玉川温泉-1

6/17(日)から6/20(水)まで秋田県の玉川温泉に行ってきました。改修したらしくて、部屋も食堂もきれいでした。道すがら聞こえてきましたのは「値段も上がったので他の温泉宿に行く客が増えた」と言うもの。それでもそれほど値段が高い印象は持ちませんでした。wifiがどこでも使え、食事もHPを見るとどうかと思っていましたが、美味しかったです。緑の山々に囲まれ、天気にも恵まれ、雰囲気は最高でした。

温泉は強酸性でPH1.13とのこと。髭がひりひりする感じでしたので、滞在中は剃らずに伸ばしていました。それでも普通に入れます。屋外にラジウム泉で有名な岩盤浴するところもありましたが、小生は屋内で利用しました。癌ではありませんが、低放射線のホルシミス効果で、もし癌細胞ができていたら殺す効果があると思っています。

玉川温泉入口

売店入口

玉川薬師神社

お社

屋外岩盤浴への途中

 

『中国・トラック運転手3000万人がスト敢行?退路を断って決死の抗議行動に打って出たワケ』(6/15日経ビジネスオンライン 北村豊)について

6/19日経朝刊<中国の経済統計に不自然な動き… 「水増し」ひそかに修正?

【北京=原田逸策】中国の経済統計に異変が相次いでいる。地方の水増しだけでなく、国の統計にも不自然な数値がみられる。経済減速のサインなのだろうか。景気の先行きに目をこらす必要がありそうだ。

2018年1月に国の国内総生産(GDP)にあたる域内総生産の水増しを公表した天津市。18年1~3月の実質成長率は1.9%と、全国31の省・自治区・直轄市で最低だった。19年から地方の域内総生産の作成も国が主導する。不正が後で発覚すれば厳罰となるため、天津は正直な数字を出したのだろう。

全国31地区をみると、吉林、雲南、青海、河北、内モンゴルの5地区は実質成長率が名目成長率を上回った。吉林や内モンゴルは名目成長率がマイナス。物価が上昇しているのに不自然だ。

恐らく真相はこうだ。18年から実態に近い域内総生産を出し始めたが、17年までの水増しした数値は維持したまま。だから名目の成長率が実質を下回る。ひそかに水増しを正しているようだ。

1~3月の実質成長率が国(6.8%)を上回ったのは、31地区のうち18地区と過去10年間で最少。かつては全体の9割の地区が国を上回っていた。

域内総生産の「季節性」も薄れる。以前は31地区合計の域内総生産と国のGDPを比べると、1~3月は国を下回り、4~6月と7~9月はやや上回り、10~12月は10%超上回った。これが17年10~12月は国を5%しか上回らず、18年1~3月は国とほぼ同じだ。毎年の成長目標を達成するための「背伸び」をやめた可能性がある。

異変は国の統計にもある。国家統計局が毎月公表する小売売上高(社会消費品小売総額)。実額と前年同月比の名目伸び率を公表するが、18年から統計局が公表する伸び率と前年の額から計算した伸び率がずれる。統計局は「農業調査をもとに17年の値を修正した」と高い伸びを説明する。

製造業などの企業利益は18年1~4月の累計で前年同期比15%増の2.1兆元(約36兆円)。だが、17年1~4月の利益(2.3兆元)から計算すると6.6%の減少だ。統計局は「調査対象は毎年異なる」とする。

12年1月まで遡って計算すると、計算値と公表値の動きはほぼ一致してきた。差が開いたのは17年秋から。「水増し修正で一部の地方が国に報告する企業利益が大幅に減った」との指摘がある。固定資産投資の伸び率も同じことが起きた。

中国の統計は経済が不調になると実態や実感とずれやすい。「人民元ショック」が起きた15年は貿易やが落ちたのに成長率が安定していた。相次ぐ統計の異変は経済の下押し圧力の高まりを映している可能性がある。信頼できない統計から中国経済の実態をどうとらえるか。古くて新しい問題が突きつけられた。>(以上)

数字の誤魔化しの修正は高度のテクニックが要ります。何せ今までの発表数字を睨みながら数字をいじらないと辻褄が合わなくなりますので。まあ、彼らは「没関係」なのでしょうけど。

6/19看中国<在日本干过这种事的人 明年起将被拒绝入境!(组图)=日本でかかった医療費を払わなかった人は来年から日本に入国できなくなる!>こんなことは当り前の話なのに厚労省の役人は「外国人にも人権がある」といって規制を渋ってきました。外国人に人権があるのは当り前ではないですか。要は支払いを怠った人を人権といって保護する構図になっているのに、放置して来たという事です。あり得ません。そんなことを言えば借金し放題ではないですか。我々日本人ですら保険証を受診前に提出するというのに。この記事にあるように海外旅行者は海外渡航保険に入るべきで、中国人はその証明がない限り入国させないようにしないと。ビザを要求する国があるのだから、差別でも何でもなく、そう言うことをする不埒な人間が多いと説明すれば済むこと。或は担保を差し出せるかどうか。でもそんな金持ちばかりではありません。この記事の中では、中国人父母が日本を旅行中、心臓発作を起こし、救急に運ばれ、入院、分割払いで払うことにしたが、帰国してすぐ親父が死んで、債務が大きく息子は払えないと言って払わないのもいます。中国では人命第一の措置はとるはずもなく、金が無ければ受診できません。日本に来て高額医療を受けて帰るのもいます。海外旅行者を増やすことばかりに目が言って、大きな安全(日本の富のロスも含めて)についての検討がお留守になっていたという事です。日本で中国人に受診だけでなく、帰化の仕方などをいろいろ教える輩もいます。違法行為幇助の罪で逮捕してほしい。なお、中国人の医療費未払い者の入国禁止でお茶を濁していますが、偽パスポートを発行できる国ですから、偽名で入国できます。入国時に顔認識でマッチさせないと駄目でしょう。それでも根本的対策ではありません。やはり保険付保者以外は入国できないようにしないと。

北村氏の記事は少しずつ中国でもストライキができるようになってきたということです。デモは官製デモ、ストは違法で禁止ですから。何せ生産優先の国で人命が犠牲になろうと政府はお構いなしです。それが公害を発生させ、空気、水、土地を汚染してきました。こんな国が世界を指導するなんて思うことが、ずれているとしか思えません。しかし、ストに参加したトラック運転手は過酷な処分が待っているのか、それとも人手不足だからそのままにして、運賃を上げるよう行政指導して解決するのかどうかです。

記事

中国でトラック運転手による全国規模のストライキが行われた

南米最大の経済を誇るブラジルでは5月21日から連続で10日間にわたるトラック運転手によるストライキが行われた。これは世界的な原油価格の高騰とブラジル通貨「レアル(BRL)」安により燃料価格、特にトラックの燃料となるディーゼルオイルの価格が値上がりしたことが原因であった。ディーゼルオイルの値上がりによりトラック運転手が生活苦に直面したことから、彼らを束ねるトラック運転手協会が燃料価格の引き下げを求めてストライキに突入したのだった。

トラック運転手による長期ストは物流を滞らせ、各地の工場を生産停止に追い込み、庶民の生活に深刻な影響を与え、ブラジル経済に大きな損害を与えて、経済成長率の引き下げを余儀なくさせた。

さて、中国でも6月10日にトラック運転手による全国規模のストライキが呼びかけられた。これは燃料価格の高騰、各種各様な通行税、各地の交通警察や運輸管理部門による過酷な搾取に堪え兼ねたトラック運転手が全国の仲間を結集する形で抗議行動に打って出たものだった。

メディアやインターネット上の情報によれば、6月8日に重慶市、江西省“修水市”、安徽省“合肥市”、山東省“聊城市”、貴州省“銅仁市”などでは6月10日の本番に先行する形でストライキが始まり、多数のトラックが高速道路、国道、駐車場などに集結して燃料価格の値下げと運賃の値上げを要求すると同時に、トラックに対する交通警察や運輸管理部門による勝手気ままな罰金徴収などの不公平な処遇を止めるよう呼びかけた。

6月8日、四川省“成都市”ではSNSの“微信(WeChat)”を通じて、トラック運転手に対して次のような呼びかけが行われた。

トラック運転手諸兄

成都市では6月10日に全ての営業貨物トラックがゼネラルストライキを行います。これと同時に、全ての営業貨物トラックが成都市へ物品を運び入れる、成都市から物品を運び出すことが禁止されます。その時、成都市の外環状道路には人を派遣して巡回調査を行い、営業貨物トラックを見つければ一律に戻るよう説得しますが、頑迷で逆らう場合は車両を叩き壊します。反抗者がいればその場で決着を付け、成都市の何万人ものトラック運転手がその責任を負います。全国のトラック運転手たちよ、この事を心に留めて協力願います。
成都協会

上記の呼びかけは成都協会の名義で行われたが、成都協会とはいかなる協会なのかは分からない。恐らく成都市のトラック運転手が団結して設立したものと思われるが、無認可の組織であり、誰が責任者であるのかも不明である。同様の呼びかけは全国各地で行われたと思われるが、ネットの記事で確認できるのは上記の成都協会の呼びかけだけである。

この成都市の呼びかけと呼応するように、“微信”の“朋友圏(モーメンツ)”には“中国政府大卡車十宗罪?(中国政府のトラックに関する10の罪を問う)”と題する文章が投稿された。その内容は以下の通り。

成都協会の呼びかけに呼応

中国政府のトラックに関わる10の罪。関係部門は我々の質問に回答願いたい。

第1問:トラックの場合、“行駛証(車検証)”の有効期限が15年だが、どうして今、我々のトラックを“黄標車(高濃度の汚染を排出する車)”に変更して、廃車するよう要求するのか。この結果として10万台から50万台のトラックが1万台まで減少することになる。そうなったら、我々はどうやって生きて行けばよいのか。

第2問:“道路運輸管理局”の規定では55トンまでは積載重量超過にならないのに、これが交通警察になると49トン以上は積載重量超過になる。どうして統一しないのか。

第3問:ある地点では積載荷重の限度がない無蓋トラックにも積載荷重超過の輸送許可証を手続きしなければならないのはなぜか。

第4問:車両検査の時、検査をしているのは交通警察官か警察協力員か、一体どちらか。警察協力員なら彼らに処罰する権利はあるのか。彼らは法執行に当たって先に法執行を証明する書類を提示すべきではないのか。

第5問:“黒銭(賄賂)”を受け取るのは交通警察官か、あるいは警察協力員か、はたまた「なりすまし」か。こうした賄賂の受け取りはいつになったらなくなるのか。

第6問:どうして1台の車が交通警察と道路運輸管理局という二つの部門から処罰を受けることがあるのか。

第7問:交通警察の罰金徴収任務は一体だれが決めたものなのか。これは罰金を徴収することが目的で、積載荷重超過を罰することを目的としていない。いつになったら合理的な規則案が出てくるのか。

第8問:罰金を徴収しながら領収書を切らない。領収書を切れば、免許の点数を減点する。これは法執行なのか、強奪なのか。

第9問:車両に問題がなければ、欠点を探し、欠点を無理やり作り出す。この種のあら探し式の法執行を受ける我々はどうやって生活したらよいのか。

第10問:全国の高速道路は損失が出るとすぐに高速料金を値上げする。損失を我々に転嫁するだけで、どうして自分たち自身の原因を探そうとしないのか。路面品質はどうしてあんなに悪いのか。道路の使用年限は10年なのに、その10年の間に度々道路を修復し、補修する。そのつけをどうして我々運輸業者に払わせようとするのか。

我々が故郷を離れたのは同じ目標のためだ。それは、生活し、生存するためである。だから我々は団結して全社会に我々の存在を知らしめねばならない。もしこの文章の転送が100万回に及んでも、関係部門が我々に注意を向けないなら、我々は彼らに我々の声を聞かせなければならないのだ。

全国のトラック運転手はこうした表明を行うことで、退路を断って一致団結して協調行動を取るべく、各地のトラック運転手組織が連盟を結成し、全国規模のストライキを6月10日に実施することを決定したのだった。そして、次のような檄文が微信に投稿された。

通知:全国のトラック運転手へ宛てた手紙

6月10日は全国のトラックの運行停止日です。もし、当日にトラックが運行を停止せず路上を走行していたら、どのトラック運転手でも構わないから、車をぶつけてください。これは前もって通知済みのことであり、人の意見を聞かない独断専行の者はトラック運転手には相応しくないのです。今回はトラック運転手の団結力を証明しなければなりません。つらい労働をし、不当な待遇を受けているトラック運転手の友人たちよ、我々はすでに我慢の限界を超えたのです。もはや退路はないのです。どうか皆さんの手を動かしてこの文章を転送してください。成敗はこの一事にあります。

6月10日に仕事を停止しても飢え死にすることはありませんが、廉価な運賃は我々を飢え死にさせます。我々は大きな犠牲を払ってトラックを買い、命を懸けてカネを稼ぎ、長年他郷に暮らして家を思い、子供を思っています。

それは少しでも多くのカネを稼ぐためです。この安い運賃と高い燃料価格を見て下さい。これなら故郷の家にいて心安らかに田畑を耕すに越したことはありません。それなら元手が出て行くこともなし、危険もありません。再度繰り返しますが、皆さん手を動かして本文章を転送してください。2018年6月10日は全国のトラック運転手の仲間が仕事を停止する日です。我々、3000万人のトラック運転手が一致団結していることを見せてやりましょう。6月10日、6月10日です。

上記の檄文には「3000万人のトラック運転手」と書かれているが、実際はどうなのか。中国政府“公安部”の“交通管理局”が2018年1月15日に発表した統計によれば、中国の自動車保有台数は3.1億台で、免許証保有者数は3.85億人となっている。“載貨汽車(トラック)”の保有台数は2341万台、このうち新規登録台数は310万台で、史上最高を記録したとある。

統計上でトラックは、“薇型”(長さ3.5m以下、車両重量1800kg以下)、“軽型”(長さ6m以下、車両重量4500kg以下)、“中型”(長さ6m以上、あるいは車両重量4500kg以上12000kg未満)、“重型”(車両重量12000kg以上)の4つに分類されているが、一般にトラック運転手と呼ばれる人たちが運転するのは薇型と軽型を除く、中型、重型だろう。

この点に関し、中国メディアは「政府統計によれば、中国の現在のトラック保有台数は1500万台であり、一般に1台毎に少なくとも2人の運転手がいるとして計算すると、全国には少なくとも3000万人のトラック運転手がいる計算になる」と報じている。したがって、トラックの保有台数2341万台から薇型と軽型の台数を除いた“中型”と“重型”の台数が1500万台ということになるものと思われる。

中国の高速道路は日本の15倍の長さ

一方、中国政府“国家統計局”発表の『2017年国民経済・社会発展統計公報』によれば、2017年の貨物輸送総量は479.4億トンで、その内訳は、鉄道輸送:36.9億トン(総量に占める比率7.7%)、道路輸送:368億トン(同76.8%)、水路輸送66.6億トン(同13.9%)となっている。実に貨物輸送総量の8割近くが道路輸送で占められ、その多くがトラックによって輸送されているのである。

2017年7月に中国政府“交通運輸部”が発表したところによれば、中国の高速道路の総延長距離は13.1万kmで、2012年末から4万km増大して世界一であるという。日本の高速国道の総延長距離が2017年末で8776kmであることを考えると、中国の高速道路は日本の何と15倍の長さである。それだけ距離が長い高速道路を使って全国各地へ貨物を輸送するトラック運転手の仕事が過酷なものであることは疑いの余地はない。

その彼らを待ち受けるのが交通警察や道路運輸管理局による検問であり、積載荷重超過や荷締め不足、タイヤの空気圧不足などの理由で難癖をつけて罰金を科し、時として見逃しを条件に賄賂を要求する。また、各地政府が独自に定めた非公式な道路通行料や渡橋料の支払いを要求される。こうした関門がトラック運転手を悩ませ、彼らの収入を圧迫することになる。

一方、検問を行う交通警察官や道路運輸管理局の職員は、気分が良ければ検査も適当だが、気分が悪ければ徹底的にあら探しを行い、片っ端から罰金を科す。これではやられる側のトラック運転手はたまったものではない。こうした不満を取りまとめたのが上記の「中国政府のトラックに関する10の罪」なのである。

トラックの燃料であるディーゼルオイルの価格は、2017年10月12日に1リッター当たり6.08元(約103円)だったものが、その後は徐々に値上がりし、現在(2018年6月11日)は6.79元(約115円)となり、8カ月間で0.71元(約12円)の値上がりとなっている。これに引き換え運賃は安いままに据え置かれている。あるトラック業者は以下のように述べている。

【1】40トンの貨物を積載できるトラックで、山東省“済寧市”から200km離れた江蘇省“徐州市”まで貨物を運ぶ場合、所用時間は5時間、人員は2人で、運賃は1トン当たり45元(約765円)の計算で1800元(約3万600円)である。しかし、道路通行料だけで280元(約4760円)、これに燃料を加えると700元(約1万1900円)になる。人件費は運転手が300元(約5100円)、護衛が100元(約1700円)であるから、これら諸経費を合計すると1380元(約2万3460円)となり、手元に残るのは420元(約7140円)。これでは故を起こしたりして賠償が必要となれば利益が吹っ飛ぶ。

【2】そればかりか、検問で積載荷重超過と判定されて1回200元(約3400円)の罰金を払ったら赤字しか残らない。時には貨物の依頼主からの支払いが延滞して、いつになったら入金するか分からないこともある。したがって、トラックを積載荷重の限度内で営業していては赤字になり、積載荷重超過を前提に営業しないと利益が出ない。40万元(約680万円)でトラックを1台購入して運送業を始めたが、仕事をすれば赤字、しなければ赤字で、身動きが取れず、トラックを売りたくとも買手がいない。これでは如何ともしがたく、やっていられないというのが本音である。

6月10日、トラック運転手による全国規模のストライキは予定通り実施された。しかし、政府側から脅しを受けたり、運転手仲間の協調がうまくいかなかったりしたため、トラック運転手3000万人のうちのどれだけの人数がストライキに参加したのかは、中国政府による情報管制もあって確認されていない。

但し、上海市、四川省、重慶市、湖北省、山東省、安徽省などの各地では多数のトラック運転手がストライキに参加したことが確認されている。彼らは高速道路に車列を並べ、橋を占拠して通行を妨げて、気勢を上げた。また、一部の地域ではストライキに参加した運転手が、ストライキに参加せず運送営業を行っていたトラックの通行を妨害したことで、双方の運転手間で暴力による衝突が発生し、一部のトラックは破壊されたという。

政府に対して生存権を保障するよう要求

最近では一部の中国政府を後ろ盾とする物流会社が貨物の大口出荷元を独占し、運賃を安く抑えて、業務を拡大しているので、燃料価格の上昇やその他の各種要因により個人経営のトラック輸送業者が彼らと競合することは難しくなっているのが実情である。こうした厳しい状況下で、全国3000万人のトラック運転手は退路を断つ覚悟で1日限りのゼネラルストライキを敢行した。

それは中国政府に対して彼らの生存権を保障するよう要求するものであった。トラック運転手の大多数は農村出身者で、家族を故郷に残した出稼ぎ者であるから、家族を養うための仕送りは欠かせない。そんな彼らが決起してゼネラルストライキに打って出たのは、生きるための最低条件の確保を求めたのである。

果たして中国政府はトラック運転手が提起した『中国政府のトラックに関わる10の罪』の質問に答えて、何らかの改善策を提示するだろうか。米誌「ニューヨークタイムズ」によれば、今年に入って現在までに中国国内で報じられたストライキだけでも400件以上に及んでいるという。

蓄積された庶民の不満が爆発すれば、いかな独裁体制を敷く中国共産党といえども安泰とは言えない。3000万人ものトラック運転手が一致団結してゼネラルストライキを敢行したことで、中国共産党指導部が肝を冷やしたであろうことは想像に難くない。

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『中国監視社会の実態、自由闊達な深センの「裏の顔」』(6/15ダイヤモンドオンライン 姫田小夏)について

6/16看中国<普京訪華後 俄禁中國在貝加爾湖取水(圖)=プーチン訪中後にも拘わらずロシアは中国にバイカル湖での取水を禁じる>イルクーツク州裁判事は中国・ハルピンの企業にバイカル湖からの取水によるペット詰飲用水の生産を禁じる判決を出した。同じくペット詰飲用水を作って­いる韓国企業はお咎めなしにも拘わらず。理由はロシアの水質基準に合わないとのこと。これはバイカル湖周辺の住民は豊かでなく、国家として政府が中国と付き合うのは仕方がないとしても、国民感情レベルでは反中であることには変わりはない。シベリアの森林も伐採され中国に輸出される。天然資源が奪われる恐怖がある。プーチン政権は腐敗しているので嫌われているが司法は独立しておらず、上の指示に従って判決を出す。ロシア国内での外国投資、特に中国からは必ず贈賄する。この判決は反中感情の為せる業。

ロシアも中国も腐敗という意味では似たり寄ったりです。日本と言う国がどんなに良い国かこの点を比較してみても明らかです。左翼は日本の良さを認めませんが。ロシア国民か中国国民になる事を勧めます。日本政府はロシア国民の反中感情を利用して、中国を牽制するようなことも考えたほうが良いのでは。

https://www.secretchina.com/news/b5/2018/06/16/861937.html

6/16阿波羅新聞網<專家:中共用關稅回擊美國是一個錯誤=中共が関税で米国に対抗するのは誤りである>マルコルビオは「トランプは素晴らしい。米国が中国産のものに関税を課すのは、中国が知財等を盗んで作った製品だから。関税と言わずに窃盗税と言うべき」と。あるIT関係者は関税をかければ消費者が困るだけ。歴史上関税で解決した問題はないと。ロック元駐華大使(華僑第一号大使)は「中国の米国からの輸入品は代替性がある。大豆然り、ボーイング然り。損をするのは米国」と。中共はやられたら同程度でやり返すと。米国のある研究所員は、「中国の関税報復措置は誤り。トランプは更なる報復を課そうとするだろう。両者とも傷つくだけ。中国は米国産製品の輸入等貿易黒字を減らすような、別な手を考えるべき」と。トランプは「米中の貿易戦争はとっくに始まっていて、今まで米国は負けて来た。彼らは多くを得て来た。それを今変えるだけ」と。

トランプのやり方は正しいと思います。真の敵は中国なのだから、中国が困ることをすれば良いと思います。特に貿易黒字を軍拡原資にしている中国であれば

http://tw.aboluowang.com/2018/0616/1130471.html

中国の監視社会は本ブログで何度も伝えて来ました。しかし、それが香港にも及んでくるとは。勿論、新幹線での包丁による殺人事件から教訓を得るとすれば、やはり改札前後での手荷物チエック(金属探知機か身体全部スキャンか)は必要と思います。新幹線以外でも事件が起きる可能性がありますので、JRに任せるのでなく、政府としても国家安全の見地から対策は練るべき。

