思えないので、習近平王朝が最後の王朝で、多くの人が思うよりも短命ではないかという希望的観測はまだ保留しておきたい。

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『「世界の敵」とスクラムを組む韓国 「中立宣言」は中立で終わらない』(8/22日経ビジネスオンライン 鈴置高史)について

8/22facebook記事、ソウルの慰安婦謝罪碑を貼り替えた奥茂治氏の文大統領あての提言(ハングルもありましたが、英語と日本語のみ表記)です。わざと逮捕され、韓国の裁判で慰安婦問題が朝日新聞によってデッチ上げられたことを証言するとのことです。是非支援していきましょう。

<OKU SIGEHARU

Recommendation to the President of Korea The other day, “towards the problem solving of the comfort women, recruitment of Engineering, universal values ​​and national consensus of humanity, relapse prevention promise we need” in the speech of the sentence standing Tiger president in place the Liberation Day in Seoul, Korea in the I suspected my ears. Why will not you try to remove the stone monument that false wording in the National Cemetery managed by your own country and reveal it as false why? The monument is to be a false wording chopped the Japanese Kiyoji Yoshida in order to bring out the compensation from Japan to the recruitment of Engineering and the comfort women Japan and the Korean problem in Japan, but I such that the Korean researchers have observed, President Roh seems to have no idea about it. To resolve the issue the statement the President himself was raised does not seem only not to listen to the left and right are correct expert opinion in its own way to it, but statements president required quest of truth activists of action. If the national consensus is needed in Korea, how much compensation was made to a legitimate comfort woman about the comfort women problem that hinders friendship between Japan and South Korea? Why prevent Abe / Park’s implementation of the Japan-Korea agreement? If Korean citizens know its origin, I think that the problem of comfort women is disgusted. From now on Korean politicians and the press will not cherish the behavior of the activists who raise the fists as the voice of the people. I think the president should notice promptly that the silent majority is important. And it is shameful that was erected the monument of apology to Seiji Yoshida, you want to propose whether heir is not a chance to remove what now requesting the removal.

Because Mr. Kotaro Miura translated for the time being, I will post it.

OKU SIGEHARU  韓国大統領への提言  先日、韓国ソウルで行われた光復節での文在寅大統領の演説で「慰安婦・徴用工の問題解決に向け、人類の普遍的価値や国民的合意、再発防止約束が必要だ」には我が耳を疑った。  自分の国が管理する国立墓地に虚偽の文言を刻んだ石碑を堂々と建立させ虚偽と判明しながらもなぜ取り除こうとしないのか?その石碑は慰安婦と徴用工を日韓の問題にして日本から補償を引き出すために日本人吉田清治が刻んだ虚偽の文言である事は日本、韓国の研究者が認めている事なのだが、文大統領はその事を全く知らないようだ。  文大統領自身が提起した問題を解決するにはそれなりに真実の探求が必要なのだが文大統領は活動家の行動に左右され正しい研究家の意見には耳を傾けてないとしか思えない。   韓国で国民的合意が必要なら日韓両国の友好を妨げる慰安婦問題についても正当な慰安婦にどれだけの補償がなされたのか?安倍・朴の日韓合意の履行を何故、誰が阻止させているのか?韓国国民がその原点を知れば慰安婦問題はもううんざりだと思うだろう。  これからは韓国の政治家やマスコミは拳を振り上げる活動家の行動を国民の声として大切にするのではなく。サイレントマジョリティーこそ大切である事に大統領は早く気づくべきだと思うのである。  そして吉田清治に謝罪の碑を建立させたことを恥ずべきであり、相続人が撤去を要求している今こそ取り除くチャンスではないかと提言したい。>(以上)

8/2ustralia-Japan Community Network (AJCN) (EN)記事<Setting the Record Straight: Comfort Women and Compensation>。山岡鉄秀氏(モラロジー研究所(麗澤大学内)研究員)の英文の寄稿です。外務省が戦闘能力を持たないため、個人が努力して戦っています。中共や朝鮮半島は間違いなく国が関与してジャパン・デイスカウント作戦を実行しているというのに。米国が今までは日本の主張を抑えて来たとすれば、米朝、米中、で対峙するのが明らかになってきていますので、今が慰安婦やら徴用工問題を世界に向けて、修正するチャンスです。米国と擦り合わせて、いつでも発信できる準備を外務省はしておかないと。

http://jcnsydney-en.blogspot.jp/2017/08/setting-record-straight-comfort-women.html?m=1

8/23アポロネット<朝鮮給敘利亞化武貨物被截獲 3國核武來源於中共=北朝鮮はシリアに化学兵器を与え、パキスタン、イラン、北朝鮮の核兵器技術は中共由来>には“維基解密:中共是核擴散的始作俑者

維基解密曾披露,中共副總理錢其琛手下線人向美國密報,朝鮮根本就沒有核武器,都是北京秘密部署的,目的是平衡美國在台灣的影響力。中朝兩國唱雙簧,藉由永遠議而不決、決而不行的“六方會談”爭取美國最終放棄台灣,否則即將面對朝鮮“核代理”所發動的戰爭。中共可以置身事外,坐收戰爭成果。=ウイキリークス:中共が核拡散の悪事の先例を作った。  ウイキが言うには、中共の副総理であった銭其琛の部下が米国に密告した。「朝鮮は全く核兵器は持っていない。全部北京の秘密基地のものである。目的は米国の台湾への影響力とバランスを取るためである。中朝両国合作の6者会談は永遠に議して決めず、決めても実行せず、最終的に米国に台湾を諦めさせる。さもなければ、朝鮮を代理とした核戦争に直面するであろう。中共は我が身を外において、座って戦争の成果を受け取れば良い」と。銭其琛が副総理でいたのは1991年~2003年であるため、今や北は自力で核やICBMを開発できるところまで来ました。ウィキの米国に密告したというのは首を傾げますが。普通は黙ってやるのではと。でも、小生が習近平VS江沢民派+瀋陽軍区+北朝鮮の構図で捉えない方が良い、デイスインフォメーションの可能性があるというのを裏付けます。まあ、ウイキがどの程度信用できるかという問題もありますが。やはり、台湾にも米軍基地を置き、日米台の同盟で中国の太平洋進出を抑止しなければ。また南シナ海やインド洋進出もASEAN諸国とインドと連携して中国を封じ込めないと。

http://hk.aboluowang.com/2017/0822/981834.html

鈴置氏の記事で、8/16朝鮮日報の社説「「戦争反対」とか「平和的解決」などの言葉は確かに間違ってはいない。だが、それにより北朝鮮の核廃棄ができない場合、大韓民国の5000万人の国民は金正恩の核の奴隷として生きていくしかない。そうでなければ他にどんな方法があるというのか。」というのを日本に置き換えてみれば良いでしょう。それを伝える日本のメデイアは産経以外ないのでは。まあ、日米の認識として、韓国は向こう側の国と思っているでしょうから。ただ、米国が素直に裏切りを許すとは思えません。そんなに甘くはないです。日本に原爆投下するくらいの国ですから。クーデターを起こさせるか、戦争を起こして北の攻撃でソウルを火の海にすることくらいは考えているのでは。米国によれば、朝鮮半島全体が「世界の敵」認定されたということですので。

記事

顔をしかめるナウアート米国務省報道官(写真:AP/アフロ 8月9日撮影)

前回から読む)

韓国が「平和」を名分に掲げ「中立」に動く。それは「北朝鮮との共闘」の入口だ。

「裏切り」に質問が集中

—北朝鮮のグアムへの威嚇を期に、韓国が「有事の中立」を宣言しました。

鈴置:8月15日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「光復節」の祝辞ではっきりと、米国による北朝鮮への先制攻撃は許さないと宣言しました(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。

青瓦台(韓国大統領府)の「第72周年光復節祝辞」のその部分を翻訳・引用します。

朝鮮半島で再び戦争を繰り返してはなりません。朝鮮半島での軍事活動は大韓民国だけが決めることができ、誰も大韓民国の同意なくして軍事活動はできません。

政府は何があっても戦争だけは止めることでしょう。

米国が先制攻撃する際、韓国はそれを止めるし加担もしない、との宣言です。

—「中立宣言」に米国はどう反応しましたか?

鈴置:8月15日の国務省の記者会見で「韓国の裏切り」に質問が集中しました。報道官は初めは明確な答えを避けていました。

が、記者の執拗な質問により、最後は「北朝鮮と戦わない韓国」への疑問を、暗示的にではありますが口にすることになりました。

しどろもどろの報道官

—報道官が文在寅演説に関するコメントを避けたのはなぜですか?

鈴置:米国にとって「中立宣言」は明らかな裏切りです。でも、韓国への怒りを表明すれば「米日韓」の対北朝鮮包囲網が崩れたことを認めることになってしまいます。

国務省の「Department Press Briefing-August 15, 2017」から関連部分を拾います。記者が突っ込むごとに、ナウアート(Heather Nauert)報道官がしどろもどろになっていくのが分かります。

会見ではまず、北朝鮮のグアム沖へのミサイル発射計画などについて質問が出ました。続いて、文在寅大統領の「韓国政府の許可なくして誰もが軍事行動できない」との発言に関する質疑に移りました。

ある記者が「それに対する米国の立場は?」と質したのです。報道官は「米韓はいい関係を持っている」「仮定の質問には答えられない」などと誤魔化しました。

すると記者が「金正恩(キム・ジョンウン)が韓国を奇襲攻撃したら、米国は軍事行動に出るのか」とたたみかけました。それに対し報道官は「韓国は同盟国である。我々は韓国を守る」と答えました。このやりとりの原文は以下です。

質問: What if North Korean Kim Jong-un sudden attack South Korea? Can the United States engage in this military action?

報道官: As you know, South Korea is an ally of ours; and as we do with our allies and friends, we pledge to protect them as well. Okay?

韓国の許可が要るのか

当然の答えですし、こう答えなかったら問題です。でも、会見場でこれを聞いた記者たちは「米国は韓国を守るというのに、米国が米韓共通の敵を攻撃するのを韓国が邪魔すると言い出した。韓国はいったい何を考えているのか。米国はそれを許すのか」と疑問を膨らませたことでしょう。

ナウアート報道官はこの率直な疑問に対し、何らかの答えをせざる得なくなりました。記者の作戦勝ちです。

この後いったんは、北朝鮮に対する中国の姿勢などの話題に移りましたが、また「文在寅発言」に話が戻されました。

「米国の(北朝鮮に対する)いかなる攻撃に関しても、韓国の許可が要るのか」との、本質を突く質問が出たのです。ナウアート報道官は「外交的な問題でもあるが、国防総省も絡む問題だ。直ちには答えられない」と答えました。

質問: It’s not really a hypothetical. What do your agreements with South Korea say? Do you have to get their permission to launch any sort of strike?

報道官: Some of those things are diplomatic conversations and some of those would involve the Department of Defense, so I just don’t want to get into that. Okay.

国防総省とたらい回し

—どこかで聞いたような答えですね。

鈴置:米軍制服組のトップ、ダンフォード(Joseph Dunford, Jr.)統合参謀本部議長が8月14日、ソウルの記者会見で同じ質問を受け「それは政治的な決定となることだろう」などと答えています(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。

米政府は「この手の質問にはこう答える」と、応答要領を定めているのでしょう。国務省が聞かれた時は「国防総省も関係するから」、国防総省が聞かれた時は「政治的な判断も要るから」と言い訳し、答えを避ける仕掛けです。

ただ、この日の国務省担当記者は誤魔化されませんでした。報道官の「韓国は米国の重要な同盟国だ。米国は韓国を守る」という言葉に付け込んだのです。

記者は「金正恩が韓国を攻撃したら、米国は戦争に巻き込まれると思われる。というのに文在寅大統領は朝鮮半島の戦争は望まないと演説した。彼の真意が分からない」と重ねて聞きました。

報道官は「あなたの質問の意味が分からない」とか「日本もそうだが、誰も戦争を望まない」などと、はぐらかそうとしました。

質問: — very confuse about President Moon remark yesterday, because U.S. and South Korea is alliance. But he not want to be war in Korean Peninsula, but however U.S. supposedly involved with war when the North Korean Kim Jong-un attack the South Korea. But why he discourage it, but —

報道官: I’m sorry. I didn’t understand the last part.