公安が威圧警備するのはやりすぎと思います。事件が起きたらすぐ出動できる体制を整えておくくらいでしょう。監視カメラはもっともっと増やすべきですし、スパイ防止法も。

記事

深セン市の入り口に掲げられた看板。香港側からの移動者に社会主義思想を見せつける Photo by Konatsu Himeda

香港特別行政区の北側に隣接する深セン市は、「中国のシリコンバレー」として、昨今世界中から熱い視線を集める新興都市だ。だが、自由闊達なイノベーションの一大拠点という輝かしい一面の裏には、治安維強化の厳しい現実があった。(ジャーナリスト 姫田小夏)

深センの出入境ゲートで指紋と手の甲をスキャン

4月半ばの午前9時過ぎ、筆者は香港の繁華街・旺角から香港MRTの東鉄線に乗り、深セン市を目指した。香港の北端・東鉄線終点の羅湖駅に着いたのは午前10時。ここで下車するのは、観光目的で訪れる筆者のような、もの好きな外国人もわずかにいたが、多くは仕入れ目的の行商人だ。

車両から吐き出された乗客のほぼ全員が、越境ゲートを目指して歩く。眼下には、香港と深センの間を流れる深セン河に鉄条網が張り巡らされ、緊張感を醸し出す。境界となる細い川を渡るとそこは中国本土、空気はガラリと変わり「厳しい管理下」に置かれたことを察知する。天井にぶら下がるのは無数の監視カメラだ。いまどき日本でも監視カメラは珍しくないが、これほどの数となるといい気分はしない。

出入境ゲート(形態は空港のイミグレーションとほぼ同様)では、パスポートの提示だけでは済まされなかった。親指を除く四本の指の指紋に加えて、左右の手の甲のスキャンを要求された。指紋による認証は、2017年から深センのイミグレーションや越境ゲートで始まって全国で導入され、上海の空港でも、この4月から10本の指の指紋が取られるようになったばかりだ。

近年、中国政府は二重国籍者への取り締まりを強化していることから、生体識別を役立てるつもりなのかもしれない。とはいえ、吸い取った後の膨大な個人データは「どんな形で二次利用されるのだろうか」と不安になる。中国IT企業の成長は著しいが、その技術がこうした監視体制の強化に使われていることは間違いない。

手続きが終わり、深センでの第一歩を踏み出す。自由と法治の都市である香港から来た乗客らを待ち受けていたのは、全面真っ赤な共産党スローガンだった。習近平国家主席による新時代の「特色ある社会主義思想」の徹底を強調したものだ。

黒い制服組の公安が地下鉄内を巡回

出入境ゲートを抜けた筆者は、市街地に向かう深セン地下鉄1号線の始発駅を目指した。だが、地下鉄の乗車も簡単ではなかった。改札を過ぎると、手荷物はX線検査を通され、人間もまた金属探知ゲートをくぐる。手荷物の中にペットボトルなどの液体が確認されると、係員が取り出した上で、再度の安全確認を行う。そのセキュリティチェック体制は、まるで飛行機に搭乗するかのように厳重だ。

ちなみに上海でも、2010年に開催された上海万博と前後して、治安維持のための手荷物検査が地下鉄の全駅で導入されたが、これほど厳重なものではなかった。万博後もそのまま検査機器と検査係は残されたものの、これに応じる市民は少数で、むしろ「手持ち無沙汰な係員」が気の毒なくらいだった。

やっとの思いで地下鉄に乗ると、今度は “黒い制服組”が乗客と一緒に列車に乗り込んできた。背中には「列車安全員」とあり、扉が閉まるや、早速車内の巡回を始めた。全身黒づくめの制服なので、妙な威圧感がある。彼らはいわゆる「公安」で、2017年8月から深センで全面的に始まった治安維持のために巡回しているというのだ。

駅構内には、2人の公安に挟まれ尋問されている女性がいた。どうしたのかと見ていると、公安の1人が自分のスマートフォンを取り出し、動揺する女性に向けてシャッターを切った。身なりもごく一般的で、会社勤めとおぼしき普通の女性だが、彼女が何をしたというのだろう。深センではこんなことが公然を行われているのかと戦慄を覚えた。

中国では2015年に国家安全法が成立し、その後、毎年4月15日を「国家安全教育日」として、全国で教育強化を実施するようになった(今年から香港でもその導入が始まった)。これほどの警戒を高めるのは“治安維持月間”に重なったためなのかもしれないが、翻せば想像以上に治安が悪いのかもしれない。

隣接の香港で治安が悪化 無数の監視カメラが設置される

香港に戻り、筆者は香港屈指の繁華街・旺角の歩行者天国(西洋菜南街)を散策した。ちょうど週末だったせいで、夜の歩行者天国にはどこからともなくパフォーマーが湧き出し、それぞれに歌ったり踊ったり楽しんでいた。しかし、ここでも筆者は違和感を持った。やはり、設置されている監視カメラが多かったからだ。民衆のたわいもない自己表現の空間には、あまりにも不釣り合いなのだ。

歴史ある賑やかなホコ天も 親中派と本土派の対立の舞台

学生が普通選挙を求め、中環(セントラル)を占拠した2014年の「雨傘運動」は記憶に新しいが、2016年にも市民のデモが地元警察と衝突する大規模な事件が起きている。

この歩行者天国は18年に及ぶ歴史があるが、一見、賑やかな“ホコ天”にも、実は「親中派」と「本土派」の対立抗争の舞台という裏の顔が存在していた。“香港独立分子”が潜在していることも、エリア一帯の監視体制を高める要因になっているといえそうだ。

自由と法治の都市であるはずの香港でも無数の監視カメラが回る Photo by K.H

もとより、深センと香港をまたぐエリアについては、博打やドラッグ、性風俗などで乱れた一面も存在する。そのため、「安全強化はむしろ歓迎」と言う声もある。しかし、国家が社会のあらゆる領域に統制を及ぼすかのような物々しい監視体制は、健全な市民社会の形成という観点からは明らかに逆行するものだ。

自由闊達な創造の空間、技術革新が進む一大拠点といわれる深センをこの目で見たいと訪れたが、目のあたりにしたのはもう一つの現実だった。習近平体制になっていまだかつてない厳しい監視社会が深センにも到来する中で、今後も新たなビジネスモデルやイノベーションは創出され続けるのだろうか。

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『「金正恩勝利」で終わった米朝首脳会談、元駐韓大使が徹底解説』(6/14ダイヤモンドオンライン 武藤正敏)、『米朝首脳会談の「落としどころ」は日本にとって最悪だった』(6/14ダイヤモンドオンライン 上久保誠人)、『北朝鮮、経済変革の「指南役」は米国より中国か』(6/13ダイヤモンドオンラインロイター)、『トランプでも金正恩でもなく「北朝鮮問題」の本質は「中国問題」』(6/15Yahooニュース The PAGE)について

本日も紹介記事が多いのでコメントは短くします。武藤氏は外務省出身ですから昨日の本ブログの宮家氏と同じ見方をしています。トランプは外交のプロシージャーを踏んでいないと言うものです。でも踏んでやっていればいつまで経っても首脳会談は開かれなかったのでは。突破力が必要なときもありますし、下がある程度詰めて来たから会談ができたと思っています。上久保氏は、今回の合意は日本にとって厳しいものと見ているようですが、米国と日本の制裁は続きますし、問題は中国、韓国が制裁を緩めることです。国連の場を利用して緩和を許さないようにしませんと。勿論、CVIDにかかる経費や拉致被害者解放ができれば日本が経費負担せざるを得ません。トランプが北との戦争は金がかかるので避けるというのであれば、戦争以外で締め上げるしかありません。米中で貿易戦争の口火が切って落とされました。お互いに関税の掛け合いです。中国が米国との貿易量が減れば、朝鮮を援助する余裕ができるかどうかです。まあ、北を緩衝国家のままで置いておきたいとは思うでしょうから支援はするのかもしれませんが。でも裏で米朝が握っていたとすれば、中国の支援も必要はなくなります。以前本ブログで中国語の記事を紹介しましたが、中国は米朝がくっつくのを懸念しているというものでした。ロイターの記事のように行くかどうかは今後の展開を見てみないと分かりません。渡辺氏の記事は、昔から小生が言ってきた所ですので、目新しさは感じませんでした。

武藤記事

米朝首脳会談で、会場のホテル内を散策さるトランプ大統領と金正恩委員長 Photo:Reuters/Aflo

6月12日、シンガポールにおいて歴史上初めてとなる「米朝首脳会談」が行われた。だが、その結果は、トランプ米大統領ではなく、金正恩朝鮮労働党委員長にとって満足のいくものであったと言えるだろう。

それを端的に表していたのが、会談前と後の金委員長の表情だ。会談場所のカペラホテルに降り立った時の金委員長の表情は硬く、こわばっていた。しかし、会談を終えてトランプ大統領と連れ立って歩いたときの表情は、満面の笑みを浮かべて勝ち誇っているかのように見えた。

表情が、これだけ明らかに変化したのはなぜなのか。会談の中身について、詳細に見ていくことにしよう。

合意文書に盛り込まれず 非核化の実現は疑わしい

会談における主要な課題は、「北朝鮮の非核化」と「北朝鮮に対する体制の保証」だった。

しかし、会談後に発表された共同声明を見ると、「非核化」については、「金委員長は、朝鮮半島の完全な非核化を強く断固として取り組むと再確認した」「2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮が朝鮮半島の完全なる非核化に向けて取り組む」とするのみであり、具体的な道筋などについては触れられていない。

会談前、具体的な内容までは合意できないだろうとの観測が広がり、大きな枠組みの原則合意にとどまるのではないかと言われていた。それでも、日米が主張してきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(以下CVID)に関しては合意するのではと期待されていたのだが、それも合意できなかった。

トランプ大統領は記者会見で、CVIDについて「話をしたが書いていないだけ。これは完全な非核化ということであり、検証されることになる」と述べたが、これまで北朝鮮が何度となく約束を反故にしてきたことを考えれば、少なくとも合意内容を文書化すべきであった。

実よりも名を取ったトランプ大統領

トランプ大統領は会談前、「完全な非核化の意思が確認できなければ、会談を中座する」とまで言っていたのだが、なぜ、このような曖昧な内容の文書に合意したのか。それは、トランプ大統領にとって、今回の米朝首脳会談は、「自身の成果」とすることが重要であり、そのため「実よりも名を取った」からである。

両国は、会談を有利に進めようと、会談前から猛烈な駆け引きを行った。その結果、トランプ大統領は、「北朝鮮は怒りとあからさまな敵意を表明しており、現時点で会談するのは不適切」だとして、突如、米朝会談の中止を発表した。

これに驚いた北朝鮮は、金桂官第一外務次官の談話で、「いつでもどのような方式でも向かい合って問題解決の用意がある」と前言を翻して、金英哲統一戦線部長が米国を訪問、トランプ大統領やポンペオ国務長官と面談して会談の再設定を試みた。

これだけ慌てたのは、北朝鮮が切実に米朝首脳会談を求めていたからだ。この時点では米国が圧倒的に優位に立っており、北朝鮮に対して譲歩を迫れる立場にあった。そのままの姿勢で会談に臨めば、北朝鮮に対しCVIDへの歩み寄りを不可避なものにできたと思う。

しかし、トランプ大統領はそうしなかった。「北朝鮮の核問題で成果を上げたい」と焦るあまり、安易に会談の再設定に応じてしまったのだ。これが原因で、米朝の立場が逆転してしまったと言える。

トランプ大統領がこうした行動に出てしまったのは、歴史的な米朝首脳会談を実現して自らの「政治的成果」とすることで、今年11月の中間選挙や、2年後の大統領選挙に向けて体制の立て直しを図りたいと考えていたからだ。彼にとって重要なのは、「会談が成功した」と主張できるようにすることだったのだ。

他方、金委員長は、生きるか死ぬかの覚悟で会談に臨んでいた。国の安全保障のために、核ミサイルはどうしても手放せない。だからといって、このまま開発を続ければ、制裁を強化されてますます経済的に追い込まれ、生存自体が危うくなりかねない。そのため、粘り腰で非核化を遅らせ、その間にできるだけ多くの経済支援を勝ち取ろうとしたのだ。

このように見ていくと、会談準備過程の膠着状態は北朝鮮の“遅延戦術”によるもので、時間切れとなった米国が譲歩を迫られた形だったといえる。そもそも、首脳会談の再設定から準備期間は2週間ほどしかなく、北朝鮮の譲歩を引き出す時間的な余裕はほとんどなかった。そういう意味で、米国は首脳会談の日程を設定せず、北朝鮮をじらしながら、非核化に向けて歩み寄りを見せたところで日時を決めるのが得策だったのだ。

CVIDで合意できなかったことが今後の禍根になる可能性

今回の会談が出発点となり、来週以降、ポンぺオ国務長官やボルトン大統領補佐官が、北朝鮮側のカウンターパートとなって具体策を詰めていくという道筋をつけたことは一つの成果といえる。しかし、北朝鮮からCVIDの約束をきちんと取りつけることができなかったことは、今後に禍根を残しかねない。

というのも第一に、閣僚レベルで具体策を詰めていくにしても、合意した以上の譲歩を北朝鮮側から引き出すことは容易でないからだ。また、トランプ政権としても、北朝鮮が完全な非核化の意思を示さないからといって、自ら今回の会談が「失敗だった」と言うことはできない。要するに、トランプ政権は北朝鮮との交渉の余地を自ら狭めてしまったのである。

第二に、段階的非核化によって北朝鮮が時間稼ぎをし、その間に体制を立て直して核ミサイルを開発する機会を与えかねないからだ。そもそも、北朝鮮が非核化の道筋をつけることを頑なに拒否しているのは、その意思がないからであり、北朝鮮がこれまで再三にわたって約束を反故してきたことの再現になりかねない。

そして第三に、今回の米朝合意をテコに中国やロシア、そして韓国が制裁の手を緩めてしまう可能性がある。既に、中朝国境沿いの貿易は、以前より活発になっている模様だ。韓国も開城に連絡事務所を設け、開城工業団地の再開準備ともとれる動きを示し始めている。制裁が緩和されれば、北朝鮮が非核化を進めなければならない動機はなくなってしまう。

非核化に関する言及が不十分で盛り込まれなかった終戦宣言

今回の会談では、朝鮮戦争の「終戦宣言」についても合意するのではないかと言われていた。北朝鮮にとって、非核化する上での最大の懸念材料は「体制の保証」であり、終戦宣言はその第一歩となる。

合意文書の中で、「トランプ大統領は、北朝鮮の安全保障の提供に取り組むとした」とし、「米国と北朝鮮は平和と繁栄のため、両国民の望みに従い、新たな米朝関係構築に取り組む」「米国と北朝鮮は恒久的で安定した平和的な体制を朝鮮半島に築く努力を共に続ける」と記されてる。

朝鮮半島に恒久的な平和をもたらすことは重要であり、そのため北朝鮮に安全保障を提供することは肯定的な動きだ。トランプ大統領は記者会見で、在韓米軍に関連し、「米韓合同演習はとても挑発的であり、費用も莫大だとしてこれを減らしていく」と言及した。

しかし、米韓側が一方的にこうした措置をとるのはいかがなものか。確かに朝鮮半島の緊張が緩和されるなら、それはいいことだ。しかし、朝鮮半島の緊張を高めているのは、38度線沿いに配備された北朝鮮の膨大な長距離砲である。米韓側が緊張緩和を図るなら、北朝鮮にも対等に緊張緩和の措置を取るよう求めるべきではないか。北朝鮮の要求を一方的に聞くだけでは、交渉にはならない。

今回、終戦宣言が盛り込まれなかったのは、非核化に関する言及が不十分だからだろうが、近々、終戦宣言から平和協定の締結に向けて動き出す可能性は高い。だが、護衛艦の天安艦砲撃やプエブロ号事件、延坪島砲撃など、数々の衝突事件を起こしているのは北朝鮮側であることに鑑みると、平和への取り組みを強く促してほしい。

トランプ大統領は記者会見で、「人権問題については細かいところまで議論した」と述べた。しかし、そこで強調したのは米国の戦争捕虜・行方不明兵士の遺体回収、帰還問題だった。しかし、記者の質問の趣旨は、北朝鮮住民の人権問題だったはずで、金正恩体制の圧政下で政治犯収容所に送られ、惨殺されている人々のことを指していたのだ。

北朝鮮は米朝関係を改善し、国際社会に復帰することで経済発展を進めることを目指している。しかし、北朝鮮の人権状況が現状のままであれば、北朝鮮を支援しようとする国際機関や、投資をしようという企業が現れるわけもなく、人権問題の解決は避けて通れない。

北朝鮮は、長年、国民を締めつけてきた。これを一気に開放すれば反政府活動が広がり金正恩体制は持たないかもしれない。そのためにも、まず住民の生活改善は不可欠であろう。こうした問題に北朝鮮がどう取り組むのか、米国をはじめとする国際社会がいかに取り組んでいくべきか、議論を始めるべきであろう。

拉致問題に言及されたものの解決は容易ではない

トランプ大統領は会談前、安倍晋三首相に対し、「拉致問題について取り上げる」と述べた。会談でいかなる議論がなされたかについては、既に安倍首相に伝えられたであろう。拉致被害者家族も、「今回が最後の機会だ」として希望を持っている。最終的に解決しなければないのは日本政府であり、安倍首相も真剣に取り組んでいる。

北朝鮮にとっても、日朝首脳会談を開きたいはずだ。米朝関係が進んでも、米国は金は出さないと言っており、日本、韓国、中国に丸投げしている。日本としても戦後処理の問題は片付いていないので、拉致や核ミサイルの問題を包括的に解決し、国交正常化の過程で経済協力を提供することになるだろう。

しかし、北朝鮮は相変わらず拉致問題は解決済みだとしている模様で、スウェーデン合意に基づく調査も途中で打ち切っている。北朝鮮のような統制国家では調査の必要はなく、拉致被害者の現状はすでに把握済みだと思われるにもかかわらずである。となれば、日本政府が拉致被害者の現状をできるだけ詳細に把握し、追及することで、金委員長が拉致被害者を返さざるを得なくなるようもっていく必要があるだろう。

今回の米朝首脳会談をきっかけとして、米国の北朝鮮との交渉は今後も続いていく。その過程で、非核化について進展があることを期待する。ただ、日本も傍観者ではいられない。日本は、米国に対して要請して推移を見守るのではなく、当事者としての意識を持って北朝鮮との交渉に臨む必要があると言える。

(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)

上久保記事

Photo:AFP/AFLO

「大山鳴動して鼠一匹」とは、まさにこれだ。米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の米朝首脳会談が行われた。両首脳は、(1)「米国と北朝鮮の新たな関係の樹立を約束」(2)「朝鮮半島の持続的かつ安定的な平和構築に共に努力」「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けた作業を行うと約束」「戦争捕虜、戦争行方不明者たちの遺骨収集を約束」の4項目で合意し、文書に署名した。しかし、「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)という表現は明記されず、全ての項目において、「いつまでに、どのように実現するか」の具体策は示されなかった。

本連載が主張してきた「米国には決して届かない短距離・中距離の核ミサイルが日本に向けてズラリと並んだ状態でとりあえずの問題解決とする」(本連載第166回)という状況が出現する。「史上最大の政治ショー」が起こるかのように大騒ぎした割には、何一つ決まらなかった。「落としどころ」は至って平凡で、日本にとっては最悪なものとなった。

トランプ大統領は「拉致問題提起」を日本からカネを引き出すために利用した?