質問: President Moon doesn’t want a war in the Korean Peninsula, but —

報道官: President Moon doesn’t want that. Japan doesn’t want that.

北朝鮮には全世界が懸念

さらに「誰もが戦争を望んでいない」ことを強調するためでしょう。「金正恩への非核化要求は国連安保理の全会一致の決定だった。世界の我々の友人、同盟国、パートナーにとって最も重要なことなのだ」とコメントしました。

報道官: It’s a priority, obviously, at the United Nations and the UN Security Council, where they had the unanimous vote on that matter. It’s a top issue for our friends and allies and partners around the world.

これを聞いた記者は「しめた」と思ったに違いありません。直ちに「だったらこの問題は米朝間ではなく韓国の問題だ。だのになぜ、文大統領は他人事のように語るのか」と切り返したのです。

質問: But this is not at all between U.S. and North Korea problem. This is ? the actually problem is that the South Korea, in fact. But Moon thought this is your guys’ problem. That’s not ? how did you think about ? this —

報道官はまたしても「質問の意味が分からない」と逃げましたが「これが米朝間の問題と考えているのか?」と再び聞かれると、逃げようがありませんでした。

ナウアート報道官は「北朝鮮と全世界の間の問題だ。米国だけが金正恩体制に懸念を表明しているわけではない」と答えたのです。

質問: — between the U.S. and North Korea problem. Do you think this is between the U.S. and North Korea problem?

報道官: Is this issue between the United States and North Korea? No. This is between North Korea ? this is between North Korea and the world. It is not the United States standing here alone expressing concern about the activities of Kim Jong-un’s regime.

「まともではない国」をかばう国

このやりとりを聞いたり、読んだ人は「北朝鮮の核問題は世界的問題だ。なのに、もっともその脅威の下にある韓国が北に立ち向かおうとしない」との印象を深めたことでしょう。米国務省の定例ブリーフは世界の外交関係者の必読サイトです。影響力は極めて大きい。

そしてこの後、ナウアート報道官は予定していなかったと思われる発言をしてしまったのです。

報道官は「いい機会だから言っておく」と切り出したうえ、北朝鮮を「自由でも公正な国でもない」「国民に十分な食料も与えない」「移動の自由もない」「自らの国民を飢えさせ、強制的に堕胎させている」「収容所で国民を強制労働させる」と、口を極めて非難したのです。長くなりますが、原文を以下に引きます。

報道官: And by the way, it’s a good opportunity to remind people what it’s like for North Koreans to live under that regime. Okay. That is not a free and fair country. It is not a country where people have ample food, opportunity. It’s not a country where people can come and go as they please. It’s a country where they’re starving their own people; they’re engaged in forced abortions. Pardon me for talking about that, but that is a very grim reality there, where people are living in labor camps, it’s under horrific situations.

北朝鮮が人権蹂躙国家であることはニュースではありません。でも「中立宣言」が議論された直後にそれを聞かされた人は、韓国という国にますます首を傾げたでしょう。

「人権を平気で蹂躙する危険な国が今、核武装しようとしている。そんな『世界の敵』を、なぜ韓国はかばおうとするのか」――と思うのが普通です。

威嚇なしで核は手放さない

—文在寅大統領は単に「戦争を望んでいない」のでは? 「北をかばう」とは言い過ぎではありませんか?

鈴置:今「米国の先制攻撃を止める」と語れば、却って戦争を呼びかねません。文在寅大統領が主張するように、話し合いにより北朝鮮が核を放棄すれば一番いい。

でも、話し合いで金正恩委員長が核を放棄する可能性はほぼない。核保有国になること自体が目的だからです。核を放棄すれば金正恩体制は大きく揺らぐ。そんな道を自ら選ぶわけがない。

そう判断したからこそ米国や日本など西側の国は、国連による経済制裁と「軍事的手段も辞さない」との米国の威嚇によって強引に――最後の段階は話し合いになるかもしれませんが――核を放棄させようとしているのです。

そんな時に韓国が「米国に戦争はさせない」と言い出し、軍事的な威嚇に歯止めをかけようとする。北がいやいやでも核を手放す可能性を韓国が減らそうとしている――と米国や日本は見ます。

「自分まで届く核を持った北」を米国が見逃すわけはありません。少なくとも、軍事行動への動機を強めます。「韓国の中立宣言」が戦争の危険を増すことになるのです。

平和を叫んでも平和は来ない

—「戦争反対」と言えば戦争がなくなるわけではない……。

鈴置:まさにその視点で、保守系紙、東亜日報と朝鮮日報は文在寅演説を厳しく批判しました。

両紙ともやり玉にあげたのは冒頭に引用した、そして米国務省の会見で質問が集中した「戦争だけは止める」部分です。

東亜日報の8月16日の社説「『不安な平和』ではなく『堂々とした平和』を目指せ」(韓国語版)で、次のように主張しました。

朝鮮半島に戦争の惨禍が起きては絶対にならない。しかし「不安な平和」ではだめだ。当面は北朝鮮の挑発による戦争の防止が重要だとしても、北朝鮮が自ら核を放棄せざるを得なくするようにすべく、国際社会と一緒に最後まで圧迫せねばならない。

ここで軍事的圧迫を緩めれば、北朝鮮に核を持たせてしまうではないか――との悲痛な叫びです。

この社説は結論部分で「『核には核で、挑発には報復で対応する』との原則の下、強力な対北抑止力を確保せねばならぬ」と、国民に核武装を呼びかけました。大統領の「戦争絶対反対」宣言が、韓国の核武装論を加速したのです。

朝鮮日報の社説「対話では北の核を放棄ができないというのに、いったいどうするのか明らかにせよ」(8月16日、韓国語版)のポイントも引用します。

戦争反対」とか「平和的解決」などの言葉は確かに間違ってはいない。だが、それにより北朝鮮の核廃棄ができない場合、大韓民国の5000万人の国民は金正恩の核の奴隷として生きていくしかない。そうでなければ他にどんな方法があるというのか。

「お人好し」か、それとも……

—文在寅大統領の真意は?

鈴置:韓国の左派は大統領を「平和の使者」と素直に称賛しています(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。米国の先制攻撃に歯止めをかけさえすれば戦争は起きない、という理屈でしょう。

「韓国だけが朝鮮半島の軍事行動を決めることができる」との大統領の演説を聞いて快哉を叫んだ「普通の人」もいたことでしょう。韓国では「自分の運命がかかる北の核問題で、自分たちは一切口出しできない」との不満が溜まっていたからです。

それに「戦争時の韓国の被害は膨大なものになる」と信じられていますから「戦争が避けられる」と、ほっとした人も多いと思います。先ほど述べたように、それは必ずしも正しい判断ではないのですが。

一方、保守には2つの見方があります。まずは、大統領は軍事的な圧力なしで北朝鮮が核を放棄すると考えている、との「お人好し」説です。

文在寅大統領は6月20日、米CBSのインタビューで「金正恩の核武装計画は『はったり』に過ぎない。本心は対話を望んでいる」と語っています。

保守派のもう1つの見方は、米国に軍事的な圧力を緩めさせることで北朝鮮の核武装を幇助する「北のシンパ」説です。

核を持ったまま「南北共闘」

—「北のシンパ」ですか!

鈴置:朝鮮日報は先に引用した社説で、「大統領に対する疑念」を匂わせています。以下です。

文大統領が米国の軍事的な措置を防ぐ確実な堤防になってくれれば、南を完全な核の人質にできたと(北朝鮮は)自信を深めることだろう。

—韓国人は核の人質になってもいいのですか?

鈴置:韓国の左派には「北朝鮮は同族の国である韓国には核兵器は使わない」と信じる人が多い。

さらに、北が核を持ったまま南北が和解すれば、北の核兵器は周辺大国ににらみを効かす「民族の核」になる、とも考えています。

文在寅政権は核兵器保有国には必須の運搬手段である原子力潜水艦の保有に熱心です(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。

北朝鮮は核弾頭を開発できても、原潜を作る能力はない。それなら韓国がその準備をしておこうと考えているのかもしれません。

—韓国の「中立宣言」は戦争を避けるための中立に留まらない、という話ですね。

鈴置:一見、中立。でも良く見れば「南北共闘」。ナウアート報道官が人権状況を非難することで北朝鮮が「世界の敵」であると強調したのも、それを牽制するためだったかもしれません。

(次回に続く)

■「北朝鮮の核危機」年表(2017年8月以降)

8月5日 国連安保理、石炭などの全面輸出禁止を含む対北朝鮮制裁決議を採択
8月6日 労働新聞「米国が核と制裁を振り回せば、本土が想像もつかぬ火の海になる」
8月7日 李容浩外相「米国の敵視政策が変わらない限り、核とミサイルで交渉しない」
8月8日 トランプ大統領「北朝鮮は世界が見たこともない炎と怒りに直面するだろう」
8月8日 WP「北朝鮮が弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の生産に成功とDIAが分析」と報道
8月9日 朝鮮人民軍戦略軍「『火星12』でグアムを包囲射撃する作戦計画を慎重に検討」
8月9日 朝鮮中央通信、先制攻撃論に関連「決意すれば瞬時に日本を焦土化できる能力がある」
8月9日 マティス国防相「北朝鮮は体制の終わりや国民の滅亡につながる行動は中止すべきだ」
8月10日 北朝鮮戦略軍司令官「『火星12』4発は島根、広島、高知の上空を通過しグアム沖に着弾」
8月10日 トランプ大統領「グアムに何か起これば、誰も見たことのないことが起きる」
8月10日 GT社説「北朝鮮が米国に向け先にミサイルを発射した際、中国は中立を維持する」
8月11日 トランプ大統領「北朝鮮が浅はかな行動をとるなら軍事的に解決策する準備が完全に整った」
8月11日 トランプ大統領「極めて高レベルの追加制裁を考えている」
8月11日 米中首脳が電話会談
8月12日 米仏首脳が電話会談
8月14日 トランプ大統領、301条適用を念頭に中国の知財侵害の調査を指示
8月15日 金正恩委員長「米国の行動をもう少し見守る。危険な妄動を続けるなら決断」
8月15日 文在寅大統領「朝鮮半島での軍事活動は大韓民国だけが決めることができる」
 

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『中国、私企業たたきの裏事情』(日経ビジネス8/21号 FT)について

8/21日経電子版習氏一喝でGDP修正 遼寧省、名目マイナス20%に

【北京=原田逸策、大連=原島大介】中国の経済統計で異変が起きている。東北部、遼寧省の1~6月期の名目域内総生産(GDP)は前年同期比マイナス20%に急減した。異例ともいえる成長率の急低下は、経済統計の水増しやねつ造を戒める習近平国家主席の強い意向を受けた動きとの見方が多い。ほかの省などにも今後、同じような「修正」は広がりそうだ。

1~6月期の遼寧省の名目GDPは1兆297億元(約17兆円)で、前年同期比マイナス19.6%だった。一方、実質成長率はプラス2.1%。1~6月期の消費者物価や卸売物価はともにプラスで推移しており、物価が上がっているなら名目成長率は実質を上回らないと辻つまが合わない。

遼寧省ナンバー2の陳求発省長は1月、省内の市や県が2011~14年の財政収入を水増ししていたと認めた。陳氏は個別の統計には触れなかったが、複数の指標が改善の方向へ水増しされていたとみられる。

3月の全国人民代表大会(国会に相当)。習氏は遼寧省分科会に出席し、「公明正大な数字こそ見栄えがよい」と述べた。習氏が個別の省の分科会で統計について言及するのは極めて異例だ。

遼寧省はかつて、共産主義青年団(共青団)出身の李克強首相がトップを務めた。共産党指導部が入れ替わる秋の党大会を前に、習氏が統計問題で共青団をけん制したとの見方がくすぶる。

遼寧省の場合、公表済みの名目GDPを過去に遡って反映させると、水増しは財政収入の他にもあったようだ。今回、過去の名目GDPをさわらず、1~6月期の数値だけを実態に寄せたため「マイナス20%」が表れたとみられる。「大まかに言って遼寧省はGDPを2割ほどかさ上げしていた」(中国の外交関係者)

同省ではかねて水増しの噂があった。主力の重工業は不振続きだったのに、省公表の実質成長率はプラス基調を堅持。16年1~3月期に初めてマイナスとなったが、地元の企業経営者は「過去のねつ造をやや直しただけ。経済実態は以前からもっと悪かった」と話す。

共産党中央規律検査委員会は6月、吉林省と内モンゴル自治区で「統計ねつ造がある」と指摘した。複数の省などが今後、改ざんを認める可能性がある。

中国国務院(政府に相当)は8月、統計法の実施条例を施行し、水増しや改ざんの厳罰処分を決めた。ただ、地方政府幹部の評価はいまもGDPと税収が柱。党による高い成長目標も改ざんを誘う。構造問題に手をつけないと中国の統計が正確さを高めるのは難しい。>(以上)

如何に中国が嘘をついているかという事です。数字の改竄が当り前であるなら、歴史に於いても改竄するのは当り前でしょう。ご都合主義者の集団ですので。数字の改竄は遼寧省だけでなく中国全土で行われている筈です。習近平は団派の力を弱めるために遼寧省を取り上げたのだろうと思います。自分のいた福建省や浙江省には手を出さないでしょう。全部が真実に数字を発表すれば外資が逃げるのでしょうから、外貨準備にも影響を与え、貿易を停滞させます。それ故、そうはさせないでしょう。中国が真実の数字を発表することはないと思った方が良いです。

次はカナダのオンタリオ州での「南京大虐殺記念日」制定のニュースです。小生も英語で州議員全員と州知事に、ヘンリーストークス氏の南京虐殺への意見を添えて、反対の意思表示のメールを送付しました。結果は中国系カナダ人が多く、敗れたという事でしょう。外務省が中国の「南京虐殺」の世界遺産登録を放置した咎めです。本当に無能の集団としか言いようがありません。

http://www.recordchina.co.jp/b188151-s0-c10.html

日本人の意識を変えるには、戦争が起きて犠牲者がでないと難しいのかもしれません。危険予知は企業では当たり前のように語られるのに、戦争の対策を語る企業はありません。もし、米朝戦争が起きて犠牲者が出たら、左翼リベラルは日本政府と米軍のせいにするでしょう。何のことはない、核シェルターも準備させない・避難訓練もさせない彼らが一番悪いのです。でも、彼ら似非平和主義者の言うことを簡単に信じて、何も声を上げないor「その通り」とかいう人はその時に自分の愚かさに気付くのでしょう。いくら自分が平和を唱えても襲ってくる人間はいるという事を。今の日本人の頭は小学生レベルで思考停止しているのでは。念仏だけで平和は守れません。そう言う人は少なくとも北朝鮮に行って念仏を唱えて来てほしい。

8/22ZAKZAKの記事、<中国、「事故死者数を隠蔽」は氷山の一角? “デマ取り締まり”名目で告発を封殺>。こちらは炭鉱での崩落事故の死傷者数を誤魔化したと言うもの。SARSの時もそうでしたが、中国にとって都合が悪い場合、なかったことにするか、数字を1/10から1/100にします。中国にとって都合の良いことは、数字を10倍~100倍まで膨らませます。「南京虐殺」なんて無かったものを今や30万人が定説になってしまいました。せいぜい国民党が虐殺したものでしょう。何せ「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という文化ですので、数字の改竄は当り前です。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170822/soc1708220029-n1.html?ownedref=not%20set_main_newsTop

8/21自由時報の記事<國民黨分裂接近毀黨 中評委:亡黨後準備一起跳海=国民党は分裂して壊れた状態に近い、中央評議委員会は党がなくなった後、一緒に海に飛び込む準備をすると>。国民党の分裂は起こるとすれば、党内部の中国人と台湾人の争いが原因になるのではと推測しています。本年5月に選ばれた党首の吳敦義は本省人です。それまでは李登輝、呉伯雄以外で本省人の国民党主席はいませんでしたので。

http://m.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/2170071

JETRO7月レポート<台湾国民党の勝利か?――中国国民党主席選挙における本省人・呉敦義の当選>。

http://www.ide.go.jp/Japanese/Research/Region/Asia/Radar/201707_takeuchi.html

FT記事は習近平の権力基盤の確立の為、軍以外にも習の意向を忖度した企業経営をさせる狙いがあると言ったところです。元々企業には必ず共産党書記がいましたから。それを習派で固める狙いです。中国人は全員腐敗していますから、習の反腐敗運動も政敵を倒すためだけに行われていることは承知していると思います。喝采を送るとしたら五毛帮のような連中でしょう。アップルも中国の求めに応じVPNアプリの提供を止めたとのこと。ステイーブ・ジョブが生きていても同じ判断をしたかどうか。少なくともFBIへのデータ提出を個人情報秘匿の為に拒んだ前歴があるので、国が違えども自由を確保する意味では中国の申し出を断るべきだったのでは。金に転んだのでしょう。

http://www.bbc.com/japanese/40774965

記事

中国は今年6月、海外投資に積極的だった一部の民間企業に対し、突然締め付けを開始した。高リスクの資金調達などが国家の安全保障を脅かすとの議論を、習近平国家主席が受け入れたためだ。この動きには、2期目を目指す習国家主席に対抗する勢力の資金源を押さえるという政治的な狙いもある。

中国を支配する共産党にとって、外貨準備高は国力の象徴だ。同時に、経済を急激な変動から守る重要な緩衝材でもある。それゆえ、中国の外貨準備高が3兆ドル(約330兆円)を下回ったという今年1月の驚くべき発表は、何か大きな政策転換があったことを示していた。ただし、その影響が感じられるようになったのは6月以降のことである。

一時、3兆ドルを下回った ●中国の外貨準備高

出所:Thomson Reuters Datastream/Financial Times

過去1年半、中国企業による海外資産の買収が相次ぎ、中国の外貨準備は1兆ドル(約110兆円)以上減少した。この状況に臨んで、中国共産党内で危機感が高まった。

中国政府のテクノクラートらは、早々に地ならしを始めた。2016年12月に開催された経済政策を策定するための年次会議で、彼らは「国家安全保障」という言葉を金融リスクに結びつけた。外貨準備高の数字を盾に、問題の首謀者と彼らが見なす者たちを攻撃する姿勢を示したのだ。その者たちとは、巨額の海外資産を買収してきた新世代の中国民間企業群である。

国策に振り回される

中国人民大学財政金融学院の副院長を務める趙錫軍氏は、「金融の安全が大きな問題となっている。金融が国家安全保障を侵害するとの見方はこれまでにもあった。しかし、それは国家レベルの問題であって、個々の企業の問題ではなかった」と指摘する。

1955年、共産党が政権を握った中国でわずかに残っていた「資本家」たちは、事業の直接的所有権を国に譲り渡す契約に署名をした。

彼らは署名を祝うセレモニーを自ら催したという。獅子舞を招いてにぎやかなパレードを挙行し、ドラを打ち鳴らした。この出来事を契機に、以後四半世紀にわたって、民間企業は中国から姿を消した。

それから60年たった今もなお民間企業は、政府が気まぐれで方針を変えるのに振り回されている。

2014年に中国企業家倶楽部である討論会が開かれ、中国で最も裕福な2人の実業家、柳傳志氏と王石氏が議論に参加した。

柳傳志氏は、レジェンド・ホールディングス(聯想控股)を率いる。同社は米IBMのパソコン部門を買収しレノボと名付けた。欧米でもよく知られる。一方の王石氏は、中国最大の不動産グループ万科企業の創業者だ。

米国の中国研究者、チェン・リー(李成)氏の報告によると、この討論会で柳傳志氏は、中国の実業家は、政治に関係しない限りこの上なく安全だと論じたという。しかし王石氏はこれに反対し、政治家に狙われたら身をかがめているだけでは不十分だと応じた。

結局のところ、王石氏が正しかった。実際、王氏が経営する企業は今年6月、政府の支援を受けるグループに買収された。

加えて、柳傳志氏と古くから付き合いのある事業パートナーたちも政府に狙われている。大連万達も復星も海航も、すべて柳氏とつながりがある。また、中国唯一の民間大手銀行、中国民生銀行に出資している裕福な投資家たちともつながっている。今なお民間企業に敵対的な姿勢を取るこの国で、これらの資本家は相互に融資し合い、契約を結び、網の目のような支援関係を形成している。

政府には逆らえない

世界に進出する中国が持つソフトパワーの顔としてかつて賛美された起業家たちは、政府から攻撃を受け始めた今、急いで新たな秩序に合わせようとしている。

大連万達をハリウッドに進出させた王健林氏は、普段は物事に動じない人物だ。しかし、その王氏も中国の経済誌「財新」に、「主な投資は中国国内に限ることに決めた」と語った。

復星で経営のかじを取る郭広昌会長は、先述のクラブメッドや、カナダのエンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」、経営に行き詰まっていたポルトガルの国有保険会社の買収を主導してきた。

そんな郭氏も7月末、次のように書いた書簡を公開した。「海外投資や不正な金融に対して行われている最近の精査は不可欠であり、時宜にかなうものだ。多くの不合理な投資を撲滅できる。我々が何も対策をとらなければ、海外の人々は我々が無尽蔵にカネを持っていると見るだろう」

比較的小さな企業も大慌てで対策を講じている。一部の民間企業は、国内で最も経営が苦しい国有企業の買収に進んで名乗りを上げた。政治的な保護を得られると考えたためだ。

中国の調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのマネージング・ディレクター、アーサー・クローバー氏は、「国有企業の手が届かない事業が増えると、共産党は神経質になる。折に触れて、引き締め策を講じる。影響を被るのは、多くのレバレッジを抱え、政治的に不注意な人々だ」と指摘する。

今回の締め付けには、もう一つの目的がある。習国家主席が進める権力強化の妨げになるかもしれない勢力をけん制することだ。

8月上旬、中国のビーチリゾート北戴河に現指導部と党の長老が集まった。習政権が2期目に突入するに当たって、今秋に予定される党人事で、誰を登用するかを話し合うためだ。

成功を収めた実業家の多くは、共産党のエリートとの間に縁故を築いてきた。民間企業への締め付けは、こうしたエリートたちから独自の支持基盤を奪い、現在の地位と富を保ちたければ習国家主席の恩恵にあずかるしかないという状況を作り出した。

中国には「白い手袋」と呼ばれる人たちがいる。有力者との間に強力なコネクションを持つ複数の一族から信頼を得ており、一族が資産を海外に移す手助けをする。今回の締め付けの主な標的となったのは、この白い手袋だ。

中でも最もよく知られる存在だった肖建華氏が今年1月、滞在していた香港のフォーシーズンズホテルから、本土の公安職員の手で拉致された。その後の消息は今もって不明だ。

この締め付けの主軸を担っているのは、習国家主席と、王岐山氏の“連合”だ。王氏は党中央規律検査委員会でトップを務める。

習国家主席と同様に王岐山氏も、かつての党幹部を身内に持つ。さらに王氏は、金融行政を担うテクノクラートの中に忠実な信奉者を抱える。王氏は過去4年間、反腐敗運動に力を振るい、習国家主席に反対する勢力を排除してきた。

腐敗撲滅に辣腕を振るう王岐山氏(写真=新華社/アフロ)

熱を帯びる政治闘争

ひとたび金融界の利益が標的とされると、政治的な応酬が激しさを増した。肖建華氏が1月に拉致された時、治安機関とつながりを持つ実業家で中国から追放されていた郭文貴氏が突然ニューヨークに姿を現し、王岐山氏の周辺に腐敗があると非難した。

郭文貴氏によると、王岐山氏の親族(強力な閨閥の一つ)は、表に出ない海航の株式から利益を得ているという。海航の創業者は1980年代に王氏の下で働いていた。

海航のある幹部は「彼らは王岐山氏をたたくために我々を追っているのだ」と本音を漏らす。しかしこの幹部は、海航と王氏との間に不穏当な接点は一つもないと否定した。

習国家主席が金融リスクを国家安全保障の問題と考えるようになったため、安邦も、王岐山氏を攻撃する戦列に加わった。しかし、安邦が鄧小平一族など影響力を持つ一族とつながりを持つことは、間もなくマイナス要因へと変わった。

米カリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・シー教授は、「安邦は、習国家主席のそれとは異なる政治グループと明らかにつながるコングロマリットの一つだ」と指摘する。