首脳会談終了後の記者会見で、トランプ大統領は「完全な非核化」実現のために「圧力は継続する」と述べた。また、首脳会談で「日本人拉致問題」を提起したという。安倍晋三首相はこれを高く評価し、感謝の意を表した。後は、首相自らが動いて「日朝首脳会談」を開催し、拉致被害者を取り返すだけとなった。

だが、トランプ大統領は記者会見で「非核化のための費用は、日本と韓国が出す」とも述べた。「圧力を継続」と言いながら、非核化のためという名目で日本に「カネを出せ」とクギを刺したということだ。これで安倍首相は日朝首脳会談に「手ぶら」では行けなくなった。

安倍首相は、日朝首脳会談の開催前から、拉致問題を首脳会談で提起するように、トランプ大統領に積極的に働きかけてきた。そして、そのことを日本国民に対してアピールし続けてきた。トランプ大統領も安倍首相に会うたびに「シンゾー、任せろ。必ず金正恩に話す」と応え、実際に会談で提起したという。拉致被害者の会の皆様は「これが最後のチャンス」と切なる思いで見守っている。いまさら安倍首相が平壌には行かないと言い出せない状況になっている。

この連載は、「北朝鮮との融和」は拉致問題を動かす好機と指摘してきた(前連載第1回)。そして、今回はこれまでとは違い、本当に拉致被害者を少なくとも数名取り戻せるかもしれないと考えている(第181回)。実際に、そういう状況が出現したといえるかもしれない。だが、それは日本が「非核化のためという名目でいくらカネを出すのか」を提案することと、バーターとなっているのではないだろうか。

日朝首脳会談で、北朝鮮に非核化のためのカネを出すことを決めれば、その見返りに拉致被害者が2~3人帰国するかもしれない。もしそうなったら、日本の世論は歓喜するだろう。だが、北朝鮮に渡すカネが、本当に非核化のために使われるかどうか、わかりはしない。逆に、日本が渡すカネが「最大限の圧力」が形骸化するきっかけとなる懸念もある。しかし、その時、拉致被害者を返してもらった日本政府と国民は、北朝鮮に面と向かって厳しく批判できるだろうか。

今の北朝鮮にとって、拉致被害者を2~3人返すことなど、たやすいことだ。金委員長は米朝首脳会談の実現によって、長年の「国家的悲願」であった「米国による体制保証」をトランプ大統領から引き出したのだ。それに比べたら、拉致問題など、言葉は悪いが実に小さなことだ。

「拉致問題は解決済み」という立場の北朝鮮にとって、さらなる拉致の事実を認め、日本に謝罪することは「国家的な恥」ではある。だが、米国による体制保証という「国家的悲願」の実現と比べれば、実に小さな「恥」である。

金委員長が安倍首相に対して「祖父・父の時代に、恥ずかしい振る舞いがあった。だが、私はそれを解決する」と言えば、朝鮮中央放送が「金委員長が寛大な心で偉大な決断をされた」と大絶賛するだろう。それで安倍首相からカネを引き出せるならば、簡単なことだ。

トランプ大統領が米朝首脳会談で拉致問題を提起した。それは「圧力一辺倒」で「完全なる非核化」を求め続ける安倍首相にカネを出させるために、周到に仕組んだ罠だったように思われてならない。

米国、中国、韓国、ロシアの「完全な非核化」に対する本音

日本を除く、「北朝鮮核ミサイル開発問題」の関係国である、米国、中国、韓国、ロシアは、口を開けば「完全な非核化」と言うが、実際は非核化に強い関心はない。米国は「アメリカファースト」であり、既に米国に届くICBMの開発を北朝鮮に断念させて、核実験場を爆破させた。それで目的達成なのである(第184回)。その意味で、トランプ大統領は米朝首脳会談に、「うまくいけば、ノーベル平和賞が取れるかな」という程度の、軽いノリで臨んでいた。

しかも、ノーベル賞を取るのに、北朝鮮の完全な非核化までは実は必要なく、「朝鮮戦争の終結」とそれに続く「在韓米軍の撤退」で十分だと考えている。在韓米軍の撤退は、時期はともかくとして、既に米国では決定事項である(第180回・P.5)。しかも、トランプ大統領は「経費節減にいいことだ」と言い切っているのだ。その上、米朝首脳会談では「米韓軍事演習」の中止にまで言及した。

要するに、トランプ大統領は「アメリカファースト」と「ノーベル平和賞」しか関心がなく、「完全な非核化」は、「金委員長と話はつけた。後は、やりたければシンゾーがカネを出してやれ」と言って、無関心なのである。

一方、ロシア・中国は、本音の部分では、北朝鮮が核兵器を持つことは悪いことではないとさえ考えている。東西冷戦期から、中国・ロシアは「敵国」である米国・日本と直接対峙するリスクを避ける「緩衝国家」として北朝鮮を使ってきた。米朝首脳会談でトランプ大統領が北朝鮮の体制を保証したことで、「緩衝国家」は今後も存続するのだ。

その上で「緩衝国家」が核兵器を保有し、それを日本に向けることは、北東アジアの外交・安全保障における中国・ロシアの立場を圧倒的に強化することにつながる。換言すれば、緩衝国家・北朝鮮の体制維持と核武装は、中国・ロシアにとって「国益」だと言っても過言ではない(第166回)。

韓国は、同じ民族であり、統一すれば領土となる土地に、北朝鮮が核を撃つわけがないと思っている。核はあくまで日本に向けられるものであり、それは悪いことではないと考えるだろう。

トランプ大統領が言及したように、「在韓米軍」の撤退が、韓国が中国の影響下に入ることを意味し、北朝鮮主導の南北統一の始まりになるのかもしれない。北朝鮮よりも圧倒的に優位な経済力を持ち、自由民主主義が確立した先進国である韓国が、最貧国で独裁国家の北朝鮮の支配下に入ることはありえないと人は言うかもしれない。しかし、明らかに「左翼」で「北朝鮮寄り」の文大統領にとっては、それは何の抵抗もないどころか、むしろ、歓迎かもしれないのだ(第180回・P.6)。

日朝首脳会談をきっかけになし崩し的な経済協力が始まる

少なくとも、文在寅大統領は、南北首脳会談で金委員長が求めてきた経済協力を進めるだろう。一応、韓国も「完全な非核化」まで圧力を継続するという立場だが、日朝首脳会談で安倍首相が非核化のためのカネを出すことになれば、後はなし崩しとなる。

北朝鮮の後見役を自認する中国が、米朝首脳会談での融和の進展を受けて、非核化のための圧力の有名無実化に動くことは自然である。そして、日本とともに「蚊帳の外」とされてきたロシアにとっては、北朝鮮への経済協力こそ蚊帳の外から脱する唯一の方法だ。

米朝首脳会談前にウラジーミル・プーチン大統領と安倍首相の日露首脳会談が行われた。日ロ経済協力は着々と進んでいる(第147回)。プーチン大統領から、「日ロ経済協力を発展させて、ロシア、日本、北朝鮮の『環日本海経済圏』をつくろう」とぶち上げられたらどうだろう。北方領土問題を抱える日本は、それを断れるのだろうか。

拉致問題の進展は完全な非核化を遠のかせるかもしれない

本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されます。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

「日本人拉致問題」の解決は、拉致被害者とその家族の皆様にとっては、まさに「最後のチャンス」である。できることならば、横田めぐみさんをはじめ、全員が帰国できることを願ってやまない。

安倍首相は、拉致問題についての日本国民の期待を高めてしまった。いまさら「平壌に行かない」とは言えない。しかし、平壌に行ったら、日本は北朝鮮の非核化という名目で、カネを出さなければならないことになる。「拉致問題」は完全にトランプ大統領と金委員長に、いいように利用されたのではないだろうか。

拉致問題の進展は、北朝鮮の完全な非核化の実現を遠のかせてしまうという、相反する結果をもたらしてしまうのかもしれない。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

ロイター記事

6月11日、トランプ大統領は、北朝鮮が核放棄すれば、米国からの投資に支えられて「非常に豊かに」なるだろうと約束したかもしれない。だが、同国における変革の原動力となるのは米国ではなく、中国だろう。5月、平壌で撮影。KCNA提供(2018年 ロイター)

[ソウル/北京 11日 ロイター] – トランプ大統領は、北朝鮮が核放棄すれば、米国からの投資に支えられて「非常に豊かに」なるだろうと約束したかもしれない。だが、同国における変革の原動力となるのは米国ではなく、中国だろうと、北朝鮮に詳しいエコノミストや研究者は予想する。

北朝鮮にとって最も身近な手本となるのは、米国式の資本主義ではなく、1978年に中国指導者となった鄧小平氏が最初に推進した、国家統制下の中国式の市場経済だと指摘する。

当時の中国は、27年間に及ぶ故毛沢東国家主席による統治がもたらした混乱、つまり資本主義が禁止され、私有のビジネスや財産が国家に接収され集団所有の下に置かれた時期から、抜け出そうとしていたのである。

鄧小平氏は痛みを伴う改革を導入し、現在では、過去40年にわたる中国経済の奇跡の基礎を築いたという評価が広がっている。その変化は巨大であり、成長は驚異的だった。しかし何よりも重要なのは、中国共産党が、権力をただ維持するだけにとどまらず、国内統制をさらに強めつつ、こうした成果を達成したことである。

シンガポールで12日、トランプ大統領と北朝鮮の指導者である金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による史上初の首脳会談が行われる中で、北朝鮮政府の関心は、ますます中国に傾斜しつつある。

正恩氏は3月以来、中国を2度訪問し、習近平国家主席と会談している。一方で、北朝鮮を支配する朝鮮労働党の高官級代表団は5月、11日間にわたる中国訪問のなかで、中国のハイテク都市交通や最新の科学的成果などを中心に、いくつかの産業拠点を視察した。

この代表団が中国を訪問したのは、正恩氏が核実験・ミサイル実験の中止を宣言し、「社会主義経済建設」に専心すると誓ったほんの数週間後である。中国メディアは正恩氏の声明を、鄧小平氏の政策を簡潔に表現した「改革開放」の北朝鮮版だと位置付け、中朝国境の丹東市では住宅建設投資が急増した。

「金正恩氏がトランプ大統領と会談するのは、米国に制裁を解除してもらう必要があるからだ。その後の見出しはすべて、金正恩氏と習氏の名で埋め尽くされるだろう」と語るのは北朝鮮関係に詳しい韓国のエコノミスト、Jeon Kyongman氏だ。

中国は、北朝鮮にとって最も重要な同盟国であり、最大の貿易相手国である。2011年に金正恩氏が権力を継承して以来、中国との貿易関係はますます重要となっている。現在、中国は北朝鮮の貿易全体の90%以上を占め、北朝鮮経済にとって唯一の生命線となっている。

北朝鮮の「開放」に狙いを定める中国

2017年4月、平壌で撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

英リーズ大学で中国・北朝鮮関係を専門とするアダム・キャスカート氏によれば、中国北東部の「ラストベルト」地域で経済成長が停滞していることも、北朝鮮との経済関係強化に関心が高まる追い風となっているという。

北京の東興証券でチーフエコノミストを務めるZhangAnyuan氏によれば、計画経済から市場経済への移行という中国のモデルは、それが政治や経済、社会の安定を損なわずに実現されただけに、北朝鮮政府にとって魅力的である。

「地理的な位置や経済システム、市場規模、そして経済の開発段階を考慮すれば、中国と北朝鮮のあいだの経済協力は他に代えがたい、模倣しようのない優位を得ている」とZhang氏は言う。

だがキャスカート氏は、経済自由化の進展はゆっくりしたものになる可能性が高いという。というのも、北朝鮮は、通貨や移民を巡る規制緩和による政治リスク増大については慎重になることが見込まれるからだ。

北朝鮮は中国だけでなく、上からの厳しい統制が維持されている他の国の経済システムも参考にするかもしれない、とキャスカート氏は述べ、ベトナムや、あるいは韓国の「財閥」型ビジネス構造を例に挙げた。それにより「資本独裁制」に近いものが可能になるからだという。

習主席は、トランプ大統領からの強いプレッシャーを受けて、2017年後半には北朝鮮に対する制裁を厳格に実施し始めた。中国は今年3月までの6ヵ月連続で、国連安保理の制裁決議に従って、北朝鮮からの鉄鉱石や石炭、鉛鉱石の輸入を完全に停止している。

この制裁は石炭依存度の高い北朝鮮の重工業や製造業に打撃を与えた。だが、より重要なのは、中国政府との貿易が急減することによって「経済の最も繁栄する部分がやられてしまった」ことだという。

つまり、個人や卸売業者が中国製の消費財や農産物を売買する非公式の闇市場だ、とJeon氏は語る。「北朝鮮経済を締め上げた最大の要因は、制裁実施に向けた中国の決断であり、この制裁の解除が金正恩氏にとっての急務だ」

「蚊帳スタイル」

ソウル国立大学のKim Byungyeon教授(経済学)は、制裁解除後も、北朝鮮は国家管理の下での経済成長を追求する可能性が高いという。統制を失うことは現体制を不安定化する可能性があるからだ。「そうなれば、正恩氏は現在手中にある権力を半分以上失うだろう」

フィッチグループ傘下のBMIリサーチは、統制維持に向けた努力の一環として、市場開放が行われるとしても当初は「経済特区」に限定されると予想。こうした特区において、北朝鮮政府は自国の低コスト労働力と中国の資金力や技術的ノウハウを結合することを目指してきた。

5月、韓国ソウルでTVニュースを眺める人々(2018年 ロイター/Kwak Sung-Kyung)

東岸の元山(ウォンサン)観光特区や、韓国との境界線にある開城工業地区などの例に見られるように、正恩氏は経済における国家統制を維持しようとするだろう、と専門家は言う。

正恩氏はすでに元山にスキーリゾートや新たな空港を開設し、人口36万人の同市を多額の外貨を稼ぐ観光名所に変貌させている。

「制裁が緩和されれば、まずこの種のプロジェクトが進められる可能性が最も高い」とBMIリサーチは言う。

Jeon氏は、これは鄧小平氏のモデルに似た「蚊帳スタイル」の改革だという。国家統制の厳しい枠組みのなかで限定的に外資導入と市場自由化を進めるやり方だ。

鄧小平氏は中国東部沿岸に一連の経済特区を設け、固有の地方特例法によって輸出市場向けの合弁製造事業に対する外国からの投資を奨励する一方で、多国籍企業との直接の競争から国内産業を保護した。

「鄧小平氏は深センを経済特区に指定し、かつての静かな漁村を、世界の製造業の一大拠点に変貌させた」とJeon氏は語る。「正恩氏は、特に経済の他の部分においては最小限の変化しか望まないだろうから、こうした経済特区に熱心になるだろう」

(Cynthia Kim and Christian Shepherd/翻訳:エァクレーレン)

ヤフー記事

アメリカのトランプ大統領と北朝鮮に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が初めての対面を果たし、華々しく世界の注目を集めた「米朝首脳会談」。その影で忘れてはならない「主役」がいます。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏は、今回の首脳会談の結果は、まさに中国が望んだ流れになっていると指摘します。朝鮮半島情勢を考えるとき、アメリカにとっても、北朝鮮にとっても、そして日本にとっても、つきまとう中国の影。渡辺氏に寄稿してもらいました。
【写真】共産党大会に首脳会談 北京で思う米中関係、民主主義、そして日本

朝鮮半島めぐり中国が望む流れに

米朝首脳会談の結果を「信頼醸成の第一歩」と見るか「ただの政治ショー」と捉えるか。会談を実現したトランプ大統領の手腕を評価するか、北朝鮮に押し切られたと批判するか。米国民の評価はおよそ二分されており、外交・安保専門家の間ではより辛口の意見が目立つ。引き続き、米朝交渉の行方から目が離せないが、中長期的な、地政学的な観点からすると、「北朝鮮問題」の本質は「中国問題」であると考える。

[写真]シンガポールまで向かう専用機まで用意した中国。事態は習近平主席の望む流れへと動いている(代表撮影/ロイター/アフロ)

当然ながら、中国は対岸における有事を望まない。核武装した隣国の存在も然り。米韓同盟の存在も目障りだ。中国にとっては、米朝の緊張緩和、北朝鮮の非核化、朝鮮半島からの米国の影響力後退が最も望ましい。
その意味で、今回の米朝首脳会談の実現、そして共同声明の内容は中国にとって歓迎すべきものであったろう。米国による北朝鮮攻撃のオプションは事実上消え、北朝鮮も核・ミサイルを開発しにくくなり、さらにはトランプ大統領から米韓軍事演習中止や在韓米軍撤退を示唆する発言があったからだ。
今回の共同声明は「段階的非核化」を事実上容認する内容になっているが、それはまさに中国が望んでいたものだ。とりわけ、北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結する見返りに、米韓が軍事演習を凍結するという「二重凍結」を中国は重視していた。記者会見の席上、トランプ大統領は同軍事演習を「戦争ゲーム」と(北朝鮮の認識に沿った名称で)呼び、その中止を示唆した。在韓米軍と米韓同盟の運用に関わる核心部分が、事前に韓国側と――そればかりか一部報道によると米国防総省のマティス国防長官とも――すり合わせがないまま、北朝鮮との会談後に発表された格好だ。
今後「段階的非核化」の見返りとして、北朝鮮は「在韓米軍の撤退」や「THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の撤去」なども求めてくるかもしれない。それは中国にとっても理想的な話であり、その実現のためにも、中国には北朝鮮を支援する価値がある。中国・大連での2回目の中朝首脳会談の際に「米国が望む(核の一括放棄後に制裁解除する)リビア方式に従わなくとも中国は北朝鮮を支援する」といった確約を金正恩委員長は習近平国家主席から受け取っていたのだろう。中国は金委員長がシンガポールへ向かう専用機(中国国際航空)を提供するなど緊密ぶりを印象づけた。

「一帯一路」が朝鮮南端まで繋がる

北朝鮮が今年に入って対話路線に転じた一因は、最大の貿易相手国である中国による経済制裁が一定程度効いたからだとされる。しかし、すでに中朝国境の経済活動(石炭や石油精製品の船舶同士の取引、ブラックマーケット、出稼ぎ労働者の往来など)は元に戻りつつある。
中国は北朝鮮が核実験場などを爆破したことを「非核化に取り組んでいる証し」として、国連加盟各国が北朝鮮に科している経済制裁を緩和する決議案を提出する可能性もある。その際、トランプ政権が拒否権を発動すれば、せっかくの対話ムードが壊れかねない(北朝鮮は「米国が敵視政策を再開した」と反発するかもしれない)。北朝鮮の東西両岸と38度線(南北分断線)を結ぶ「H」型の経済回廊が完成すれば、韓国の経済界にとっても大きなビジネスチャンスが開ける。そして、中国からすれば「一帯一路」が朝鮮半島の南端まで直に繋がることになる。
北朝鮮との交流が進み、中国との経済的結びつきがさらに深まり、米軍のプレゼンスが低下する韓国の状況は、「米韓切り離し(デカップリング)」を狙う中国の地政学的目標と合致する。
もちろん、韓国内では保守派を中心に、そうした展開を危惧する声が強い。また、北朝鮮も、中国の衛星国になることを回避すべく、実は一定程度の在韓米軍のプレゼンスを望んでいるという見方もある。北朝鮮が米国との関係改善を望む理由は、短期的には米国、長期的には北朝鮮を完全に影響力下に置こうとする 中国から身を守るためという見方もあながち的外れではないだろう。

[写真]トランプ大統領は史上初の米朝首脳会談の成果を強調した(ロイター/アフロ)

中国の「シャープパワー」警戒する米国

米国がこうした中国の勢力拡張を警戒しているのは明らかだ。今年1月に公表されたトランプ政権下初の「国家防衛戦略(NDS-2018)」において、米国は中国を(ロシアとともに)既存の国際秩序への脅威となる「修正主義勢力」と位置付けている。海洋(尖閣諸島、台湾、南シナ海)、サイバー、関税、知的財産権など争点は山ほどある。
加えて、最近では、中国やロシアなどの権威主義国家による世論形成プロジェクトを「ソフトパワー」ならぬ「シャープパワー」として警戒する雰囲気が米国内でとみに強まっている。シャープパワーは昨年末に全米民主主義基金(NED)の研究員によって提唱され始めた概念で、相手国を情報操作などによって世論誘導する能力を指す。 中国政府が世界各地で展開している言語文化教育機関「孔子学院」についても、米国内では「プロパガンダ機関」として問題視されており、有力大学を中心に距離を置き始めている。
米国では少し前まで「中国がグローバルな市場経済のなかで発展すれば、次第に民主化が進むだろう」との楽観論があったが、「現実はむしろ民主化に逆行するかのような強権国家化が進んでいる」との失望感や反発が急速に広がっている。私は今年1~3月までワシントンに滞在していたが、米国における対中強硬論や中国警戒論の台頭ぶりは日本で想像していた以上であった。
その一方、TPP(環太平洋経済連携協定)、パリ協定(地球温暖化対策の国際枠組み)、イラン核合意など、多国間枠組みから次々と離脱するトランプ政権は、自らの影響力拡大を狙う中国にとってあながち悪い存在ではない。

中国が日米切り離しを仕掛ける可能性

韓国における米軍のプレゼンスが低下すれば、日本はその中国と対峙する「最前線国家」となり、今まで以上に安全保障上の負担が必要になる可能性がある。そして、中国は「米韓」の次に「日米」の切り離しに照準を合わせてくるかもしれない。
今は北朝鮮について議論しているが、中長期的に見れば、日本にとっても問題の核心は中国なのだと思う。 今は日米同盟を基軸に対応しているが、「米国第一主義」の行方次第では、数年後には、米中の狭間でバランスを取らざるを得ない状況まで押し込まれている可能性もある。

■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など

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『トランプ流は外交の教科書に失敗事例として載る 「この会談はやらないほうがよかった」』(6/15日経ビジネスオンライン 森永輔)、『「米朝会談」の成果はどうであれ、これは歴史だ ロシアゲートの聴取逃れのため米朝首脳会談を利用した?!』(6/14日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『拉致提起に安堵の日本、日朝首脳会談にはなお時間』(6/13ダイヤモンドオンラインロイター)について

本日は米朝首脳会談をマイナスに評価する見方を紹介します。長いので短くコメントします。総じて、ジュリアーニ発言を気に留めている人はいないという事です。共同声明の外形上から見れば、厳しい評価になるのは止むを得ません。ただ、米国のリベラルや民主党支持者の意見が色濃く反映されている気がします。トランプは11月の中間選挙のことを考えて華々しく演出したのはその通りでしょう。でも高濱氏記事にありますようにロシア疑惑聴取から逃れるためにシンガポールへ行ったというのは言い過ぎです。宮家氏の言うように「核弾頭付きの巡航ミサイル」を日本に配備、ニュークリアシエアリングは必須です。

6/14ダイヤモンドオンラインロイター<米朝首脳会談、ニクソン訪中と似て非なる「外交的意義」>

https://diamond.jp/articles/-/172551?utm_source=weekend&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor

森記事

元外交官で外交交渉に精通している宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、米朝首脳会談における米国の交渉術を「稚拙」と評価する。例えば「切り札を最初に切る」「決定権のない者と交渉する」という具合だ。今後は、戦争ではないものの平和でもない“新常態”に北東アジアは突入すると展望する。

(聞き手 森 永輔)

一見したところ会談を主導したトランプ米大統領(右)。果たして交渉上手はいずれだったのか(写真:AFP/アフロ)

—今回の米朝首脳会談で最も注目したのはどんな点でしょう。

宮家:一つは、交渉の進め方。「ディール・メーカー」「交渉の達人」を自賛するドナルド・トランプ米大統領の外交交渉が自滅したことです。それも北朝鮮のような小国にすら通用しなかった。セオリーを軽視し、無手勝流を通したつけが回ったのです。将来、外交の教科書に失敗事例として載るのではないでしょうか。

宮家邦彦(みやけ・くにひこ)キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1978年外務省入省後、外相秘書官、中東第一課長、日米安保条約課長、在中国/イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官等を経て、2005年に退職。その後、2006~7年、安倍晋三内閣で総理公邸連絡調整官。現在、外交政策研究所代表、立命館大学客員教授も務める。近著に『語られざる中国の結末』(撮影:陶山 勉 以下、同)

—セオリーに則っていないとは、どんな行動を指しますか。

宮家:例えば、切り札を最初に切ってしまいました。首脳会談は本来、最後に切るカードです。実務者が協議して内容を詰めた末にやる。まして今回のケースでは、北朝鮮側が切望している会談ですから。

さらに、首脳による1対1の協議を冒頭に持ってきました。安倍晋三首相のように何度も会っている相手なら、それでもかまいません。しかし、金正恩(キム・ジョンウン)委員長とは初対面です。まずはみんなで会って、どのような人物かを見極めるべきです。

二つ目は共同声明の内容について。北朝鮮は非核化について、従来からの主張を守り通し、一切譲ることがありませんでした。「これはすごい。まして米国相手に」と思いました。まあ、攻める米国があまりに稚拙だったので、救われた部分もありましたが。

三つ目は、北朝鮮が自らを普通の国に変えようとしているようにも見えることです。例えば、以前より情報を公開するようになりました。これが本当なら金委員長は冷戦を終了に導いたソ連のゴルバチョフのような存在になるかもしれません(関連記事「金正恩がゴルバチョフになる可能性を読む」)。この点は、たまたま道下さんと同意見です。しかし、それゆえ北朝鮮の政治体制がかえって危なくなる可能性があります。

米国は、米朝首脳会談がもたらすこうした効果を計算に入れているのかもしれません。ただし、入れていないかもしれない。

第1ラウンドは北朝鮮の完勝

—共同声明の内容についてうかがいます。

宮家:第1ラウンドは北朝鮮の「粘り勝ち」でした。米国がこれを挽回することは相当難しいでしょう。

北朝鮮は今回の米朝首脳会談と共同声明を通じて二つのものを得たと思います。一つは国際的な認知。外交交渉の場で米国と伍す力のある国の指導者であると国際社会に認めさせました。二つ目は、米国による体制の保証です。

一方、非核化について譲歩することはありませんでした。北朝鮮にとっては95点の出来だと思います。

—北朝鮮は非核化に取り組む意図がそもそもあるのでしょうか。

宮家:私は恐らくないと見ています。仮にあったとしても、最後の最後に切るものとして温存するでしょう。北朝鮮の方が外交交渉のセオリーに則っています。

非核化は本来、動くはずのないものでした。「段階的な非核化」と「CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)」は相反するもので妥協の余地がありません。

金正恩を説得できるのはトランプだけ

—米国の逆転が難しいのはなぜですか。

宮家:理由は二つあります。一つは「朝鮮半島の完全な非核化」を「板門店宣言」と結び付けてしまったこと。同宣言は5月26日に行われた南北首脳会談を受けて出して宣言。共同声明は「板門店宣言にある通り」と表現しています。このことは、「非核化」が何を意味するかの解釈権を韓国にも与え得ることを意味します。本来なら、米国が一方的に定義して、それを北朝鮮に押し付けるべきでした。韓国が関与するようになると、話はまとまりません。

もう一つは今後の展開が、マイク・ポンペオ国務長官をはじめとする実務者協議に委ねたことです。北朝鮮側の実務者が誰であれ、金委員長を説得することはできません。つまり実務者協議の結果が尊重されることはないということです。

—北朝鮮側は金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長を担当者に選びました。

宮家:金英哲氏であっても、金委員長を説得することはできません。北朝鮮で譲歩できるのは金委員長だけです。誰であれ、説得しようと試みれば命に関わることになりかねません。

そんな金委員長を説得できるのはトランプ大統領だけです。ここは、先ほどお話ししたセオリー無視と関連します。本来なら実務者が協議してまとめた結論をもって、トランプ大統領が金委員長を説得する段取りを取るべきでした。

こうした段取りを踏まなかったのは、トランプ大統領が今回の首脳会談の実務的側面についてあまり興味がなかったからでしょう。だから下に丸投げした。

こんなことなら、この会談はやらないほうがよかったとすら言えます。

—非核化の議論はこのまま米朝の2国間交渉(バイ)で進むのでしょうか。日本が関与する余地はないまま進んでしまう。

宮家:基本的にはバイでしょう。「日米」と「朝」という交渉は北朝鮮が絶対に受けません。しかし、いずれ中国やロシアが加わる時が来るかもしれません。その時には日本も加わればよいと考えます。ただ、過去を振り返ると6カ国協議が機能するとは思えないですね。

費用対効果で考えたら、現在の進め方がよいかもしれません。米朝がバイで進める形を取るものの、日本は米国の後ろに立って知恵を出し、交渉を制御する。

首脳会談の決行は「興行」のため


宮家:それもあるでしょう。しかし、それ以上に、トランプ大統領自身が金委員長と会談したかったからだと思います。周囲の興味を引き付けたかった。彼は「交渉の達人」ではなく「興行の達人」です。

トランプ大統領は自己愛が強い。なので、自分より目立つ人が周りにいるのが許せない。何人もの側近を排除してきたのはこのためです*。自分に意見する人はクビにする*。やりたい放題です。

*:スティーブ・バノン首席ストラテジスト兼大統領上級顧問が2017年8月18日に辞任した

*:2018年3月13日、レックス・ティラーソン国務長官を解任した

トランプ氏が経営する企業の中でやるならかまいません。しかし、アメリカ合衆国のホワイトハウスでやられたら、たまったものではありません。

—トランプ大統領はそれほど幼稚な人物なのでしょうか。

宮家:そうかもしれません。しかし、バカではない。もしバカなら、ここまで政権を維持することはできなかったでしょう。

—先ほど北朝鮮にとって今回の首脳会談は95点と採点されました。米国側の得点は何点でしょう。

宮家:日本にとっては45点。非核化でも拉致問題でも進展がありませんでしたから。

これを85点と高く評価する向きもあります。戦争の危機が当面回避されたことを評価する。これは朝鮮半島の人にとっては重要なことでしょう。トランプ大統領の支持者も同様に評価している。遠いアジアの地で戦争する必要性を感じていないですから。

しかし、日本は幸い直接戦場になる危険は朝鮮半島ほど高くありません。我々にとって最重要事項は非核化であり、拉致問題です。

—戦争の危険は本当に回避できたのでしょうか。北朝鮮が非核化を進めない場合、米国が再び武力攻撃を考えることはありませんか。

宮家:その点は流動的だと思います。しかし、少なくとも今は攻撃しない方向にある。17年春のような緊迫した状況になることはしばらくないでしょう。

「終戦」「平和協定」は米朝だけでは進められない

—「完全な非核化」との交換条件になる「終戦宣言」「平和協定」も進捗はありませんでした。これらの取り扱いは今後どうなるのでしょう。

宮家:北朝鮮が非核化について全く譲歩しないのですから、米国が譲歩する理由はなかったということです。

また終戦宣言や平和協定は、米朝だけが議論して進められるものではありません。現行の休戦協定は、北朝鮮の朝鮮人民軍と中国人民志願軍、そして国連軍との間で交わされたものです。

加えて、勝者と敗者を決めなければならない。朝鮮戦争で生じた被害に対する賠償や保障も話し合う必要があります。遺族への補償も考えなければなりません。これらは容易なことではありません。

—ということは、当分、議論の土俵に上がることはない。

宮家:とは限りません。中身がないものにとどまっても、政治的な宣言を発し、それをシンボルとして利用する方法はあります。

ただし、その時、注意しなければならないことがあります。経済制裁の意味が薄れてしまうことです。北朝鮮が「戦争が終わったのに、なぜ制裁を続けるのか」と主張し、国際社会がこれに理解を示すかもしれない。

—複雑ですね。

宮家:そうですね。韓国はそうやりたいのでしょうけど。米国が「終戦」「平和協定」に踏み込まなかったのは賢明だったと思います。

制裁のなし崩し的緩和をとめよ

—米国は制裁を継続する意向を示しています。しかし、中朝の国境では制裁が緩んでいるとの話が伝わってきます。

宮家:中国と韓国、そしてロシアは制裁解除を虎視眈々と狙っているでしょうね。今後、なし崩し的に緩められていく恐れがあります。日米には、この動きが深刻なものにならないようとどめる努力が必要です。

—文在寅(ムン・ジェイン)政権の性格を考えると韓国の意図は理解できます。でも中国が制裁を緩和したい理由は何ですか。それによって北朝鮮に対する影響力を高めることができるのでしょうか。

宮家:それが一つ。加えて、中国企業や個人が二次制裁の対象にされないようにしたいのでしょう。純粋に経済的な事情で。中朝貿易を生業としている中国の市民が少なからずいます。数年前ピョンヤンを訪問した際も、貿易に携わる中国人が非常に多いことに驚きました。

中国は北朝鮮の後ろ盾ではない

—今回の米朝首脳会談の展開に、中国は何かしら影響を及ぼしているでしょうか。もしくは、北朝鮮が交渉を有利に進めるため中国の存在を利用したことは。

宮家:私はあまりなかったと思います。金委員長と習近平(シー・ジンピン)国家主席が大連で2度目の会談をした後、北朝鮮の姿勢が強気になったと見る向きが、トランプ大統領を含め、あります。しかし、会っても会わなくても、結果は変わらなかったのではないでしょうか。中国に言われたくらいで、北朝鮮が核に対する基本方針を変えるようなことはありません。

私は「中国は北朝鮮の後ろ盾」という見方に与しません。もちろん、この点については別の意見もあり得ると思います。

—だとすると、中国は影響力の回復を目指して巻き返しに転じるかもしれませんね。

宮家:それはあり得る話だと思います。6カ国協議の議長国を務めていた国です。それに比べると、今の状況は忸怩たるものがあるでしょう。

例えば中朝間の貿易を拡大することがそのための手段になりえるかもしれません。そうだとすれば、中国は経済制裁の緩和を求める動きを強めるでしょう。

イランの核問題とはリンクしない

—米国は5月8日、イランとの核合意から離脱決定を下しました。このことは米朝首脳会談に影響を与えたでしょうか。

トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で「核の問題を第1に考えている。だからイランとの核合意から離脱した」と言及しました。

宮家:その影響もあまりないでしょう。もし米国が、イランに対するのと同様に北朝鮮に対するならば、より厳しい姿勢を示したはずです。しかし、そうはなっていません。

北朝鮮とイランでは核兵器の開発状況が全く異なるからです。イランは核兵器を保有していません。仮に有事に至っても、米国は通常兵器だけで対応ができます。一方の北朝鮮は実質的には核保有国です。事の進展によっては核戦争にもつながりかねません。軍事的な手段だけでは、北朝鮮問題は解決できないのです。

冷戦期の欧州に学ぶ日本の核抑止

—北朝鮮の非核化が進まないとすると、日本は抑止能力を高める必要がありませんか。

宮家:おっしゃるとおりです。お金はかかりますが、イージスアショア*などを導入し、ミサイル防衛の精度を高め、守りを固める必要があるでしょう。

*:陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム

—西欧諸国は冷戦時代、ソ連が中距離核ミサイル「SS20」を配備したのに対抗して、米国製の「パーシングII」とGLCM(地上発射巡航ミサイル)を配備。抑止力を高めると同時に、中距離核の廃棄に向けた交渉を開始すると決定しました。同様の選択肢を検討するよう主張する人がいます。

宮家:そうした選択肢をタブー視して排除する時代ではなくなったと感じています。議論はするべき。欧州がおよそ40年前に行ったいわゆる「デカップリング」*の議論から学び、この危機を乗り越えていかなければなりません。

*:ソ連がSS20で西欧を攻撃した場合に、米国が本土に配備した戦略核で報復すると、今度は米本土がソ連から報復を受ける可能性が生じる。「それでも米国は西欧を守るのかと」の疑念が西欧で起こった。これが同盟の「デカップリング(切り離し)」問題と呼ばれる。パーシングIIとGLCMの配備はこの問題に対する一つの回答だった

もちろん、日本自身が核武装することは難しいでしょう。核武装しても負担するコストが大きくなってしまい、結局ペイしないと考えます。しかし、そのことを議論すること自体は抑止力になる。中国は逆上するかもしれませんが。例えば、NATO(北大西洋条約機構)で行われているように、核弾頭付き巡航ミサイルを日本に数発配備する案などはより現実的な検討課題でしょう。

戦争でもなく、平和でもない

—最後に、朝鮮半島の今後についてうかがいます。どのような状態が想定されますか。

宮家:戦争ではないけれども、かといって平和でもない状態が続くと考えます。どうやら、戦争は起こりそうもない方向に動いています。しかし、非核化も進みそうにありません。安定しているのか、不安定なのかも、よくわからない。こうしたスッキリしない状態が常態化する。

そして、長い目で見れば北朝鮮が優勢勝ちする可能性が大です。

日本は安全保障政策を考え直す必要に直面するかもしれません。その時には、自前の装備による核抑止も議論に上る可能性がある。私はこれを勧めているのではありません。しかし、議論を強いられることはあるでしょう。

高濱記事

合意事項は、漠然としたものにとどまった(写真:AP/アフロ)

—米朝首脳会談が終わりました。米国内の反響はどうですか。

高濱:米国のテレビはドナルド・トランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長との歴史的握手の瞬間を中継で報じました。

新聞各紙の電子版は両首脳が握手をした6月12日午前9時(日本時間同10時)直後、「歴史的な出会い」とか「北朝鮮の国家元首と会談する最初の米大統領」といった見出しをつけていました。

しかし米朝首脳会談が終わり、共同声明が出るや、具体策に欠ける点を厳しく指摘しています。「非核化がすぐ始まるとしているが、その詳細には触れていない」(米ニューヨーク・タイムズ)。「米国が求めてきた完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)を実現させるプロセスに言及していない」(米ウォール・ストリート・ジャーナル)。

トランプ大統領の記者会見の模様を、筆者と一緒にテレビで見ていた口の悪いリベラル派の米ジャーナリストはこう言いました。「両首脳はこの瞬間を作るだけで、今回の会談の目的の8~9割は達成できたと思ったのではないか。ところがどっこい、メディアはそう簡単には騙せないよ」

トランプ大統領は「記念撮影だけには終わらせたくない」と言っていました。そんなことを言ったのは、両首脳が握手する場面が世界中に流れることをやはり意識していたからなのでしょうね。なにしろ、ご自身でショー番組の企画制作出演をしていた御仁ですから。

余談ですが、トランプ支持を鮮明にしている保守系のフォックス・ニュースの女性アンカーのエビィ・ハンツマン氏が会談直前にこんなリポートをしてしまいました。

二人の『独裁者』による米朝首脳会談。その結果がどうなろうともこれは歴史です」とやってしまったのです。放映直後、この女性アンカーはツイッター上で平謝りしていました。

ただし、金正恩委員長は、人権抑圧政策を続ける世界に冠たる独裁者。一方のトランプ大統領も大統領特権を使ってまでロシア疑惑捜査を阻止しようとする「独裁者」です。女性アンカーの発言は言いえて妙でした(笑)。トランプ大統領は北朝鮮の人権問題について厳しく批判するようなことはしませんでしたから。

米一般市民は「歴史的会談」にも関心なし

—米朝首脳が握手する光景をテレビで見て、米国民はエキサイトしたでしょうね。

高濱:それが、そうではないのです。人にもよりますけど。日本や韓国のように国を挙げて、という感じではありません。

騒いでいるのはメディアだけ、などと言うと叱られるかもしれませんが(笑)。筆者が住んでいるロサンゼルス近郊の市民に聞いてみたところ、米朝首脳会談にあまり関心はないようです。

都会だからそうなのかもしれないと思い、中西部のアパラチア山脈地域に住むベイカーさん(55歳、零細農業経営者)に電話で聞いてみました。同氏は中低所得の白人層の典型です。

彼はこう答えました。「テレビは見ない。さっきラッシュ・リンボー*のラジオで知った。6600マイルも離れているアジアの国の独裁者が核兵器を持とうが持つまいが、俺らには関係ないよ。わが大統領が『リトル・ロケットマン』(トランプ大統領がかって金正恩委員長を小ばかにしてこう呼んでいた)に会おうと会うまいと俺の生活には無関係だしね」

*:ラッシュ・リンボー氏は保守系全米人気ラジオ番組のホスト人気コメンテーター。毎日正午から午後3時(東部時間)放送されている。リスナーは週平均1325万人。中西部、南部の白人大衆層に圧倒的な影響力を持っている。

メディアは「具体策欠如」を批判

—首脳会談の中身について、米国の専門家や知識層はどう評価していますか。

高濱:トランプ大統領と金委員長は会談後、会談内容を踏まえた共同声明に署名しました。同大統領は「包括的なものだ。できるだけ迅速に(文書の内容を具体化する)プロセスを進める」と言明しました。

共同声明には次の点を明記しました。

  1. トランプ大統領は北朝鮮の体制保証を約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に断固取り組むことを確認
  2. 米朝は永続的で安定的な朝鮮半島の平和体制構築に共に努力する
  3. 米朝は新たな関係を構築する

またトランプ大統領は「金委員長を絶対にホワイトハウスに招く」と語り、2回目の首脳会談を行う意向を明らかにしました。中間選挙前にもう一度「政治ショー」をやって共和党を勝利に導こうという選挙戦術の一環なのでしょうね。

米メディアが今回の米朝首脳会談に辛い点数をつける伏線は会談の前からありました。米朝首脳会談の開催を決めてから6月12日までの2カ月ちょっと、政府部内の専門家や官僚を一切遠ざけて、一握りの側近と策を練るトランプ流に厳しい目を向けていたのです。米メディアは、トランプ大統領の政治手法を、「seat-of-the pants」(計画を立てずに勘やフィーリングで事を進める)とか、「wing it」(役者がセリフを覚えずに舞台に立ち、芝居の最中、袖にいる付け人にセリフをささやいてもらうこと)という表現で報じてきました。

トランプ大統領がこうした手法をとったのは米朝首脳会談だけではありません。米朝首脳会談の直前、同大統領は先進国首脳会議(G7)で自由貿易をめぐって西側同盟諸国と大喧嘩をしました。戦後の国際秩序において最も重要な欧米関係は崩れかねない状況になっています。

特別検察官の「聴取」を逃れるためのシンガポール行き?

—準備不足を指摘されながらどうして、トランプ大統領は米朝首脳会談に意欲を燃やしたのですか。

高濱:よく言われているように北朝鮮の金正恩委員長と会って脚光を浴び、あわよくばノーベル平和賞をもらい、返す刀で支持率を盛り返して秋の中間選挙で共和党大勝利をもくろんでいるから、というのはどうやら本心のようです。

でもワシントン政界にはこんな説もまことしやかに流れています。

<ロシアゲートを捜査するロバート・モラー特別検察官チームは大統領に対する聴取を要求してきた。これを逃れる手段として米朝首脳会談を利用した。外交上の理由で聴取を蹴るよう弁護団に指示した>

米朝首脳会談で成果を上げれば、自分に対する疑惑もすっ飛ぶのではないか、と考えたというのです。どこまで真実かは別としてトランプ大統領は大統領特権を行使して捜査を中止させようとしています。これに対しモラー特別検察官は、同大統領が聴取を拒否するなら召喚状を出す構えです。

トランプ大統領が主張する「非核化」は進展したのか

—米朝首脳会談で「非核化」は進展したのでしょうか。

高濱:共同声明だけではその辺がはっきりしません。これから議会やメディアが徹底検証することになるでしょう。

非核化が具体的に進むためには北朝鮮がいつからいつまでに核を破棄するというスケジュール表が必要です。

米国にとっての最善のシナリオは、北朝鮮が保有している核兵器を「CVID」することです。このことが共同声明に明記されていないのが気がかりです。

百歩譲って、共同声明に盛り込まれた事項をこれから進めていくのに不可欠なことを考えた場合、「核兵器を廃棄するための具体的で筋の通った共通の目標、組織、原則を明確に示す必要がある」と指摘しています。

“A Peace Treaty for the Korean peninsula: Will the Past be Prologue?”Charles Kartman, 38 North, 6/11/2018)

拉致問題はトランプ大統領の「リップサービス」?

—最後に安倍首相が最後の最後までトランプ大統領に懇願した拉致問題について、米朝首脳会談で言及したのでしょうか。

高濱:トランプ大統領は記者会見で、「金委員長との会談で拉致問題について言及した」と明らかにしました。同大統領は、会談前に安倍首相と電話でやりとりした際、「必ず取り上げる」と確約していました。

会談と直接関係はないのですが、ワシントン外交筋からこんな話を聞きました。「トランプ大統領が拉致問題を持ち出すと言ったのは、安倍首相の国内的立場をおもんぱかったリップサービスだ。米国が北朝鮮に『日本人を返せ』とは言えない。米国にとって日本人の拉致被害者救出問題は、非核化や対北朝鮮経済制裁解除に比べて優先すべき問題ではない。口利きはするが、実際に北朝鮮と交渉するのは日本政府。交渉は日朝首脳間でやってくれ、ということだ」

「もう一つ、米政府内部には、北朝鮮が終始言っている『拉致問題は解決済み』という立場に留意する者もいる。つまり、日本政府は拉致被害者の存否に関する諸情報を徹底調査する必要があるというのだ」

「世紀の首脳会談」の第1幕は一応幕を閉じた。すでに米メディアから批判が上がっている。再び幕が開くのはいつか。ワシントン政界筋の間では「中間選挙直前」といった臆測が早くも飛び交っている。

ロイター記事

6月12日、米朝首脳会談でトランプ米大統領が拉致問題を提起したことに、日本の政府内では安堵(あんど)の声が聞かれた。写真は7日、ワシントンでトランプ大統領との記者会見に臨む安倍晋三首相(2018年 ロイター/Carlos Barria)

[東京 12日 ロイター] – 12日の米朝首脳会談でトランプ米大統領が拉致問題を提起したことに、日本の政府内では安堵(あんど)の声が聞かれた。しかし、会談で北朝鮮の非核化に向けた具体的な進展はなく、すべてはこれから。

日本は北朝鮮との首脳会談を早期に実現したい考えだったが、まだ米朝協議の行方を見極める必要がありそうだ。

日朝会談は「危険」

「日本にとって重要な拉致問題について、しっかりと言及していただいたことを高く評価する。トランプ大統領に感謝したい」──。米朝首脳会談後、安倍晋三首相は記者団にこう語った。

トランプ氏は米朝首脳会談後の会見で、金正恩朝鮮労働党委員長に日本人拉致問題を提起したと明言。共同文書に拉致の文言は盛り込まれなかったものの、「米国の大統領が北朝鮮との会談で取り上げたことに意味がある」と、日本の政府関係者は胸をなでおろした。

拉致問題を最重要課題と位置づける安倍政権は、米朝会談で拉致問題を提起してもらったうえで、早期の日朝首脳会談につなげることを狙っていた。核・ミサイル問題と歩調を合わせて拉致問題を解決し、国交正常化を目指すことを考えていた。

狙い通り拉致問題は米朝会談の議題に載ったものの、拓殖大学海外事情研究所長の川上高司教授は「このまま日朝首脳会談を開くのは危険だ」と指摘する。米朝の間で非核化に向けた成果がないまま、日本が拉致問題を前進させようとすると「日米の離反を招く。北朝鮮の狙い通りになる」と話す。

米朝は12日の首脳会談で「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に取り組む」ことで合意したが、具体的な道筋は合意文書に盛り込まれなかった。トランプ大統領は会談後の会見で「極めて迅速に」非核化のプロセスが始まるとの見方を示したものの、詳細には踏み込まなかった。

「(合意文書には)何も新しいこと、具体的なことがなく、非常にがっかりした」と、元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は言う。「トランプ大統領や側近は、過去の過ちは繰り返さないとは言っていたが、これではうまく行かないのではないか」と指摘する。

米韓演習は取りやめ

金政権の体制保証を約束したトランプ大統領は会見で、北朝鮮と協議をしている間は韓国との合同軍事演習は行わないと話した。「米側が具体的な行動を示したわけだから、金委員長にはプレッシャーになる。非核化に向けた具体的な行動を取らざるをえないだろう」と、海上自衛隊の元一佐で、笹川平和財団上席研究員の小原凡司氏は予測する。