安邦が王岐山氏への攻撃に同調し始めてから2週間後、大手4社への締め付けを当局が強化したという情報が銀行家から漏れ始めた。

そして、長く雲隠れしていた王氏が国営メディアに姿を見せた。同氏は貴州省の貧困救済プロジェクトで不正が行われたと厳しく批判した。同省では大連万達がプロジェクトを展開していることがよく知られている。

メッセージは明白だった。民間の起業家にとって今は、ドラを打ち鳴らし、政府によるこれまで以上の「統制」を喜んで受け入れると公式に表明すべき時なのだ。

Lucy Hornby ©Financial Times, Ltd. 2017 Aug.10

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日経ビジネス2017年8月21日号 88~91ページより

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『トルーマン大統領は原爆投下をどのような論理で正当化したか サンドラ・サッチャー教授に聞く(1)、ハーバードで白熱議論「長崎への原爆投下は必要だったのか」(2)、ハーバードの教授が日本に願う「世界の良心であり続けてほしい」(3)』(8/6・9・15ダイヤモンドオンライン 佐藤智恵)、『「原爆投下も本土上陸も必要なかった」ハーバード白熱授業の学生に聞く』(8/21ダイヤモンドオンライン 佐藤智恵)について

8/16JBプレス古森義久氏の記事<なぜか北朝鮮に核廃絶を呼びかけない日本の反核運動>

北朝鮮や中国を非難せず、矛先は日本政府に>に日本の反核平和運動の歪みが述べられています。それはそうでしょう、文句を言うべきは先ず、北朝鮮、中国でしょう。(ロシアも在日米軍があるため日本を標的にしていると思いますが、記事で読んだことはありません)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50806

そもそも原水禁(旧社会党系)と原水協(共産系)と分かれたのも「ソ連の核は綺麗な核」と共産が主張するので分裂しました。いずれにせよ左翼の党派性の強い運動体です。広島・長崎市長は今や革新系でないと当選しないでしょう。

佐藤氏の記事の中国系米国学生の発言は「南京事件」のことと思われますが、中共のプロパガンダと言うのを知らないのでしょう。キチンと日本政府が反論しないためです。「あなたは共産党がやって来た自国民の大虐殺を知っていますか?その政府が言うことを素直に信じられますか?国民党も平気で黄河決壊事件を起こしています、知っていますか?」と日本人だったら聞くべきです。

「戦争は人間的な営みである」から無くなることは無いでしょう。ですから、核の時代にどうやって人類の破滅を防ぐかと言うので、出された答えが「非戦闘員の保護」でしょう。終戦の詔書にもその一文が入っています。「加之、敵は新に残虐なる爆弾を使用して、頻りに無辜を殺傷し、惨害の及ぶ所、真に測るべからざるに至る」と。昭和天皇は、米国の非人道性を良く理解していました。元々、排日移民法等人種差別が起こした戦争だった部分もあり、原爆使用も躊躇わず出来たのでは思っています。トルーマンは日本人を人間と見ていたとサッチャー教授は言いますが俄かには信じがたいものがあります。また二発目を長崎に落としたのも、ウランと違ってプルトニウムでの結果も知りたかっただけと思われます。

サッチャー教授の言う「どのような難しい状況においても、アメリカの大統領はモラルリーダーとして、世界の人々の自由と平和を守る役割を果たすべきだと思います。」には大賛成です。過去にばかり目を向け、現在の人権弾圧をしている中国と北朝鮮を片づけないといけないでしょう。

北を攻撃するときでも、「非戦闘員の保護」は考えないとモラルリーダーにはなれません。地下深くに設置されている核兵器廠はB61-11で、板門店のロケット砲はマザーオブボームで無力化できるのでは。

8/21増田俊男氏の記事には、米中北がグルで日本に高い兵器を買わせるために、北のグアム攻撃発言があったとのこと。これは眉唾物と感じてしまいますが。

http://www.chokugen.com/opinion/backnumber/h29/jiji170821_1185.html

http://www.chokugen.com/opinion/backnumber/h29/jiji170821_1186.html

記事

ハーバードビジネススクールの看板授業の1つ、「モラル・リーダー」では、毎年、「トルーマンと原爆」について学ぶ回がある。そこでは、約60名の学生たちが「原爆投下を決断したトルーマン大統領は人道的なリーダーであったか」について議論を戦わせる。授業前半でサンドラ・サッチャー教授が教えているのは、正しい戦争にはルールがあるということ。トルーマンは本当に正しい戦争のルールに従って決断したのだろうか。どのような論理で原爆投下を正当化したのだろうか。正戦論をもとにサンドラ・サッチャー教授に解説していただいた内容を、全3回にわたってお送りする。(2017年4月21日、ハーバードビジネススクールにてインタビュー)

「トルーマンと原爆」の授業

佐藤 サッチャー教授は15年以上にもわたって「トルーマンと原爆」について教え続けてきました。なぜこのテーマをハーバードビジネススクールの学生に教えているのですか。

サッチャー ハリー・トルーマンが、歴史上、国のトップとして最も難しい決断を迫られた大統領だったからです。その決断は日本および日本国民に甚大な被害を与えただけではなく、その後の世界にも大きな影響を残しました。トルーマンの決断プロセスとその結果を検証することによって、学生たちにはリーダーとしての責務や人道的な決断の本質を学んでほしいと思います。

佐藤 この授業の主要な目的は何でしょうか。

サッチャー 2つあります。1つめは人道的な立場から戦争を考えてもらうこと。戦争がもたらす被害は想像もできないですが、確実に言えるのは、戦争は勝者、敗者の両方に甚大な損害をもたらす、ということです。学生たちには、戦争にはルールがあることを学んでほしいと思います。国が戦争を始めるか否かを決断する過程では、「道徳的に十分な根拠があるか」を必ず検討しなくてはなりません。敵を攻撃する際にはどのようなルールにのっとるべきか。人道的見地から禁止されている行為とは何か。正しい戦争には原則があるのです。

2つめは、国のリーダーは決断した内容だけではなく、決断に至るまでのプロセスにも責任を負っていることを認識してもらうこと。リーダーの決断を周りの人々が評価するプロセスを構築することは非常に大切です。自らの決断が間違っていないかどうか、決断する前に反対意見や代替案を検討することは不可欠なのです。

サンドラ・サッチャー(Sandra J. Sucher)教授

授業では、毎年、多くの学生が、「トルーマンは偏った助言しか得ていなかった」「日本の都市に原爆を投下する以外の戦争終結方法を検討しなかった」とトルーマンを厳しく批判しています。決断プロセスの大切さを学べば、学生たちは自国の大統領や首相を公正に評価することができますし、将来、自らがビジネスリーダーとして難しい問題に直面した際にも、正しい決断をすることができます。

正しい戦争と不正な戦争

佐藤 授業では、「正しい戦争と不正な戦争」(マイケル・ウォルツァー著)に書かれてある正戦論をベースに、トルーマンの決断が人道的に正しかったのかどうかを議論します。ウォルツァーは著書の中で戦闘行為を正当化するための原則をいくつか紹介していますが、その中のどの原則を根拠に、トルーマンは原爆投下を決断したのでしょうか。

サッチャー 3つあります。1つめが「功利主義」。トルーマン、トルーマンのアドバイザー、ウィンストン・チャーチルは皆、「本土上陸作戦よりも原爆投下のほうが戦争を早く終わらせることができるため、結果的に犠牲者が少ない」と主張していました。つまり、「戦争における最大の思いやりは、戦争を早く終わらせることができることなのだから、原爆投下は人道的に正しい決断だ」という考え方です。

2つめが「戦争は地獄」。これは南北戦争時の北軍の将軍の言葉に由来する原則ですが、「戦争の罪は、それを始めた人がすべて負うべきだ。敵対行為に抵抗する側は勝つために何をやろうが決して非難されない」(*1)という考え方です。戦争をしかけられ、正義の戦いを行うものは選択の余地なく地獄の戦場に赴くしかないから、というのがその理由です。

「戦争は地獄」に基づけば、「真珠湾攻撃によって、アメリカに対する戦争をはじめたのは日本だ。だから、日本人が始めた戦争を終結させるのに最も早い方法、つまり、原爆を使ったとしても、アメリカに罪はない」という結論になります。

3つめが「スライディング・スケール」。「正義の度合いが高いほうが、より正しい」という考え方です。この原則に基づけば、「正義の度合いが高ければ、戦い方も大きくしてよい」、つまり、「真珠湾攻撃の犠牲者であるアメリカ側の正義の度合いはかなり高いのだから、それに見合った攻撃をしてもよい」ということになります。この考え方もまた原爆投下を正当化するのに使われました。

佐藤智恵氏

佐藤 トルーマンは「功利主義」「戦争は地獄」「スライディング・スケール」という3つの原則によって原爆投下を正当化しましたが、「正しい戦争と不正な戦争」の著者、マイケル・ウォルツァーは、そのような原則で原爆投下を肯定するのはおかしい、と非難しています。この3つを非難する根拠となっている原則は何ですか。

サッチャー 戦争における最も重要なルールは「非戦闘員の保護」です。それはつまり「戦争は戦闘員同士の戦いでなければならず、非戦闘員である民間人を敵とみなして攻撃したり、巻き込んだりしてはいけない」という基本原則です。多くの民間人が犠牲になった原爆投下がこの原則に違反しているのは明らかです。

「ダブル・エフェクト」の原則にも反しています。「ダブル・エフェクト」とは、「意図的に非戦闘員を攻撃することは人道的に許されない」「戦闘員は非戦闘員の被害を最小限に食い止めるために最大限の努力をしなければならない」というルールです。連合国側は日本に対して、「破壊的な威力をもつ新兵器を使う用意がある」と警告はしましたが、その警告は軍部に向けられたものでした。つまり、民間人に被害が及ばないように事前に広島と長崎の市民に対して直接警告することはしませんでした。

「比例性のルール」にも反しています。これは過度の危害を禁じる原則であり、「実質的に勝利に向かわない危害、もしくは危害の大きさに比べて目的への貢献度がわずかな危害は許されない」というルールです。アメリカ政府は、原爆が人間に与える危害を理解することなく使用し、戦争を終結させました。危害の大きさも目的への貢献度も把握しないまま、原爆を投下したのは、比例性のルールに反しています。

佐藤 学生は、トルーマンの論理と、ウォルツァーの論理を比較しながら、「トルーマンの決断は人道的に正しかったのか」を議論していきますが、「戦争のルール」についての議論の中で特に印象に残った発言はありましたか。

サッチャー 軍隊出身の女子学生の発言がとても印象的でした。彼女は自らの経験から、現在、米軍ではどのような決断プロセスが採用されているかを話してくれました。それはトルーマンの決断プロセスとは全く違っているものでした。

現在、米軍では、どの組織であっても、トップは他の隊員からの意見を聞くことなく、最終決断を下してはならないそうです。たとえば、隊長が戦線を拡大したいと思ったとしましょう。その際には必ず「このように戦線を拡大したいと思うがどうだろうか」と部下に意見を求め、それに対して部下は自由に反論を述べたり、他の代替案を提案したりするそうです。少なくとも3つの代替案を検討した上で、最終決断を下すと聞きました。

もう1つ彼女の発言で印象的だったのは、弁護士がトップの決断プロセスに深く関わっていることです。陸軍・海軍・空軍・海兵隊には法務部門があり、軍事専門弁護士が参謀本部だけではなく戦地にも常駐して、戦時法規の観点から助言しているそうです。どのような戦闘行為を行うか、さらに戦線を拡大すべきかどうか、など、すべての決断に弁護士が関わっているとのことです。

この女子学生のコメントに他の学生たちは大変驚いていました。彼女の発言でトルーマンの決断プロセスがいかに未熟なものであったかが、浮き彫りになったと思います。

*1:Michael Walzer, Just and Unjust Wars, Third Edition, (Basic Books, 2000), p. 32.