しかし、金委員長がトランプ大統領に約束したとされるミサイルエンジン試験施設の破壊も、文書には明記されていない。北朝鮮が本当に核とミサイルの廃棄を進めるのか、不明なままだ。

自民党外交部会長の阿達雅志参議院議員は「交渉しようとこれまで間接的に言ってきた2人が、直接顔を合わせ、交渉に入りましょうと確認するための会談だった。すべてはこれからなのだろう」と言う。「日本が北朝鮮と会談をするには、もう少し米朝協議の行方を見る必要がある」と語る。

(久保信博、ティム・ケリー、竹本能文 編集:田巻一彦)

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『非核化の義務を負うのは「米朝」でなく「北朝鮮」 「核」より「お家の事情」が優先』(6/14日経ビジネスオンライン 重村智計)、『米朝首脳会談、「具体性なし」でも評価すべき理由』(6/14ダイヤモンドオンライン 北野幸伯)、『米朝合意 6.12後の世界(上) 非核化の裏、米中暗闘へ』(6/14日経朝刊)、『米朝合意 6.12後の世界(中) 金正恩氏が迫られる決断』(6/15日経朝刊)について

これから数日、米朝首脳会談の評価を書いた記事を紹介します。プラスに捉えるのもあれば、マイナスに捉える意見もあります。本日はプラスの意見を掲載します。小生も世に言うほど(特に米民主党系のメデイア)本会談が失敗だったとは思いません。表に出て来ない部分が必ずあるはずで、それを出すと金正恩が困るからだと思います。クーデターも起こりかねないからでしょう。

本ブログでジュリアーニの「会談実施を土下座して頼んで来た」発言(6/11ブログ)や鍛冶俊樹氏の「米国が金正恩の秘密口座凍結、金は金欠病」(6/13ブログ)という意見は合っているのでは。でないとプライドの高い金が頭を下げることはないでしょう。

重村氏の見方はこのところ的を射ていると思っています。中国人の書いた記事を何度か紹介しましたが、「中国は朝鮮半島に影響力を失うのではという恐怖感を指導部が持っている」ことは間違いありません。主体思想は中国からの独立を目指したものですから、理念どおりに北が動き出したのではないでしょうか。

北野氏の見立ては全面的に北を信頼はできないけど、会談は両者の信頼醸成の第一歩と捉えています。ポンペオが「大統領の任期までに非核化を実現」と発言していますので、交渉は進んでいく予感がします。北が世界に向け約束したのも同然で、これで反故にすれば、必ずや米国は躊躇わず北を攻撃するでしょう。

秋田氏も北は米中の牽制のカードとして捉えています。しかしオバマと言うのは本当に無能でした。取り巻きが悪いのもあったのでしょうけど。国務省はリベラルの巣窟だったので、結局武力行使を材料に使わなかったのでは。日本も自衛隊を軍に引き上げ、憲法改正しないと真面な外交は出来ません。拉致被害者の救出もできないのですから。旧社会党のように「拉致はない」といって憚らないような政党もありましたし。今その精神を受け継いでいるような左翼政党があります。選挙で落としませんと。米朝・日朝関係がうまく行けば、民潭・総連との関係を見直し、特別永住者の制度は廃止すべきです。

峯岸氏の記事ではトランプのデイールのやり方が功を奏したのではと言う思いです。飴(経済発展)と鞭(軍事攻撃の脅し)を上手く使ったという印象です。米国と良く連絡を取り合いながら、日朝会談に臨み、拉致被害者家族が生きている間に拉致被害者と会い、日本で生活できるようにしてあげたいです。日本政府の正念場です。

重村記事

両首脳の笑顔は何を意味するのか(写真:AFP/アフロ)

米朝首脳会談が行われた。共同声明には完全な非核化の進め方や期限についての言及がなく、失望を買っている。だが、重村智計・早稲田大学名誉教授は「非核化の主体を北朝鮮に限定したことの意義は大きい」と指摘する。その意味するところは……

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は12日、シンガポールでの会談後、共同声明に署名した。共同声明には、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)への合意はなく、多くの失望と批判が聞かれる。

トランプ氏は、金正恩委員長が直面する北朝鮮軍部からの圧力に理解を示し、同委員長を追い詰めなかった。同委員長に「北朝鮮の完全な非核化」を約束させたのは、成果だ。二人はともに、国内での懸案を解消するため、「歴史的」会談を「ライブ中継」する演出を必要としたのだった。

首脳会談の真実は、冒頭40分間の二人だけの会談に隠されている。二人だけで何を話したのか。他の閣僚や高官に聞かせたくない本音を、語り合った。金正恩委員長が会談の冒頭でした発言は異例だった。緊張した表情で口を開くと、次の言葉が飛び出した。

「ここまで来るのはそれほど容易な道ではありませんでした。我々には足を引っ張る過去があり、誤った偏見と慣行が時に目と耳をふさいできたが、あらゆることを乗り越えてここの場にたどりついた」

会談の最後にもう一度、「我々は足かせとなっていた過去を果敢に克服した」と、感慨深げに語った(日本経済新聞6月13日朝刊)。

この言葉が何を意味するのかは、明らかだ。トランプ大統領が5月24日に発した「会談中止」騒動を指しているのではない。「足を引っ張った」のは誰なのか、明かに北朝鮮の国内事情や歴史、国際認識、「抵抗勢力」の存在である。「様々な障害」は、北朝鮮軍部を中心とした「抵抗勢力」の存在を、意味する。だから、首脳会談直前に、軍首脳3人を入れ替えたのだ。北朝鮮軍部の「抵抗」を抑えて、シンガポールまで来た事情を理解するよう、金正恩委員長はトランプ大統領に求めたとみられる。この思いが同大統領に伝わった。

完全な非核化よりお家の事情

米朝両首脳はともに、国内の「抵抗や批判」にさらされる共通の悩みを抱える。そのため、批判を抑えるための「ライブ・ショー」を共演した。米国では、11月の中間選挙に向けた選挙戦がすでに幕を開けた。中間選挙で共和党が勝利しないと、トランプ大統領は議会で弾劾されるかもしれない。支持率を上げる必要がある。

だから会談は、米国の夜のテレビニュースに間に合うように、日本時間午前10時(米東部時間午後9時)に始まった。米テレビは、いずれも緊急生中継で大々的に報じた。会談後の記者会見も、朝のモーニングショーに間に合うよう午後5時過ぎに設定された。米テレビは、特集で報じた。

トランプ大統領にとって今回の首脳会談は、「核問題解決」よりも「中間選挙対策」が大きな目的だった。中間選挙で負ければ、大統領弾劾の危機に直面し、核問題も解決できない。

一方、金正恩委員長も国内の「抵抗勢力」による「暗殺」や「クーデター」の危険が常にある。軍部の中には、口には出さないが「核放棄反対」「米帝の首魁と会談するなどとんでもない」との空気がある。それを抑えるために、米韓合同軍事演習の中止などの成果がほしい。だから、トランプ大統領は「米韓合同軍事演習中止」に言及してあげた。

朝鮮半島の非核化は「北朝鮮の非核化」

共同声明は、当初期待されたCVIDに、まったく触れなかった。これに対して「成果がない」との声が聞かれる。トランプ大統領は、記者会見で「そこまで時間が足りなかった」と正直に述べ、米朝高官による交渉を直ちに開始すると語った。

それでも、共同声明には注目すべき表現があった。声明は「金正恩委員長が『朝鮮半島の完全な非核化』を再確認した」と2度も触れた。板門店宣言においてこれまでの北朝鮮の「朝鮮半島の完全な非核化」は、南北朝鮮が共に行うとの表現で合意されていた。

この表現は、完全な非核化は北朝鮮だけが行うのではなく、韓国も行うとの意味を含んでいた。韓国は核兵器を保有しないが、北朝鮮は「米国の核の傘」の撤去を求めた。これは、米国がグアムに配備する核の撤去をも含む表現であった。つまり、北朝鮮の立場は、「朝鮮半島の非核化」は、米国がアジア太平洋で非核化することも含んでいた。

米朝首脳会談の共同声明は、北朝鮮によるこの解釈を明確に退けた。共同声明は、「北朝鮮が朝鮮半島の非核化」を約束したと表現している。「米国と北朝鮮は、朝鮮半島の非核化を約束した」とは、表現していない。完全な非核化をする主語は、「北朝鮮」だけであった。これは、「朝鮮半島の完全な非核化」は金正恩委員長が取り組み実行する、との意味になる。「米国の核の傘」問題は、なくなったのだ。

この結果、共同声明は「朝鮮半島の完全な非核化」との表現を使ってはいるが、「北朝鮮の非核化」を意味することになる。そのうえで、ポンペオ米国務長官が「できるだけ早い日程で」北朝鮮高官と交渉に入ると明記しており、「核交渉」は継続される。これが、「非核化」についての首脳会談の唯一の成果であろう

北朝鮮が米国の影響下に

米朝の歴史の中で、両首脳が初めて信頼関係を築いた意味は大きい。現代の国際政治は、首脳同士が直接話しあい、問題を解決する。米朝の首脳外交が、幕を開けた意味は小さくない。北朝鮮は、中国に対して「米国カード」を使えるようになった。

朝鮮半島の国際政治は、これまで中国だけが朝鮮半島の南北両国に大きな影響力を持っていた。米朝首脳会談の実現で、米国の影響力が初めて南北双方に及ぶことになった。北朝鮮の指導者が、米国大統領に直接連絡し、話し合える時代が訪れた意味は大きい。

金正恩委員長のワシントン訪問とトランプ大統領の訪朝が、年内に実現する可能性が高い。朝鮮半島の国際関係は、変化する。

拉致問題の解決へ前進

トランプ大統領は、拉致問題を解決するよう金正恩委員長に伝えた。米国の指導者が、日本の拉致問題解決を北朝鮮指導者に求めたのは、初めてだ。金正恩委員長は、米国が強い関心を持っている事実を告げられたから、対応せざるをえない。年内に日朝首脳会談が開かれる可能性が、出て来た。

北朝鮮高官によると、金正恩委員長はすでに昨年はじめ、拉致被害者を管理する「国家保衛部」に拉致問題への取り組みを準備するよう命じた、という。

米朝首脳会談が日本に対してもたらした最大の成果は、トランプ大統領が拉致問題に言及したことだ。これまで中国やロシアの指導者が、北朝鮮の指導者に拉致問題の解決を求めたことはなかった。日本と北朝鮮の問題であり、大国が介入する義理はなかった。トランプ大統領と安倍首相の信頼関係が、拉致問題の前進に効果を上げた。

首脳会談は、米朝の指導者による公式の話し合いで、これまでのような外務次官や国務次官補の低いレベルの約束とは違う。発言と要求、回答はすべて記録される。米朝首脳の共同声明と公式発言は、拘束力を持つ重要な外交約束になる。

北野記事

トランプと金正恩が12日、シンガポールで米朝首脳会談を行った。両首脳は何を話し合い、何に合意したのか?これから、米国と北朝鮮はどうなっていくのだろうか?(国際関係アナリスト 北野幸伯)

溝が埋まらないまま開催された米朝首脳会談

「完全非核化」の見返りは「体制保証」――これが今回のディールの核心である。共同声明の中身に具体性が乏しいとの批判もあるが、今の段階でそれを憂える必要はあまりない Photo:AFP/AFLO

まず、これまでの経緯を振り返ってみよう。2017年、北朝鮮は核実験、ミサイル実験を狂ったように繰り返していた。トランプは激怒し、誰もが米朝戦争勃発を恐れていた。

この時期、北朝鮮へのスタンスに関して、世界は2つの陣営に分かれていた。すなわち中国とロシアを中心とする「対話派」と、日本、米国を中心とする「圧力派」だ。

中ロは「前提条件なしの対話」による、北朝鮮核問題の解決を主張していた。一方、圧力派も戦争を欲していたわけではない。圧力派は「非核化前提の対話」を求めていたのだ。

2018年になると、北朝鮮が大きく動いた。

1月1日、金正恩は「韓国と対話する準備がある」と宣言。
1月9日、「南北会談」が再開された。
3月5日、金は訪朝した韓国特使団と会談。

一連の流れを受けて3月8日、とうとう米国も動いた。トランプが「金正恩と会う」と宣言したのだ。事前に何の相談もなかった日本は、衝撃を受ける。確かに唐突ではあったが、実をいうと当然の流れだった。というのも、金は、韓国特使団に「非核化前提の対話をする準備がある」と伝えたからだ。

金が圧力派の条件をのんだので、米朝対話が始まるのは、論理的に当然だったのだ。

トランプのいきなりの動きに慌てた日本だったが、ほどなく落ち着きを取り戻した。この時点で「圧力派」は消滅し、世界中が「対話派」になっている。
しかし今度は、「対話派」の中で意見が2つに割れた。北朝鮮、中国、ロシア、韓国は「段階的非核化」「段階的制裁解除」を主張。一方、日本と米国は「非核化後に制裁解除」を主張した。

4月27日、歴史的な南北首脳会談が開催される。この後、世界の注目は、来るべき米朝首脳会談に移った。ところが、会談が始まるまで両国の溝は埋まらなかった。

米国vs北朝鮮で食い違い 論点はどこにあったのか?

米国は、北朝鮮がウソをつき続けてきたことを知っている。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。

2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言している。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らかだ。

米国は北朝鮮にだまされることを警戒し、「CVID」(=Complete, Verifiable, and Irreversible Denuclearization、完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄)を主張するようになる。

さらにネオコンの大物・ボルトン大統領補佐官は、北朝鮮問題を「リビア方式」で解決すると述べた。03年、リビアのカダフィ大佐は核開発を放棄し、制裁は解除された。しかし11年、彼は米国が支援する「反体制派」に捕まり、惨殺されている。
「CVID」や「リビア方式」に、北は激しく反発。北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は5月24日、6月12日の米朝首脳会談の中止をにおわせ、さらに「核による最終決戦」の可能性を警告した。

これを受けて、トランプは同日、「米朝首脳会談は行われない」と宣言。慌てた北朝鮮がへりくだってきたので、トランプは25日、「やはり会談をする」といい、また世界を仰天させた。

いずれにしても、会談ギリギリまで、米朝の立場は異なっていた。米国は「CVID」を、北は「段階的非核化」を主張していた。

米朝の「ディール」の核心は何か?

トランプと金は会談後、共同声明に署名した。どのような内容だったのだろうか?

1.米朝の新関係(双方の平和と繁栄)
2.朝鮮半島の平和的な体制保証
3.北朝鮮が板門店宣言に基づき、朝鮮半島の完全非核化に取り組む
4.米朝は戦争捕虜遺骨の回収で協力

重要なのは、北朝鮮が「完全非核化」をし、その見返りに米国が北朝鮮の「体制保証」、つまり金正恩体制の継続を保証するという部分だ。これがディールの核心である。

金は会談当初、とても緊張している様子だった。しかし、トランプとの一対一の会談後、笑顔をしばしば見せるようになった。これはあくまで想像だが、トランプは、金にかなり説得力のある形で「体制保証」を確約したのではないだろうか。

共同声明の中に、米国が今まで主張してきた「CVID」という言葉はなかった。この部分を指摘し、批判する人は多いだろう。これは、米国が譲歩したのだろうか?

おそらく、そうだろう。しかし救いはある。

トランプは、共同声明署名後の記者会見で、「制裁を続ける」と断言した。つまり、1994年や2005年のように、「北朝鮮の口約束だけで制裁を解除したり、支援したりしない」ということだ。

では、いつ制裁は解除されるのだろうか?トランプは、「核問題が重要ではなくなった時点で考える」としている。つまり、「非核化」がある程度進み、「北は後戻りできなくなった」と判断した時点で解除されるということだろう。

共同文書に、「CVID」という言葉や、非核化までの「タイムテーブル」がなかった件に関して、トランプは「非核化までには時間がかかる。しかし、プロセスを始めれば、終わったも同然だ」と答えた。実際、「完全非核化」には6~10年かかるといわれている。

では、金正恩はいつ、非核化を開始するのか?トランプは「彼はすぐプロセスに着手するだろう」と答えた。

「中身が具体的ではない」ことに落胆しなくていい理由

トランプ・金会談の結果については、「CVIDの約束をさせることができなかった」「中身が具体的でない」「タイムテーブルがない」など、多くの批判が出ることが予想される。

しかし筆者は、この会談は「大成功だった」と考える。なぜか?

2017年、世界は「核戦争の恐怖」におびえていた。トランプは、金のことを「チビ、デブ、ロケットマン」と呼び、金はトランプのことを「老いぼれ!」とののしっていた。
ところが今回の会談後、トランプは金のことを「才能のある素晴らしい人物」と絶賛した。さらに、金を「ホワイトハウスに招く」と言い、自身が平壌を訪問する可能性もあると語った。

また、トランプは「米韓合同軍事演習」を中止する可能性についても言及している。

米朝最大の問題は、米国は北朝鮮を、北朝鮮は米国を「ウソつきだ」と確信してきたことだ。だから、「ディール」を前進させる前に、信頼醸成が必要なのだ。そういう意味で、今回の会談は大きな意味を持っていた。そして、トランプと金は、これから何度も会うことになるだろう。

共同声明に「具体性」や「タイムテーブル」がなかった点も、現段階で危惧する必要はない。

トップの仕事は、「大きな方向性を示すこと」だ。トップは方針を決め、具体的なことは下の実務者が行う。それが普通ではないだろうか?実際、トランプは「ポンぺオ国務長官が協議を続けていく」と語った。共同声明の具体化については、これから国務省が取り組んでいくのだ。

今後の焦点はIAEAの査察 受け入れれば金は本気だ

これから、米朝は、そして世界はどう変わっていくのだろうか?

まず、北朝鮮は目立つ形で非核化のアクションを起こすと予想される。金は、せっかく出来上がった「いいムード」を壊したくないはずだ。

もちろん、彼が本気で「完全非核化」を決意したかどうかを判断するのは時期尚早だろう。しかし、「非核化」が「不可逆」な段階まで進むまで、「制裁を続ける」とトランプは言っている。だから共同声明に「CVID」という言葉があったかどうかは、それほど大きな問題ではない。

金にとって核兵器よりも大切なのは「体制保証」である。これさえトランプが約束してくれれば、非核化は進んでいくはずだ。

今後の焦点は、北が国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れるかどうかである。これは、金の本気度を測る大きな指標となる。北が受け入れを表明すれば、世界は「どうやら本気らしい」と判断するだろう。

いずれにしても北朝鮮は、今後しばらく核実験やミサイル実験で、わが国や世界を脅かすことはないだろう。日本は、トランプが「非核化前に制裁解除」という過去の過ちを繰り返さなかったことを喜んでいい。

実際に、「完全非核化」は成るだろうか?現段階ではなんとも言えない。会談開催か中止かを巡って二転三転したように、トランプと金のことだから、何があるかわからない危うさは否めない。しかし、少なくとも「米朝首脳会談前より非核化の可能性は高まった」といえるだろう。

秋田記事

初めての顔合わせが実現したというほか、非核化ではさしたる成果もなく、米朝首脳会談は終わった。

米朝は史上初のトップ会談をテコに非核化プロセスに取り組む(12日、シンガポール)=AP

「もはや、北朝鮮が核ミサイルを持つのを止められないだろう」。日本の政府関係者はこう落胆する。米朝交渉にかつて関わった元米政府高官からも、会談の結果を酷評する声が出る。

少なくとも理由は2つある。まず査察について何も合意できなかった。2005年の非核化合意では査察を明記したが、それでも破綻した。

第2に、非核化の期限も決められなかった。トランプ大統領は2年もすれば、大統領選に忙殺されてしまう。

「中国に頼らぬ」

前例のない米朝のトップ外交だけに今後、予期しない進展が生まれる余地もある。が、初戦は金正恩(キム・ジョンウン)委員長の勝利といわざるを得ない。

それでもトランプ氏が前のめりなのは11月の米中間選挙をにらみ、外交の手柄を焦るからだ。だが、別の思惑もある。米政権に通じた安全保障専門家はこう明かす。

「米朝のパイプを築き、いまほど中国に頼らず、北朝鮮問題に対応できるようにする。そうすれば、米国の国益を脅かすサイバーや通商、海洋問題で、もっと中国を締め上げられる」

トランプ氏がこんな思惑から米朝融和に走るとすれば、朝鮮半島をめぐり、米国と中ロの攻防はさらに熱を帯びる。

そもそも北朝鮮にとって、米朝の改善は宿願だ。米国から攻撃されるのを防ぐだけでなく、深まりすぎた中国への依存を減らし、衛星国になるのを避けたいからだ。

「私たちが手を組み、一緒に中国に対抗しようではないか」。元米政府高官によると、北朝鮮はオバマ前政権当時から、ひそかに米側にこう打診し続けていたという。

米朝が急接近すれば、中国は将来、米国の「準友好国」を隣に抱え込む羽目になりかねない。米国勢力の浸透を恐れる中国からすれば、決して許せないシナリオだ。

対立が招く悪夢

そうならないよう、習近平(シー・ジンピン)国家主席は北朝鮮に圧力をかける。「大事な戦略については互いに必ず、事前に協議する」。中国外交ブレーンによると、彼は5月上旬、金正恩氏の2度目の訪中を受け入れた際に、こんな言質を取りつけた。

中国は同じ思惑から、表で非核化を支持しながらも、裏ではその実現を遅らせようとするかもしれない。一括ではなく、段階的な非核化を主張するのはこの一環だ。

朝鮮半島で米国の影響力が強まるのを阻止したい点では、ロシアも同じだ。習氏はプーチン大統領と組み、米朝主導の非核化交渉へのけん制を強めるだろう。

中ロの意図に気づいたトランプ氏は5月上旬の電話で、米朝のディール(取引)を邪魔しないでもらいたい、と習氏に警告したという。

世界秩序をめぐって対立する米国と中ロが、北朝鮮問題で結束するのは、そもそも容易ではない。だが、大国がいがみあえば、対北包囲網はさらに緩んでしまう。北朝鮮は時間を稼ぎ、核武装を進めるだろう。

そのような展開は米中ロだけでなく、北朝鮮のミサイル射程内にある日本と韓国にとって、さらに深刻な悪夢だ。

大国攻防の果てに、残った勝者は北朝鮮だけだった……。こんな結末は、何としても避けなければならない。(本社コメンテーター 秋田浩之)

峯岸記事

「朝米首脳会談は最も敵対的だった両国の関係を画期的に転換させていくうえで巨大な出来事となる」。シンガポールでの金正恩(キム・ジョンウン)委員長とトランプ米大統領の会談から一夜明けた13日。北朝鮮メディアは誇らしげに伝えた。