「人道的リーダーシップ」とは何か

佐藤 「モラル・リーダー」の授業で、学生は「原爆投下を実行したトルーマンを支持するか、支持しないか」、どちらかに手を上げなくてはならないそうですが、「支持する」という学生はいましたか。

サッチャー それほど多くはありませんでしたが何人かいました。私の授業では毎回、同じ質問をしますが、今の学生は皆、原爆投下がもたらした被害を知っているため、多くが「反対」を表明します。しかし「賛成」を表明する学生は必ずいるので、授業では少数派の意見を聞くことから始めます。「なぜトルーマンが原爆投下を決断したのは正しかったと思うのですか」と。

佐藤 それに対してのコメントで印象深かった発言はありましたか。

サッチャー 中国人の学生のコメントが印象に残っています。彼は、中国人の視点から、この戦争がどんな戦争だったか、中国人が日本人の軍人からどのような扱いを受けたか、を語りました。私の授業には毎回、日本人学生や、広島を訪れたことのある学生がいて、興味深いコメントをしてくれるのですが、中国人の学生がこのような発言をしたのははじめてだったと思います。

佐藤 どのような発言だったのでしょうか。

サッチャー 彼はアメリカで育った中国人でしたが、「戦時中の日本軍の残虐行為について、アメリカの学校の教科書にはきちんと記述されていない」と指摘していました。おそらくアメリカ人学生はこの事実を知らないだろうと思って発言したのだと思いますが、彼の発言に他の学生たちは大変驚いていました。ハーバードの学生はナチスドイツ軍についてはよく知っていますが、日本軍についてはあまりよく知らないからです。彼が語った日本軍の行為は、ナチスドイツ軍の行為ととても似ていました。ただし彼は「自分は日本や日本の国民を非難するつもりはなく、日本の軍人が残虐行為を行った事実を伝えたいだけだ」と言っていました。

彼が原爆投下を支持したのは、どんな手段を使っても戦争を早く終結させるべきだと思ったからです。彼にとってトルーマンの決断は中国の国民を救う決断であり、原爆投下は正当化されるべき行為でした。

トルーマンにとっての「道徳」は何だったか

佐藤 授業では、「トルーマンの決断は人道的であったか」をテーマに、議論を深めていきます。サッチャー教授は、不正行為を重ねる人の「道徳離脱」についても研究されていますが、トルーマンが原爆投下を決断したとき、脳内で「道徳離脱」を起こしていなかったのでしょうか。

サッチャー 道徳離脱とは、「小さな不正行為からひどい残虐行為まで、無意識のうちに人間を悪い行動へと導く精神的なプロセス」(*1)のことです。道徳離脱を起こしている人は、自分が他人に害を与えているとか、悪いことをしているといった意識はありません。

戦時中に道徳離脱を起こす人は、敵をアウトグループ(外集団)とみなし、「彼らは自分たちと同じ人間ではないのだから人間として扱う価値はない」「人道的かどうかを検討する必要などない」と考える傾向にあります。つまり相手を自分と同じ人間として見ないのです。

私はトルーマンに関する記録を多数読みましたが、トルーマンは道徳離脱を起こしていなかったと思います。トルーマンは日本人を同じ人間として見ていました。

トルーマンは、「アメリカ国民を守り、アメリカに有利な条件で戦争を終結させることが自分の責任であり、そのために自分ができることは原爆投下を決断することだ」と認識していました。私が思うに、トルーマン自身は、「この状況下で最も人道的な決断を下した」と信じていたのではないでしょうか。

佐藤 トルーマンは、日本人を同じ人間として見ていた、とのことですが、彼は、日本人のことを「野獣」(Beast)と呼んでいました。本当に人間として見ていたのでしょうか。

サッチャー その事実を物語る記録があります。トルーマンは、広島への原爆投下後、ジョージア州の上院議員から、「日本にできるだけ多くの原子爆弾を落としてください。アメリカ国民は皆、日本人が完全に降伏するまで日本を攻撃するべきだと考えています」という電報を受け取っています。これに対してトルーマンは次のように返信しています。

「我々の交戦相手である日本はひどく残虐で野蛮な国だが、日本人は野獣なのだから、同じように我々も野獣のようにふるまうべきだ、という考えには同意できない。日本の一部のリーダーが『頑固に』降伏しないがゆえに、日本の全国民を殲滅しなければならないことを残念に思う。念のために言っておくが、絶対的に必要であるという状況でない限り、私はこれ以上の原爆投下を許可しない。ソ連が参戦すれば、日本は早晩、降伏するだろう。私の目的はできるだけ多くのアメリカ人の命を救うことだ。しかしながら私は日本の女性、子どもに対しても人間的な感情を抱いている。」(*2)

佐藤 ということは、トルーマンの良心は麻痺していなかったということですか。

サッチャー そうです。少なくともルールを守ろうとしていたことは確かです。トルーマンの自伝には次のようにも書かれています。

「原爆投下を決断する前に、私は原爆が戦時国際法に定められているルールにのっとって使用されるのかどうかを確認したかった。つまり私は、原爆を軍事施設のみに投下することを望んでいた。そこで私はスティムソン(陸軍長官)に、『原爆投下のターゲットは、日本軍にとって最も重要な軍需生産拠点に限定すべきである』と念を押した」(*3)

広島と長崎は候補としていくつか上がっていたターゲットのうちの2つでした。京都も候補にあがっていましたが、スティムソンが「京都は日本の文化的、宗教的な中心地だ」(*4)と主張し、候補からはずされました。

広島と長崎の市民に事前に警告しなかったことは、非道徳的行為だと思います。しかし、トルーマンと周りの助言者は、自分たちなりの論理で原爆投下を正当化し、「原爆投下をすれば早く戦争を終結できるのだから、これは人道的な行為だ」と本気で思っていたのです。またトルーマンは、原爆の威力についてはほとんど何も知らなかったというのが実情で、「これまでの爆弾よりもかなり破壊的な威力があるらしい」ぐらいの知識しかありませんでした。

佐藤 これは授業でも議論されている質問ですが、長崎にも原爆を投下する必要性はあったのでしょうか。

サッチャー 2つめの長崎への原爆投下は、日本に心理的なダメージを与えるためでした。トルーマンは、「戦争を終わらせるためには、アメリカが無数の原子爆弾を持っていることを日本人に知らしめる必要がある」と考えました。それには、日本が降伏するまで落とし続けるしかない、だから、広島のあとにももう1つ落としておこうという発想です。

トルーマン自身は「日本政府に終戦の決断を促すためだった」と説明していますが、私が問題だと思っているのは、広島への原爆投下後、2日しか猶予を与えずに、長崎へ原爆を投下したことです。なぜ2日ではなく、1週間ぐらい待つことができなかったのでしょうか。これは人道的な見地からみても説明がつかないと思います。

佐藤 日本の大学生や大学院生に「トルーマンと原爆」をテーマに授業をするとしたら、どのような授業にしたいですか。

サッチャー ハーバードの授業とは少し変えて、2回にわけて教えたいですね。最初のセッションは、日本人の学生がおそらく知らないであろうと思われる内容を含めた第二次世界大戦についての授業。日本の小・中学校では「日本は戦争の犠牲者である」ことは教えているけれども、「日本が加害者であった」ことはそれほど詳しく教えていないと聞いています。この認識だと、「私たち日本人は戦争の犠牲者です。原爆を投下するなんて間違っている」という議論で終わってしまいますから、まずは日本の学生に世界的な視野から戦争を見つめ直してもらいたいと思います。

2回目のセッションでは、ハーバードと同じ形式で進行していきたいです。学生同士で「トルーマンの決断は是か非か」「昭和天皇はどのような役割を果たしたか」などについて、ハーバードの学生に負けないぐらい活発に議論してほしいですね。

アメリカ大統領のモラルリーダーシップ

佐藤 日米関係の発展のためにモラルリーダーシップ(人道的なリーダーシップ)を発揮したアメリカ大統領といえば、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が真っ先に思い浮かびます。1991年12月、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)が真珠湾攻撃50周年式典で行った演説は、「融和演説」とも言われ、戦後の日米関係史の分水嶺になったと高く評価されています。特にこの部分が有名です。

「私はドイツに対しても日本に対しても何の恨みも持っていません。憎悪の気持ちなど全くありません。真珠湾攻撃により多くの人々が犠牲になりましたが、このようなことが二度とおこらないことを心から願っています。報復を考えるのはもうやめにしましょう。第二次世界大戦は終わったのです。戦争は過去のことなのです」(*1)

第二次世界大戦中、日本軍に自らが搭乗する飛行機を撃墜された経験を持つブッシュ大統領の言葉はとても重いと感じています。サッチャー教授はこの演説をどのように評価しますか。

サッチャー これはまさにモラルリーダーシップの模範例です。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、ドイツと日本に対して何の恨みも持っていません、とはっきりと伝えています。もうお互いを非難しあう時代ではないと。ブッシュ大統領は、アメリカと同じようにドイツと日本もまた戦争の被害を被った犠牲者である、と認めています。そして「戦地で戦った私がこのつらさを乗り越えられたのだから皆さんもできるはず。だから、私に続いてください」と呼びかけたのです。

佐藤 昨年(2016年)のオバマ前大統領の広島訪問もまたモラルリーダーシップを示した事例でしょうか。

サッチャー そうです。オバマ大統領(当時)は、アメリカの大統領として初めて広島を公式訪問し、アメリカが広島の人々に被害をもたらした事実を認め、原爆投下の犠牲者となった方々を追悼しました。オバマ大統領が被爆者の方の手を握り、抱き寄せた場面は大変感動的でした。それは彼が大統領としてだけではなく、一人の夫として、一人の父親として、一人の人間として、敬意を払っていることを象徴するシーンでした。

オバマ大統領は、また次のように世界に呼びかけました。

「私たちは過去の過ちを繰り返す遺伝子によって縛られているわけではありません。私たちは学ぶことができます。選択することができます。子どもたちに新しい物語を言い伝えることができます。それは、私たちには共通の人間性があることを伝えるストーリーであり、今よりも戦争の数が減って、残虐な行為が簡単に許されなくなるような世界を実現することが可能であることを示すストーリーです」(*2)

世界には戦争の犠牲となった多くの「被害者」がいます。被害者側は、加害者側に自分たちの痛みをわかってほしい、と願っているものです。オバマ大統領の人道的な行動は、こうした世界の人々の願いに応えるものだったと思います。

佐藤 世界の超大国アメリカの大統領はどのようなモラルリーダーシップを示すべきだと思いますか。

サッチャー アメリカ国民だけではなく、世界中の人々が、アメリカの大統領には発言や行動を通じてモラルリーダーシップを発揮してほしいと願っています。

アメリカには、自由を尊重し、人権を守ってきた歴史があります。そのことをアメリカ人は誇りに思っています。そんな私たちにとって最も恥ずべきなのは、奴隷制を長く続けてきた歴史です。その負の遺産が今も人種間に対立をもたらしています。アメリカは「人種のるつぼ」として移民を歓迎しなければなりません。どんな時代であっても彼らの人間性や社会的な貢献力を尊重しなくてはならないのです。アメリカの大統領が移民に対して人道的な視点をないがしろにした政策を実施することを歓迎する人は、世界のどこにもいないと思います。

日本、中国、ヨーロッパ諸国のリーダーに対しても、同じようにモラルリーダーシップが期待されています。それぞれ歴史も違いますし、抱えている課題も違いますが、求めるリーダー像は同じです。市民が必要としているのは、より平和で、安全で、繁栄した世界、誰もが活躍できる自由世界へと私たち市民を導いてくれるようなリーダーであり、口先で約束するだけではなく、自ら行動し、実現してくれるリーダーです。

佐藤 世界最大の軍事大国、アメリカの大統領には、特別な役割があると思いますか。

サッチャー 国を率いるリーダーとして責任がある、という点では他の国のリーダーと同じです。平和で繁栄した国をつくる、国民が政治に参加できる民主的な国家をつくる、という役目に変わりはないでしょう。しかし、軍事大国としての歴史を持ち、自国だけではなく他国を軍事的に支援してきた歴史を持つアメリカには、特別な責任があると思います。

アメリカ国外で起こった紛争に対して、アメリカが介入すべきなのか否か、を決めるための明確なルールはありません。なぜアメリカはイラク、アフガニスタン、シリアの紛争に軍事介入したのでしょうか。本当にアメリカの国益が損じられたから軍事介入したのでしょうか。その理由を探ってみても、背景が複雑すぎて、私たち国民にもよくわからない、というのが現状なのです。