11日、シンガポールの観光名所を訪れた金正恩委員長=朝鮮中央通信撮影・共同

伝統の戦術踏襲

最大の焦点だった非核化は、朝鮮半島の平和と安定、非核化を実現する過程で「段階別、同時行動原則」を順守するのが重要との認識で一致したと紹介した。非核化措置を切り売りしながら制裁緩和の見返りを手に入れて時間を稼ぐ。北朝鮮ペースにはまったとの見立てが浮かぶのは自然だ。だが、史上初めて米朝の最高権力者が直接会って合意を交わした意味は軽くない。

共同声明に盛り込まれた見慣れない表現には、米国の変化が投影されている。「新たな米朝関係の確立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できる……」

つまり、米朝が相互に敵視するのをやめてこそ非核化を導きだせるという論理で、北朝鮮の主張に沿う。米国が堅持してきた「まず核放棄」とは逆の新しいアプローチだ。前政権の政策や手法をことごとく否定してきた異端の大統領だからこそ踏み切れた大胆な方針転換だ。

トランプ氏は米韓合同軍事演習の中止も表明した。戦争の危機さえ漂っていた半島の緊張は緩和する。北朝鮮は当面、対話路線を続け、非核化にも前向きな姿勢をとるだろうが、問題はその先だ。

トランプ氏は12日の会談で、タブレット端末を使い金正恩氏に約4分間の映像を見せた。ミサイルや戦闘機が映し出された場面と北朝鮮各地に明かりがともりビル建設が進む様子。「結果は2つだけ。過去に戻るのか、前に進むのか」。好対照の映像は金正恩氏へのメッセージだ。

北朝鮮が切望していた安全の保証というプレゼントを与えても、非核化の約束を破れば元に戻るとの無言の圧力を米国はかけている。軍事演習の中止も「対話が続いている間」との条件付きだ。

「経済集中」にカジ

金正恩氏は今年に入って核開発と経済建設の並進路線に区切りをつけ、「経済集中」にカジを切った。外国企業や投資を呼び込もうにも、非核化を進めなければ援助や資金は入ってこないジレンマを抱える。米朝の融和モードを保たなければ経済重視路線の足取りはおぼつかない。「完全に非核化するのか、しないのか」。金正恩氏は時間稼ぎをしても、いずれ決断をしなければならない局面に追いつめられる。

韓国は非核化プロセスの進展を待ち構えている。米朝をとりもった韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、開城工業団地の再稼働など南北経済協力への意欲を隠さない。韓国紙・毎日経済新聞が7日の経済フォーラムに参加した企業を対象にアンケートしたところ、約7割が制裁が解除されれば北朝鮮投資を検討すると答えた。ロッテグループや通信大手のKTなどの大手企業も制裁解除をにらみ、食品や物流、通信インフラといった分野で北朝鮮事業の可能性を探り始めた。

金正恩氏は4月の南北首脳会談で「いつでも日本と対話する用意がある」と話し、米朝首脳会談でもトランプ氏に日朝対話にオープンな姿勢を示していた。本格的な経済建設には日本からの資金協力も欠かせない。日朝に舞台が移る日も近付いている。(シンガポールで、編集委員 峯岸博)

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『女優・范冰冰に脱税疑惑? 芸能ゴシップを深読み 軍部関与もささやかれる「陰陽契約」の実態』(6/13日経ビジネスオンライン 福島香織)について

6/7阿波罗新闻网<狡兔三窟!不止政协委员冯小刚 范冰冰郭德纲等大陆明星纷纷海外置产=狡兎は難を逃れるのが上手い 政協委員の馮小剛に止まらず範氷氷、郭徳綱等大陸のスターが次々と海外に資産を置く>馮小強は米国に900万$の不動産、女性スターの範氷氷はカナダに不動産を購入して賃貸、漫才の郭徳綱はオーストラリアに222万豪$でシャトー付の豪邸を購入、女性歌手の田震はシドニー富裕層地区に1100万豪$で豪邸を購入。崔永元(有名アナウンサー)が微博(チャット)で馮小強について暴露。他はメデイアが暴露。

http://www.aboluowang.com/2018/0607/1126226.html

6/8阿波罗新闻网<陰陽合同事件反轉?崔永元好友被發追逃公告 中宣部下令官媒噤聲=二重契約事件が反転 崔永元の友人はお尋ね者になる 中共宣伝部はメデイアに報道を禁じる>6日中央規律検査委員会(王岐山がトップでいた所)が職務関連犯罪や経済犯罪で逃亡中の50人の名前を公表した。この中に崔永元の友人の快鹿集団(上海で不動産業、映画製作)の元会長・施建祥が入っていた。崔永元が範氷氷の二重契約で脱税を図ったことを暴露した後、すぐに世論が沸騰し、官製メデイアが脱税を取り締まると発表したため、演劇界は騒然となった。為に中共宣伝部は報道を禁じた。施建祥は2016年3月に米国に逃亡、2017年1月に国際刑事機構のレッドノーテイス(犯人引渡要請)が発給された。演劇界では不法に金を集め、マネロンしている。範氷氷と婚約者の李晨は二人でラスベガスで豪遊、1500万$の小切手の内、1200万をすり、残りはヘリでの大峡谷観覧をした。マネロン目的でバクチをしている。

http://tw.aboluowang.com/2018/0608/1126511.html

6/9看中国<崔永元发飙事件折射大陆社会病态(图)=崔永元が引き起こした事件は大陸社会の病態を表す>崔永元は15年前に「携帯電話」(電話で不倫がばれる)という映画のモデルにされ、彼と家族が傷ついたにも拘わらず、その2作目を馮小剛監督、範氷氷主演で作ろうとしたため崔永元が彼らの不都合な真実を暴露した。しかし大衆は崔永元に関心がなく、範氷氷の脱税問題と「国家精神象徴の栄誉」を受賞したことに対して関心が集中した。範氷氷が受賞した「国家精神象徴の栄誉」は一種の社会風刺ではないか。実際全体主義制度下の国家精神とは、どんな良いものもそぐわない。臣従精神、阿諛精神、貧しきを嫌い、富を愛する精神、弱きを挫き強きに媚び諂う精神、是非を問わず、成功か失敗かだけを問う精神以外にない。

https://www.secretchina.com/news/gb/2018/06/09/861168.html

6/14日経朝刊<中国、海外で商標出願急増 政府が補助金

中国が世界で商標の出願を増やしている。日米欧での出願は2017年までの3年で7倍近くに急増した。中国政府が世界的なブランド育成を目標に掲げ、国外での商標を含む知的財産権の出願に補助金を出している。政府の過度なテコ入れは安易な出願を招き、企業活動に混乱が生じかねない。中国国内で相次ぐ商標登録を巡るトラブルが国外に“輸出”されることへの警戒感も強まっている。

中国から日本への出願件数は17年に8464件と14年比で5倍強に増えた。国別トップの米国(8789件)との差を急速に縮め、18年には逆転する勢いだ。欧州連合知的財産庁への出願も14年比で4倍強に増加した。

米国は日欧と統計の取り方が異なるが、中国からの出願が8倍に急増。17会計年度(16年10月~17年9月)は全出願の8.5%を占めた。英国やカナダ、ドイツを引き離し、圧倒的に多い。

商標は知的財産権の1つ。自社と他社の商品を区別するための文字や記号、図形などを指す。認められれば独占的に使用でき、企業のブランド戦略に欠かせない権利だ。

中国政府は17年に「商標ブランド戦略を徹底的に実施する」との方針を策定し国外での商標登録の後押しを始めた。外国で商標を申請する企業に補助金を支給する。中国メディアによると、浙江省では欧米での商標登録費用の5割、発展途上国では7割を補填する。

米国にはインターネットで雑貨などを販売する零細業者による出願が目立つ。補助金目当てとみられる申請も多く、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、ほぼ同じデザインの服に異なるロゴをつけた出願が何枚も届いた事例が確認されている。出願の殺到で他の申請者の処理が遅れる懸念がある。

商標の出願競争は先進国でも行われており、知財保護のために必要なことだ。だが補助金を使って急激に拡大させる中国の手法は競争をゆがめ、企業活動に混乱を招きかねない。

商標登録が専門の米ガーベン法律事務所の弁護士ジョシュ・ガーベン氏は「中国の補助金は米国の商標登録制度を傷つける意図がうかがえる」と指摘する。日本の特許庁も中国からの大量出願を警戒している。

中国で目立つ商標を巡るトラブルが日米欧で起きる事態も懸念される。

中国では09年に「今治タオル」を日本の団体が出願しようとしたが、別の企業が「今治」を出願済みだと当局に拒否された、などの事例がある。価値が出そうな商標を先回りして出願し、後で必要な企業に売って利益を得る例もあるとされる。

21世紀構想研究会の馬場錬成理事長は「中国では商標の先取りなどの問題と、先進的な知財戦略が併存している。国内外で当面、不正はなくならない」と解説する。>(以上)

中国人の基本的価値観は何時も言っていますように「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」というものです。信頼で成り立つ社会ではありません。外国人に対してだけでなく、中国人同士でもそうです。「他人のものは俺のもの、自分のものは当然自分のもの」という世界です。ですから知財・商標の問題でも国家を利用して、自分に有利になるようにします。トランプが不公正と言うのは尤もでしょう。今まで中国は海賊版を沢山作って、製作者の利益を盗み、今度は知財法を使って囲い込みを図るのは余りに自己中でしょう。中国との貿易を禁じれば良い。

“中国男人没有仁义、中国女人没有贞节、他们只有拜钱教=中国人男性には慈愛・高潔と言うものがなく、中国人女性には貞操観念がなく、彼らにあるのは金を有難がることだけ。”(中国語が正しいかどうかは分かりません。小生が作文しました。でも内容は合っていると思います)というのが当て嵌まるのでは。ここで言っています仁義は新渡戸の「武士道」の中の、仁=benevolence、義=rectitudeをイメージしています。貞節はそのまま、範氷氷の例で分かるように、金の為には権力者(王岐山)に近づき、身体を捧げ、不正をしても捕まらないようにしているという事です。範氷氷の顔は韓国整形美人を彷彿させますが。章子怡も張芸謀監督(北京オリンピック開会式総監督)の愛人だったと言う話です。まあ、中国では“Me Too”運動みたいなのは絶対に起こらないでしょう。何故なら女性の方から近づいて行くからです。セクハラはパワハラの一種ですが、権銭交易と権色交易は中国人にとっては長い歴史の中で当り前になっています。勿論、何清漣は、共産党政権になってからその程度が激甚になったと言っていますが。

中国では三重帳簿が当り前の国ですから、別に二重契約だって罪の意識なくできるのでしょう。でも中国語の記事を読みますと、やはり権力者と通じていると、簡単に不都合な真実に蓋をすることができると思わせます。やはり人治の国だけあります。左翼にシンパシーを持っている人は現実を良く見た方が良いでしょう。福島氏の記事にありますように習近平と彭麗媛は不仲で軍部ともうまく行っていないとすれば、世界平和の為に、クーデターを起こして習を排除するのが理想です。なお、ここに出てきます軍の歌姫の宋祖英は江沢民の愛人と言われています。

記事

脱税疑惑が持ち上がった人気女優の范冰冰(写真:AP/アフロ)

中国で最も美しいといわれる人気女優・范冰冰(ファン・ビンビン)の脱税疑惑が思わぬ方向に広がるかもしれない。単なる美人女優のスキャンダルでなく、これも権力闘争、しかも軍部がらみとなると気になるではないか。今回は芸能ゴシップを深読みしてみたい。

范冰冰は山東省出身、1981年生まれで、女優、歌手と多方面で活躍している。日本では日中合作映画「墨攻」に出演したことで知られ、サントリー・ウーロン茶のCMでも親しまれるようになった。最近では主演を務めた映画「わたしは潘金蓮じゃない」(馮小剛監督、2016)で、サン・セバスチャン国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。カンヌ国際映画祭のレッドカーペットの常連でもあり、昨年はコンペティション部門の審査委員に選ばれて話題になった。彼女のファンには年配男性が多く、范爺と呼ばれている。

范の婚約者の李晨は、知名度はかなり劣るが人気の中国人俳優で、昨年の彼女の36回目の誕生日に正式にプロポーズ。このとき、李晨が愛の証に贈った范冰冰そっくりの人形が、マリーナ・ビチコバという世界的に有名な人形師に特注したものでお値段30万ドル、というのも話題となった。

そんな大人気女優の范冰冰だが、黒い噂が一つあった。元国家副主席で2017年までは中央規律検査委員会書記として反腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとっていた王岐山の愛人であったという噂だ。この噂の出元は、米国に逃亡した巨額汚職容疑で国際指名手配中の実業家・郭文貴だ。ただ、郭文貴がインターネットを通じて流すこうした情報の多くが共産党指導者たちの動揺や疑心暗鬼を狙ったガセ情報という見方も強いし、私もあまり信じていない。

だが、CCTV元アナウンサーの崔永元が5月末にSNS微博を通じて暴露した范冰冰の「陰陽契約」(表と裏のある二重契約、おもに脱税目的)の実態は、ガセとは言い切れない。この情報発信をきっかけに、中国当局が捜査を開始し、しかもターゲットは范冰冰にとどまらず、その背後の中国最大の映画エンタメ企業グループ「華誼兄弟(ファイ・ブラザーズ)」、そしてその背後の軍部にまで及ぶのではないかといわれているのだ。

華誼兄弟は1994年に軍籍の王中軍、王中磊が創設した総合エンタメ企業で、馮小剛や姜文ら才能ある監督を発掘し積極的に投資、中国を代表するヒット作を飛ばし続けてきた。2009年には深センベンチャーボードに上場。2017年にはハリウッドのSTXエンタテイメントと提携して、本格的なハリウッド進出を狙っている。

華誼の急成長の背景には軍があるとかねてから言われている。創業者の王兄弟は軍高官の息子、「軍二代」であり、いわゆる「部隊大院児」の特権階級。王中軍自身も元軍人だ。もともと中国の映画産業を含むエンタメ産業の根っこは八一電影製片廠や解放軍文工団にあり、中国エンタメのノウハウ、人材の少なからずが、部隊大院出身といわれている。

そもそも中国映画の名作には解放軍礼賛のプロパガンダ映画が多い。昨今、中国で異例なヒットとなった「戦狼」や今年春の興行成績1位となった「紅海行動」は民間の制作会社が作った軍事映画だが、解放軍が物心ともに関与しているという意味では、軍部プロパガンダ映画の系譜といっていいだろう。

中国のエンタメ産業を牛耳る主要人物たち

映画だけでなく文藝、演劇、歌謡といった中国のエンタメ産業を牛耳る主要人物のおよそ半分は軍部出身、北京の部隊大院出身者、あるいはその子弟や周辺者が占めている。

部隊大院とは、解放軍の様々な部隊に所属する軍籍者家族が暮らす統一整備された共同生活圏で、食堂、病院、プールなどさまざまな施設がそろい、幼稚園から中学校までの教育機関もあって一貫した英才教育が行われていた。

ほかにも国務院や国家機関の幹部家族の暮らす幹部大院もある。北京ではもともと、「大院文化」というものがあり、職業や身分が同じ人間が共同生活しながら助け合い、子弟の英才教育を協力して行う伝統がある。故宮自体も一種の大院であり、胡同生活もそうである。

もともとそういう文化があるから、幼稚園から学校まで併設された社会主義的な共同生活システムとの相性がよかったのかもしれない。解放軍の部隊大院はさまざまな大院の中でも、飛び切りの英才教育が可能で、特に本来、生活スキルに直結しない芸術、芸能方面のエリートは、部隊大院でないとなかなか育たない中国の社会状況もあった。

こうして英才教育された子弟を「大院児」とよぶが、具体例をあげると、文壇では王朔、ドラマ・映画界では鄭暁龍や陳凱歌、姜文、管虎、中国ロックの父である崔健など、中国を代表する文化人が軒並み部隊大院児なのである。

はり大院児である華誼兄弟こと王兄弟が、こうした部隊大院人脈を駆使して、また文工団出身の馮小剛らエンタメ方面の英才を集結させてみるみる間に中国最大の映画エンタメ娯楽企業集団を作り上げたのである。

さて范冰冰は、この華誼映画の看板女優である。彼女の高額ギャラについては、かねてからいろいろな噂があった。だが崔永元が5月28日、29日に微博で、范冰冰が「陰陽契約」で、巨額脱税していると告発。これを契機に、国家税務総局が調査する動きをみせ、にわかにその噂に信憑性がでてしまった。

崔永元のツイートによれば、范冰冰は4日の映画撮影で、1000万元のギャラをもらったが、じつは裏契約があり、5000万元を受け取ってその分を脱税しているという。

実はこの暴露の前から、崔永元VS范冰冰、葛優、馮小剛および華誼兄弟とは因縁があった。華誼兄弟の製作で馮小剛がメガホンをとり葛優、范冰冰が主演を務めた大ヒット映画「手機」は人気司会者が携帯電話を家に忘れたことで浮気が発覚するドタバタコメディだが、この人気司会者のモデルが崔永元で、内容がほぼ実話ではないか、と噂になったからだ。崔永元はこの映画が自分を侮辱したものだと、たびたびSNSで范冰冰らを批判、攻撃していた。ちょうど、「手機2」の製作発表があったばかりで、このバトルが再燃していたのだ。

動き出した国家税務総局

だが、単なる芸能ゴシップにとどまらないことに、国家税務総局が動き出した。6月3日までに范冰冰の個人事務所に税務調査が入ったという。CCTV、人民日報はじめ、国営メディアも芸能人の陰陽契約バッシングを開始した。関係者の話では芸能界の陰陽契約は実のところ、公然の秘密であったという。申告用の契約書でのギャラは銀行に振り込まれ、その数倍のギャラが現金などでひそかに渡される。

その誰もが公然の秘密と安易に考えていた陰陽契約が今になって問題視されたのはなぜか。范冰冰が仮に脱税容疑に問われることになったとしても、それはスケープゴートでしかない、というのはファン以外でも想像できることだ。当初は天安門事件前に国内や国際社会の関心をそらすのが目的か、などという説もあったのだが、どうやら狙いはもっと大きいのではないか。

ここでにわかに注目されている説が、狙いは華誼兄弟および、北京芸能界から軍部の影響力を排除することではないか、というものだ。習近平政権VS軍部の権力闘争の延長ではないか、という見方もある。

そう思わせる一つのネタが、崔永元が香港「蘋果日報」のインタビューで指摘をしていた、空軍元テストパイロットの徐勇凌の「暗殺司令」疑惑だ。徐勇凌は2014年に現役を引退したのち、軍事映画のアドバイザーなどしていた。最近では范冰冰の婚約者・李晨が初監督、主演したステルス戦闘機映画「空天猟」のアドバイザーもしていたという。

元軍人の映画協力に習近平激怒

だが習近平は現役引退したとはいえ、元軍人(しかも軍事最高機密を知るテストパイロット)が民間映画に関わったことで大激怒。徐は全面的な謝罪を行ったが、習近平の怒りは収まらず「暗殺命令」が出たとか出なかったとか。徐勇凌はSNSを含む公式の場から完全に撤退し、沈黙を守っている。

暗殺命令は話が盛りすぎだとしても、これを機に軍が民間娯楽映画に関与することへの全面的禁止が言い渡された、というのは間違いない。近年、民間制作会社が作る中国の近未来戦争をイメージした軍事娯楽映画が大ヒットしており、一部では習近平政権が強軍化政策を後押しするために、こうした軍事娯楽映画に力を入れているのではないか、という見方もあった。だが、蘋果日報によれば、習近平は軍部が全面的に製作を支援した「戦狼2」や「紅海行動」を名指しで批判しているともいう。

そう考えると、習近平政権としては、中央宣伝部および軍部の掌握はできていないのかもしれない。また宣伝部と軍部がこうした娯楽エンタメを通じてやたらと民間の好戦的な空気を盛り上げているのは、習近平に対する手の込んだ嫌がらせ、という推理もでてくる。

つまり、国内の民族主義的高揚感が、習近平政権の外交上の選択肢を狭め、米国や日本相手の妥協が難しくなってくる上、周辺国は中国の軍国主義化に警戒を深めるので、さらに外交がやりにくくなる、という寸法だ。確かに、表立って習近平を批判する人はほとんどいなくなったが、内心、内政や外交で習近平が失敗することを願っているアンチ習近平派が党内にかなり多いことは、私も仄聞している。特にメディア、宣伝部、軍部に多いとも聞く。

このほか、八一電影製片廠も軍制改革の延長で、大規模リストラされ、総政治部歌舞団やその他文化活動団と一緒くたに、解放軍文化芸術センターにまとめられている。今年1月、トロント国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した「芳華」(馮小剛監督)は解放軍文工団員の栄華盛衰を描いた作品(感動的名作なのでぜひ見てほしい)だが、これ自体が習近平政権に葬りされつつある解放軍文藝・映画の伝統へのレクイエムだったかもしれない。

しかし、ここで一つ新たな疑問がわく。北京の芸能界に関しては、軍部出身で元歌手の習近平夫人、彭麗媛がかなり影響力をもっているはずだ。もともと芸能界を牛耳っていたのは曽慶紅とその弟および関係者といわれていた。それを権力暗闘の末、彭麗媛が奪ったといわれる。曽慶紅も彭麗媛も軍部とは深い関係なので、どちらが北京芸能界を牛耳っても、軍部が芸能界とつながりを持つ状態は変わらない。

だが、習近平が芸能界から軍の関与を徹底排除すると決めれば、総政治部歌舞団出身の元歌姫の彭麗媛の立場はどうなるのだろう。彼女は、まさに軍部と芸能界の接点に位置する重要人物だ。

そこで出てくるのが習近平と彭麗媛の不和説である。たとえば、彭麗媛が姉としたって、家族同然の付き合いをしていた軍の歌姫の宋祖英が政治協商会議全国委員の名簿から消え、一時汚職容疑で取調べを受けたことで、彭麗媛は習近平に強い不満を抱いたとかいう話もある。結婚30年目の二人は5月20日の「我愛你 アイラブユー」の日に、そのおしどり夫婦ぶりが一斉報道されている。だが、そういう報道に力が入るほど、この不仲説への疑いも増してくる。

范冰冰の見せしめに逮捕はあり?

さて今後、この事件がどう展開するかは、まだ動きの途中なのでなんともいえない。華誼兄弟は「税務調査は受けていない」とコメントしているが、株価は影響を受けて下落している。范冰冰は「手機2」の撮影現場にひそかに戻っているらしいが、表だっての活動はすべてキャンセル。婚約者の李晨が実はすでに中国国籍を捨ており、米国におよそ67.8億元相当の資産を移転しているという疑惑報道が香港メディアに出ている。

かつて、脱税取締り強化キャンペーンのために、中央政府は大女優・劉暁慶を逮捕した。これは当時、当たり前のように脱税していた有名人に対する見せしめ逮捕だったといわれている。習近平政権は范冰冰を見せしめに逮捕するのか、おとがめなしか、その前に李晨と国外脱出するのか。あるいは芸能界粛清を建前に、軍の芸能界利権を完全につぶそうとするのだろうか。そうなると、習近平と軍部の関係はどうなる? 芸能ゴシップも深読みすると、なかなかきな臭い話になってくるのが中国らしいだろう。

良ければ下にあります

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『から騒ぎに終わった米朝首脳会談 北朝鮮が非核化を受け入れれば米韓同盟は廃棄?』(6/12日経ビジネスオンライン 鈴置高史)について

6/13阿波羅新聞網<金正恩返国先见习近平?中共外交部被三胖打脸=金正恩は帰国前に習近平に会う? 中共外交部は金三胖に面子を潰される>中共外交部は金が帰路習と会うかどうか問われ「成り行きを見ていてくれ」と自信げに煙に巻いたが、阿波羅新聞網のコメンテーターは「金は習に会わないだろう。会えばトランプが面白くない。米朝の協力関係に必ずや影響を与えるので、金はそれほど馬鹿ではない」とコメント。トランプは中共の関与を低くすることを考え、「我々は今韓国・日本と協力している。中共との協力は比較的低い。だが彼らとも協力する」と述べた。

金が帰路習と会うかどうか注目されたのは、報告するためとか給油の為と考えられた。コメンテーターは「北と米国が直接対話するのは金ファミリーの歴代の夢、ここにきてやっと実現した。金王朝は百回中国を頼っても、百回とも中国に從ったことはない。逆に朝鮮戦争時には朝鮮にいた多くの中共の軍人を殺した。毛沢東は中国に住む朝鮮族部隊を編成し、金日成に送った。延安派も送られ、殲滅させられた」と述べた。

中共内部では北と米国が正式に交渉するのを快く思っているのは誰一人としていない。それは北が中共の牽制から離れ、ゆっくりと自主外交の道を歩き始めることを意味するから。

後ろはポンペオと金与正

http://www.aboluowang.com/2018/0613/1128956.html

6/13看中国<川金会揭秘 谁胜谁负 高下立判(图)=首脳会談でどちらが勝ちどちらが負けたか明らか 勝者はすぐに分かる>TVで見る限りトランプが主人で金は脇役との印象を受けたと。今回の協議は北の核危機の最終解決の第一歩を踏み出したばかりである。

https://www.secretchina.com/news/gb/2018/06/13/861551.html

6/12希望之声<怪!美朝峰会结束 记者会上川普大赞习近平=何かおかしい 米朝首脳会議終了後トランプは記者会見でトランプは習を持ち上げる>米国のシンクタンクCSISのジョセフ・ボスコはボイスオブアメリカの取材に対し「中共は過去に北の核を利用して米国を牽制して来た。もう一方、国際舞台で、その危機を利用して責任ある大国のイメージを作って来た。しかし、もし危機が去ったら、米国と競り合うカードを失うことになる」と。北京人民大学の米国研究センター主任の時殷弘はアップル・デイリーの取材を受け、「米朝が会ったことは進歩であるが、骨組みの協議にサインしただけであり、内容で具体的なものはない。非核化をどのように、スケジュールもなければ、具体的な措置について書かれていない。もし単に非核化という言葉だけを認め合ったのであれば、この首脳会談は、意義は余りない。金は一部非核化して、残りの核兵器を値段交渉の道具として使うだろう。それを国際社会における立脚点とすると私は信じている」と。北京はずっと北の非核化を支持して来たし、北に対し義務と利益を持っている。今回の首脳会談で米・朝・韓の連合ができ、中国の利益に影響を与える。

https://www.soundofhope.org/gb/2018/06/12/n1868526.html

6/13宮崎正弘氏メルマガ<米朝首脳会談を過大な期待で予測したメディアは何を間違えたのか 会談は始まりにすぎず、金正恩は中国の意向(何も約束するな)を実践した>

http://melma.com/backnumber_45206_6695771/

中国語の記事はトランプを評価する記事ばかりです。宮崎氏と鈴置氏の記事はそれらとは違った見方をしています。大方の日本人としては物足りなさを感じたのでは。CVIDと拉致が共同声明に盛り込まれなかったためです。中国に気付かれないように、裏で米朝が握った可能性もあります。昨日の本ブログで紹介しました、鍛冶俊樹氏の「米国が金の秘密口座を凍結」した可能性を考えますと、米国が譲歩したわけではないと思います。第二、第三の会議で中露という外野の声を撥ね返して、CVIDと拉致問題が解決できることを願っています。

11月の中間選挙までこれで戦争の目は無くなったと思います。喜んでいいのかどうか。共同声明を出さずにフリーハンドでいた方が良かったのではと表に出て来る情報だけではそう思ってしまいます。やはり日本も外国の力だけで外交をやろうとしても無理で、強い外交をするには軍事力が必要となります。憲法改正、ニュークリアシエアリング、自衛隊関連法案をネガテイブリスト化、予算の大幅増を訴えたい。

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米朝首脳会談で合意文書に署名後、トランプ大統領の背に手を添える金委員長(写真:ロイター/アフロ)

前回から読む)

6月12日、シンガポールで開いた史上初の米朝首脳会談は実質的な進展なしに終わった。

4項目で合意

—米朝首脳会談が終わりました。

鈴置:6月12日午後1時40分過ぎ(現地時間)、トランプ(Donald Trump)大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長は共同声明に署名しました。

声明では、米国が北朝鮮の安全を保証する一方、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けた約束を改めて確認しました。

・President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.

そしてトランプ大統領と金正恩委員長はともに以下の4つの条項で合意しました。

1.The United States and the DPRK commit to establish new U.S.─DPRK relations in accordance with the desire of the peoples of the two countries for peace and prosperity.
2.The United States and the DPRK will join their efforts to build a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula.
3.Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.
4.The United States and the DPRK commit to recovering POW/MIA remains, including the immediate repatriation of those already identified.

米韓同盟解消のテコ、板門店宣言

注目すべきは非核化に関連する3項目目です。「南北朝鮮が交わした板門店宣言を確認することを通じ、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け努力することを約束する」というのです。

これでは非核化は進展しない可能性が極めて高い。なぜなら板門店宣言で約束した非核化とは、北朝鮮から核兵器を除去することだけを意味しません。

韓国に対する米国の核の傘の提供をやめることを含め半島全体を非核化する、ということなのです(「『民族の祭典』に酔いしれた韓国人」参照)。

6月12日の会見でトランプ大統領は「早急に非核化する」「来週にも具体的な協議を始める」と語りました。

しかし、いざこの条項を持ち出して北朝鮮に「早急な非核化」を要求しても、北は「韓国に対する核の傘を廃止するなら受け入れる」と言い返すでしょう。

ここで米朝協議はこう着し、米国としては1項目目の関係正常化にも、2項目目の体制保証にも進めなくなります。

  • 米朝、3つのシナリオ
米国、リビア方式での非核化を要求
北朝鮮が受諾 北朝鮮が拒否
①米国などによる核施設への査察開始 ②米朝対話が継続 ③米国、軍事行動ないし経済・軍事的圧迫強化

中間選挙まで時間稼ぎ

—トランプ大統領は板門店宣言の非核化の意味を理解しているのでしょうか。

鈴置:もちろん分かっていたと思います。ただ、金正恩委員長との会談で何らかの成果を出して見せる必要に迫られ、北朝鮮のワナと知りながら共同声明に盛り込んだのかもしれません。

会見でも「会談を急ぎ過ぎたため、北に譲歩し過ぎではないか」との質問が相次ぎました。ことに「CVID」(完全で検証可能、不可逆的な非核化)を受け入れさせると表明していたのに、共同声明には入っていないとの批判は大統領の痛いといころを突きました。

すると、トランプ大統領は「時間がなかった」「私は長いこと寝ずに交渉した」などと言い訳に終始しました。トランプらしからぬ弱気を思わず見せた感じでした。

もし、ワナと分かっていて米国側が受け入れたとすると、今回の会談は北朝鮮の完勝です。北の時間稼ぎに米国が大きく手を貸したことになります。

北朝鮮には成功体験があります。ブッシュ(George・W・Bush)政権は、初めは強気で北朝鮮に対したものの、2006年の中間選挙で負けると弱気に陥り、最後は北朝鮮の言いなりになってしまいました。

トランプ大統領も2018年の中間選挙で勝てるかは不透明です。とりあえずそこまで時間を稼ぎ、米国の軍事攻撃を避ければ核保有を事実上、認められるはずとの計算があるでしょう。

  • 非核化の約束を5度も破った北朝鮮
▼1度目=韓国との約束▼
・1991年12月31日 南北非核化共同宣言に合意。南北朝鮮は核兵器の製造・保有・使用の禁止,核燃料再処理施設・ウラン濃縮施設の非保有、非核化を検証するための相互査察を約束
→・1993年3月12日 北朝鮮、核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言
▼2度目=米国との約束▼
・1994年10月21日 米朝枠組み合意。北朝鮮は原子炉の稼働と新設を中断し、NPTに残留すると約束。見返りは年間50万トンの重油供給と、軽水炉型原子炉2基の供与
→・2002年10月4日 ウラニウム濃縮疑惑を追及した米国に対し、北朝鮮は「我々には核開発の資格がある」と発言
→・2003年1月10日 NPTからの脱退を再度宣言
▼3度目=6カ国協議での約束▼
・2005年9月19日 6カ国協議が初の共同声明。北朝鮮は非核化、NPTと国際原子力機関(IAEA)の保証措置への早期復帰を約束。見返りは米国が朝鮮半島に核を持たず、北朝鮮を攻撃しないとの確認
→・2006年10月9日 北朝鮮、1回目の核実験実施
▼4度目=6カ国協議での約束▼
・2007年2月13日 6カ国協議、共同声明採択。北朝鮮は60日以内に核施設の停止・封印を実施しIAEAの査察を受け入れたうえ、施設を無力化すると約束。見返りは重油の供給や、米国や日本の国交正常化協議開始
・2008年6月26日 米国、北朝鮮のテロ支援国家の指定解除を決定
・2008年6月27日 北朝鮮、寧辺の原子炉の冷却塔を爆破
→・2009年4月14日 北朝鮮、核兵器開発の再開と6カ国協議からの離脱を宣言
→・2009年5月25日 北朝鮮、2回目の核実験
▼5度目=米国との約束▼
・2012年2月29日 米朝が核凍結で合意。北朝鮮は核とICBMの実験、ウラン濃縮の一時停止、IAEAの査察受け入れを約束。見返りは米国による食糧援助
→・2012年4月13日 北朝鮮、人工衛星打ち上げと称し長距離弾道弾を試射
→・2013年2月12日 北朝鮮、3回目の核実験

トランプには奥の手?

—トランプの完敗ですね。

鈴置:大統領に好意的に見れば、「奥の手」を残しているのかもしれません。朝鮮半島の非核化に関連、北朝鮮が「米国の核の傘も撤去せよ」と言い出したら、それを飲む手です。

5月10日の演説でトランプ大統領は「半島全てを非核化する」(denuclearize that entire peninsula)と語りました。(「『米韓同盟破棄』カードを切ったトランプ」参照)

核の傘を韓国に供与しない、ということは米韓同盟を解消することに等しい。それを交渉材料に北朝鮮に「本気で核を全て手放せ」と迫るつもりかもしれません。というか、もう、それを武器に交渉を始めているのかもしれません。

6月12日の会見でトランプ大統領は「在韓米軍はいずれ引いて行く」と語りました。米韓合同軍事演習の中止も示唆しました。米韓同盟を堅持するつもりがあるのなら、安易に演習は中止しないはずです。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領はもともと米韓同盟に懐疑的な人ですから、北の完全な非核化の見返りに米韓同盟を解消すると言われても反対しないでしょう。

国連軍化という妙手

—在韓米軍がいなくなるとなれば、韓国は大騒ぎになりませんか?

鈴置:妙手があります。米韓同盟をやめても在韓米軍は存在しうるのです。同盟国の軍隊としてではなく、国連の平和維持軍として韓国に駐留し続ける手があるのです。

国連軍として存在すれば北朝鮮の南進を防ぐことは可能ですから、韓国人に一定の安心感を与えられます。一方、国連軍ですから核の傘は韓国に提供しない。

1998年ごろから北朝鮮はこれを言い出しています。韓国の保守派の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏も「在韓米軍の国連軍化」を前から懸念しています。

趙甲済氏は会談を10時間ほど先立つ6月12日午前零時に「北の非核化は手遅れ、韓米同盟はいじられるという不吉な予感」(韓国語)という記事を自身のサイトに載せました。ポイントは以下です。

・在韓米軍の地位変更は北朝鮮、文在寅政権、中国が同意する可能性がある。トランプだけが同意すれば日本が反対しても討議の対象にはならない。

要は非核化を目がけ交渉する過程で、米韓同盟の存続が怪しくなると訴えたのです。

  • 朝鮮戦争年表
1950年
1月12日 米国、アチソン声明を通じ「韓国は防衛線の外側」と示唆
6月25日 北朝鮮軍が38度線を南進し勃発
6月27日 国連安保理、北朝鮮への非難決議採択
6月28日 ソウル陥落
7月7日 国連軍結成
9月15日 仁川上陸作戦
9月27日 米海兵第1師団、ソウル奪回
10月2日 中国「米軍が38度線を越えれば参戦」とインドを通じ警告
10月9日 米第1騎兵師団、38度線を越北
10月19日 中国人民志願軍、鴨緑江を渡河
10月26日 韓国第6師団、鴨緑江に到達
12月5日 中朝軍、平壌を奪回
1951年
1月4日 中朝軍、ソウルを奪回
3月15日 韓国第1師団、ソウルを奪回
4月11日 マッカーサー、国連軍総司令官など全ての役職から解任
6月23日 ソ連、休戦協定の締結を提案
7月10日 開城で休戦会談を開始
1953年
1月20日 アイゼンハワー大統領就任
3月5日 スターリン死去
7月27日 休戦協定締結

「米朝」の前日の日米電話協議

そんな奇手があるのですね。

鈴置:専門家――ことに古手の間では常識です。もちろん、在韓米軍の国連軍化を交渉カードとして切る時は、韓国はもちろん、日本にも通告があるでしょう。

6月11日、シンガポールからトランプ大統領は文在寅大統領と安倍晋三首相に電話しています。その直後、安倍首相がぶら下がり会見で見せた固い表情が気になります。

1月1日 金正恩「平昌五輪に参加する」
1月4日 米韓、合同軍事演習の延期決定
2月8日 北朝鮮、建軍節の軍事パレード
2月9日 北朝鮮、平昌五輪に選手団派遣
3月5日 韓国、南北首脳会談開催を発表
3月8日 トランプ、米朝首脳会談を受諾
3月25―28日 金正恩訪中、習近平と会談
4月1日頃 ポンペオ訪朝、金正恩と会談
4月17―18日 日米首脳会談
4月21日 北朝鮮、核・ミサイル実験の中断と核実験場廃棄を表明
4月27日 南北首脳会談
5月4日 日中と中韓で首脳の電話協議
5月7-8日 金正恩、大連で習近平と会談
5月8日 米中首脳、電話協議
トランプ、イラン核合意から離脱を表明
5月9日 ポンペオ訪朝、抑留中の3人の米国人を連れ戻す
日中韓首脳会談
米韓首脳、電話協議
5月10日 日米首脳、電話協議
5月16日 北朝鮮、開催当日になって南北閣僚級会談の中止を通告
5月16日 北朝鮮、「一方的に核廃棄要求なら朝米首脳会談を再考」との談話を発表
5月20日 米韓首脳、電話協議(米東部時間では5月19日)
5月22日 米韓首脳会談
5月24日 北朝鮮、米韓などのメディアの前で核実験場を破壊
5月24日 崔善姫「核対核の対決場で会うかは米国にかかる」
5月24日 トランプ、金正恩に首脳会談中止を書簡で通告
5月25日 金桂官「対坐して問題を解決する用意がある」
5月26日 南北首脳会談、板門店の北側施設で
5月26日 日ロ首脳会談
5月26日 トランプ「今も話し合いが持たれている」と米朝首脳会談の準備が進んでいると示唆
5月28日 日米首脳、電話協議
5月30日 金英哲、NYでポンペオと会談(翌31日も)
5月31日 ラブロフ訪朝、金正恩と会談
6月1日 南北閣僚級会談
6月1日 金英哲、トランプに金正恩の親書手渡す
6月1日 トランプ、6月12日の米朝首脳会談開催を発表
6月7日 日米首脳会談
6月8-9日 G7首脳会議、カナダで
6月11日 米韓、日米首脳が電話協議
6月12日 史上初の米朝首脳会談

(次回に続く)

良ければ下にあります

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『トランプのリップ・サービスで終わらせるな ニクソン、レーガン、ブッシュ共和党政権は同盟国日本を裏切り続けた』(6/11JBプレス 森清勇)、『会談に臨む北朝鮮、腹の底で何を考えているのか?核放棄の意志があるのかはまだ不明』(6/11JBプレス 黒井文太郎)について

6/10鍛冶俊樹氏メルマガ<米朝会談決裂せば>金三胖が米国の口座凍結に遭い、金欠病に陥った為、米国の言うことを聞くようになったとの見立てです。それなら6/11本ブログで紹介しましたジュリアーニが「北は土下座して首脳会談開催を懇願した」と述べたのも頷けます。
http://melma.com/backnumber_190875_6694803/
森氏が言う共和党大統領の期待を日本の首相が裏切って来たというのはその通りと思います。特にロンヤスの中曽根。彼は保守派でなく保身派でしょう。娘婿の前川もコントロールできない。レーガンを中国に近づけたのも防衛費を増やさず口だけに終わったためです。靖国参拝でも胡耀邦を助けるためとか言って公式参拝を止めました。それ以降首相の公式参拝ができなくなったのは彼のせいです。三島割腹事件の時は防衛庁長官だったにもかかわらず、「常軌を逸した行動というほかなく、せっかく日本国民が築きあげてきた民主的な秩序を崩すものだ。徹底的に糾弾しなければいけない」というコメントしか出せなかった輩です。小泉は今の反原発で野党の支援をするくらいだから、保守派ではありません。竹中を枢要な地位につけた時点で明らかでしょう。息子進次郎と同じく芯のない鵺みたいな政治家です。その点安倍氏は保守派の期待を大筋では裏切らず、トランプと真の関係を構築できていると見ます。防衛予算増額とニュークリアシエアリング、憲法改正は3選も含めた任期中に仕上げてほしい。
黒井氏の記事は「米朝関係の局面は、「北朝鮮がどこまで妥協してCVIDを受け入れるか」よりも、むしろ「CVIDに抵抗する北朝鮮を、トランプ大統領がどこまで受け入れるか」に移ってきている。」と結んでいます。まあ、WH内部でもどのくらい分かっているのか、安倍首相もトランプの思惑をどの程度伝えられているのか分からず、またトランプの気紛れな性格で、進展の仕方が全く読めない中では、ある想定で結論付けるのはやむを得ないと思います。上述の鍛冶氏やジュリアーニの話を考慮に入れれば、また違った結論になると思います。米軍が戦争をせずに、金の力で北を軍門に下すことができればそれに越したことはありません。日本にとって核・ミサイル・拉致総ての問題解決が重要ですが、現体制を維持するとなると北の国民が可哀想すぎます。簡単に独裁者の意向で殺されるのが続く訳ですから。クーデターを起こさせるのが一番良いと思いますが。金三胖以外が国のリーダーになった方が拉致被害者も還しやすくなると思います。
6/12阿波羅新聞網<川金会若成功 中共将面临两个打击=米朝首脳会談が成功したなら中国は2つ打撃を受ける>一つは中共が朝鮮との貿易で得ていたほぼ独占的な経済的な利益が失われること、二つ目は米中貿易摩擦のカードとして北を使おうとしてきたのができなくなることである。
http://www.aboluowang.com/2018/0612/1128251.html
6/12 16時からトランプ記者会見の予定ですが、空手の稽古の為出かけますので論評できません。下記のニュース解説を見れば9:30の段階でトランプは「会談は成功」と言ったとのこと。まあ、この後の実行段階が勝負になるのですが。親指を立てるトランプ。その後金が「一歩踏み出すのは容易ではなかった。過去には多くの障害があったが、我々はそれを克服して来た。それでやっと今日という日がある」と答えたとのこと。


6/10希望之声<【川金会更新报导】川普认为美朝将有“很棒”的关系=首脳会談をアップデート報道 トランプは米朝の関係は非常に良くなると思っていると>
https://www.soundofhope.org/gb/2018/06/10/n1861389.html
6/12/18 宮崎正弘氏メルマガ<歯の浮くような儀礼的言辞のやりとりから米朝首脳会談は始まった 金正恩は前夜にマーライオンを観光するなどリラックスを演出したが>によれば随行員は中国人も交じっているとのこと。金も中国から監視されているという事でしょう。
http://melma.com/backnumber_45206_6695504/
森記事