こうした中、世界の国々の自由と平和を守ることが、果たしてアメリカの国益につながるのか、という議論も出てきていますが、私自身はその役目を果たせる国はアメリカしかないと考えています。なぜならアメリカを超えるような大国が他にないからです。どのような難しい状況においても、アメリカの大統領はモラルリーダーとして、世界の人々の自由と平和を守る役割を果たすべきだと思います。

佐藤 日本の政治的リーダーは軍事・外交面でどのような役割を担っていると思いますか。

サッチャー  日本のリーダーは、外交パワーを活用して、世界の国々を助ける役割を果たすべきだと思います。日本の軍事パワーは防衛に限られているとはいっても、日本には外交パワーがあります。軍事パワーよりも、他のソフトパワーのほうが他国と相互依存関係を築いていくのにずっと有益なのです。

日本、中国、ヨーロッパ諸国のリーダーに対しても、同じようにモラルリーダーシップが期待されています。それぞれ歴史も違いますし、抱えている課題も違いますが、求めるリーダー像は同じです。市民が必要としているのは、より平和で、安全で、繁栄した世界、誰もが活躍できる自由世界へと私たち市民を導いてくれるようなリーダーであり、口先で約束するだけではなく、自ら行動し、実現してくれるリーダーです。

佐藤 世界最大の軍事大国、アメリカの大統領には、特別な役割があると思いますか。

サッチャー 国を率いるリーダーとして責任がある、という点では他の国のリーダーと同じです。平和で繁栄した国をつくる、国民が政治に参加できる民主的な国家をつくる、という役目に変わりはないでしょう。しかし、軍事大国としての歴史を持ち、自国だけではなく他国を軍事的に支援してきた歴史を持つアメリカには、特別な責任があると思います。

アメリカ国外で起こった紛争に対して、アメリカが介入すべきなのか否か、を決めるための明確なルールはありません。なぜアメリカはイラク、アフガニスタン、シリアの紛争に軍事介入したのでしょうか。本当にアメリカの国益が損じられたから軍事介入したのでしょうか。その理由を探ってみても、背景が複雑すぎて、私たち国民にもよくわからない、というのが現状なのです。

こうした中、世界の国々の自由と平和を守ることが、果たしてアメリカの国益につながるのか、という議論も出てきていますが、私自身はその役目を果たせる国はアメリカしかないと考えています。なぜならアメリカを超えるような大国が他にないからです。どのような難しい状況においても、アメリカの大統領はモラルリーダーとして、世界の人々の自由と平和を守る役割を果たすべきだと思います。

佐藤 日本の政治的リーダーは軍事・外交面でどのような役割を担っていると思いますか。

サッチャー  日本のリーダーは、外交パワーを活用して、世界の国々を助ける役割を果たすべきだと思います。日本の軍事パワーは防衛に限られているとはいっても、日本には外交パワーがあります。軍事パワーよりも、他のソフトパワーのほうが他国と相互依存関係を築いていくのにずっと有益なのです。

サンドラ・サッチャー(Sandra J. Sucher) ハーバードビジネススクール教授。専門はジェネラル・マネジメント。MBAプログラムにて必修科目「リーダーシップと企業倫理」、選択科目「モラル・リーダー」を教える。現在の研究分野は、世界経済における企業の信用の構築。大手デパート、フィデリティ・インベストメンツ社などで25年間に渡って要職を務めた後、現職。リーダーシップや倫理的ジレンマを主題とした教材を多数執筆。著書に“Teaching The Moral Leader A Literature-based Leadership Course: A Guide for Instructors” (Routledge 2007), “The Moral Leader: Challenges, Tools, and Insights” (Routledge 2008). 現在、「企業と信用」をテーマに著書を執筆中。 佐藤智恵(さとう・ちえ) 1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。コロンビア大学経営大学院入学面接官、TBSテレビ番組審議会委員、日本ユニシス株式会社社外取締役。主な著者に『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、「スタンフォードでいちばん人気の授業」(幻冬舎)。佐藤智恵オフィシャルサイトはこちら

レック・デュークセン Alek Duerksen/1987年アイオワ州生まれ。2015年ハーバードビジネススクール入学。2017年MBA取得

2017年4月、ハーバードビジネススクールで「トルーマンと原爆」をテーマとした授業が行われた。この授業では、毎年60名の学生が80分間、「トルーマンの原爆投下はリーダーとして正しい決断だったか否か」について白熱した議論を戦わせる。授業に参加した学生は何を学んだのか。アメリカ人学生のアレック・デュークセンさんに聞いた。

>>「トルーマンと原爆」の授業について読む

佐藤 今日の授業では「原爆投下を決断したトルーマンは人道的に正しかったか」について議論したと聞いています。授業を受けてトルーマンの決断に対する見方は変わりましたか。

デュークセン アメリカの高校の世界史の授業では「原爆を投下しなかったら日本は降伏せずに戦争を継続し、さらに多くの犠牲者が出ただろう」と教えられていて、それを当たり前のように信じていました。戦争に勝ったのはアメリカなのだから、原爆投下が正当化されるのは当然だろうとも思っていました。

ところが、今日の授業でその考え方が変わりました。なぜなら、「原爆を使用しなくとも日本は早晩、降伏することが予想されていた」という事実を初めて知ったからです。

授業では、正しい戦争にはルールがあることを学びましたが、唯一、ルールに従わなくてもよいとされているのが、「最高度緊急事態」です。私は日本への原爆投下は「最高度緊急事態」だったから実行された、と考えていました。しかしながら、この授業のために多くの資料を読んだり、クラスメートと議論したりする中で、本当にそうだったのか、と疑問に思うようになったのです。

佐藤 「正しい戦争と不正な戦争」の著者、マイケル・ウォルツァー氏は、第二次世界大戦におけるナチスドイツの台頭を「最高度緊急事態」と説明しています。つまり、米英によるドイツ本土への無差別爆撃は「最高度緊急事態」だったから正当化された、という考え方です。1945年の日本をめぐる状況は「最高度緊急事態」ではなかった、とデュークセンさんが考えた根拠は何ですか。

デュークセン 1945年8月の段階で、日本軍はすでに弱体化しており、アメリカ本土まで攻め入ってくる可能性はほぼありませんでした。そこがドイツの状況とは根本的に異なっていたと思います。

たとえば、米軍が本土上陸作戦を実行せず、原爆も投下しなかったとしましょう。ただ日本の周りを封鎖するという作戦をとったとします。その状況で日本軍はどれほどアメリカの市民に直接的な危害を与えることができたでしょうか。あるいは、アメリカの自由、正義、文明を脅かすことができたでしょうか。「その可能性はほぼなかった」というのが私の見方です。

佐藤 サッチャー教授は、授業中「原爆投下をするという決断に賛成の人はいますか」と聞いたそうですが、どちらの立場をとりましたか。

デュークセン 反対の立場です。繰り返しになりますが、アメリカの自由、正義、文明に直接危害を与えるほどの緊急事態ではなかった、だから原爆投下も本土上陸も必要なかった、というのが私の結論です。

しかし、学生の中には、賛成した人も何人かいました。全員欧米人だったと記憶しています。特にアメリカ人にとって、自国が非道徳的なことを行った過去があることを認めるのは難しかったのではないでしょうか。日本の立場を代弁する日本人学生がその場にいなかったことも、彼らが賛成した要因の1つだと思います。

多くの学生は、「原爆投下は正当化される。なぜなら日本軍は残虐行為をしていたから」と発言していました。しかし、議論が深まっていく中で、「その論理は間違っている」と考える反対派に押されていたように感じました。

佐藤 デュークセンさんが、もしトルーマンだったら、どのように決断しますか。

デュークセン 私だったら、反対意見も聞きますし、代替案も検討します。「本当に原爆投下しか戦争を終結させる方法はないのだろうか」「日本を無条件降伏させることを絶対条件にすべきだろうか」「対話による和平交渉はできないのか」といったことも考慮するでしょう。仮に原爆の威力を試す必要があると考えた場合でも、威嚇のために無人島に落とす、といった方法を検討したと思います。

佐藤 威嚇や警告によって、日本に降伏する機会を与える、ということですね。

デュークセン はい。そうすることが適切だと思います。1945年7月にアメリカ、イギリス、中国は共同でポツダム宣言を出しましたが、その際「これを受諾しなかったら原爆を落とす」とは警告していませんでした。少なくとも日本国民に警告して、日本に降伏の機会を与えるべきだった、と思います。それから、授業で、2つめの長崎への原爆は必要だったかどうかも議論しましたが、私は必要なかったと思います。

佐藤 トルーマンはなぜ原爆を投下するという非人道的な決断をしたと思いますか。

デュークセン その問題については、自分がスポーツをしていたときの経験を交えて、授業で発言しました。「段階的な決断プロセス」よりも、「人間がもともと持っている性質」という視点から、トルーマンの決断を合理的に説明したいと思ったからです。

人間なら誰でも、『あんなことを言わなければよかった』と後悔するようなことを言ってしまった経験はあるでしょう。あまりにも目の前のことに集中しすぎて、周りが見えなくなってしまい、ついつい、感情的なことを言ってしまう……。スポーツの試合をしている最中などに私はよくそういう経験をしました。

トルーマンも同じような状況だったのでは、と推察します。アメリカに戦争を仕掛けてきた相手と4年近くも戦い続ければ、勝ちたい、仇討ちしたい、と思うのもわかります。そうなれば、大義よりも、「これを実行すれば相手を打ち負かすことができるか」を重視して決断することになります。

大統領といえども、人間なのですから、その決定プロセスには、人間の性質や意志といった人間的な要素が多分に関わってきます。特に、周りの人たちが皆、賛成している中で冷静に、合理的に決断するというのはとても難しかったのではないかと思います。

佐藤 サッチャー教授は授業の最後に、昭和天皇の「終戦の詔書」を読んだそうですが、それを聞いてどう思いましたか。

デュークセン 昭和天皇は、非常に率直にご自身のお気持ちを述べられているなと感じました。国の名誉のためとはいえ、これ以上戦争を継続すれば、多くの国民が犠牲になる、と判断し、ポツダム宣言の受諾を決断されました。これはとても人道的な決断だったと思います。ただ、私自身は、サッチャー教授が読むのを聞いていて、何だか悲しい気持ちになりました。

佐藤 それはなぜでしょうか。

デュークセン 私自身がスポーツに親しんできたことが大きいと思います。私は子どものころからずっとラグビーの選手だったので、「スポーツマンシップにのっとり、スポーツマンとしての名誉を守り、最後まで戦い抜く精神こそが大切だ」と教えられてきました。

戦争に勝つために全国力を注ぎ、多くの国民を犠牲にして戦い続けたのちに、「途中で勝利を諦めます」と決断しなければならないなんて……。自分が同じような決断を迫られたら、と考えたら、とても悲しい気持ちになったのです。また自分が国民だったら、リーダーには「もうダメだ。あきらめよう」などとは絶対に言ってほしくない、とも思いました。

佐藤 デュークセンさんはMBA取得後、世界有数のメーカーに就職されるそうですが、この授業から得た学びをどのように生かしたいですか。

デュークセン 私はビジネスの場であっても、ついつい「勝ちたい」と思ってしまいますが、こうした人間の感情が正しい判断を曇らせることを今回の授業から学びました。自分が勝つことだけを目的に決断し、その決断を後から正当化する、というのは人道的リーダーとしてふさわしい行動ではありません。この授業から得た教訓を忘れずに、いかなるときも代替案を検討し、反対意見を考慮し、感情的にならず、冷静に判断できるリーダーをめざしたいですね。

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中国関係の直近のニュースを上げて見ます。

8/18「希望の声」TV局記事から<“元老”是失勢還是潛伏?今年這裡據說真的沒有“會”=長老たちは勢いを失ったのか潜伏しているのか?今年は以下の情報のように本当に(北戴河で)会議は行われなかった>北戴河に来た長老は、純粋にリゾートとして楽しんだだけで、人事等の会議は行われなかったとのこと。“有人已經掌握全局,老人政治業已消散,今年海邊沒有開會。=習が既に全権力を握り、長老たちは政治に関与できなくなり、今年は北戴河で会議は行われなかった”と。7/26・27北京で政治局員の候補者の投票が既に行われたとも。別な報道では王岐山、栗戰書、王滬寧、丁薛祥等習派の大勝とのこと。この記事が本当であれば、習が独裁権力を一手に持ち、戦争できる体制となります。バノンの言ったことは正しい。「アメリカは中国と経済戦争の最中で、北朝鮮問題は余興にすぎない。アメリカは中国と経済戦争の最中だ。このままでは25年から30年後に中国が覇権を握るだろう」と。

http://chinaexaminer.bayvoice.net/b5/ccpsecrets/2017/08/18/367962.htm%E5%85%83%E8%80%81%E6%98%AF%E5%A4%B1%E5%8B%A2%E9%82%84%E6%98%AF%E6%BD%9B%E4%BC%8F%EF%BC%9F%E4%BB%8A%E5%B9%B4%E9%80%99%E8%A3%A1%E6%93%9A%E8%AA%AA%E7%9C%9F%E7%9A%84%E6%B2%92%E6%9C%89.html?utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook

8/19アポロネット記事<廣東逾百村民遊行抗議低價強征土地=広東省で100人を超える村人が安く土地を強制収用されようとしているため抗議デモ>中国には結社の自由はありませんから、デモは共産党が認めたデモ以外は当然違法となります。土地収用の件は共産党がやっているので認める訳がありません。潮州市の村ですから広東料理の一番おいしい地域です。既に収用は始まり、村全体でデモは数カ月に及んでいるとのこと。その内流血の惨事になるでしょう。共産党や地方政府が土地活用で賄賂を取ることを狙っていますので、必然です。

http://chinaexaminer.bayvoice.net/b5/people/2017/08/19/368083.htm%E5%BB%A3%E6%9D%B1%E9%80%BE%E7%99%BE%E6%9D%91%E6%B0%91%E9%81%8A%E8%A1%8C%E6%8A%97%E8%AD%B0%E4%BD%8E%E5%83%B9%E5%BC%B7%E5%BE%81%E5%9C%9F%E5%9C%B0.html?utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook

8/19Facebook記事から(実名記載ですが、名は伏せます)<バヌアツに運び込まれるはずだった、有害物質を含んだ砂利は、アフリカに行く事に。。

アフリカはそれでいいのだろうか?

こんな事、政府の役人が数十万、数百万円掴まされれば問題なく通る話だ。

今回バヌアツ政府が禁止したこと自体がニュースであると思う。

http://dailypost.vu/news/aggregate-to-africa/article_51281ff9-4e98-58b9-9d08-183e397738ca.html?utm_medium=social&utm_source=facebook&utm_campaign=user-share >(以上)

この記事で映画「トランスポーター3」を思い出しました。ある国の環境大臣に汚染物質を運んだ船を受け入れさせようと、その娘を誘拐して脅すと言うものです。映画以上にひどいことが行われようとしています。アフリカは中国の鉱物資源掘削で環境汚染されていると言うのに。

http://news.livedoor.com/article/detail/11028823/

8/20日経電子版<中国「1兆円支援」でブータン接近 インドと国境対峙

【ニューデリー=黒沼勇史】ヒマラヤ山脈でインド軍と2カ月対峙する中国が、第三の当事国ブータンを自陣営に引き込もうと外交攻勢をかけている。中国は100億ドル(約1兆900億円)に上る経済支援をブータンに提示したとみられ、インドと共闘してきたブータンの対中姿勢は軟化する。中印は相手軍の越境を非難し合うが、ブータンを取り込めば国際社会に正当性を訴えやすくなるだけに綱引きが激しさを増している。

「インド軍の侵入場所はブータン領ではないと、ブータンが明確に伝えてきた」。中国の外交官は今月上旬、インド人記者団にこう主張した。“侵入場所”とは、ブータンと中国が領有権を争うドクラム地方ドラム高原で、インド陸軍と中国人民解放軍が6月から対峙する。この外交官発言が事実なら、ブータンとインドの対中共闘関係のほころびを意味する。

ブータン政府関係者はインドメディアに即座に否定したが、インド側は疑心暗鬼に陥る。インド政府筋は今月上旬、日本経済新聞の取材に「100億ドルの投融資を中国が提案し、ブータンが中国になびき始めたとの情報を入手した」と明らかにした。100億ドルは低利融資、無償援助、直接投資のパッケージという。インド側も巻き返しに動く。スワラジ印外相は11日、地域経済連携の会合で訪れたネパールでブータンのドルジ外相と会談。中国に「だまされないように」とクギを刺し関係維持を迫った。

だがドルジ氏は会談後「ドクラム情勢の平和的、友好的な解決を望む」と述べ、中国を刺激する発言は控えた。ブータン外務省は6月、中国軍の「ブータン領内での道路建設は(現状維持を決めた中国とブータンの)合意に反する」と中国を非難していたがトーンダウン。中国共産党系の環球時報は社説でドルジ発言に触れ「ブータンが中立を保ちたいのは明らか」とインドをけん制した。

中国がブータンに接近するのは、自国の正当性を確保するためだ。インドは長年防衛協力するブータンによる「自国領内で道路建設された」という主張を根拠に、自軍をドラムに動かした。ブータンがドラムにおける領有権の主張を撤回すれば、インド軍は進軍の正当性を失い、中国領に侵犯した結果だけが残る。インド政府関係者によると、中印は7月、「両軍は同時・段階的に兵力を減らし、降雪期の9~10月か年末までに完全撤収する」と非公式に合意した。

2期目入りをめざす中国の習近平国家主席も、モディ印首相も、自国民からの弱腰批判は避けたく「自軍が先に引いたと見なされない合意」(関係者)を交わした。

だがカシミール地方で中印両軍が投石し合うなどいまだ緊張は解けていない。

インド政府筋によると、ドクラム地方で直接対峙するインド軍は約320人、中国軍は500人弱と当初より減ったが、ブータンとの国境にはインドが1万2千人、中国が1万6千人集結する。戦闘になれば小競り合いでは済まないとの見方が強まっている。

▼中印両軍の対峙 中国とブータンが領有権を争うドクラム地方ドラム高原で中国人民解放軍が道路建設しているのを6月16日、ブータンが確認し、隣接するインド北東部シッキム州からインド軍も制止に乗り出し中印対峙が始まった。

中国はインド軍の越境を非難し、インドは3カ国の国境が接する同地方での中国による現状変更を批判する。

インド北部カシミール州や同北東部アルナチャルプラデシュ州に人民解放軍が越境し両軍が短期間にらみ合うことはあったが、対峙が長期に及ぶのは珍しい。>(以上)

中国は世界規模で侵略を実行しているというのに国際社会は何もしません。日本人の好きな国連組織が如何に無能で無力か現実を見れば分かるでしょう。特に米国はロシアを制裁するなら、中国も制裁しないと。中国は金と軍事力を使い、領土を拡張しようとしています。米軍が北朝鮮を攻撃すれば、国際社会の目がそちらに行くため、尖閣で日本と戦争を起こし、またインドとも戦争するかも知れないとも言われています。中国人の発想としては、人民解放軍は人が多いので、合理化できず、戦争を起こして、人減らしすると考えるのでは。クシュナーがトランプの11月APECに合わせて年内訪中するため、その露払いで9月に訪中とのことですが、金に転ばないことを祈ります。

8/20NHKニュース4:11台湾でユニバーシアード開会式 抗議デモで選手入場できず

台湾で19日夜、学生のオリンピックと言われるユニバーシアードの開会式が行われましたが、会場の近くで年金改革に抗議するデモ隊と警察がもみ合いになり、日本を含む大半の選手団が一時、入場できない騒ぎとなりました。

ユニバーシアードの夏の大会の開会式は、19日夜、台北のアリーナで行われ、蔡英文総統も出席しました。しかし、選手団が利用する入り口付近で、蔡英文政権が進める年金改革に抗議するデモ隊と警察がもみ合うなどしたため、安全が確保できないとして、日本を含む大半の選手団を一時、会場に入れない措置が取られました。 この影響で、開会式の冒頭に行われた140を超える国と地域の選手団の入場行進は、途中から旗だけが入場する異様な光景が続きました。その後、抗議活動はおさまったため、日本など選手団などが一斉に入場すると、観客が総立ちになって大きな歓声で選手団を迎えていました。 蔡総統が公約に掲げる年金改革をめぐっては頻繁に抗議デモが行われていて、開会式には警察官延べ6000人が動員されるなど警備が強化されていましたが、今回の騒ぎを防ぐことができなかったことを受け、態勢の見直しを迫られそうです。>(以上)

これは民進党・蔡英文総統に対する国民党・中国人の嫌がらせでしょう。恥を書かせるつもりで邪魔したのだと思われます。年金と言っても、軍や公務員、教師等=国民党・中国人の利権の一つです。8/18には<台湾の総統府に暴漢 旧日本軍の軍刀で切りつける>という事件も起こりました。蒋介石が台湾に連れて来た中国人の末裔でしょう。やはり、中国人と言うのは朝鮮半島人同様、どこにいても精神異常者としか思えません。

http://hakkou-ichiu.com/post-8561/

九寨溝には飛行場が建設されてから行きました。2004年だったと思います。その前年、車を雇い、九寨溝に向かいましたが、衝突事故で断念しました。九寨溝は、綺麗は綺麗です。元々チベットの土地ですから。漢民族が侵略して、自分のものとしたため、自然そのものの美しさと言うより、観光客を誘致するため、人工的に手を大分加えているという印象でした。

中国人の寄付金なんて「盗んでくれ」と言って渡しているようなものでしょう。普通の経済活動でも、横領・賄賂が当り前の国ですから。中国に進出している企業は寄付を社会的に強制されます。寄付すればTVや新聞で報道されますので、寄付を煽る訳です。少なければバッシングです。中国で利益を上げているのだから還元しろという事でしょう。でも中国人が海外に出て地元に還元している話は聞かず、悪評だけです。如何に自己中かという事です。トランプ並びに欧州は中国を経済的に封じ込めしてほしい。勿論、日本もですが。

記事

九寨溝を襲った大地震で道路も崩壊、世界自然遺産の美しさは取り戻せるか(写真:AP/アフロ)

“美不勝収(美しい物が多すぎて見切れない), 人間仙境(この世の別天地), 世外桃源(俗世を離れたユートピア)”、春は“山花爛漫(山の花爛漫と咲き乱れ)”、夏は“蒼碧欲滴(深緑滴らんと欲し)”、秋は“五彩斑斕(五彩綾なして美しく)”、冬は“詩情画意(詩歌や絵画の境地)”

観光客500万人超、観光収入8.05億元

これはユネスコの世界自然遺産に登録されている九寨溝を中国の成語で形容したものであり、言葉に尽くせぬほど美しい九寨溝の風景を物語っている。九寨溝の名は“溝(川筋)”に9か所のチベット族の“寨(村)”があったことに由来するという。九寨溝は何分にも辺境の地にあり、清の“康熙帝(在位:1661~1722年)”時代にようやく清の管轄下に組み入れられたが、清の兵士が立ち入ることもなく放置され、人々に知られることはなかった。

中華人民共和国が成立した1949年以降も九寨溝は外界と隔絶されたまま時を刻んだが、1960年代に中央政府管轄の“旅游区(観光区)”となり、1980年代になってようやく観光地として一般へ開放されたのである。世界自然遺産に登録された1992年以降は中国国民の富裕化と相まって九寨溝を訪れる観光客は年々増大し続けて今日に至っている。2016年に九寨溝を訪れた中国内外の観光客は500万人を突破し、観光収入は8.05億元(約129億円)に達した。

九寨溝へ観光客を引き寄せるのはこの世の物とは思えないほど美しい景色である。九寨溝は多数の湖と滝で構成されているが、そこを流れる水は石灰分(炭酸カルシウム)を含み、種々の条件により九寨溝特有の“翠緑色(エメラルドグリーン)”を呈し、人々をえも言われぬ陶酔の世界へと誘い込む。それは桃源郷であり、ユートピアであり、世俗の塵埃を逃れた境地に浸ることができる別世界である。九寨溝は“日則溝”、“樹正溝”、“則査洼溝”と呼ばれる3つの川筋に分かれており、各川筋に合計6つの景勝地区が点在する。九寨溝はどこを見ても美しいが、人気が高い“珍珠灘瀑布”、“諾日朗瀑布”、“火花海”、“五彩池”、“鏡池”、“長池”、“五花梅”などの景色は人々を魅了して止まない。