米フロリダ州パムビーチにあるドナルド・トランプ米大統領のリゾート施設「マーアーラゴ」での会談中、報道陣に応じるトランプ大統領(右)と安倍晋三首相(2018年4月17日撮影)。(c)AFP PHOTO / MANDEL NGAN〔AFPBB News
歴史に残る米朝首脳会談が明日に迫ってきた。安倍晋三首相はドナルド・トランプ米国大統領との会談、次いでG7サミットに参加するため米国に向け出発した。
「尖閣に日米安保第5条が適用される」「日米は同盟関係にある」
同趣旨のことを日本政府は米国の時の国防長官をはじめ国務長官、最終的には大統領から引き出すことに腐心してきた。
そして、「尖閣は・・・」「日米は・・・」と、期待通りの米高官の発言で日本の国民は胸をなでおろし、米国は日本と一心同体であるかのように受け取り、安堵した。
いま安倍政権の最大関心事項は、日本を射程範囲に収めるノドンやテポドンなどの中・準中・短距離弾道ミサイル(IRBM、MRBM、SRBM)と2500トン超も保有するとされる生物・化学兵器の破棄と、拉致問題の解決である。
安倍首相との親密さから拉致問題解決の必要性などを国連の場などで取り上げてきたトランプ大統領への期待はかつてなく高まっていると言っても過言ではないであろう。
果して、大統領は期待に応えてくれるだろうか。
巧言令色の「尖閣は安保条約の範囲内」か
しかし、いかに大統領の発言であろうとも、その一方には米国の国益に照らして行動する議会があり、米国憲法もある。どれだけ、米国大統領の決意が実行に移されるかは謎の謎でしかない。
ともあれ、日本人自身が国会で、核を含めた拡大抑止について、真剣に議論したことはない。すなわち、米国を本当に日本防衛に縛り付ける議論は日本の国会では行われてこなかったのであり、今もそうである。
「尖閣に日米安保が・・・」、あるいは「日米は同盟関係に・・・」の言葉による漠然とした空気で日本人が感じ取ってきただけである。
米国にとってみれば、日本防衛の義務は日米同盟の強化が基本にあるはずであり、「同盟の深化」といった言葉だけではなく、世界の平均的な水準(GDP=国内総生産の約2%程度の防衛費)に近づけ、日本も努力してくれるであろうという期待が見られる。
なお、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発表(2018年5月2日)した2017年の世界のGDPに占める軍事費の割合は2.2%、米国がNATO諸国に求めている軍事費は平均2%とされる。日本はGDP比では0.9%でしかない。
しかし、その期待はどの政権によっても頑として拒否されてきた。ましてや民主党政権時は削減してマイナス傾向でしかなかった。
このため、日米ガイドラインの改定では首脳同士の声明が出せず、国務長官・外務大臣と国防長官・防衛大臣の4者による声明に格下げされた。
米国は日本の国家防衛に関する意志を見抜いており、日本の強力な防衛意志がなければ、同盟の誼を毀損しない「巧言令色」の部類でしかないであろう。
トランプ大統領の本気度が試される
尖閣諸島の領有権を主張する中国を牽制する米政府要人の発言と日本の反応をみてきたが、米国が国益をしっかり意図して行動する国であることは明瞭である。北朝鮮に対しても同様に、あくまでも米国は米国の国益に照らしての発言と行動が目立つ。
北朝鮮が核実験や短・中距離弾道ミサイル発射実験を繰り返していた時期、米国の要人はICBMの試射や配備まではまだ相当の時間があると発言し、米本土への直接の脅威ではない(から目くじら立てるようなことではない)と言わんばかりのニュアンスの発言が目立っていた。
米国が北朝鮮の核実験や弾道ミサイルに真剣に向き合うようになったのは、ICBM用核弾頭の小型化と思われる第6回目の核実験(水爆類似と見た)と、火星15の試射に成功し、「米国の脅威になる」など、米国領土を直接弾道ミサイルの射程範囲に収めると思われるようになって以降である。
このことは、北朝鮮から同盟国への脅威が現に存在し、また弾道ミサイルの性能改善や生物・化学兵器の保有でいかに高まろうと、米国がさほど真剣ではなかったという裏側を覗かせる。
こうして、昨秋はトランプ政権が北朝鮮の現状を把握したこともあり、脅威認識が高まると同時に、米朝首脳の批判合戦が牽制を含め繰り返された。そして年が明け、平昌冬季オリンピックを境に首脳会談の展望が開かれたのである。
日本は、安倍首相との親密さを武器に、米朝首脳会談においては日本の要求を貫徹させたいという思いを強くしたのだ。
その中に拉致問題があることはいうまでもない。その布石は昨秋の国連総会やトランプ大統領来日などで演出され、日本人の期待も膨らんできた。
ところが、米朝首脳会談に備えた予備段階のトランプ発言からは、人道問題がすっぽり抜け落ちているようにも聞こえてくる。安倍首相の今次の会談にかかる重みは想像以上に大きいであろう。
指導者とは
トランプ大統領の人間像があれこれ評論されて久しいが、いまだに定説はない。そもそも指導者とは表面的な人物像で評価できるのだろうか。
リチャード・ニクソン元大統領が見る指導者に必要な資質とは「必ずしも子供たちが美談として記憶するようなものばかりとは限らない」という。
そして、「陰険、虚栄、権謀術数などは一般的に悪とされるが、指導者にはそれはなくてはならない。(中略)権謀術数を用いなければ、大事に当たって目的を達成できない場合が多い」とさえ述べる。
また、「はっきり言っておこう」として、「政治において理想や倫理はタテマエとして大切だが、ホンネとしては無用に近い。立派な政治家とは世論の動向、時の趨勢、敵の戦術等々の予見、妥協と譲歩による味方陣営の統一などをくまなく捉えることのできる芸術家である」という。
さらに「洞察力と先見力と大胆と、さらに計算されたリスクをあえてする意志の強さがなければならない。運も、むろん要る。だが、何よりも決断力が必要である」と。
この指導者像に照らしてトランプ大統領を見ると、どう評論すればいいだろうか。言うまでもなく、安倍首相との信頼関係、信義の遵守も大切であろう。
しかし、トランプ大統領の狙いは秋に迫った中間選挙で勝利し、大統領の職務遂行をやりやすいように多数を確保することである。
そのためには、まず最初で最小限の戦利品は核搭載のICBMの芽を摘むことでしかない。その方向性が見えた後で、同盟国にかかる危惧の種である中・短弾道ミサイルや生物・化学兵器の破棄である。
そして最後に来るのが、時間の余裕があればであろうが、日本が熱望する拉致被害者救出の端緒を開く人道問題であろう。
言葉だけの日米同盟にうんざり
ロン・ヤス、ブッシュ・小泉関係は日本人の間では膾炙していた。ということで、日本人には米国が優先的に日本優遇というか、日本に有利に事を運んでくれたのではないかと見立てるに違いない。
ところが、日本は米国が一貫して要求し続けている同盟強化・深化を、一過性の言葉で濁し、米国の期待をことごとく裏切るように見えたようだ。
同盟の強化や深化の具体的かつ端的な表現は防衛予算の増大でしかない。ところが、防衛予算がGDPの1%を超すことはほとんどなく、米国を失望させてきた。
当時の米国はソ連の増大抑制に腐心しており、日米同盟でその責を果そうと考えるが日本は一向に防衛費の増大をする気配を見せなかった。結局、米国は表向き日本と協力する仕草を続けるが、裏では中国と軍事秘密協定を結び、中国を支援し続けたのだ。
ロナルド・レーガン元大統領はソ連がアフガンに侵攻し、「SS-20」を欧州に配備すると、強い日本を希望する。
しかし、時の鈴木善幸首相は 「日米同盟に軍事的側面はない」と発言し、次の中曽根康弘首相は「日米は運命共同体」「GDP1%枠撤廃」などの勇ましい発言を繰り返し、マスコミは「日米蜜月時代」と囃し立てたが、防衛費増大はほとんどしなかった。
その結果、「米中の秘密協力はレーガン政権時にピークに達し」、「中国を戦略上の対等なパートナーとして遇」して、アフガニスタン、カンボジア、アンゴラにおける反ソ勢力への秘密支援などを行なったのである(ピルズベリー著『100年戦争』)。
ブッシュ〈息子〉大統領の時に米国はイラク戦争への参加を小泉純一郎首相に要請する。

米国は細部の情報を一切知らせなかったが、小泉首相は親密さで戦争支援を表明し、イラク特措法制定して、「自衛隊を派遣するところが非戦闘地域だ」との強弁で国民を黙らせてしまう。今日の日報問題の遠因は実にここにある。

小泉首相は郵政民営化でも理不尽な解散まで決行したが、日本の国益からというよりも米国が日本に突きつけてきた年次改革要望書の実現であったことが明らかになっている。

こうして日本の終身雇用制、年功序列といった一面では良き慣行の伝統・文化や金融安定のかけ替えのない資産が米国の国益に資するためにあっさりと自由化されていった。

郵政選挙で刺客(小池百合子氏)を送り込まれ敢えなく陥落した小林興起氏は、その顛末を『主権在米経済』で披瀝している。

おわりに

国家の指導者にとっては国益を増大し、自己の権力を確固たるものにすることが何より大切なことである。権謀術数が張り巡らされ、優先順位の劣るものは容赦なく切り落とされていく。

何度も引用するが、米国の初代大統領であったジョージ・ワシントンは「外国の純粋な行為を期待するほどの愚はない」と語っている。

MRBMやSRBMの破棄や拉致問題を取り上げるという発言は、トランプ大統領にとっては友情の証ではあっても、一義的な米国の国益とは関係ない。

トランプ大統領の目は秋の中間選挙に向いているであろうし、その勝利に邁進することが、公約でもある「アメリカ・ファースト」と「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」の実現への道である。

しかし、安倍首相との約束を単なるリップ・サービスに終わらせてはらない。

黒井記事

米朝首脳会談が、予定どおり6月12日にシンガポールで開催されることが決まった。米政府の発表では、時間は同日午前9時(日本時間10時)、場所はセントーサ島のカペラホテルとのことだ。一時はトランプ大統領が中止を発表した会談だが、その後、両国政府は少なくとも首脳会談開催の利は重視しており、実現に合意したということである。

そこで注目されるのは、米朝が首脳会談でどのような内容の合意を具体的に示すのかということだ。米朝間ではその交渉が会談直前まで行われる見通しだが、その内容の詳細は両国が公表していないので不明である。

だが、内外の報道では、北朝鮮がかなり譲歩するだろうことを前提とした話が多く飛び交っている。たとえば「北朝鮮は核放棄には応じるが、その交換条件として体制保証や制裁解除などを求めている」という話だ。つまり、北朝鮮は核放棄の条件闘争を行っているとの見方だが、仮にそれが事実であれば、米朝戦争の危機はもう心配ない。いずれ北朝鮮は核放棄するわけで、めでたしめでたしということになる。

ただし、それはあくまで外部の第三者による「憶測」にすぎないことに、留意する必要がある。前述したように、米朝両国が交渉の具体的な中身を公表していないから、交渉の状況は部外者には分からない。かなり楽観的な見通しが韓国政府・メディアから発信されているが、米朝はともにブラフも使ってのギリギリの駆け引きを行っている状況にあり、交渉の攻防戦の内容は韓国政府にすべて伝えられるわけもない。

また、6月7日にはポンぺオ国務長官が「金正恩委員長は非核化の準備があることを、個人的に自分に示していた」と発言し、楽観的な見通しを語ったが、これも「非核化の準備がある」という言い回しの曖昧さから、金正恩委員長の核放棄の意志が確認されたことにはならない。

北朝鮮側の言動からは、今に至るも「何とか非核化しないで、うまいこといかないものか」と全力で知恵を絞っていることが伺える。そんな状況では、北朝鮮が「すでに核放棄するつもり」だと前提することは、まだできない。

トランプ大統領が切った会談中止のカード

客観的に判明していることを、まず確認しておく。

5月24日にトランプ大統領がいったん会談中止を発表したということは、その時点では、米朝それぞれの主張が隔たっており、合意されていなかったということにほかならない。アメリカ側が、北朝鮮に核放棄プロセスを迫っていたが、北朝鮮側は一方的な核放棄を拒否していたということだ。その隔たりはきわめて根源的なもので、両国のやりとりをみれば「北朝鮮は核放棄はするが、その条件闘争で揉めていた」というようなレベルの話ではないことが伺える。

そこでトランプ大統領は、会談中止のカードを切って、北朝鮮を「脅し」た。慌てた北朝鮮は即座に関係修復を図り、それにトランプが応じたという流れである。

その経緯からは、トランプ大統領が一時は会談中止を本気で決意していたことが分かる。それというのも、北朝鮮が会談を懇願するような態度に出てくることを、アメリカ政府は予想できるはずもないからだ。従来の北朝鮮の態度であれば、罵詈雑言で反発してくる可能性も充分にある。そうなれば、和解プロセスはそこで終了である。

この会談中止を告げたトランプ大統領の書簡の文章は、北朝鮮側の妥協をかなり期待している書き方になっており、和解プロセスの継続を望んでいた様子がみて取れる。だがトランプ大統領自身は、この時点では会談中止もやむなしと思っていたと後に語っている。つまり「トランプ大統領は最初から会談中止するつもりは全くなく、単に駆け引きで中止に言及しただけ」という認識は間違いだということである。

意味が曖昧な「朝鮮半島の非核化」という表現

そして、これに対する北朝鮮側の言動からは、北朝鮮がアメリカとの和解を強く望んでいることが分かる。ただし、かといって自分たちが、アメリカが望むような一方的核放棄を呑まないことも明確に打ち出している。

この北朝鮮側のリアクションでトランプ大統領が会談の復活を即決するなどということは、それもまた北朝鮮には予想はできないことだから、北朝鮮側も首脳会談継続を確信していたわけではない。北朝鮮側の優先順位としては、とにかく「一方的核放棄には応じない」ことが最優先だということだ。

その後、北朝鮮側の言動の特徴としては、やはり一方的な核放棄には応じない姿勢が揺らいでいない。5月31日には、金正恩委員長が、訪朝したロシアのラブロフ外相と会談したが、そこで彼は「新しい方法で、各自の利害に沿った解決法を探り、段階的に解決していくことを希望する」と語っている。その具体的内容は明言していない。

そして金正恩委員長はこの時、同時に、「朝鮮半島の非核化に関する意志は一貫したもので、確固たるものだ」とも発言している。この「朝鮮半島の非核化」という言い方は、金正恩委員長がかねてから使っている言い方で、つまりは「北朝鮮側だけが一方的に核放棄はしない」という意味だ。

この「朝鮮半島の非核化」の内容について、北朝鮮は具体的に明言していない。北朝鮮は金日成首席の時代から「核開発はアメリカの核の脅威のためにやむなくやっていることだ」と主張しており、「アメリカの核の脅威がなければ必要ない」との公式な立場をとっている。それを金正恩委員長もタテマエとして踏襲している。

現在、金正恩委員長が言う「朝鮮半島の非核化」も、北朝鮮サイドの従来の主張になぞらえれば、「北朝鮮に対する米軍の核戦力の無力化」まで含むと言い出しかねない。単に、韓国に米軍の核戦力を配備しないという意味に留まらないのだ。

ただし、前述したように、北朝鮮はこの「朝鮮半島の非核化」の内容を具体的に明言していない。アメリカとの決裂を避けるために、故意に曖昧にしているのだろう。

対米抑止力の切り札を手放すのか?

このように、北朝鮮は現時点でも、アメリカが求めている一方的な核放棄には応じない姿勢を明確にしている。では、一方的でなければ核放棄に応じるつもりなのかという話になるが、そこは不明である。

現在、アメリカが北朝鮮との和解をかなり前向きに進めていることから「北朝鮮側が条件付きで核放棄プロセスに応じる姿勢を見せているのだろう」との憶測があり、そこから「今後の核廃棄プロセスはどうなるのか」とか「北朝鮮への経済支援はどの国がやるのか」といった、かなり先走った報道まで出てきている。しかし、現在の米朝関係はとてもそんなレベルにまでは至っていない。

それどころか、もしかしたら北朝鮮は最初から核放棄するつもりなど、まったくないかもしれないのだ。

そもそもこの非核化の話は、北朝鮮が自ら希望して持ち出してきた話ではない。北朝鮮が最初に呼びかけたのは、核保有国同士としてのアメリカとの対話だ。非核化の話は、アメリカや韓国、中国など関係国が言及してきたことだ。北朝鮮はアメリカとの決裂を避けるために、嫌々ながらも話に付き合ってきただけだ。そこで言質をとられないため、あくまで従来からの北朝鮮の公式立場に近い「朝鮮半島の非核化」と言い張っているという経緯である。

つまり、北朝鮮はアメリカとの決裂は避けたいが、かといって核兵器の放棄も避けたいということになる。北朝鮮にとって核武装は対米抑止力の切り札であり、それを死守したいということは、北朝鮮側からすれば当然なことだ。

そこで言えることは、北朝鮮としては、核武装を温存しながらアメリカとの戦争に至らない状況がベストということである。そうであれば、実質的な核放棄は受け入れずに、いま北朝鮮が打ち出している「さらなる核・ミサイル実験の凍結」「核実験場の廃棄」といった軍備拡張の制限、すなわち軍備管理に留めた「核保有国同士として対等な立場での交渉」の構図をアメリカと構築することが、北朝鮮にとっては最大の安全保障上の利益となる。

北朝鮮が米朝会談で目指すこと

以上はあくまで可能性の話であり、アメリカと交渉決裂となれば成立しない話だが、トランプ政権が北朝鮮の「朝鮮半島の非核化」という内容が曖昧な言い方に食いついて、核放棄プロセスの合意がない段階で首脳会談に応じたという現状であれば、北朝鮮側がそれを期待してもおかしくはあるまい。

もちろんアメリカ側からは現在も、北朝鮮に核放棄プロセスを求める強い圧力がかけられているはずで、それを最初から拒否しては話が終わってしまうため、北朝鮮はおそらく表面上はいくらかそれに応じるようなふりはするだろう。とりあえず「朝鮮半島の非核化」の意志表明に加え、かつて行われていた寧辺の一部核施設に限定されたIAEA査察の再開や、重要性の低い核・ミサイル施設の一部限定公開などの可能性がある。さらには、まだ未完成とみられる「核ICBM」の計画放棄あたりを持ち出すのではないかという気もするが、これは筆者の憶測である。

しかし、仮に北朝鮮が全面的に核放棄するとなれば、核開発計画のデータをすべて差し出し、外部からの自由な査察を認めるということになる。文字通り丸裸にされるわけだが、世界最強の米軍に攻撃される寸前という状況でもなければ、北朝鮮にとってはリスクとデメリットが大きすぎる。北朝鮮が現在までその極端な個人独裁体制を存続してこられたのは、まるで鎖国のような徹底した閉鎖性あればこそだ。北朝鮮はまずこの時点で、いろいろと口実をつけて抵抗する可能性がきわめて高い。

6月1日にワシントンで北朝鮮の特使である金英哲・朝鮮労働党副委員長と会談したトランプ大統領は、それまで短期間で求めていた北朝鮮の非核化について「ゆっくりでいいと話した」と語ったが、それは北朝鮮側に時間稼ぎの大きなチャンスを与えることにもなる。

今後、アメリカがよほど強硬な圧力に転じないかぎり、北朝鮮としては、曖昧な「朝鮮半島の非核化」を目標に掲げ、その具体的内容をごまかして現状維持を図りつつ、アメリカと対話・交渉が続く状況を作ることができれば、念願の「核保有国と認められ、核保有国同士としてアメリカと対等の立場で交渉」する立場を手に入れることになる。

前述した6月1日の金英哲・副委員長との会談でトランプ大統領が示唆したように、12日の首脳会談では、核放棄プロセスの合意のないままに朝鮮戦争の終結と和平合意が大々的に打ち出される可能性が高まっているが、こうして和解ムードだけが既成事実化されれば、北朝鮮の勝ちだ。

ただ、一方では「北朝鮮は経済再建のために制裁解除を切望しており、そのためには核放棄も受け入れるだろう」との見立てもある。金英哲・副委員長との会談でも、トランプは制裁解除について話し合ったことを認めている。

ただし、北朝鮮側の優先順位で制裁解除がどれだけの価値があるかは、不明である。北朝鮮自身はあくまで、経済制裁解除が目的ではないと明言している。

北朝鮮側の真意は外部からは分からないが、北朝鮮側の利益は「核放棄をせずに、和解ムードの中で制裁解除を勝ち取る」ことだ。当然、それを目指すだろう。安保理決議に基づく制裁の解除はアメリカをどう説得するかという問題になるが、すでに露中韓の3カ国は北朝鮮をそれぞれ経済的にも支援したいという態度を見せている。

いずれにせよ、現在分かっているのは、史上初の米朝首脳会談が行われるということだけで、北朝鮮側が核放棄を本気で決意したかどうかは不明だ。もちろんその可能性はあるが、北朝鮮の言動は現在に至るまで、それを裏付けていない。

読みづらいのはむしろトランプ側

他方、対するトランプ大統領の側はどうか。

トランプ大統領は、北朝鮮側の好戦的な批判に反発していったんは交渉決裂まで覚悟したが、北朝鮮が「謝ってきた」ら、即座に自分の手柄にして受け入れた。しかも、もともと北朝鮮に短期間でのCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄)を迫っていたはずが、北朝鮮側の抵抗を受け入れてそれを後回しにし、とりあえず北朝鮮の具体的な非核化プロセスに関する合意文書の署名もなしで、今後の交渉のための最初の対話という位置づけでの首脳会談に乗った。北朝鮮側から何らかの譲歩があった可能性もあるが、それは現時点で不明だ。

トランプ大統領の利益としては、首脳会談の開催はまず「オバマ前大統領ら歴代政権ができなかった偉業を実現した」という実績アピールに繋がる。ロシア・ゲートその他のスキャンダルまみれのトランプ大統領にとって、それは魅力的だ。

ただし、トランプ大統領の今後の動きは読みづらい。

まず、交渉の達人を自任するトランプ大統領の場合、金正恩委員長が首脳会談でも合意するはずの「朝鮮半島の非核化への確固たる意志」をそのままの言葉として捉え、それを言質として突きつけて、北朝鮮の核放棄を「約束したことだ」としてこれから強く要求していく可能性がある。

前述したように、北朝鮮側は「朝鮮半島の非核化」の内容を明言しておらず、「北朝鮮に対するアメリカの核の脅威」まで拡大解釈する可能性が高いが、アメリカ側からすれば、すでに在韓米軍には核兵器は配備されていないので、「朝鮮半島の非核化」とはすなわち北朝鮮の非核化そのものだとの理屈も成立する。その論理で北朝鮮に核放棄プロセスを迫り、応じないなら圧力強化に転じることになるかもしれない。

トランプ大統領はたしかに現在、金正恩を半ばおだてるような言動までしているが、実はアメリカ政府としての態度は一貫している。CVIDの要求と、その実現以前での制裁解除の否定だ。したがって、トランプ大統領が上記の政策をとることは、筋が通っている。

しかし、別の可能性もある。トランプ大統領が何よりオバマ前政権との違いをアピールしたいなら、そのまま友好ムードを演出し、北朝鮮との決裂回避を最優先することも充分にあり得るだろう。例えば前述したように朝鮮戦争の終結と和平合意を打ち出し、米朝和解を自分の業績として喧伝するわけだ。

その後、北朝鮮がのらりくらりと非核化を先送りしてきても、自分の判断がミスだったことを認めることにもなるので、早い段階で強硬な態度に転じることは避けるかもしれない。そうなれば、北朝鮮としては万々歳だ。そして、近々の米朝戦争の脅威は遠のくものの、将来的にどうなるか分からない超個人独裁国家に、少なくとも日本を射程に収める核ミサイルが今後も温存されることになる。

いずれにせよ、米朝関係の局面は、「北朝鮮がどこまで妥協してCVIDを受け入れるか」よりも、むしろ「CVIDに抵抗する北朝鮮を、トランプ大統領がどこまで受け入れるか」に移ってきている。

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