“九寨溝(きゅうさいこう)”は、四川省北部の“阿壩藏族羌族自治州(アバ・チベット族チャン族自治州)”に属する“九寨溝県”の“漳扎鎮(しょうさつちん)”にある。漳扎鎮は九寨溝県の“県城(県庁所在地)”から西へ46kmの距離にある。海抜は県城が1400mなのに対して漳扎鎮は2089mであり、九寨溝は2000m以上の高地にある。

四川省の省都“成都市”から九寨溝までの距離は約410km、自動車で行けば約6~7時間を要する。2003年9月に隣接する“松潘県”に「九寨黄龍空港」が開港したことにより九寨溝への所要時間は大幅に短縮されたが、同空港からから九寨溝までは88kmあり、バスで1.5時間の道程である。また、九寨溝はその面積が広いことから、車道と遊歩道が整備されている。外部車両の乗り入れは禁止されており、観光客は天然ガスを燃料とする“緑色環保観光車(グリーン環境保護観光バス)”での移動が必要となる。

さて、2017年8月8日21時19分、九寨溝が所在する九寨溝県漳扎鎮を震源地とする大地震が発生した。同地震の規模は“中国地震局”の発表ではマグニチュード(M)7.0、震源の深さは20kmであり、米国地質調査所(USGS)の発表ではマグニチュード6.5、震源の深さは36kmであった。本震後の余震は9分後の21時28分から始まり、8月10日10時までに1741回に及んだ。震源地が九寨溝の所在地であることから、同地震は“2017年九寨溝地震”と命名された。

死亡25人、負傷者493人、行方不明者5人

8月13日までに判明した九寨溝地震による死傷者数は、死亡25人、重傷者45人を含む負傷者493人、行方不明者5人であった。なお、死者の内訳は、旅行客12人、地元民12人、身元不明1人。行方不明者の内訳は、地元民4人、旅行客1人。また、8月11日までに6万1500人の旅行客(含外国人126人)と出稼ぎ労働者が九寨溝から退去し、2万3477人が一時避難を完了した。

8日の地震発生時、九寨溝に滞在していた観光客は約3万8000人であった。彼らは九寨溝周辺のホテルに分散して宿泊していたが、そのホテルの中で被害が甚大だったのは“九寨天堂洲際大飯店(InterContinental Resort Jiuzhai Paradise)”(以下「天堂ホテル」)だった。天堂ホテルは九寨溝の入り口から20kmの場所にある4つ星ホテルで、地震発生時には宿泊客および従業員を合わせて2000人以上がホテル内にいた。天堂ホテルはモダンな総ガラス張りの巨大ドーム2つと小型の丸型ドーム1つを持つことで知られていたが、地震によってホテルのロビーとして使われていた巨大ドームのガラスが完全に破壊された。このため、天井や壁面から崩落するガラスの破片によって死者3人(宿泊客1人とホテル従業員2人)、負傷者18人を出した。

地震発生が21時19分であったため、宿泊客がホテル内にいたことで人的被害は少なくて済んだが、これがもし昼間だったら、九寨溝を散策する観光客に多くの死傷者を出したことは間違いなく、不幸中の幸いであった。しかし、地震は九寨溝の名勝に多大な被害をもたらした。各所で湖の決壊が起こり、水が流出した湖は無残な惨状を呈したし、山崩れによって水の通路を塞がれた滝は干上がった。また、山崩れによって土砂や樹木が湖に流れ込んだことにより、湖水は白く濁り、従前のエメラルドグリーンを想像することすら出来ない状態になった。人気の高い火花海は堤防が決壊して干上がり、石灰石を堆積した白い湖底を露呈した。諾日朗瀑布は水流が途絶えて干上がった。九寨溝が以前の美しい風景を取り戻すことは極めて困難な状況にある。

ところで、九寨溝地震の発生から2時間後に、中国の俳優で歌手の“黄暁明”(1977年11月生まれの39歳)は自分が設立した慈善団体“明天愛心基金会”を通じて九寨溝地震被災地の救済と再建を支援する目的で50万元(約800万円)を寄付する旨をインターネット上で表明して、人々からの寄付を募った。黄暁明は2008年5月12日に発生した“汶川大地震(四川大地震)”(以下「四川大地震」)の時にも自ら救援活動に参加したし、2013年4月20日に四川省“雅安市”で発生したM7.0の“雅安地震”でも救援活動に参加して、負傷した子供を救助したことがあった。

莫大な寄付金を誰が管理するのか

こうした経験を持つことで知られる黄暁明が、九寨溝地震の被災地に対して支援金として50万元を寄付する旨を表明して大衆からの寄付を募ったことに対し、多くのネットユーザーから“熱心(心が温かい)”、“太美麗了(何とすばらしい)”、“大災面前見仁義(大きな災害を前にして仁義を見た)”などという賛辞が殺到した。しかし、こうした賛辞とは裏腹に多数のネットユーザーから寄付金の行方に対する懸念が表明されたのだった。それは、“海量捐款誰来監察(莫大な寄付金を誰が管理するのか)”、“能保証没被耗子偸吃?(ネズミ<=汚職役人>に食べられないと保証できるのか)”、“又要譲貪官有発財機会(またもや汚職役人に金儲けの機会を与えるのか)”などという内容だった。

黄暁明の寄付表明はネットユーザーの間に「寄付すべきか、寄付すべきでないか」という論争を改めて引き起こした。この論争が始まったのは、2011年6月20日にネット上で“中国紅十字会(中国赤十字会)”の略称である“紅会”を肩書として、ブランド品に囲まれた優雅な生活をひけらかし、“郭美美baby”の愛称を用いて一夜で有名になった“郭美美”(本名:“郭美玲”)<注>によるものだった。その後の調査で判明したところでは、郭美美が肩書として名乗っていた“紅会”とは、“中国紅十字商業”という民間企業を指し、彼女はそこの“総経理(社長)”であり、中国紅十字会とは何らの関係も持たないものだった。

<注>郭美玲は2014年7月に賭博の容疑で逮捕され、2015年9月に賭場開設罪により懲役5年、罰金5万元(約80万円)の判決を受け、湖南省の女子刑務所で服役中。

その後、郭美美が優雅な生活を享受できていたのは、“王軍”という人物から援助を受け入れていたからであることが確認された。しかし、郭美美が中国紅十字会と無関係であるか否かにかかわらず、この事件を契機として中国国民の視線は中国紅十字会のカネの流れに向けられることになったのである。それは下記する事情によるものだった。

四川大地震の寄付金、用途公表は約23%だけ

【1】2009年に“清華大学”の“鄧国勝”教授をリーダーとするグループが発表した『四川大地震寄付金の流れに関する研究報告』によれば、2008年5月の四川大地震発生から半年後の11月末までに、被災地支援の名目で全国から集められた寄付の総額は762億元(約1兆2192億円)で、寄付金だけで652億元(約1兆432億円)あった。これは史上最高の寄付金額で、1996年から2007年までの12年間に全国で受け入れた寄付の総額557億元(約8912億円)を上回った。なお、その内訳は寄付金が420億元(約6720億円)、物品が137億元(約2192億円)であった。

【2】寄付金652億元は以下の3つに分類される。 (1)政府が直接受け取ったもの:379億元(58%) (2)各地の紅十字会、慈善団体および公募基金会:199億元(31%) (3)中国紅十字会、“中国慈善総会”および16の全国規模の公募基金会:74億元(11%)

【3】しかし、これら寄付金に関する情報は公表されておらず、600億元以上の寄付金に関する流れや用途が不明のままとなっていた。四川大地震から1年後の時点で、寄付金の流れを知っていた寄付者は4.7%に過ぎす、66.7%の寄付者たちは寄付金の流れを知らなかった。

【4】鄧国勝教授のグループが上記3分類の寄付金に関してその流れと用途を追跡調査した結果を総合すると、四川大地震で集まった652億元の寄付金のうちで、用途の明細が公表されたのは約23%の151億元(約2416億円)だけで、約77%を占める残りの501億元(約8016億円)について明確なことは何も把握できなかった。

【5】四川大地震は中国国民の温かい心を揺り動かすと同時に寄付ブームを巻き起こしたが、管理能力に欠けた少数の独占的地位を持つ募金機構が膨大な資金や物資を取り扱ったことにより、被災地の救済過程で少なからぬ管理上の手抜かりが発生した。募金機構が集めるカネが多くなればなるほど、人々の懸念は大きくなり、寄付金の流れや用途に対する社会的な追及は厳しいものとなる。この結果、募金機構が直面する資金の使用リスクと社会的圧力はより高いものとなる。

『四川大地震寄付金の流れに関する研究報告』は公式の文書であることから、個々の事項について具体的な内容を記述せず、判明した使途不明金の額も敢えて記載しなかったし、寄付金を食べるネズミ(汚職役人)に関する具体的な指摘も行わなかった。用途の明細が不明確な501億元がどれだけネズミに食われたかは分からないが、四川大地震を好機と捉えて私腹を肥やしたネズミが大手を振るって闊歩していることは間違いのない事実である。

2016年5月15日付のブログ「渝州見聞」は、「四川大地震の巨額寄付金をどんぶり勘定にしてはならない」と題する文章を発表して、上述の『四川大地震寄付金の流れに関する研究報告』に言及したが、その文末で次のように述べた。すなわち、「全ての寄付は3つの公開原則に基づいて運行すべきである。個々の寄付について収支を明確にして、その流れを明らかにし、寄付者には安心を、そして、困窮する弱者にはやすらぎを与え、絶対にどんぶり勘定を許してはならない」。

中国進出企業の寄付金は大丈夫か

ネット上では九寨溝地震の被災地に対する黄暁明の寄付金50万元を巡ってネットユーザーが賛否両論を熱く戦わせているが、九寨溝地震の被災地に対する寄付を表明する企業は次々と名乗りを上げている。8月15日までに公表された主な寄付者は以下の通り。  A)米国アップル:700万元(約1億1200万円)  B)“中国三星(中国サムソン)”:1000万元(約1億6000万円)  C)ポータルサイト“騰訊(QQ.com)”の騰訊基金会:1000万元  D)コングロマリットの“大連万達集団”:1000万元

これら大手企業にとって被災地への寄付は中国で順調にビジネスを展開する上で必要不可欠な要素であり、避けて通れない関門と言える。但し、かれらの寄付金がネズミに食われることなく、被災地の救済と再建に100%投入される保証はないのが実情である。

それはさておき、四川省では2000年以降、大規模地震が多発している。2001年2月の“雅江地震(M6.0、雅江県)、2008年5月の汶川大地震(M8.2、汶川県)、2008年8月の攀枝花地震(M6.1、攀枝花市)、2013年4月の雅安地震(M7.0、雅安市)、そして2017年8月の九寨溝地震(M7.0、九寨溝県)と続いている。昔から四川省は大規模地震の発生が多いと言われて来たが、上述の通り2000年以降は発生の頻度が増え、その間隔が狭まっている。世界最大のダムである“三峡大壩(三峡ダム)”は1995年に着工して、2006年5月に竣工した。同ダムの蓄水容量は100億m3以上と巨大であり、その蓄水の重量がダム底や周囲の地盤に与える圧力は計り知れないものがある。一部の専門家は近年の大規模地震の頻発は三峡ダムの影響によるものではないかと警鐘を鳴らしているが、中国政府はそうした声を完全に無視している。

四川省では2017年6月24日に、九寨溝県から南西に直線距離で140km離れた同じくアバ・チベット族チャン族自治州に属する“茂県”で大規模な山崩れが発生し、10人が死亡し、73人が行方不明になった。この山崩れも三峡ダムの影響によるものかは定かでないが、汶川大地震が発生した際にも、三峡ダムの影響は盛んに論議された。今後も四川省では大規模地震が頻発する可能性は高い。人災によって桃源郷の九寨溝が破壊されたのであれば悲しい限りである。頻発する大地震は天が身勝手な自然の破壊者を罰しているのかもしれない。

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